circulation ふわふわ砂糖菓子と巡る幸せのお話

弓屋 晶都

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第4話 緑の丘 : 私をいつも励ましてくれる、緑の丘と、クジラのバンダナ。

4.小さな背(1/4)

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「あらあら……これは……傷痕が残っちゃいそうね……」
あれ、フローラおばさんの声が聞こえる。
「痕? 何でだよ」
スカイの声だ。
よかった。おばさんの傍にいるんだね。
「ラズちゃんが治してくれたところがね、どうも、少しずつずれちゃってるみたいなのよね」
「なんだそれ。こんなトコ傷残ったら目立つじゃないか」
「うーん……そうねぇ……」
「いいわよ母さん、気にしないで。スカイ、傷が消したいなら私がもう一度頭をカチ割ってあげるから、遠慮なく言いなさい?」
デュナお姉ちゃんの声もする。
何を話してるのかまでは分からないけど、皆近くにいるんだ……。
「……ねーちゃんに頼んだら、二度と元に戻らない気がする……」
「何か言った?」
「い、いや何にも!」
スカイ君の焦った声。
またデュナお姉ちゃんにからかわれてるのかな。
「でも、どうしてそんなことになったの?」
「そうねぇ……。神様への祈りに、ほんのちょっとだけ憎しみが乗っちゃったのかも知れないわね」
「…………俺、ラズに、憎まれて、たのか?」
あ。今スカイ君、私の名前を言った……?

体は相変わらず動かせなかったけれど、今私の体を包んでいるのは冷たくて重たいものじゃなく、暖かくてふかふかしているものだって事は分かった。
……お布団の中だ……。
「スカイじゃないわよ、修行も無しで治癒術なんて、とっても大切な相手にしか使えないんだから」
「え……?」
「ラズちゃんはきっと、神様を、この世界を少し嫌いになってしまったのね」
「世界……を?」
「スカイは、この世界が好き?」
「おう!」
「それはどうしてかしら?」
「えっと、皆で遊んだり、学校があったり、美味しい物を食べたりとか……」
「それから?」
「それから、えーと、父さんが居て、母さんが居て、ねーちゃんが居……――」
ピタリ。と唐突にスカイの言葉が途絶えた。
あ、れ……? 話の途中だった気がするんだけど……。
私の意識はもう半分以上眠りの中だった。
カタン。と小さな物音。
誰かが立ち上がった音のようだ。

「また、好きになればいいんだよな?」
スカイが、何か大切な事を話すときのように、ゆっくりと言葉をかみ締めて発言した。
「そうね……好きになってくれるといいんだけどね……」
スカイとフローラさんの声を遠くに聞きながら、私は心穏やかに眠りについた。


目を開いたら、天井が見えた。

無垢材がタイル状に貼られている天井。
スカイの家の天井だ。私に、と用意された部屋もこうだった……。
部屋を確認しようと視線を降ろしていくと、その途中で真っ青な髪が視界に割り込んできた。
「ラズっ! 気が付いたのか!!」
「スカイ君……」
スカイの頭の後ろに、黒くて丸いボールのようなものが見える。
その奥には尻尾らしきものも見えて、思わず呟く。
「クロマル……?」
スカイの人懐っこい弾けるような笑顔が途端に凍りつく。
よく見れば、それはスカイが頭に黒いバンダナを巻いていただけだった。
「あ、バンダナだったんだね……。一瞬、クロマルに見えちゃっ……た」
ぽろり。と予期せず涙が一粒零れてしまう。
その粒が布団に吸い込まれる前に、スカイの小さな手の平が受け止める。
それを握りしめると、スカイはぎゅうっと唇を噛み締めて、悔しそうなしかめっ顔になった。
あーあ……。さっきまでスカイ君笑ってたのに。余計なこと言っちゃった……。
自分の不用意な発言を後悔しながら、この場をどう取り繕うか思いあぐねていると、スカイが勢いよく立ち上がる。
「ちょっと待ってろ!!」
頭の上から怒鳴りつけられておっかなびっくりしているうちに、スカイはバタバタと部屋を出て行ってしまう。

その場に一人取り残された私は、開け放たれたままの扉を見つめながら呆然と瞬きを繰り返すしかなかった。

……とりあえず、扉を閉めようかという結論に至って、布団から這い出す。
いや、這い出そう。とした。
けれど、体のあちこちが突っ張ったりギシギシ鳴ったりで、なかなか思うように動けない。
「ううー……だめだ……」
途中で力尽きて布団の端辺りでうつぶせになっていると、スカイがドタバタと家中に響く足音を立てて駆け込んできた。
「あっラズ! まだ寝てなきゃダメだろ!!」
スカイは、駆け込んだその勢いのまま私を布団へ詰め込む。
「あ、ありがと……う?」
よく考えれば、私が起き上がろうとしなくてはならなかったのは、スカイが部屋の戸を開け放したまま出て行ってしまったからで、お礼を言いつつも、本当は文句を言うべきではなかったのかと悩む。

顔を上げると、スカイの黒いバンダナに、何か白いペンキのようなものを塗った跡があった。
「スカイ君、それ……」
「クロマルだ!」
小さなスカイは、その小さな胸を精一杯張って、自慢げに言い放った。
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