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第二章 選別の船
もう一人の回収人
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アオチ
「人殺し……?」
回収人と横に立つ男の顔を交互にゆっくり見た。
「お前、やっぱり鈍いな。眼鏡と正反対だ。こいつだよ、甲板に転がってるやつら、全員を殺したのは」
「どういうことだ? 何でそんなこと――」
人懐こい男の顔を覗き込む。そこからは波のように全ての表情がひいて、何を考えているのか全くわからない。そんな俺には構わず、そいつは回収人に向かって、きっぱり言い切った。
「僕は決断が早いだけです」
回収人が深く溜息をついて、男から手を離す。
その時、オゼの声が響いた。
「アオチ、大丈夫か? そっちに行こうか?」
梯子なんてなくても気合だけでこっちに来そうなほど前のめりな言い方だったが、いよいよ来させるわけにはいかない。
なにせ、こっちには甲板に転がる三人を血まみれの死体にした張本人が乗っている。しかもそれが体育座りして波だけを見ている小柄な女かと思ったら、この背の高い男の方だという。危険過ぎて呼べない。
「大丈夫だ! ちょっともめてるけど、直ぐそっちへ戻るから、オオミを――それからマモルくんとカオリさんの方を頼む」
俺には見えないけど。でも女と子どもだろ。気持ちが強くても身体が弱々しいオオミに預けるのは不安だ。
「……わかった。早く戻れよ」
しぶしぶでも納得してくれて良かった。さあ、今のうちにこの殺人者を縛り上げるか、それともどこかに閉じ込めるかしないと。
「おい、こいつどうする」
何ならもう縄を探してきょろきょろしながら回収人に声をかけた。
「アオチって言ったな。お前、船の中に他に人がいないか探してこい。いや、お前じゃだめか。あの眼鏡をこっちに呼べ」
「いや、だから。こんな物騒な場所に呼べるかよ」
「だって、お前じゃ死人が見えないんだろ。それに眼鏡は梯子をかけた罰だ」
――なんだ、お見通しだったのか。確かに俺では死人が見えない。回収人はきっと、この殺人者を自分が見張るから、他に被害者やあるいは共犯者がいないか見て来いと言っているんだ。そしてそれは生きている人間とは限らないと。
「仕方ないな。でも、罰とか言うな。あいつに何もするなよ、約束しろ」
「何にもしねえよ。それに約束を破るのはいつだってお前らの方だろ」
「あ……」
こいつ確か、自分の邪魔をしなければ無事に故郷まで送ってやると言っていた気がする。
俺たちは既に別の船に梯子を渡して、こいつの邪魔をしてしまったということか。だとすると、俺たちは今全く安全じゃない。
「なあ、オオミを呼ぶ前にもう一つだけ聞かせてくれ。この殺人者とあんたは知り合いなのか? こいつ何者なんだ」
「この馬鹿か? こっちの船の回収人だ」
何人もいる回収人の一人か。そう言えば、燃える心臓を回収する船は無数にあると言っていたな。
「自己紹介する暇がなかったね。僕も回収人で――そうだな、君たちでいうところのこの人の『後輩』だよ。回収人が二人もいると混乱してしまうよね。僕のことはローヌとでも呼んでよ」
全く凶暴さを感じない顔で愛想良く笑うのが余計に恐ろしい。悪いけど返事ができず、無視して俺たちの船の方を見て叫んだ。
「オオミ! こっちに来てくれ」
「人殺し……?」
回収人と横に立つ男の顔を交互にゆっくり見た。
「お前、やっぱり鈍いな。眼鏡と正反対だ。こいつだよ、甲板に転がってるやつら、全員を殺したのは」
「どういうことだ? 何でそんなこと――」
人懐こい男の顔を覗き込む。そこからは波のように全ての表情がひいて、何を考えているのか全くわからない。そんな俺には構わず、そいつは回収人に向かって、きっぱり言い切った。
「僕は決断が早いだけです」
回収人が深く溜息をついて、男から手を離す。
その時、オゼの声が響いた。
「アオチ、大丈夫か? そっちに行こうか?」
梯子なんてなくても気合だけでこっちに来そうなほど前のめりな言い方だったが、いよいよ来させるわけにはいかない。
なにせ、こっちには甲板に転がる三人を血まみれの死体にした張本人が乗っている。しかもそれが体育座りして波だけを見ている小柄な女かと思ったら、この背の高い男の方だという。危険過ぎて呼べない。
「大丈夫だ! ちょっともめてるけど、直ぐそっちへ戻るから、オオミを――それからマモルくんとカオリさんの方を頼む」
俺には見えないけど。でも女と子どもだろ。気持ちが強くても身体が弱々しいオオミに預けるのは不安だ。
「……わかった。早く戻れよ」
しぶしぶでも納得してくれて良かった。さあ、今のうちにこの殺人者を縛り上げるか、それともどこかに閉じ込めるかしないと。
「おい、こいつどうする」
何ならもう縄を探してきょろきょろしながら回収人に声をかけた。
「アオチって言ったな。お前、船の中に他に人がいないか探してこい。いや、お前じゃだめか。あの眼鏡をこっちに呼べ」
「いや、だから。こんな物騒な場所に呼べるかよ」
「だって、お前じゃ死人が見えないんだろ。それに眼鏡は梯子をかけた罰だ」
――なんだ、お見通しだったのか。確かに俺では死人が見えない。回収人はきっと、この殺人者を自分が見張るから、他に被害者やあるいは共犯者がいないか見て来いと言っているんだ。そしてそれは生きている人間とは限らないと。
「仕方ないな。でも、罰とか言うな。あいつに何もするなよ、約束しろ」
「何にもしねえよ。それに約束を破るのはいつだってお前らの方だろ」
「あ……」
こいつ確か、自分の邪魔をしなければ無事に故郷まで送ってやると言っていた気がする。
俺たちは既に別の船に梯子を渡して、こいつの邪魔をしてしまったということか。だとすると、俺たちは今全く安全じゃない。
「なあ、オオミを呼ぶ前にもう一つだけ聞かせてくれ。この殺人者とあんたは知り合いなのか? こいつ何者なんだ」
「この馬鹿か? こっちの船の回収人だ」
何人もいる回収人の一人か。そう言えば、燃える心臓を回収する船は無数にあると言っていたな。
「自己紹介する暇がなかったね。僕も回収人で――そうだな、君たちでいうところのこの人の『後輩』だよ。回収人が二人もいると混乱してしまうよね。僕のことはローヌとでも呼んでよ」
全く凶暴さを感じない顔で愛想良く笑うのが余計に恐ろしい。悪いけど返事ができず、無視して俺たちの船の方を見て叫んだ。
「オオミ! こっちに来てくれ」
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