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第一章 鳥に追われる
回収人
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回収人
もっと順序立てて話してやりたいのに、毎回この三人の誰かが横槍を入れる。
どいつなら少しはまともに会話ができるだろう。改めて三人をじっくりと観察した。
まず、アオチというやつとは話せないと思った。多分普通の状態なら一番まともなやつだ。でも今はどういうわけか怯えに喰われてしまっている。もう少し時間を与えてやらないといけない。
それに、どうでも良いがどうしてこいつ、船旅にスーツを着て来たんだ。
真ん中に座っている敬語の眼鏡はどうだろう。弱々しいなりだが怯えているわけではない。俺よりも鳥を怖がっているのなら大したものだ。見極める目がある。ただ、アオチというスーツ男を慕い過ぎて俺から庇うのに必死だ。公平に話が聞けないかも知れない。
もう一人の背の高い色白の男はどうだ? この中では年長らしく、一番落ち着いている。しかし考えていることが見えない。肌の色と同化するような白いセーターを着ているが、心も同じ色の何かで隠されている。
――まずい、どいつとも全然話す気になれねえ。
「おい、何か言えよ」
白服の年長男がしびれを切らして静かに言った。
よし、何となくこいつの方を向いて話すことにしよう。
「お前ら、故郷が同じ以外にも共通点はないか」
三人が顔を見合わせる。思い当たることはあるのだな。
「さっきあんたが鳥を撃つまで、その話をしていたんだ。俺たちは子どもに時代にそれぞれ変わった体験をしていて、それにどうやらお互いが関係している」
「なんだ、知っているなら話は早いな」
見た目より手際が良いじゃないか。少し見直したぞ。
「お前ら三人は同じ鼓動を持ってるんだよ。だから一緒にここに来た」
「同じ鼓動ってなんだ?」
こんな質問をするなんて、手際は良くても勘は鈍いな。
「印象的な感覚を共有することだ。他に何がある」
三人が押し黙る。ほら見ろ、俺から見たら三人とも共通点だらけだ。性格や見た目が違っても同じ心臓の音がする。
「やっぱり良くわからない。俺たちがここに集まったのは偶然だぞ。たまたま同じ会社で、同じ故郷で、帰省のチケットを取りそびれていた時に船に乗せてもらうことが出来ただけだ。もっともこの船ではないけれど……」
「偶然と思いたきゃ思っておけ。この船には他にも同じ鼓動の者が乗ってる」
また三人が同じ顔を合わせた。
「俺たちが話していたのはそのことだよ。でもそれは、鳥や死人で――」
また背の高い男が言ってから口をつぐんだ。オゼだったか?
「動物だろうとお前たちがとっくに死んだと思っている人間だろうと関係ねえよ。鼓動の合う者が集まる、それだけだ」
眼鏡が不安を少しも隠さず聞いてくる。
「僕たちを集めてどうするつもりですか」
そうだ、それを伝えなければならなかったんだ。一番大切なことだ。
「お前らを助けるためだ。でも全員は救えない」
「……救うって何から? この船は安全じゃないんですか」
やっぱり眼鏡は臆病ではない。横眼で隣のアオチをちらりと見て気遣う余裕すらある。
「逆だよ、この船の外が安全じゃない。そこから救ってやると言ってるんだ。俺だって全員を無事に連れて行ってやりたい。でもそれ以前に群れの鳥に紛れてお前らを喰う鳥もやってくる。心臓を喰う鳥、と俺たちは呼んでいるが――」
「俺たち――とは誰のことですか」
「回収人は山のようにいるんだよ。今、この時も無数の船が鼓動の同じ人間を連れて海を漂っている。海に浮かぶ心臓――あれは俺たちが救えなかった者たちの心臓だ。数えきれない航海の途中で死んだ者たちの心臓を回収して、船の燃料にする。この船は誰かの心臓に動かされているってことだ」
――なんだ、この沈黙。こんなに親切に説明してやってるのに葬式みたいな顔しやがって。
「ええっと、僕らのうち誰かは鳥に喰われるということですか」
混乱する心が冷静に転じた顔で眼鏡が言った。
「残念だがそうなると思う。今までもずいぶん頑張ってきた。お前に放置された時も鳥に落とされてあそこにいた」
眼鏡の表情が固まった。こうして良く見ると意外に整った顔立ちだ。
「鳥に落とされた――とは?」
「言葉通りだ。俺はずっとお前らのような頼りない鼓動の持ち主たちを守ろうと戦ってきた。時には鳥に返り討ちにもあった。あの時は身体を鋭い爪でとらえられ、宙高く持ち上げられて、地面に叩きつけられた。それで、あの路地さ」
俺らしくもなく大袈裟に溜息をついて見せた。おい、笑うところだぞ、と思ったが全員顔がこわばっている。
「なんか、すみませんでした」
眼鏡が反射的に謝っただけだ。
「いや、そんなことより、どうして俺たちが鳥に喰われなくちゃならないんだ」
背の高い男が言った。そんなこと、とはなんだ。こっちだって死にかけたのに。
