自由学園の〈清争〉は超過酷です。

まねきねこ

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4話 清争実況

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 吹っ飛んだ歌留多を哀れみながらふたたび床拭きを開始すると、ふいに放送が響いた。

『はい、今日もおなじみ苅部くさかべ桐生きりゅうが、清争実況をやっていきます!』

 清争時間に毎回流れるこの実況放送は、苅部教師が学校中を練り歩き、清争の様子を実況するだけの放送である。
 
 しかし、この広大な敷地内では毎分のように珍妙な事柄が多発し、もっぱらそれを放送していた。

 譽からしてみれば、完全な清争妨害である。

 何しろ、毎回爆笑満載の中身なのだから。


「うわ始まったよ実況!」

 歌留多もやっとこさ起きあがるなり、ムッと顔をしかめた。 

「ほんっと性格悪いわこの学校の教師」
「生徒が生徒だからな。仕方ないだろ」
「はぁ?」

 手を高速で動かしながら、あくまで自分は無関与という体をよそおう時雨とにらみ合っていると、『おおっと!?』と声があがった。

『教師のトラップにまたもやひっかかったのは、三年一組の男子生徒!バナナで派手に転んだ!』
「この人いっつも転んでるよな」

 歌留多は真っ赤に腫れた頬を押さえつつ、呆れたようにつぶやいた。

「気にしちゃだめよ、宿命なんだから」
「ああ、そうだったな」

 うん、と意味深にうなずき合う二人だった。

 その間にも、実況はとぎれることなく続いていく。

『こちらは二年の廊下です!一斉雑巾がけが始まっています!これは見物です……おっと!一人がすっころぶ!雑巾がすべりすぎた!デコを激しくぶつけました!しかし起きあがり再び高速で雑巾がけを再開していく!』

「ノリノリだな、毎度のごとく」
「面白すぎだろ苅部のやつ」
「あなたの感性どうかしてるわ」

 腹を抱えて笑い転げる時雨に冷たい視線を浴びせかける。いまだに床に腰をおろしたままなのがまず変である。

『おお!ここで発見しました生徒会長!生徒会室の床がピカピカだ!ここだけ水面のように静かですね!さすが生徒の上に立つ者たちの姿です!……おや?』

 突如、苅部の声がとぎれた。

「え?なに?」

 困惑に一秒だけ手を止めた譽は、その次の瞬間再開した放送に、爆笑した。

『なんと!生徒会長、雑巾の代わりにテストの解答用紙を使っていた!点数はなんと三十点だ!』
『だってお母さんに怒られる……ってやめてくださいよ先生!!人権侵害です!』
『お母さんは怖いんですか?』
『はいそれはもう……怒るとなまはげみたいで……』
『それは大変だ。ではこの辺で失礼しますね』
『ちょっと、逃げないでください!』
『もっといじめてほしいんですか?君も大概ですねー付き合いますけど』
『ふざけないでくださいよっ!!』

「いやいや、生徒会長可愛すぎ。解答用紙とか!」
「ツボりすぎなお前にツボる」

 すでに笑いの発作で息も絶え絶えな時雨とともに、誉と歌留多は笑い転げた。
 
 現・生徒会長、架純かすみ紗穂さほは、自由学園の短い歴史の中で初めての、女子生徒会長である。

 生徒会長であるにも関わらず、成績はかなり悪いらしい。しかもそれが全校周知の事実なので、皆、事あるごとにからかうのだった。

 しかも天然で愛くるしいので、その一つ一つにくるくると表情を変えるものだから、可愛いと評判は上々であった。

「しかも趣味がくるみ割りとビーズだからほんっと可愛い」
「いやお前、先輩だぞ」
「可愛いに上下の壁はないわ。あんたもうちょっと女心学んだら?彼女できないわよ」
「痛いとこつくな!そう言っといてお前だって彼氏ナシだろ!」

 ぴきりと青筋をひたいに浮かべた誉である。

「よくも言ったわね!そんなんだから彼女ができないのよ!それに私に彼氏がいないのは、周りの男が見る目ナシってだけで、他の学校に行ったらモテてたもん!」
「嘘つけ。俺の友達で私立行ったやつにお前のこと話したら、化け物でも見るような目ぇされたぞ。よくそんな暴走娘と一緒にいられるなって」
「的を射ているな」

 さすが私立は違う、とうなずき合う二人に、譽はみぞおちを強襲したのだった。


「女子って怖いわね、確かに。私、こんな一瞬で男二人をのせるとは思わなかったわ」

 譽は軽快に笑い飛ばすと、再び床を磨き始めたのであった。

 清争時間残り、8分。
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