78 / 113
第4話 緑の丘 : 私をいつも励ましてくれる、緑の丘と、クジラのバンダナ。
4.小さな背(2/4)
しおりを挟む
よく見れば、バンダナを着けてちょうど正面に来る部分にはヒゲが。
その左右には確かにつぶらな瞳が描かれており、言われてしまうともうクジラ以外の何物にも見えなくなるほどの完成度ではあった。
スカイ君、器用だなぁ……。
バンダナから少し視線を降ろすと、青い髪の向こうでラベンダーの瞳が何かを言いたげにじっとこちらを見つめていた。
な、なんだろう……。
思わずこちらまで緊張してしまうような、真剣さというのか、真摯さというのか。そういうものを感じて息を飲む。
スカイがそのギュッと閉じた口を、開こうとした途端、
「スカイ、ドタバタ煩いわよ。足音を立てずに走りなさい」
デュナがいまだに開け放されたままの扉から顔を出した。
走るなとは言わないんだ……。
どちらかと言えば、足音を立てずに走ることの方が難しいような気がするけれど、スカイは素直に「へーい」と返事をしてから、なんだか居心地悪そうに部屋の奥へと移動した。
後になって思えば、こういう事の積み重ねが、スカイに盗賊としての資質を作っていったのかも知れないなぁ……。
「ラズ、気分はどう? どこか痛いところは無い?」
「うん。大丈夫」
返事をしてから、ひとつ息を吸って、
「……デュナお姉ちゃん」
「なーに?」
まるで、声を掛けられるのが分かっていたかのように、デュナは、自然と私の傍に屈みこんでいた。
スカイより若干薄いラベンダー色の瞳をほんの少し細めて、優しくこちらを覗き込む。
「あのね……その……いっぱい心配掛けちゃってごめんなさい」
つい思い切り頭を下げると、ぽふんと布団に顔がめり込んだ。
「ええ、ラズが元気になってよかったわ」
デュナが、私の後頭部をぐりぐりと撫で回す。
その声がとっても優しくて、嬉しいような恥ずかしいような、おまけにちょっと申し訳ないような気持ちで顔が熱くなる。
「……フローラおばさんは?」
顔を上げて尋ねる。
おばさんにもちゃんとゴメンナサイって言わなきゃ。
「母さんは今ちょっと出かけてるわ。帰ってきたら教えてあげるから。
ああ、ラズ、痛いところが無いなら、少しずつ体を動かしておく方がいいわよ」
デュナの話によれば、私は丸3日寝続けていたらしい。
それ以前も延々と部屋の片隅に座り込んでいたし、体力はそうとう落ちているようだった。
「スカイ、ラズが外に出たりするときは手伝ってあげるのよ」
「おう」
それだけ指示をすると、デュナはすたすたと自室に戻ってしまった。
宿題が山ほどあるらしい。
「スカイ君は無いの? 宿題」
「ある。けど後でいい」
淀みなく言い切られて、そういうものなんだ……と納得する。
自分は今まで学校に行ったこともなければ、
そんな風に宿題を貰うこともなかったので勝手が分からなかった。
「デュナお姉ちゃんは、お勉強とかあっという間に出来ちゃうんだと思ってた……」
ぽろり。とこぼした言葉に、部屋の窓から外を確認していたスカイが振り返って言う。
「ねーちゃんはすごいよ。宿題だって、学校で済ませちゃうことも多いしさ」
やっぱりそうなんだ。
「けど、ラズが寝込んでからずっと、夜とかもちょこちょこ様子見に来てたみたいだし、それで溜まっちゃったんじゃないか? 宿題」
私の事が心配で、勉強が手に付かなかった……なんて
なんだかデュナらしくないというか、ちょっとイメージできないけど……。
「それよりさ、外行かないか? 体動かした方がいいんだろ?」
スカイが窓の外を指して、瞳を輝かせながら言う。
外はとてもいい天気で、ゆるやかな風がサワサワと木々を揺らしている。
ついさっき、寝てなきゃダメだって布団に押し込んだくせに……と思いつつも、私はその提案に笑顔で頷きを返した。
スカイにはどうやら私を連れて行きたい場所があるらしく、久しぶりに自分の体重を支える両足に不安を感じつつも、ゆっくり後ろをついて歩く。
今日は本当にいい天気だ。
眩しい日差しに照らされて、歩いているとじんわり汗ばむほどだったが、涼しい風がそよそよと優しく吹き続けていて、不快になる事はなかった。
あの日、スカイに手を引かれて歩いた方とはまったくの逆方向だった。
「もうすぐ着くからな。ここを登ったら……」
そう言って、前を歩くスカイが道を開けて示してくれたのは、とても急に見える坂だった。
「うわぁ……ここ、登るの……?」
「疲れたなら一回休むか?」
どうやら、スカイには登らないという選択肢は無いようだ。
「うん……」
しょうがなく、その場で座り込む。
周りを見回しても、椅子になりそうな石だとかそういうものは無いようだった。
お日様にぽかぽか温められた草は、元気いっぱいで、ズボンの上からでも、お尻がちくちくする。
