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第4話 緑の丘 : 私をいつも励ましてくれる、緑の丘と、クジラのバンダナ。
3.切られた堰(2/3)
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薄暗かった周囲は、もう完全に闇に包まれている。
雨は相変わらず降り続いていて、月の光が差す事も無い。
鳥の声も、虫の声すら止んでしまった静かな静かな夜。
それでも、心の中は余計な雑音だらけで煩いほどだった。
間近でガバッと空を切るような音がする。
「俺……寝てたか!?」
それは、座り込んでいたスカイが飛び起きた音のようだった。
涙はいつの間にか止まっていた。
いや、枯れてしまったと言う方が正しいのかもしれない。
「真っ暗じゃねーか!」
スカイが焦りで声を荒げる。
「こ、こんな遅くまで、連絡も無しで、ラズを連れ出して……」
震える手で顔を覆いながら、呟くスカイの声が恐怖の色に染まってゆく。
「俺……ねーちゃんに……どんな目に遭わされるか……」
一瞬の沈黙の後、物凄い勢いでスカイが肩を掴んできた。
「おい、ラズ帰るぞ! すぐ帰るぞ!!」
ガクガクと、音が聞こえるほどに揺さぶられて、やっと、どこか遠くに思えていたスカイの声がほんの少し近付いた。
「こういう時はとにかく一秒でも早く帰った方がマシなんだ! 遅くなればなるほど酷い目に……」
スカイの方へと顔を上げるも、視点はその向こうで結ばれたままでピントが合わない。
けれど、もうスカイの顔をはっきり見ようという気も起きなかった。
そのまま、ぼやけたスカイに向かって口を開く。
「スカイ君だけ帰って……」
「は!?」
スカイの声には突き刺さるほどの棘があった。
「何言ってんだお前」
「私、もういいよ」
「何が」
「生きるの、もういい……」
「――っ馬鹿なこと言うなよな!?」
肩を掴んでいたスカイの手が、強引に襟元を掴んできて、私の体は急激に引き上げられた。
そこでようやく視点がスカイに合う。
「俺達が、どれだけ心配したと思ってるんだ!!」
至近距離で見るスカイの瞳は、暗闇で色こそ分からなかったが、その真っ直ぐな感情に合わせて、燃えているかのように揺らめいた。
「お前が、このまま死んじまうんじゃないかって、
母さんも、姉ちゃんも、気が気じゃなかったんだぞ!?
それを……っ」
「だって、私のせいだもん!!」
言葉が溢れた。
「皆が死んじゃうの、私のせいなのっっ!!」
ずっとずっと溜めていた何かが、堰を切って溢れ出す。
「はぁ!? 何でだよ!!」
スカイが突き放すように私の襟元から手を離す。
軽くよろけた後、スカイに向き合うようにして立つ。
お腹の底から湧き上がってくる感情が、そのまま声になる。
「クロマルと、昨日、約束したの。
また、明日来るねって。
そしたらクロマル、ちゃんと返事してくれて……」
スカイが睨むようにじっとこちらを。私の目を見ている。
「クロマル、もうきっと、空まで飛べたんだよ!
犬からだって、ほんとは逃げられたの!!
けど、私が、来るって……言ったから……
空に上がっちゃったら、もう降りて来れないから……っっ」
「そんなのわかんねぇだろ」
「分かるもん!」
「お前の思い込みだってんだよ!!」
「違うよ!!
お母さんだって、私……」
声が震える。
頭の中が母の姿でいっぱいになる。
「わ、私……が、いなかったら、死ななかったんだよ!!!!」
全ての思いを吐き出すように、ありったけの声で叫ぶ。
私を見るスカイの顔が、怒ったような表情のまま固まる。
ただ、そのラベンダーの瞳だけが、とても淋しそうな色をした。
「……わかったよ! もう勝手にしろ!!」
吐き捨てるような台詞と同時に、スカイが私を突き飛ばす。
基地のほとんどを支えていた巨木に、小さな背を打ち付けられる。
痛みは感じなかった。
けれど、スカイに突き放されたことが衝撃だった。
足元が崩れて行くような、そんな感覚。
それが感覚的なものではなく、現実の物だと気付いたのは、地鳴りが聞こえてからだった。
元々土砂崩れの跡にあったからか、この雨でぬかるんだ地面は、今、また崩れようとしていた。
ズズズズズ……と何かを引き摺るような、低い振動が足元を包み込む。
ゆっくりと、けれど私達を押し潰すには十分な早さで、
基地を支えていた巨木がその身を滑らせる。
「スカイ君、危ないっっ!!」
状況が飲み込めずオロオロと辺りを見回す青い髪の少年を、潰れかけた基地の出口めがけて力いっぱい突き飛ばす。
衝撃に、こちらを見るそのラベンダー色の瞳が大きく見開かれる。
違うよ、スカイ君。
突き飛ばされたお返しに、突き飛ばしたとかじゃないんだから。
我ながら、場違いな言い訳に思わず笑みが浮かぶ。
