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第1話 夢の中の出会い (4/7)
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そうしてチュートリアルを済ませて、データのダウンロードが始まって、……それを待つうちに私は寝てしまったんだろうか。
今私は、ゲームの世界にそっくりな夢の中にいた。
名前をつけたばかりのペット、きなこもちを抱いたままその場に座り込む。
「……目が覚めるまで、ここにいるしかないのかなぁ……?」
きなこもちが、返事でもするかのように「ぷいゆ」と鳴いた。
きなこもちは撫でるとふにふにと柔らかくて、ひんやりしてる。
片手に乗るギリギリくらいのサイズで、私の両手の中指同士、親指同士をくっつけてできる輪くらいの大きさだろうか。
サイズの割にはずっしり重い。
うーん。五百ミリのペットボトルくらいの重さはありそう……。
私は両手で抱いたきなこもちを上げ下げしながら思う。
「ぷいゆっ♪」
きなこもちは遊んでもらっているつもりなのか、ご機嫌で小さな瞳をニコニコ細めて私の手の上でぴょこぴょこ跳ねた。
「そのフニルー、君のペットか? 可愛いな」
不意に声をかけられて、私は慌てて振り返る。
「えっ……!?」
そこには全身黒尽くめで口元まで黒い布で覆った男のキャラが、私の手の中を覗き込んでいる。
えっと……何だろう、この職業。雰囲気は忍者みたいな感じだけど、もっと現代的なデザインで、体のラインにピッタリフィットする服に肩や手首に金属製の防具のようなものがついている。
彼は私のきなこもちをじっと見ていたが、私の視線に気付くと、ハッとした顔になって、それからじわりと目を伏せた。
「……急に声をかけてしまって、悪かった」
「あっ、気にしないでください!」
「可愛いなと思ったら、つい……。自分は、よく考える前に話し出してしまう悪い癖があるんだ。嫌な気分にさせてしまったなら、謝る。悪かった」
彼は、早口で一方的に謝ると、背を向けて去ろうとする。
私は思わず立ち上がり、慌ててその背に叫んだ。
「いっ、嫌じゃありません! ……ちょっと、びっくりしただけで……」
まるで私が彼を傷付けてしまったようで、酷く焦ってしまう。
彼はピタ。と足を止めると、ちょっと驚いたような顔で振り返った。
「ぁ……」
えーと、何か喋らなきゃ……。
「よ、よかったら、撫でてみますか?」
彼は、スタンプ的なものなのか、ぱあっと周囲に花を散らして「いいのか?」と弾んだ声で言った。
表情はあまり変わらなかったけど、少し嬉しそうに見える。
よかった。
見知らぬ人だけど、悲しませずにすんで。
誤解されずにすんだ事が、純粋に嬉しかった。
きなこもちを彼に差し出す。
きなこもちは私の手から離れようとしなかった。
彼は気にする様子もなく、私の手に乗ったままのきなこもちを、もちもちと撫でて満足そうだ。
そっか。多分このゲームでは人のペットは取ったりできないんだろうな。
「すべすべしてるな。可愛いなぁ。名前はきなこもちって言うのか。よく似合ってるな」
彼は私の顔を見ないまま、きなこもちに向かって話す。
それでも私は何となく、自分が褒められたような気持ちになってしまった。
「フニルーってペットにできたんだな。最近追加されたのか? 俺、初めて見たよ」
よく分からないけど、このモンスターはペットとしては珍しい……のかな?
「もちもちだなぁ。水饅頭みたいだ。一度撫でてみたかったんだ」
寡黙そうな落ち着いた表情はそのままに、彼はペラペラとよく話す。
その声はまだ若くて、私と同じくらいの歳に思えた。
名前を尋ねてみようかな、と思ったら、彼の足元に名前が見えている事に気付いた。
「えっと、その、カタナさんの職業は、何て言うんですか?」
「俺? 俺はアサシンだよ」
何だか物騒な単語が出たけれど、本当に暗殺をするわけじゃなくてゲーム内の職業って事だよね?
