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第四章 守護鳥の夢
眼球と心臓
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オゼ
「おい!」
回収人は止められない、そう悟った時、声を上げていた。
「お前、絶対生きろよ。俺も生きる。こいつらも生きる。俺は孤独なんかに負けない。お前が正しかったと証明してやる」
回収人が振り返った。優しい顔をしていた。
「待ってる。次の世界でお前を探す。一緒に世界のルールを変えよう」
頷いた次の瞬間、回収人の指は神様の左眼に触れていた。
神様が満足そうな笑みを口元に浮かべる。
笑ってろ。今のうちだ、サイコ野郎。
回収人の身体がどんどん若返っていく。想像を超えた美しさだ。冷淡な笑みを浮かべる神様なんかよりずっと。
無慈悲な神様に、命を知る回収人の美しさは永遠に越えられない。
そうして、本来の姿に戻った回収人は、あっと言う間に魂の姿にまで還り、神様の眼球に吸い込まれていった。
その時、ほんの一瞬だが、回収人の魂を見た。透けるような白銀だった。この色を覚えておかなければ。次に会った時、どんな姿でも魂はきっと同じ色だ。
忘れるな、思い出せ、次の世界のいつかの俺。
「彼も無事回収したことだし、僕は満足だ。後は君たちの中の不要な部分を捨てて、早く移動しよう。僕はもうこの世界にこれ以上いられない――」
俺たちを見回していた神様が急に顔を歪め、左眼を押さえた。
よし、頑張れ、俺たちの回収人。
「痛い、どうして……」
コスモスの中にかがみこむ神様に、ローヌが言い放った。
「渡すかよ、これは僕たちの乗客だ」
その時にはもうローヌの手から、例の銀色の刀が伸びていた。
俺にはこいつが何をするのかわかる。神様を刺すんじゃない。こいつは――
長い刀がローヌ自身の心臓を突いた。
「何……するの?」
目を押さえたまま、神様が弱々しい声を上げる。
何するの、じゃねえよ、つくづく鈍い野郎だ。
少し離れた場所に、無言ちゃんにしがみついているウルウがいた。
俺が連れて来てやろう。
「うる……」
怯えるウルウの手首を強く掴む。
「安心しろ、お前も俺たちと一緒に新しい世界に行くんだ。ついて来てくれるだろ?」
「うるんっ」
こいつは俺の言いたいことがわかったはずだ。愛嬌のある目の中にしっかりとした意志を感じた。
ローヌを見ると、既に取り出した心臓を片手に、にやりと笑ってこっちを見ていた。
神様のような冷笑じゃない。悪戯を企む子どもの顔。
「やっと僕にも彼の真似ができた」
そう言うや否や、俺が背中を押したウルウの身体を抱き寄せ、ぽかんと開いた口に心臓を押し込んだ。
「うるるるるるるる」
少し苦しがる様子を見せたが、ウルウはゴクリと心臓を呑み込んだ。
良くやった、これでウルウは移動の波に呑まれたりしない。
ウルウを支える俺に、心臓を与えたばかりで紙のように白い顔のローヌが明るく言った。
「君たち、後は頼んだよ」
「おい!」
回収人は止められない、そう悟った時、声を上げていた。
「お前、絶対生きろよ。俺も生きる。こいつらも生きる。俺は孤独なんかに負けない。お前が正しかったと証明してやる」
回収人が振り返った。優しい顔をしていた。
「待ってる。次の世界でお前を探す。一緒に世界のルールを変えよう」
頷いた次の瞬間、回収人の指は神様の左眼に触れていた。
神様が満足そうな笑みを口元に浮かべる。
笑ってろ。今のうちだ、サイコ野郎。
回収人の身体がどんどん若返っていく。想像を超えた美しさだ。冷淡な笑みを浮かべる神様なんかよりずっと。
無慈悲な神様に、命を知る回収人の美しさは永遠に越えられない。
そうして、本来の姿に戻った回収人は、あっと言う間に魂の姿にまで還り、神様の眼球に吸い込まれていった。
その時、ほんの一瞬だが、回収人の魂を見た。透けるような白銀だった。この色を覚えておかなければ。次に会った時、どんな姿でも魂はきっと同じ色だ。
忘れるな、思い出せ、次の世界のいつかの俺。
「彼も無事回収したことだし、僕は満足だ。後は君たちの中の不要な部分を捨てて、早く移動しよう。僕はもうこの世界にこれ以上いられない――」
俺たちを見回していた神様が急に顔を歪め、左眼を押さえた。
よし、頑張れ、俺たちの回収人。
「痛い、どうして……」
コスモスの中にかがみこむ神様に、ローヌが言い放った。
「渡すかよ、これは僕たちの乗客だ」
その時にはもうローヌの手から、例の銀色の刀が伸びていた。
俺にはこいつが何をするのかわかる。神様を刺すんじゃない。こいつは――
長い刀がローヌ自身の心臓を突いた。
「何……するの?」
目を押さえたまま、神様が弱々しい声を上げる。
何するの、じゃねえよ、つくづく鈍い野郎だ。
少し離れた場所に、無言ちゃんにしがみついているウルウがいた。
俺が連れて来てやろう。
「うる……」
怯えるウルウの手首を強く掴む。
「安心しろ、お前も俺たちと一緒に新しい世界に行くんだ。ついて来てくれるだろ?」
「うるんっ」
こいつは俺の言いたいことがわかったはずだ。愛嬌のある目の中にしっかりとした意志を感じた。
ローヌを見ると、既に取り出した心臓を片手に、にやりと笑ってこっちを見ていた。
神様のような冷笑じゃない。悪戯を企む子どもの顔。
「やっと僕にも彼の真似ができた」
そう言うや否や、俺が背中を押したウルウの身体を抱き寄せ、ぽかんと開いた口に心臓を押し込んだ。
「うるるるるるるる」
少し苦しがる様子を見せたが、ウルウはゴクリと心臓を呑み込んだ。
良くやった、これでウルウは移動の波に呑まれたりしない。
ウルウを支える俺に、心臓を与えたばかりで紙のように白い顔のローヌが明るく言った。
「君たち、後は頼んだよ」
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