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第三章 神様のいない海
僕の知らない人
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オオミ
さっきから回収人さんのグラスの中身が気になってたんだ。
僕はこの世界のルールに最後まで抗う、それはもう決めた。
朝――というのは夜明けのことなのか、それとも完全に陽が昇ってからなのか知らないが、それがいつ来ても、僕の決心は一ミリも揺るがない。
回収人さんのグラスをさっき横目で見た。青い液体が入っていた。グラスの形と回収人さんの渋さから、勝手にワインを飲んでいると思い込んでいたけれど、トロピカルとも健康的とも言えない、透明な青の飲み物だった。
「それが、あなたの力の源なら、何かヒントになるかも知れません」
回収人さんが珍しく、
「ああ、きっとそうだ」
と全く何も考えてないような返事をして、厨房の中の、僕の背丈以上もある給水タンクに向かった。
青い液体をグラスに注ぐと、その場で一気に飲み干している。
更になみなみともう一度注ぎ、僕たちの所へ戻って来た。
「悪いな、それで何の話だった?」
やっぱり全然聞いてなかった。
「神様の水ですよ。『神様』って、地名か何かですか?」
回収人さんが、これもらしくない弱った顔を見せた。
「参ったな、俺はそんなことを口走ってしまったか。お前たちに『神様』なんて言っても通じないよな。全て説明するのは物凄く時間がかかるから、俺との関係だけ説明すると、俺の父親みたいもんだ」
回収人さんが家族の話をしてくれるなんて思ってもいなかった。
存命ならもうかなりの高齢だろう。
「回収人さんのお父さんですか? きっとかっこいいんだろなあ」
「そうだな、見てみたいな。写真はないのか? やっぱり船長みたいな仕事をしているのか?」
明日どうなるかも知れないのに、僕とアオチさんは直ぐこうなってしまう。
「写真はないよ。格好いいというか、気が狂うくらいきれいな人だ」
身内のことをそんな風に言う人初めてだ。
「仕事はそうだなあ。世界を浄化してる」
「環境関係ですか」
回収人さんがどうでも良さそうに答える。
「ああ、そんな感じだ。それで、この水は神様の血なんだ」
え? 血を呑む? 青い血を? 落ち着こう、回収人さんは常にふざけていたい人だってアオチさんが言っていた。
「お父さんの血、美味しいんですか」
「青い血なんてあるかよ」
二人で突っ込んでみた。
「真面目な話をするぞ。『神様』の概念がないお前たちにどうやって説明すれば良いのかわからないが、真実を単純に伝える」
声も顔もすっと真剣になり、グラスを置いた回収人さんが長い脚を組みなおした。
「俺は――俺たち回収人は神様の右手の中で生まれた。最初に世界が終わりかけた時、こういう声が聞こえたんだ。『散った命を回収して』ってな。次の瞬間、船と共に海に放たれていた。怖くはなかったよ。いつも神様と繋がっていることを知っていたから。海岸に行きついて、神様の言葉の意味を考えている時、向こうから一人の男が現れた。それが俺の最初の乗客だ。他の回収人の船を見かけることもあったけれど、お互い干渉はしなかった。どうせいつかは神様の右手に戻って一つになるから」
アオチさんの顔を覗いてみた。理解できているだろか? 神様とは、回収人さんのお父さんとは何者なんだ? 環境関係の偉い人とかではないのは確かだ。
アオチさんの横顔は真剣そのものだ。アオチさんが信じようとしているのなら、僕も信じよう。
「神様の監視鳥が俺たちの仕事を手伝ってくれた。海を漂っている俺たちの船に、適切な人間を誘導してくれるんだ。アオチの会った、あの美しい黒い鳥がその一羽だ。監視鳥はたくさんいるが、担当が決まっているようで、俺の船の周りにはいつもあの鳥が飛ぶんだ」
そう言ったあと、回収人さんはまた少し黙って、灰色の目を伏せた。