まあ、湿った地面でぐっしょりするよりはいいけど……。
その左右には確かにつぶらな瞳が描かれており、言われてしまうともうクジラ以外の何物にも見えなくなるほどの完成度ではあった。
スカイ君、器用だなぁ……。
バンダナから少し視線を降ろすと、青い髪の向こうでラベンダーの瞳が何かを言いたげにじっとこちらを見つめていた。
な、なんだろう……。
思わずこちらまで緊張してしまうような、真剣さというのか、真摯さというのか。そういうものを感じて息を飲む。
スカイがそのギュッと閉じた口を、開こうとした途端、
「スカイ、ドタバタ煩いわよ。足音を立てずに走りなさい」
デュナがいまだに開け放されたままの扉から顔を出した。
走るなとは言わないんだ……。
どちらかと言えば、足音を立てずに走ることの方が難しいような気がするけれど、スカイは素直に「へーい」と返事をしてから、なんだか居心地悪そうに部屋の奥へと移動した。
後になって思えば、こういう事の積み重ねが、スカイに盗賊としての資質を作っていったのかも知れないなぁ……。
「ラズ、気分はどう? どこか痛いところは無い?」
「うん。大丈夫」
返事をしてから、ひとつ息を吸って、
「……デュナお姉ちゃん」
「なーに?」
まるで、声を掛けられるのが分かっていたかのように、デュナは、自然と私の傍に屈みこんでいた。
スカイより若干薄いラベンダー色の瞳をほんの少し細めて、優しくこちらを覗き込む。
「あのね……その……いっぱい心配掛けちゃってごめんなさい」
つい思い切り頭を下げると、ぽふんと布団に顔がめり込んだ。
「ええ、ラズが元気になってよかったわ」
デュナが、私の後頭部をぐりぐりと撫で回す。
その声がとっても優しくて、嬉しいような恥ずかしいような、おまけにちょっと申し訳ないような気持ちで顔が熱くなる。
「……フローラおばさんは?」
顔を上げて尋ねる。
おばさんにもちゃんとゴメンナサイって言わなきゃ。
「母さんは今ちょっと出かけてるわ。帰ってきたら教えてあげるから。
ああ、ラズ、痛いところが無いなら、少しずつ体を動かしておく方がいいわよ」
デュナの話によれば、私は丸3日寝続けていたらしい。
それ以前も延々と部屋の片隅に座り込んでいたし、体力はそうとう落ちているようだった。
「スカイ、ラズが外に出たりするときは手伝ってあげるのよ」
「おう」
それだけ指示をすると、デュナはすたすたと自室に戻ってしまった。
宿題が山ほどあるらしい。
「スカイ君は無いの? 宿題」
「ある。けど後でいい」
淀みなく言い切られて、そういうものなんだ……と納得する。
自分は今まで学校に行ったこともなければ、
そんな風に宿題を貰うこともなかったので勝手が分からなかった。
「デュナお姉ちゃんは、お勉強とかあっという間に出来ちゃうんだと思ってた……」
ぽろり。とこぼした言葉に、部屋の窓から外を確認していたスカイが振り返って言う。
「ねーちゃんはすごいよ。宿題だって、学校で済ませちゃうことも多いしさ」
やっぱりそうなんだ。
「けど、ラズが寝込んでからずっと、夜とかもちょこちょこ様子見に来てたみたいだし、それで溜まっちゃったんじゃないか? 宿題」
私の事が心配で、勉強が手に付かなかった……なんて
なんだかデュナらしくないというか、ちょっとイメージできないけど……。
「それよりさ、外行かないか? 体動かした方がいいんだろ?」
スカイが窓の外を指して、瞳を輝かせながら言う。
外はとてもいい天気で、ゆるやかな風がサワサワと木々を揺らしている。
ついさっき、寝てなきゃダメだって布団に押し込んだくせに……と思いつつも、私はその提案に笑顔で頷きを返した。
スカイにはどうやら私を連れて行きたい場所があるらしく、久しぶりに自分の体重を支える両足に不安を感じつつも、ゆっくり後ろをついて歩く。
今日は本当にいい天気だ。
眩しい日差しに照らされて、歩いているとじんわり汗ばむほどだったが、涼しい風がそよそよと優しく吹き続けていて、不快になる事はなかった。
あの日、スカイに手を引かれて歩いた方とはまったくの逆方向だった。
「もうすぐ着くからな。ここを登ったら……」
そう言って、前を歩くスカイが道を開けて示してくれたのは、とても急に見える坂だった。
「うわぁ……ここ、登るの……?」
「疲れたなら一回休むか?」
どうやら、スカイには登らないという選択肢は無いようだ。
「うん……」
しょうがなく、その場で座り込む。
周りを見回しても、椅子になりそうな石だとかそういうものは無いようだった。
お日様にぽかぽか温められた草は、元気いっぱいで、ズボンの上からでも、お尻がちくちくする。
まあ、湿った地面でぐっしょりするよりはいいけど……。
0
あなたにおすすめの小説
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる