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第四章 守護鳥の夢
石の中の森
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オオミ
最初の数メートルは薄明りの中、自分の足元も、その先の床も見えた。大人一人がやっと通れるくらいの狭い通路だ。マモルくんは大丈夫だろうか。
それに後から来る回収人さんは僕らよりずっと体格が良い。立ち往生しないか心配だ。
朗報はこの狭さなら、壁をつたって行けば暗闇だって中央まで進むのは訳ないということだ。右手を壁、左手を僕の肩に置いているアオチさんも少しは安心しただろう。
僕たちは今、僕、アオチさん、オゼさん、マモルくん、無言ちゃん、ウルウという順番で一列になっている。
暗闇は突然やってきた。
――ここから線を引いたように明かりが届かないのか。
「もう少しで明かりが途切れます。足元に気をつけて」
最後尾のウルウにまで届くように声を出す。不規則だが全員の返事が聞こえてきた。左肩のアオチさんの手に力がこもる。
大丈夫ですか、と声をかけようとしたその時、足元の感覚が変った。
土? そうだ、これは土の感触だ。
「みなさん、石から土に地面が変ります」
「本当だ、土の匂いがするな」
二つ後ろのオゼさんが言った。全員、一瞬にして役割を無くした目の代わりに、既に匂いに敏感になっている。
土の他にも匂いがする。木の匂いと草の匂いだ。嫌な予感がする。
――この通路はもう少しで森に出る。
石の中に森があるなんて、普通逆じゃないだろうか。森の中に大きな石があるならまだわかる。
空気の種類が変った。頼りにしていた壁が途切れる。
「森です。見えないけど、きっと」
突然、後ろからオゼさんの大きな声がした。
「マモル、だめだ!」
僕の足元を何かが通り抜けた。マモルくんが僕を追い越して森に飛び出したんだ。マモルくんを追ってオゼさんも前に出て来たので、列はバラバラになったようだ。
「アオチさんは僕から手を離さないで。無言ちゃん、ウルウ、いたら返事をしてください」
「ここにいる。オオミくんどこ?」
「うる」
声はするけど方向がわからない。
「そこを動かないでください。僕たちの方から近づきます。ウルウ、歌をうたってくれるかい?」
「うるん」
何だか楽しそうな返事がして、信じられないことが起こった。
ウルウの歌声だ。もちろん「う」と「る」だけだ。歌詞も何もない。
だけど、ちゃんとメロディがある。悲しいけれど希望のある歌だ。歌詞がないゆえに勝手に自分の言葉を乗せてしまって、泣きたくなる。
「ウルウ、今行くからね。もう少し歌っていて」
僕の涙声が暗闇の森に響く。この歌は僕を呼ぶサイレンだ。
少しずつ、手探りで歌のする方へ進む。その間も左肩にアオチさんの手があることを確認する。自分の肩すらそこに本当にあるのか、見えないので不確かだ。アオチさんを感じることで、僕が存在していると知る。
指先が何か暖かいものに触れた。
「うるっ」
歌が止まった。ウルウに着いた。
「オオミさん? アオチさん?」
無言ちゃんも約束通り動かずいてくれた。
「良かった、もうはぐれないようにしましょう。まず、オゼさんとマモルくんを探さないと……。アオチさん大丈夫ですか。さっきからやけに静かで心配です」
「ごめん……暗闇に慣れるのに必死で。でもウルウの歌を聞いたら不思議と怖さが薄れた。ありがとうな」
「うるるる」
ウルウの鼻息が荒い。大好きなアオチさんにお礼を言われて興奮しているんだ。他人の息を近くに感じるのがこんなに嬉しかったことは初めてだ。僕は独りじゃない。
「一人ずつオゼさんとマモルくんを呼びながら、少しずつ進みましょう」
四人で大声を出しながら歩くうち、僕の中にあった闇への恐怖は少しずつ薄らいでいた。アオチさんも同じ気持ちならば良いけど。
「あれ? 何か聞こえなかった?」
無言ちゃんが立ち止まった。
確かに、遠くから「おーい」と呼ぶ声がする。
「おーい、こっちだー」
今度ははっきり聞き取れた。急ぎ足になりそうな自分を律して、落ち着いて先頭の務めを果たさなければ。
「オゼさーん、何か話し続けてくださーい。近くにいますが、方向がわかりませーん」
「わかった! マモルと動物しりとりをする」
何言ってんだ、あの人は。心配したのに。でも「ネコ」「コネコ」「コウモリ」「リス」「スカンク」とやる声が徐々にはっきりしてくるので、方向は間違えていない。
オゼさんの「コネコ」は反則だと思うけど、突っ込まないマモルくんは本当に出来た子だ。
「オカピ」「ピラニア」「……アオチ」
オゼさんが伸ばしていた指先に触れた。思わず握りしめてしまう。
「痛いよ、オオミだよな、この手。やっと会えた。みんな無事か?」
「俺は動物かよ」
拗ねているアオチさんを無視して聞いた。
「みんな無事です。どうしたんですか? さっきは急にいなくなって……」
それにこの匂い……。みんなも感じているはずだ。
「ごめんなさい。ミーコがいたの」