「――なあ、無言ちゃんとウルウを連れて来てくれないか。神様の話は二人にもしておきたい」
さっきから回収人さんのグラスの中身が気になってたんだ。
僕はこの世界のルールに最後まで抗う、それはもう決めた。
朝――というのは夜明けのことなのか、それとも完全に陽が昇ってからなのか知らないが、それがいつ来ても、僕の決心は一ミリも揺るがない。
回収人さんのグラスをさっき横目で見た。青い液体が入っていた。グラスの形と回収人さんの渋さから、勝手にワインを飲んでいると思い込んでいたけれど、トロピカルとも健康的とも言えない、透明な青の飲み物だった。
「それが、あなたの力の源なら、何かヒントになるかも知れません」
回収人さんが珍しく、
「ああ、きっとそうだ」
と全く何も考えてないような返事をして、厨房の中の、僕の背丈以上もある給水タンクに向かった。
青い液体をグラスに注ぐと、その場で一気に飲み干している。
更になみなみともう一度注ぎ、僕たちの所へ戻って来た。
「悪いな、それで何の話だった?」
やっぱり全然聞いてなかった。
「神様の水ですよ。『神様』って、地名か何かですか?」
回収人さんが、これもらしくない弱った顔を見せた。
「参ったな、俺はそんなことを口走ってしまったか。お前たちに『神様』なんて言っても通じないよな。全て説明するのは物凄く時間がかかるから、俺との関係だけ説明すると、俺の父親みたいもんだ」
回収人さんが家族の話をしてくれるなんて思ってもいなかった。
存命ならもうかなりの高齢だろう。
「回収人さんのお父さんですか? きっとかっこいいんだろなあ」
「そうだな、見てみたいな。写真はないのか? やっぱり船長みたいな仕事をしているのか?」
明日どうなるかも知れないのに、僕とアオチさんは直ぐこうなってしまう。
「写真はないよ。格好いいというか、気が狂うくらいきれいな人だ」
身内のことをそんな風に言う人初めてだ。
「仕事はそうだなあ。世界を浄化してる」
「環境関係ですか」
回収人さんがどうでも良さそうに答える。
「ああ、そんな感じだ。それで、この水は神様の血なんだ」
え? 血を呑む? 青い血を? 落ち着こう、回収人さんは常にふざけていたい人だってアオチさんが言っていた。
「お父さんの血、美味しいんですか」
「青い血なんてあるかよ」
二人で突っ込んでみた。
「真面目な話をするぞ。『神様』の概念がないお前たちにどうやって説明すれば良いのかわからないが、真実を単純に伝える」
声も顔もすっと真剣になり、グラスを置いた回収人さんが長い脚を組みなおした。
「俺は――俺たち回収人は神様の右手の中で生まれた。最初に世界が終わりかけた時、こういう声が聞こえたんだ。『散った命を回収して』ってな。次の瞬間、船と共に海に放たれていた。怖くはなかったよ。いつも神様と繋がっていることを知っていたから。海岸に行きついて、神様の言葉の意味を考えている時、向こうから一人の男が現れた。それが俺の最初の乗客だ。他の回収人の船を見かけることもあったけれど、お互い干渉はしなかった。どうせいつかは神様の右手に戻って一つになるから」
アオチさんの顔を覗いてみた。理解できているだろか? 神様とは、回収人さんのお父さんとは何者なんだ? 環境関係の偉い人とかではないのは確かだ。
アオチさんの横顔は真剣そのものだ。アオチさんが信じようとしているのなら、僕も信じよう。
「神様の監視鳥が俺たちの仕事を手伝ってくれた。海を漂っている俺たちの船に、適切な人間を誘導してくれるんだ。アオチの会った、あの美しい黒い鳥がその一羽だ。監視鳥はたくさんいるが、担当が決まっているようで、俺の船の周りにはいつもあの鳥が飛ぶんだ」
そう言ったあと、回収人さんはまた少し黙って、灰色の目を伏せた。
「――なあ、無言ちゃんとウルウを連れて来てくれないか。神様の話は二人にもしておきたい」
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