「それは――」
「わあああああっ」
眼鏡の叫び声が俺の声をかき消した。
もっと順序立てて話してやりたいのに、毎回この三人の誰かが横槍を入れる。
どいつなら少しはまともに会話ができるだろう。改めて三人をじっくりと観察した。
まず、アオチというやつとは話せないと思った。多分普通の状態なら一番まともなやつだ。でも今はどういうわけか怯えに喰われてしまっている。もう少し時間を与えてやらないといけない。
それに、どうでも良いがどうしてこいつ、船旅にスーツを着て来たんだ。
真ん中に座っている敬語の眼鏡はどうだろう。弱々しいなりだが怯えているわけではない。俺よりも鳥を怖がっているのなら大したものだ。見極める目がある。ただ、アオチというスーツ男を慕い過ぎて俺から庇うのに必死だ。公平に話が聞けないかも知れない。
もう一人の背の高い色白の男はどうだ? この中では年長らしく、一番落ち着いている。しかし考えていることが見えない。肌の色と同化するような白いセーターを着ているが、心も同じ色の何かで隠されている。
――まずい、どいつとも全然話す気になれねえ。
「おい、何か言えよ」
白服の年長男がしびれを切らして静かに言った。
よし、何となくこいつの方を向いて話すことにしよう。
「お前ら、故郷が同じ以外にも共通点はないか」
三人が顔を見合わせる。思い当たることはあるのだな。
「さっきあんたが鳥を撃つまで、その話をしていたんだ。俺たちは子どもに時代にそれぞれ変わった体験をしていて、それにどうやらお互いが関係している」
「なんだ、知っているなら話は早いな」
見た目より手際が良いじゃないか。少し見直したぞ。
「お前ら三人は同じ鼓動を持ってるんだよ。だから一緒にここに来た」
「同じ鼓動ってなんだ?」
こんな質問をするなんて、手際は良くても勘は鈍いな。
「印象的な感覚を共有することだ。他に何がある」
三人が押し黙る。ほら見ろ、俺から見たら三人とも共通点だらけだ。性格や見た目が違っても同じ心臓の音がする。
「やっぱり良くわからない。俺たちがここに集まったのは偶然だぞ。たまたま同じ会社で、同じ故郷で、帰省のチケットを取りそびれていた時に船に乗せてもらうことが出来ただけだ。もっともこの船ではないけれど……」
「偶然と思いたきゃ思っておけ。この船には他にも同じ鼓動の者が乗ってる」
また三人が同じ顔を合わせた。
「俺たちが話していたのはそのことだよ。でもそれは、鳥や死人で――」
また背の高い男が言ってから口をつぐんだ。オゼだったか?
「動物だろうとお前たちがとっくに死んだと思っている人間だろうと関係ねえよ。鼓動の合う者が集まる、それだけだ」
眼鏡が不安を少しも隠さず聞いてくる。
「僕たちを集めてどうするつもりですか」
そうだ、それを伝えなければならなかったんだ。一番大切なことだ。
「お前らを助けるためだ。でも全員は救えない」
「……救うって何から? この船は安全じゃないんですか」
やっぱり眼鏡は臆病ではない。横眼で隣のアオチをちらりと見て気遣う余裕すらある。
「逆だよ、この船の外が安全じゃない。そこから救ってやると言ってるんだ。俺だって全員を無事に連れて行ってやりたい。でもそれ以前に群れの鳥に紛れてお前らを喰う鳥もやってくる。心臓を喰う鳥、と俺たちは呼んでいるが――」
「俺たち――とは誰のことですか」
「回収人は山のようにいるんだよ。今、この時も無数の船が鼓動の同じ人間を連れて海を漂っている。海に浮かぶ心臓――あれは俺たちが救えなかった者たちの心臓だ。数えきれない航海の途中で死んだ者たちの心臓を回収して、船の燃料にする。この船は誰かの心臓に動かされているってことだ」
――なんだ、この沈黙。こんなに親切に説明してやってるのに葬式みたいな顔しやがって。
「ええっと、僕らのうち誰かは鳥に喰われるということですか」
混乱する心が冷静に転じた顔で眼鏡が言った。
「残念だがそうなると思う。今までもずいぶん頑張ってきた。お前に放置された時も鳥に落とされてあそこにいた」
眼鏡の表情が固まった。こうして良く見ると意外に整った顔立ちだ。
「鳥に落とされた――とは?」
「言葉通りだ。俺はずっとお前らのような頼りない鼓動の持ち主たちを守ろうと戦ってきた。時には鳥に返り討ちにもあった。あの時は身体を鋭い爪でとらえられ、宙高く持ち上げられて、地面に叩きつけられた。それで、あの路地さ」
俺らしくもなく大袈裟に溜息をついて見せた。おい、笑うところだぞ、と思ったが全員顔がこわばっている。
「なんか、すみませんでした」
眼鏡が反射的に謝っただけだ。
「いや、そんなことより、どうして俺たちが鳥に喰われなくちゃならないんだ」
背の高い男が言った。そんなこと、とはなんだ。こっちだって死にかけたのに。
「それは――」
「わあああああっ」
眼鏡の叫び声が俺の声をかき消した。
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