マモルくんがおずおずと言った。
最初の数メートルは薄明りの中、自分の足元も、その先の床も見えた。大人一人がやっと通れるくらいの狭い通路だ。マモルくんは大丈夫だろうか。
それに後から来る回収人さんは僕らよりずっと体格が良い。立ち往生しないか心配だ。
朗報はこの狭さなら、壁をつたって行けば暗闇だって中央まで進むのは訳ないということだ。右手を壁、左手を僕の肩に置いているアオチさんも少しは安心しただろう。
僕たちは今、僕、アオチさん、オゼさん、マモルくん、無言ちゃん、ウルウという順番で一列になっている。
暗闇は突然やってきた。
――ここから線を引いたように明かりが届かないのか。
「もう少しで明かりが途切れます。足元に気をつけて」
最後尾のウルウにまで届くように声を出す。不規則だが全員の返事が聞こえてきた。左肩のアオチさんの手に力がこもる。
大丈夫ですか、と声をかけようとしたその時、足元の感覚が変った。
土? そうだ、これは土の感触だ。
「みなさん、石から土に地面が変ります」
「本当だ、土の匂いがするな」
二つ後ろのオゼさんが言った。全員、一瞬にして役割を無くした目の代わりに、既に匂いに敏感になっている。
土の他にも匂いがする。木の匂いと草の匂いだ。嫌な予感がする。
――この通路はもう少しで森に出る。
石の中に森があるなんて、普通逆じゃないだろうか。森の中に大きな石があるならまだわかる。
空気の種類が変った。頼りにしていた壁が途切れる。
「森です。見えないけど、きっと」
突然、後ろからオゼさんの大きな声がした。
「マモル、だめだ!」
僕の足元を何かが通り抜けた。マモルくんが僕を追い越して森に飛び出したんだ。マモルくんを追ってオゼさんも前に出て来たので、列はバラバラになったようだ。
「アオチさんは僕から手を離さないで。無言ちゃん、ウルウ、いたら返事をしてください」
「ここにいる。オオミくんどこ?」
「うる」
声はするけど方向がわからない。
「そこを動かないでください。僕たちの方から近づきます。ウルウ、歌をうたってくれるかい?」
「うるん」
何だか楽しそうな返事がして、信じられないことが起こった。
ウルウの歌声だ。もちろん「う」と「る」だけだ。歌詞も何もない。
だけど、ちゃんとメロディがある。悲しいけれど希望のある歌だ。歌詞がないゆえに勝手に自分の言葉を乗せてしまって、泣きたくなる。
「ウルウ、今行くからね。もう少し歌っていて」
僕の涙声が暗闇の森に響く。この歌は僕を呼ぶサイレンだ。
少しずつ、手探りで歌のする方へ進む。その間も左肩にアオチさんの手があることを確認する。自分の肩すらそこに本当にあるのか、見えないので不確かだ。アオチさんを感じることで、僕が存在していると知る。
指先が何か暖かいものに触れた。
「うるっ」
歌が止まった。ウルウに着いた。
「オオミさん? アオチさん?」
無言ちゃんも約束通り動かずいてくれた。
「良かった、もうはぐれないようにしましょう。まず、オゼさんとマモルくんを探さないと……。アオチさん大丈夫ですか。さっきからやけに静かで心配です」
「ごめん……暗闇に慣れるのに必死で。でもウルウの歌を聞いたら不思議と怖さが薄れた。ありがとうな」
「うるるる」
ウルウの鼻息が荒い。大好きなアオチさんにお礼を言われて興奮しているんだ。他人の息を近くに感じるのがこんなに嬉しかったことは初めてだ。僕は独りじゃない。
「一人ずつオゼさんとマモルくんを呼びながら、少しずつ進みましょう」
四人で大声を出しながら歩くうち、僕の中にあった闇への恐怖は少しずつ薄らいでいた。アオチさんも同じ気持ちならば良いけど。
「あれ? 何か聞こえなかった?」
無言ちゃんが立ち止まった。
確かに、遠くから「おーい」と呼ぶ声がする。
「おーい、こっちだー」
今度ははっきり聞き取れた。急ぎ足になりそうな自分を律して、落ち着いて先頭の務めを果たさなければ。
「オゼさーん、何か話し続けてくださーい。近くにいますが、方向がわかりませーん」
「わかった! マモルと動物しりとりをする」
何言ってんだ、あの人は。心配したのに。でも「ネコ」「コネコ」「コウモリ」「リス」「スカンク」とやる声が徐々にはっきりしてくるので、方向は間違えていない。
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「オカピ」「ピラニア」「……アオチ」
オゼさんが伸ばしていた指先に触れた。思わず握りしめてしまう。
「痛いよ、オオミだよな、この手。やっと会えた。みんな無事か?」
「俺は動物かよ」
拗ねているアオチさんを無視して聞いた。
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それにこの匂い……。みんなも感じているはずだ。
「ごめんなさい。ミーコがいたの」
マモルくんがおずおずと言った。
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