9 / 94
第一章 鳥に追われる
心臓回収船
しおりを挟む
アオチ
今回、年末に帰省しそびれそうになった俺たち三人が船に乗れる事になったのは、船舶会社に勤める叔父の計らいだ。
そしてこの船こそ、海に浮いた焼死体を回収してまわる船だ。
ただし、この噂には一つ訂正事項がある。海で燃えているのも、浮いているのも心臓であって身体全体ではない。
どこから現れたのか知れない心臓が海面すれすれで燃え上がり、そのまま焦げて、海に沈むこともなく浮いている。これが真相だ。
誰のものかはわからないが、人間の心臓をそのままにしておくことも出来ずに叔父の会社も回収に駆り出されたというわけだ。それほどに焼け焦げた心臓は広い範囲で見つかり、日に日に数を増やしているという。
心臓たちは腐りもしなければ、鳥や魚についばまれることもなく、焼け焦げた後も、無駄にヌメヌメと赤黒く海を漂っているそうだ。俺も直接見たことはない。全て叔父の受け売りだ。
そこまで話して、改めて二人の表情を確かめた。
波止場の見えるベンチに座る二人を見おろして、俺だけが立っていた。急に吹いた強い風に上着を寄せる。
先に口を開いたのは特に驚いたふうでもないオゼだった。
「じゃあ、俺たちはこれから心臓と二十時間以上、一緒に過ごすってことか」
「気持ち悪いですね」
本当に今にも嘔吐しそうな青白さでオオミが言う。
「嫌なら無理に乗らなくていいんだぞ。大体今、船に心臓が載っているとは言ってないだろ」
「俺は嫌じゃないよ。むしろ心臓で良かったと思ってる。全身丸ごとゴロゴロしてるよりましだよ。それで、その船にはまだ心臓がいっぱいじゃないんだな? それなら回収しながら北上するのか?」
淡々と語るオゼをオオミが怯えた表情でチラチラ見ている。直視出来ないようだ。指まで震えている。
たしかにオゼはいつも飄々として、ちょっと不気味なやつだとは思うが、そこまでか? オゼはオゼで、右手首の辺りを逆の手で押さえて、気まずそうにさすったりしている。
「回収しながら進む。ただ、回収は一向に進まないらしい。心臓は確実にそこにあるのに、人の手でも網でもすくい取れないみたいなんだ。――それより何だよ、二人とも俺に隠しごとでもあるのか」
からかい半分で聞いてみた。
「ないです」
「ないよ」
二人の声の前を海風が通ったのに、しっかり耳に届いた。何なんだよ、絶対隠しているじゃないか。聞かなければ良かった。
悔しくなって二人に背を向けた。
俺の方が、二人の事を知っているはずなのに、いつの間にこんなに親しくなったんだ。オオミのことは入社した時から面倒を見てきたし、変り者のオゼと仕事以外の会話をするのも俺だけかと思っていた。
「どの船だ?」
俺が気を悪くしているのを察しているのかいないのか、微妙な調子でオゼが言い、立ち上がった。
「ああ、あの上が白で下が濃い青のやつ」
生きているように朝の光を細かく反射する海を背に、死んだように浮かぶ船を指して答えた。
「変わった形のあれか? へえ、行ってみようぜ。どうせそろそろ約束の時間だろ」
今回、年末に帰省しそびれそうになった俺たち三人が船に乗れる事になったのは、船舶会社に勤める叔父の計らいだ。
そしてこの船こそ、海に浮いた焼死体を回収してまわる船だ。
ただし、この噂には一つ訂正事項がある。海で燃えているのも、浮いているのも心臓であって身体全体ではない。
どこから現れたのか知れない心臓が海面すれすれで燃え上がり、そのまま焦げて、海に沈むこともなく浮いている。これが真相だ。
誰のものかはわからないが、人間の心臓をそのままにしておくことも出来ずに叔父の会社も回収に駆り出されたというわけだ。それほどに焼け焦げた心臓は広い範囲で見つかり、日に日に数を増やしているという。
心臓たちは腐りもしなければ、鳥や魚についばまれることもなく、焼け焦げた後も、無駄にヌメヌメと赤黒く海を漂っているそうだ。俺も直接見たことはない。全て叔父の受け売りだ。
そこまで話して、改めて二人の表情を確かめた。
波止場の見えるベンチに座る二人を見おろして、俺だけが立っていた。急に吹いた強い風に上着を寄せる。
先に口を開いたのは特に驚いたふうでもないオゼだった。
「じゃあ、俺たちはこれから心臓と二十時間以上、一緒に過ごすってことか」
「気持ち悪いですね」
本当に今にも嘔吐しそうな青白さでオオミが言う。
「嫌なら無理に乗らなくていいんだぞ。大体今、船に心臓が載っているとは言ってないだろ」
「俺は嫌じゃないよ。むしろ心臓で良かったと思ってる。全身丸ごとゴロゴロしてるよりましだよ。それで、その船にはまだ心臓がいっぱいじゃないんだな? それなら回収しながら北上するのか?」
淡々と語るオゼをオオミが怯えた表情でチラチラ見ている。直視出来ないようだ。指まで震えている。
たしかにオゼはいつも飄々として、ちょっと不気味なやつだとは思うが、そこまでか? オゼはオゼで、右手首の辺りを逆の手で押さえて、気まずそうにさすったりしている。
「回収しながら進む。ただ、回収は一向に進まないらしい。心臓は確実にそこにあるのに、人の手でも網でもすくい取れないみたいなんだ。――それより何だよ、二人とも俺に隠しごとでもあるのか」
からかい半分で聞いてみた。
「ないです」
「ないよ」
二人の声の前を海風が通ったのに、しっかり耳に届いた。何なんだよ、絶対隠しているじゃないか。聞かなければ良かった。
悔しくなって二人に背を向けた。
俺の方が、二人の事を知っているはずなのに、いつの間にこんなに親しくなったんだ。オオミのことは入社した時から面倒を見てきたし、変り者のオゼと仕事以外の会話をするのも俺だけかと思っていた。
「どの船だ?」
俺が気を悪くしているのを察しているのかいないのか、微妙な調子でオゼが言い、立ち上がった。
「ああ、あの上が白で下が濃い青のやつ」
生きているように朝の光を細かく反射する海を背に、死んだように浮かぶ船を指して答えた。
「変わった形のあれか? へえ、行ってみようぜ。どうせそろそろ約束の時間だろ」
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる