鳥に追われる

白木

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第四章 守護鳥の夢

ただの細胞

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オオミ


「そうか……」

 完全な静寂の後、回収人さんがとても悲しそうに言った。

「あいつら、耐えられなかったか……。悪いことしたな。可哀想に」

 神様が憎かった。心臓を削って人を救って来た回収人さんに、その人たちが永遠の孤独を味わったあげく、自分が殺したなんてこと、よく顔色ひとつ変えずに言えたものだ。

 やっぱり神様は最低だ。こんな無防備なやつ、今ならきっと—―

「そうやって、君はたくさん殺してきたんだね」

 神様が僕を見もせず短く言った。

 ――右手に氷の槍を持っていた。そうだ、僕はこれで何度もオゼさんの中の邪魔な人格を殺してきた。

 嫌だ、嫌だ、こんな冷たくて野蛮な物、捨てたいのに手に貼りつてはがれない。アオチさんと目が合った。アオチさんにだけは、こんなもの見られたくない。

「ごめんなさい……僕」

 そっとアオチさんが凶器を握った僕の手を取り、指を一つずつはがしてくれた。アオチさんは力を入れているわけではないのに、指がハラハラと氷からはがれた。

「オオミ、大丈夫だよ」

 アオチさんの言葉と共に氷がコスモスの花に沈んだ。

「ふっ」と溜息とも笑い声ともつかない音がして顔を上げる。

「やっぱりこっちからにしよう。君の乗客――弱い僕の細胞から」

 その時、はっきりわかった。神様は僕らを細胞としか見ていない。殺し合い、かばい合い、息を切らして懸命に生きているのに、「弱い細胞」「強い細胞」「必要な細胞」「不要な細胞」そうやって分類するだけだ。

 僕たちもこいつから生まれたのかと思っただけで虫唾が走る。

 回収人さんがこの恐ろしく美しいだけの人の眼にされるなんて、似合わない、全然似合わない。

 僕たちの回収人さんが還る場所は、あんな冷たい場所じゃない。

「……いや、見るのが辛い」

 回収人さんが力なく言った。

「そう」

 特に興味もなさそうに神様は言うと、また一歩回収人さんに近づき、その手を取った。

「さあ、こっちへ来て。僕の眼に触れて、そのまま中に入っておいで。かわいそうに、もう悲しいことはないよ」

 そう言って、これもまた嫌になるくらい完璧な形の白い指で回収人さんを自分の眼球に誘う。

 嫌だ、行かないで――。


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