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第四章 鳥像の門
地獄3
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何が起こったのかしばらくわからなかった。ただ、カドを守らなきゃと覆い被さっていた。
激しい揺れが治まり、真っ先にカドに声をかける。
「大丈夫?」
「うん。凄い地震だったね。シロキさん……苦しいよ」
「あ、ごめん」
カドの上から身体を離す。
「今ので浄化場が下に落ちたんだろか……って大丈夫?」
少し離れた場所で作成者が身体を殆ど二つ折りにして、そのまま膝から崩れ落ちそうな様子で立っていた。こんなに呼吸が乱れているのも初めて見た。
「ねえ、熱量を使い過ぎたの? 座りなよ」
思わず駆け寄って座らせる。
「浄化場を下に降ろしただけでこんなになるなんて。まだ、拡張もしていないんだよ」
作成者が珍しく弱音を吐いた。
「だから僕が手伝おうかって――」
「力を貸してくれるかい」
食い気味に言われて驚いた。僕のことをいつも心配している作成者が本当に僕の力を必要としているなんて。
「もちろん」
実は頼られて結構嬉しかった。
「何をすれば良いの」
隠しきれず声が弾んでしまう僕の着物をカドが引っ張る。
「シロキさん、無茶しないで」
「大丈夫だよ。それで何? 浄化場を—―地獄を広げれば良いの?」
作成者が僕の勢いに少し背中をのけぞらせた。
「落ち着きなさい。ただ、わたしの願いを叶えてくれるだけでいいんだ。わたしを映して、願いを感じて、叶えようと強く思ってくれ。それだけで、わたしの頭の中にある世界は実現する」
「ん?」
全然どうしたら良いのかわからない。
「お前が生れた日、初めてわたしに会った時もやってくれたじゃないか。わたしを映してくれ」
「ああ、あれのこと。それで、あなたの中を映して、願いが叶うように強く思えばいいんだね」
この人の最初に見た願いはまだ叶えられそうにないけれど、願いは流動的だから。
今、表面に映るものを叶えてあげよう。
「こっち、向いて」
座り込んでいる作成者と顔の高さを合わせ、自分の方へ引き寄せる。作成者はくったり僕に身を任せている。
そのまま顔を近づけると同時に僕は鏡になった。
「神様……わたしの願いを叶えて」
作成者の透明な声が耳元で囁いて、その心が僕に反射する。
ああ、これがこの人の思い描く十の地獄の世界。凄い想像力だな。独創性が溢れて、映された世界に溺れそうになる。確かにこれは今までの大きさでは実現できないだろうな。
「叶えてあげる。僕を信じて」
そう言って作成者の手を取り、白く巨大な天井の、さらに上空にある鳥の形の門を見上げた。僕たちの今いるこの空間があの門を支えている。
頭を上げる時にカドが心配そうな表情で僕を見ているのが、目の端に映った。
その顔が「シロキさん、地獄は上じゃなくて下だよ」と言っているような気がした。
ああ、カド呆れないで。顔の向きとか、僕の熱量はそういうのは関係ないんだ。願いのある方へ勝手に向かうから。
白い床が大きく歪んで僕の熱量が通過していく。波の上の舟のように揺れる僕らは、しばらく静かに目を閉じて、それが穏やかに治まるのを待った。
「願いは叶ったよ、大体ね」
「大体?」
カドが間髪入れずに聞いてくる。
「大体でいいんだよ。僕が全てを叶えてしまったら、地獄は全然美しくない。だって作成者の想像力は僕の見た景色を超えて、無限だもの」
「ありがとう、期待に応えられるよう頑張るよ」
ぎこちなく笑う作成者の肩に手を置いて、僕は尋ねた。
「それで、次は僕を切り刻むの?」
激しい揺れが治まり、真っ先にカドに声をかける。
「大丈夫?」
「うん。凄い地震だったね。シロキさん……苦しいよ」
「あ、ごめん」
カドの上から身体を離す。
「今ので浄化場が下に落ちたんだろか……って大丈夫?」
少し離れた場所で作成者が身体を殆ど二つ折りにして、そのまま膝から崩れ落ちそうな様子で立っていた。こんなに呼吸が乱れているのも初めて見た。
「ねえ、熱量を使い過ぎたの? 座りなよ」
思わず駆け寄って座らせる。
「浄化場を下に降ろしただけでこんなになるなんて。まだ、拡張もしていないんだよ」
作成者が珍しく弱音を吐いた。
「だから僕が手伝おうかって――」
「力を貸してくれるかい」
食い気味に言われて驚いた。僕のことをいつも心配している作成者が本当に僕の力を必要としているなんて。
「もちろん」
実は頼られて結構嬉しかった。
「何をすれば良いの」
隠しきれず声が弾んでしまう僕の着物をカドが引っ張る。
「シロキさん、無茶しないで」
「大丈夫だよ。それで何? 浄化場を—―地獄を広げれば良いの?」
作成者が僕の勢いに少し背中をのけぞらせた。
「落ち着きなさい。ただ、わたしの願いを叶えてくれるだけでいいんだ。わたしを映して、願いを感じて、叶えようと強く思ってくれ。それだけで、わたしの頭の中にある世界は実現する」
「ん?」
全然どうしたら良いのかわからない。
「お前が生れた日、初めてわたしに会った時もやってくれたじゃないか。わたしを映してくれ」
「ああ、あれのこと。それで、あなたの中を映して、願いが叶うように強く思えばいいんだね」
この人の最初に見た願いはまだ叶えられそうにないけれど、願いは流動的だから。
今、表面に映るものを叶えてあげよう。
「こっち、向いて」
座り込んでいる作成者と顔の高さを合わせ、自分の方へ引き寄せる。作成者はくったり僕に身を任せている。
そのまま顔を近づけると同時に僕は鏡になった。
「神様……わたしの願いを叶えて」
作成者の透明な声が耳元で囁いて、その心が僕に反射する。
ああ、これがこの人の思い描く十の地獄の世界。凄い想像力だな。独創性が溢れて、映された世界に溺れそうになる。確かにこれは今までの大きさでは実現できないだろうな。
「叶えてあげる。僕を信じて」
そう言って作成者の手を取り、白く巨大な天井の、さらに上空にある鳥の形の門を見上げた。僕たちの今いるこの空間があの門を支えている。
頭を上げる時にカドが心配そうな表情で僕を見ているのが、目の端に映った。
その顔が「シロキさん、地獄は上じゃなくて下だよ」と言っているような気がした。
ああ、カド呆れないで。顔の向きとか、僕の熱量はそういうのは関係ないんだ。願いのある方へ勝手に向かうから。
白い床が大きく歪んで僕の熱量が通過していく。波の上の舟のように揺れる僕らは、しばらく静かに目を閉じて、それが穏やかに治まるのを待った。
「願いは叶ったよ、大体ね」
「大体?」
カドが間髪入れずに聞いてくる。
「大体でいいんだよ。僕が全てを叶えてしまったら、地獄は全然美しくない。だって作成者の想像力は僕の見た景色を超えて、無限だもの」
「ありがとう、期待に応えられるよう頑張るよ」
ぎこちなく笑う作成者の肩に手を置いて、僕は尋ねた。
「それで、次は僕を切り刻むの?」
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