鳥に追われる

白木

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第四章 守護鳥の夢

監視鳥の役目

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監視鳥


 わたしは元々、青い鳥から分離して生まれたのです。

 神様の使いの青い鳥です。使いはわたしと同じように大きさを自在に変えるので、空を隠す程巨大な鳥の姿の時もあれば、小鳥になって人間に追われるのを楽しむこともあります。

 回収人たちが、神様から分離した細胞であっても自我を持つ様に、わたし達も使いの身体を離れると、一つの個性になります。

 あなた方は神様を知らないから、最後の一日で船に乗せられ、一人を選べと強いてくることを理不尽に思っている事でしょう。

 でも彼を裏切ったのはあなた達の方です。あなた達があまりにも簡単に命を投げ出してしまうから、もう彼の力ではこの世界は支え切れなくなってしまった。

 ああ、難しい話はやめましょう。そう、使いの話です。

 広いこの世界に神様の意志を届けるため、使いは私たちを放ちました。

 生きる意志のある者をちゃんと神様に届けるために。

 彼らを途中で死なせてはいけない。それがわたし達、監視鳥の役目なのです。

 あの時、あなたは雪の中に蠢く血を見た。あれこそ自ら生きるのを放棄してしまった者の成れの果て。神様の身体へ還ることも許されず、冷たい雪の奥底でこの世が終わるのを待っているのです。

 雪の底の子が本当の眠りにつくには、この世界ごと潰されて終わる必要があるんです。

 そして寂しさを紛らわすため、ああやって時々生きている人を引きずり込もうとするのです。

 あの夜、あなたの生命が雪に反射する様子があまりにもきれいで、誘い込まずにはいられなかったのでしょう。

 でも、あの日あなたを見つけたのは、雪の底の子だけではない。

 他ならぬ私があなたを見つけたんです。

 あなたは美しかった。高い木の上から雪にうずくまる身体をじっと見ていました。

 ――まさかとは思いますが、わたしが外見などに見惚れるとは思っていないですよね。

 悪いけれど全然興味がない。

 わたしの興味を引くもの、それはあなた達を包む魂の色。

 そうです、魂の美しさに見惚れる時はあります。

 あの張りつめた青い夜の中、あなたの魂は、透き通る赤に銀色の縁取りで、時間が経つのを忘れさせる美しさでした。

 余談ですが、わたしは時間にうるさいんです。神様の方は時間の概念が無いので監視鳥がしっかりしないと駄目なのです。

 そのわたしが、いつまでも見ていたいと思う美しさで、あなたはそこにいました。

 ふと、あなたのそばに不穏な血の色を感じました。

 わたしが惹かれるくらいなのだから、当然のことではあります。

 あなたの魂は雪を滑り落ち、怯えていました。

 普段はこんなことは決してしないのですが、あなたを救わなければと思いました。いえ、思ったりしていない。それが当然のように、走り出したあなたを追っていました。

 あなたを閉じ込めるために形を変える地形を見て、わたしも焦りました。

 そして取った行動が、人間の姿で地上に降りることです。

 なるべく目立つように、と自分の一部の赤い色の服で降り立ちましたが――季節に合っていなかったかも知れませんね。

 わたしは鳥の姿なら自在に形を変えられますが、人間の姿で長くいることはできないので焦っていました。

あなたは本当によろよろ足をもつれさせて走るので、心配でたまらなかった。

 あなたが強い心を取り戻せる場所まで誘導した時には、もう鳥の姿に戻っていました。

 そっと去っても良かったのですが、どうしてもあなたの魂を近くで感じたくて、あなたの耳の横を通りました。

 今日――もう昨日の朝の話ですが、あなたが船に乗ることを知って、会いたくなりました。

 実際会ったのは、わたしの知らない孤独で大人っぽい青年でしたが。……オゼさんでしたね?

 意外なことに、ここには私が知っている顔がアオチさんの他にも二つありました。カオリさんとマモルくんです。

 死んでしまったと思っていたので、嬉しかった。

 ずっとあなた達を見ていたかったのですが、わたしは他にも気にかけなければならない船が複数あります。

 それぞれが愛おしい船です。あなた達の回収人は問題児ですが、頼りがいはあるので、一旦離れて、別の船が落ち着くのを見届けてから、こうして戻ってきたのです。


 混乱していた。

 カオリさんもマモルくんも鳥を知っていた――。といこうとはやっぱり俺も……。

「アオチさんは死んでなんかいません」

 オオミが強く言った。俺ではなく、鳥を睨みながら。

 泣きそうじゃないか、かわいそうに。

 思わず近寄って「大丈夫だ」と何の意味もない事を言ってしまう。

「……そうですね。大丈夫でしょう。今のところは」

 鳥は静かな口調のままだ。鳥を肩に乗せた回収人も、瞬きをする彫刻のように動かない。

「それで――俺たちを救う方法は何かあるのか? さっき他の船が落ち着くのを見届けた、と言っていたが、それは乗客が一人にしぼられたってことなんだろ」

 オゼが乾いた声を出した。こいつにも飲み物を出してやれば良かった。

「……わたしの監視する他の船の乗客は既に一人です。そしてあなた達を救う方法はあります」

「神様に頼むのか?」

 オゼがやけに食い気味なのが気になった。俺たちの中で一番冷静なはずなのに。それだけ、残された時間がないと言う事か。

「頼んでも無駄です。神様があなた達を一人にしぼらなければならないのは、意地悪でもなんでもない。そういう体質なのですから」

 回収人たちは肩を落とし、俺たちは茫然とする。

「……じゃあ、やっぱりもう駄目じゃないか」

「弱気なあなたでは駄目でしょうね」

 この鳥、オゼにはえらく辛辣だ。オオミには遠慮しているような態度だし、俺には優しい。心情が良くわからない。

「ごめん……弱気にならないから、だから、教えてくれ。俺はどうすれば良い?」

 こんなに必死なオゼを見るのは初めてで、俺の方が落ち着かない気分だ。

「ルールを破れば良いのです。船の連なりになんて身を任せず、自分の意志で、開いた扉から勝手に次の世界に行ってしまえば良い」

 俺のエトピリカはきっぱりと言い切った。人に言うだけあって意志が強そうだ。

「ルールを破ってもいいのか?」

 ゴクリと唾をのんで尋ねるオゼに、エトピリカが初めて優しい声を出した。

「ルールを作った人は破られるのを待っているものですよ」

 鳥は回収人の肩からテーブルの上に飛び降りると、俺たちを見回してこう言った。

「さあ、最後の朝に備えてください」

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