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第四章 鳥像の門
不自然な神様2
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同時にわたしが取り組んでいた事、とは自殺者の魂の救済だった。
元を正せば、全てはこの魂がわたしの神様へ還れないことに行きつく。何とかこの魂たちを神様の元へ送れないだろか――。
そんな思いから、神様の水に自殺した者たちの魂を入れてみた。
澄んだ青い神様の水に揺れる紫色の魂は、晴れた空に間違えて現れた雷光のように戸惑って揺れた。
しばらく観察していると、それは人間の血の色に染まり、さらに身体の部位になった。
このまま人間に戻るのだろか、そう思った時、不意に紫の魂の叫びが白い空間に響き渡った。
――空を駆けたい、そう聞こえた。
神様でもないわたしが叶えてあげられるかも知れない願い。わたしはこの子たちが地上に向け落下し、海に辿りつく前に空に溶けることを知っている。それでも駆けたいなら、叶えてあげよう。
わたしは赤く蠢く球体の中に両手を入れた。
出来上がったのは大きな美しい鳥だった。
長い首の描く曲線が優雅だけれど苦しそうにも見える。澄んだ黒目だけの感情の読み取れない横顔は、わたしに似ているのだろうか。
手を伸ばしたわたしの方に不格好に歩み寄って来る姿を見て、わたしの神様の気持ちが重なった。
「おいで」
わたしはその子の柔らかい身体を胸に抱き顔を埋めた。
救ってあげられなくてごめんね――
そう心の中で泣いて、両腕を広げる。
わたしを慰めるように優美な翼で旋回しながら、その子は鳥像の門に呑み込まれる手前で向きを変え、地上に向けて飛び降りて行った。
わたしが人型になってから初めて涙を知ったその時、カタっと音がして、生成しかけの神様が動いた気がした。
ついに完成したのか? 急いでガラス玉の表面に顔を押し付けて覗き込んだが、神様の美しい目は瞼に覆われ、青い水に浮くばかりだった。
――早く目を覚まして、わたしの始めての子。
そうだ、この子が目を覚ます前に辛い記憶を抜いてあげなくては。目覚めて初めて思い出すのが悲しい風景ではないように。
本当はわたしの事は全部覚えていて欲しいけれど求め過ぎだろうか。『お前の控えめなところが好きだ』そう言ってくれたわたしの神様のためにわたしの記憶は不要だな。
でも、ほんの少しなら、幸せな記憶なら良いだろか。忘れられるのは辛いものだ。
この子の名前はどうしよう。そうだ、自殺した者の魂さえ救えるように、人間自身から生まれて増殖し続ける悪を止められるような、あの名前にしよう。いつか、対になるような者が現れたら、絡まる名前をつけてあげよう。
そう思っていたのに、月の神様が『僕も生命の神様をいつも身近に感じたい』と自分の使いにその一部を取って名付けてしまった。
やっと現れた対になる炎の悪魔に足りる分は何とか残してくれたけれど。
元を正せば、全てはこの魂がわたしの神様へ還れないことに行きつく。何とかこの魂たちを神様の元へ送れないだろか――。
そんな思いから、神様の水に自殺した者たちの魂を入れてみた。
澄んだ青い神様の水に揺れる紫色の魂は、晴れた空に間違えて現れた雷光のように戸惑って揺れた。
しばらく観察していると、それは人間の血の色に染まり、さらに身体の部位になった。
このまま人間に戻るのだろか、そう思った時、不意に紫の魂の叫びが白い空間に響き渡った。
――空を駆けたい、そう聞こえた。
神様でもないわたしが叶えてあげられるかも知れない願い。わたしはこの子たちが地上に向け落下し、海に辿りつく前に空に溶けることを知っている。それでも駆けたいなら、叶えてあげよう。
わたしは赤く蠢く球体の中に両手を入れた。
出来上がったのは大きな美しい鳥だった。
長い首の描く曲線が優雅だけれど苦しそうにも見える。澄んだ黒目だけの感情の読み取れない横顔は、わたしに似ているのだろうか。
手を伸ばしたわたしの方に不格好に歩み寄って来る姿を見て、わたしの神様の気持ちが重なった。
「おいで」
わたしはその子の柔らかい身体を胸に抱き顔を埋めた。
救ってあげられなくてごめんね――
そう心の中で泣いて、両腕を広げる。
わたしを慰めるように優美な翼で旋回しながら、その子は鳥像の門に呑み込まれる手前で向きを変え、地上に向けて飛び降りて行った。
わたしが人型になってから初めて涙を知ったその時、カタっと音がして、生成しかけの神様が動いた気がした。
ついに完成したのか? 急いでガラス玉の表面に顔を押し付けて覗き込んだが、神様の美しい目は瞼に覆われ、青い水に浮くばかりだった。
――早く目を覚まして、わたしの始めての子。
そうだ、この子が目を覚ます前に辛い記憶を抜いてあげなくては。目覚めて初めて思い出すのが悲しい風景ではないように。
本当はわたしの事は全部覚えていて欲しいけれど求め過ぎだろうか。『お前の控えめなところが好きだ』そう言ってくれたわたしの神様のためにわたしの記憶は不要だな。
でも、ほんの少しなら、幸せな記憶なら良いだろか。忘れられるのは辛いものだ。
この子の名前はどうしよう。そうだ、自殺した者の魂さえ救えるように、人間自身から生まれて増殖し続ける悪を止められるような、あの名前にしよう。いつか、対になるような者が現れたら、絡まる名前をつけてあげよう。
そう思っていたのに、月の神様が『僕も生命の神様をいつも身近に感じたい』と自分の使いにその一部を取って名付けてしまった。
やっと現れた対になる炎の悪魔に足りる分は何とか残してくれたけれど。
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