青い髪をなびかせて遠ざかるその少年が、基地の外へ倒れこむのを見届けるよりほんの少し早く、私の視界は木の葉と土砂に埋め尽くされた。
雨は相変わらず降り続いていて、月の光が差す事も無い。
鳥の声も、虫の声すら止んでしまった静かな静かな夜。
それでも、心の中は余計な雑音だらけで煩いほどだった。
間近でガバッと空を切るような音がする。
「俺……寝てたか!?」
それは、座り込んでいたスカイが飛び起きた音のようだった。
涙はいつの間にか止まっていた。
いや、枯れてしまったと言う方が正しいのかもしれない。
「真っ暗じゃねーか!」
スカイが焦りで声を荒げる。
「こ、こんな遅くまで、連絡も無しで、ラズを連れ出して……」
震える手で顔を覆いながら、呟くスカイの声が恐怖の色に染まってゆく。
「俺……ねーちゃんに……どんな目に遭わされるか……」
一瞬の沈黙の後、物凄い勢いでスカイが肩を掴んできた。
「おい、ラズ帰るぞ! すぐ帰るぞ!!」
ガクガクと、音が聞こえるほどに揺さぶられて、やっと、どこか遠くに思えていたスカイの声がほんの少し近付いた。
「こういう時はとにかく一秒でも早く帰った方がマシなんだ! 遅くなればなるほど酷い目に……」
スカイの方へと顔を上げるも、視点はその向こうで結ばれたままでピントが合わない。
けれど、もうスカイの顔をはっきり見ようという気も起きなかった。
そのまま、ぼやけたスカイに向かって口を開く。
「スカイ君だけ帰って……」
「は!?」
スカイの声には突き刺さるほどの棘があった。
「何言ってんだお前」
「私、もういいよ」
「何が」
「生きるの、もういい……」
「――っ馬鹿なこと言うなよな!?」
肩を掴んでいたスカイの手が、強引に襟元を掴んできて、私の体は急激に引き上げられた。
そこでようやく視点がスカイに合う。
「俺達が、どれだけ心配したと思ってるんだ!!」
至近距離で見るスカイの瞳は、暗闇で色こそ分からなかったが、その真っ直ぐな感情に合わせて、燃えているかのように揺らめいた。
「お前が、このまま死んじまうんじゃないかって、
母さんも、姉ちゃんも、気が気じゃなかったんだぞ!?
それを……っ」
「だって、私のせいだもん!!」
言葉が溢れた。
「皆が死んじゃうの、私のせいなのっっ!!」
ずっとずっと溜めていた何かが、堰を切って溢れ出す。
「はぁ!? 何でだよ!!」
スカイが突き放すように私の襟元から手を離す。
軽くよろけた後、スカイに向き合うようにして立つ。
お腹の底から湧き上がってくる感情が、そのまま声になる。
「クロマルと、昨日、約束したの。
また、明日来るねって。
そしたらクロマル、ちゃんと返事してくれて……」
スカイが睨むようにじっとこちらを。私の目を見ている。
「クロマル、もうきっと、空まで飛べたんだよ!
犬からだって、ほんとは逃げられたの!!
けど、私が、来るって……言ったから……
空に上がっちゃったら、もう降りて来れないから……っっ」
「そんなのわかんねぇだろ」
「分かるもん!」
「お前の思い込みだってんだよ!!」
「違うよ!!
お母さんだって、私……」
声が震える。
頭の中が母の姿でいっぱいになる。
「わ、私……が、いなかったら、死ななかったんだよ!!!!」
全ての思いを吐き出すように、ありったけの声で叫ぶ。
私を見るスカイの顔が、怒ったような表情のまま固まる。
ただ、そのラベンダーの瞳だけが、とても淋しそうな色をした。
「……わかったよ! もう勝手にしろ!!」
吐き捨てるような台詞と同時に、スカイが私を突き飛ばす。
基地のほとんどを支えていた巨木に、小さな背を打ち付けられる。
痛みは感じなかった。
けれど、スカイに突き放されたことが衝撃だった。
足元が崩れて行くような、そんな感覚。
それが感覚的なものではなく、現実の物だと気付いたのは、地鳴りが聞こえてからだった。
元々土砂崩れの跡にあったからか、この雨でぬかるんだ地面は、今、また崩れようとしていた。
ズズズズズ……と何かを引き摺るような、低い振動が足元を包み込む。
ゆっくりと、けれど私達を押し潰すには十分な早さで、
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「スカイ君、危ないっっ!!」
状況が飲み込めずオロオロと辺りを見回す青い髪の少年を、潰れかけた基地の出口めがけて力いっぱい突き飛ばす。
衝撃に、こちらを見るそのラベンダー色の瞳が大きく見開かれる。
違うよ、スカイ君。
突き飛ばされたお返しに、突き飛ばしたとかじゃないんだから。
我ながら、場違いな言い訳に思わず笑みが浮かぶ。
青い髪をなびかせて遠ざかるその少年が、基地の外へ倒れこむのを見届けるよりほんの少し早く、私の視界は木の葉と土砂に埋め尽くされた。
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