「もしかして初心者?」
尋ねられて、コクコクと頷く。
初心者も初心者。私は今チュートリアルが終わったばかりの、超初心者だ。
「フニルーは初心者キャンペーンの特別ペットか何かだったのか……?」
チラとこちらを見られても、私もそんなのはよく分からない。
私が困ったように首を傾げれば、彼は小さく笑った。
「初めたばっかりじゃよく分からないよな、ごめん。良ければ俺、レベル上げ手伝うよ。きなこもちを撫でさせてくれたお礼に」
そう言って、ぐっと親指を立てたマークをぽこんと出すカタナさん。
……う、うーん……。気持ちは有難いんだけど、私はチュートリアルだけやったら終わりにするつもりだったから、レベルを上げる必要は……。
どう返事しようか迷っていると、カタナさんがまたハッとなる。
「あ、友達と待ち合わせとかなら、遠慮なく断ってくれ」
頭上にあせあせと汗のマークを出すカタナさん。
余計な気を遣わせてしまったようで、何だか心苦しい。
そういうわけじゃないんだけど。
こんな風にこのゲームを楽しんでる人に、このゲームは遊ぶつもりがないからとも言いにくいし……。
いつの間にか私はここが夢の中であることも忘れて、真剣に悩んでいた。
手の上で、きなこもちが「ぷいゆ」と鳴く。
そうだ。この子もせっかく捕まえたのにログインしないんじゃ可哀想だし……。
せっかくだから、もう少しだけ遊んでみようかなぁ。
「じゃあ、お言葉に甘えて……。よろしくお願いします」
私の言葉に、カタナさんが嬉しそうに小さく笑う。
アサシンの服に合う黒髪の向こうには、少し細められた赤い瞳があった。
そっか。黒髪だからって黒眼じゃなくても良かったな。と私は思った。
今私は、ゲームの世界にそっくりな夢の中にいた。
名前をつけたばかりのペット、きなこもちを抱いたままその場に座り込む。
「……目が覚めるまで、ここにいるしかないのかなぁ……?」
きなこもちが、返事でもするかのように「ぷいゆ」と鳴いた。
きなこもちは撫でるとふにふにと柔らかくて、ひんやりしてる。
片手に乗るギリギリくらいのサイズで、私の両手の中指同士、親指同士をくっつけてできる輪くらいの大きさだろうか。
サイズの割にはずっしり重い。
うーん。五百ミリのペットボトルくらいの重さはありそう……。
私は両手で抱いたきなこもちを上げ下げしながら思う。
「ぷいゆっ♪」
きなこもちは遊んでもらっているつもりなのか、ご機嫌で小さな瞳をニコニコ細めて私の手の上でぴょこぴょこ跳ねた。
「そのフニルー、君のペットか? 可愛いな」
不意に声をかけられて、私は慌てて振り返る。
「えっ……!?」
そこには全身黒尽くめで口元まで黒い布で覆った男のキャラが、私の手の中を覗き込んでいる。
えっと……何だろう、この職業。雰囲気は忍者みたいな感じだけど、もっと現代的なデザインで、体のラインにピッタリフィットする服に肩や手首に金属製の防具のようなものがついている。
彼は私のきなこもちをじっと見ていたが、私の視線に気付くと、ハッとした顔になって、それからじわりと目を伏せた。
「……急に声をかけてしまって、悪かった」
「あっ、気にしないでください!」
「可愛いなと思ったら、つい……。自分は、よく考える前に話し出してしまう悪い癖があるんだ。嫌な気分にさせてしまったなら、謝る。悪かった」
彼は、早口で一方的に謝ると、背を向けて去ろうとする。
私は思わず立ち上がり、慌ててその背に叫んだ。
「いっ、嫌じゃありません! ……ちょっと、びっくりしただけで……」
まるで私が彼を傷付けてしまったようで、酷く焦ってしまう。
彼はピタ。と足を止めると、ちょっと驚いたような顔で振り返った。
「ぁ……」
えーと、何か喋らなきゃ……。
「よ、よかったら、撫でてみますか?」
彼は、スタンプ的なものなのか、ぱあっと周囲に花を散らして「いいのか?」と弾んだ声で言った。
表情はあまり変わらなかったけど、少し嬉しそうに見える。
よかった。
見知らぬ人だけど、悲しませずにすんで。
誤解されずにすんだ事が、純粋に嬉しかった。
きなこもちを彼に差し出す。
きなこもちは私の手から離れようとしなかった。
彼は気にする様子もなく、私の手に乗ったままのきなこもちを、もちもちと撫でて満足そうだ。
そっか。多分このゲームでは人のペットは取ったりできないんだろうな。
「すべすべしてるな。可愛いなぁ。名前はきなこもちって言うのか。よく似合ってるな」
彼は私の顔を見ないまま、きなこもちに向かって話す。
それでも私は何となく、自分が褒められたような気持ちになってしまった。
「フニルーってペットにできたんだな。最近追加されたのか? 俺、初めて見たよ」
よく分からないけど、このモンスターはペットとしては珍しい……のかな?
「もちもちだなぁ。水饅頭みたいだ。一度撫でてみたかったんだ」
寡黙そうな落ち着いた表情はそのままに、彼はペラペラとよく話す。
その声はまだ若くて、私と同じくらいの歳に思えた。
名前を尋ねてみようかな、と思ったら、彼の足元に名前が見えている事に気付いた。
「えっと、その、カタナさんの職業は、何て言うんですか?」
「俺? 俺はアサシンだよ」
何だか物騒な単語が出たけれど、本当に暗殺をするわけじゃなくてゲーム内の職業って事だよね?
「もしかして初心者?」
尋ねられて、コクコクと頷く。
初心者も初心者。私は今チュートリアルが終わったばかりの、超初心者だ。
「フニルーは初心者キャンペーンの特別ペットか何かだったのか……?」
チラとこちらを見られても、私もそんなのはよく分からない。
私が困ったように首を傾げれば、彼は小さく笑った。
「初めたばっかりじゃよく分からないよな、ごめん。良ければ俺、レベル上げ手伝うよ。きなこもちを撫でさせてくれたお礼に」
そう言って、ぐっと親指を立てたマークをぽこんと出すカタナさん。
……う、うーん……。気持ちは有難いんだけど、私はチュートリアルだけやったら終わりにするつもりだったから、レベルを上げる必要は……。
どう返事しようか迷っていると、カタナさんがまたハッとなる。
「あ、友達と待ち合わせとかなら、遠慮なく断ってくれ」
頭上にあせあせと汗のマークを出すカタナさん。
余計な気を遣わせてしまったようで、何だか心苦しい。
そういうわけじゃないんだけど。
こんな風にこのゲームを楽しんでる人に、このゲームは遊ぶつもりがないからとも言いにくいし……。
いつの間にか私はここが夢の中であることも忘れて、真剣に悩んでいた。
手の上で、きなこもちが「ぷいゆ」と鳴く。
そうだ。この子もせっかく捕まえたのにログインしないんじゃ可哀想だし……。
せっかくだから、もう少しだけ遊んでみようかなぁ。
「じゃあ、お言葉に甘えて……。よろしくお願いします」
私の言葉に、カタナさんが嬉しそうに小さく笑う。
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そっか。黒髪だからって黒眼じゃなくても良かったな。と私は思った。
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