8 / 94
第一章 鳥に追われる
海に燃える人
しおりを挟む
オオミ
僕の周りは変人ばかりだ。
鳥に癒される人、鳥を掴まえようとする人、どちらも理解不能だ。
あの後、三分もしないでオゼさんがブースから出てきた。
昨日オゼさんから「船に乗る前に整理しておきたい仕事があるんだ」というメッセージが僕とアオチさんに届き、今朝の待ち合わせ場所がオフィスになった。
僕たちの職場があるオフィスは港に面していて、いずれにしろ、出港時間を待つのには最適な場所にある。波止場まで徒歩で十分程度の距離だ。
ビルの外に出ると、あからさまな冬の風が挨拶のように一度吹いた。会話もなく三人で歩き出す。
鳥はいない。いなさ過ぎる。普段鳴いている海鳥の姿さえない。あの群れを成す鳥に喰われてしまったのだろうか。
怖い――。どこに癒しだとか、自ら近づいていく要素があるのかわからない。少し離れたところを歩くオゼさんを見た。横顔だけはきれいだ。鼻とあごの形が良い。
オゼさんの顔がこっちを向いて、反射的に目をそらす。
自分から見ておいて失礼だろうか。でも怖い。背の高いオゼさんにはいつも見下ろされている感があり、それだけで圧を感じているのに、あんな性癖を聞いたあとだと余計に恐い。
思わずアオチさんの影に隠れた。
そんな僕をアオチさんが不思議そうに見る。
「どうかしたか?」
心の中を全部口に出すのがこの人の悪い癖だ。
「どうもしていません」
出来るだけ感情を込めずに答えた。
――どうしよう。気をつけたのに、ちょっと食い気味だったかな。全然似てない先輩二人が同じ困惑の表情で僕を見ている。
「……ああ、なら良いけど」
アオチさんが曖昧に答える。だめだ、僕のせいで微妙な空気になっている。話題を変えたい。
「……あの、これから乗る船は、例の『海で燃える人』の件と、何か関係があるんですか?」
アオチさんの口が重いのは冷たい空気のせいだけじゃない。
「うん……実はそうなんだよ。お前、勘が良いな」
僕じゃなくても変に思うだろ。こんな年の瀬に、急に客船でもない船に乗せてもらえるなんて言うんだから。
「おい、『海で燃える人』ってなんだ?」
「あ、オゼは疎いもんな、そういう話」
アオチさんとオゼさんの会話には気遣いを感じないーーそれだけで何故か急に悲しくなった。
どうして、今日は海鳥たちが飛んでいてくれないんだろう。
いつものように僕の心の音を鳴らして海の上で風を受けて欲しい。こんな静かなビルの下で、泣き顔を隠すのは嫌だ。
「今月に入ってからだ。世界中の海で焼死体が浮いているのが見つかってるんだ。ニュースにもならないから余計に尾ひれがついて噂が広がってるんだよ」
「だったらただの都市伝説とかじゃないのか」
海、焼死、浮く……と呟いてからオゼさんがさらりと言った。それこそ海に浮きそうなふわりとした声で。
「俺もそう思ってたんだよ、今回の船を手配してくれたおじさんに聞くまでは――」
僕の周りは変人ばかりだ。
鳥に癒される人、鳥を掴まえようとする人、どちらも理解不能だ。
あの後、三分もしないでオゼさんがブースから出てきた。
昨日オゼさんから「船に乗る前に整理しておきたい仕事があるんだ」というメッセージが僕とアオチさんに届き、今朝の待ち合わせ場所がオフィスになった。
僕たちの職場があるオフィスは港に面していて、いずれにしろ、出港時間を待つのには最適な場所にある。波止場まで徒歩で十分程度の距離だ。
ビルの外に出ると、あからさまな冬の風が挨拶のように一度吹いた。会話もなく三人で歩き出す。
鳥はいない。いなさ過ぎる。普段鳴いている海鳥の姿さえない。あの群れを成す鳥に喰われてしまったのだろうか。
怖い――。どこに癒しだとか、自ら近づいていく要素があるのかわからない。少し離れたところを歩くオゼさんを見た。横顔だけはきれいだ。鼻とあごの形が良い。
オゼさんの顔がこっちを向いて、反射的に目をそらす。
自分から見ておいて失礼だろうか。でも怖い。背の高いオゼさんにはいつも見下ろされている感があり、それだけで圧を感じているのに、あんな性癖を聞いたあとだと余計に恐い。
思わずアオチさんの影に隠れた。
そんな僕をアオチさんが不思議そうに見る。
「どうかしたか?」
心の中を全部口に出すのがこの人の悪い癖だ。
「どうもしていません」
出来るだけ感情を込めずに答えた。
――どうしよう。気をつけたのに、ちょっと食い気味だったかな。全然似てない先輩二人が同じ困惑の表情で僕を見ている。
「……ああ、なら良いけど」
アオチさんが曖昧に答える。だめだ、僕のせいで微妙な空気になっている。話題を変えたい。
「……あの、これから乗る船は、例の『海で燃える人』の件と、何か関係があるんですか?」
アオチさんの口が重いのは冷たい空気のせいだけじゃない。
「うん……実はそうなんだよ。お前、勘が良いな」
僕じゃなくても変に思うだろ。こんな年の瀬に、急に客船でもない船に乗せてもらえるなんて言うんだから。
「おい、『海で燃える人』ってなんだ?」
「あ、オゼは疎いもんな、そういう話」
アオチさんとオゼさんの会話には気遣いを感じないーーそれだけで何故か急に悲しくなった。
どうして、今日は海鳥たちが飛んでいてくれないんだろう。
いつものように僕の心の音を鳴らして海の上で風を受けて欲しい。こんな静かなビルの下で、泣き顔を隠すのは嫌だ。
「今月に入ってからだ。世界中の海で焼死体が浮いているのが見つかってるんだ。ニュースにもならないから余計に尾ひれがついて噂が広がってるんだよ」
「だったらただの都市伝説とかじゃないのか」
海、焼死、浮く……と呟いてからオゼさんがさらりと言った。それこそ海に浮きそうなふわりとした声で。
「俺もそう思ってたんだよ、今回の船を手配してくれたおじさんに聞くまでは――」
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる