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弓屋 晶都

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第1話 夢の中の出会い (7/7)

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「みさみささんは、ちゃんと想像力が使える人だな。もっと皆がそうだったらいいのに……」
最後の言葉は独り言のようだったけれど、向き合っていた私の耳には届いてしまった。
「……想像力?」
そんな風に言われたのは初めてで、私は思わず聞き返す。
「人の気持ちを考える力だよ」
言われて『確かに』と思う。
人の気持ちなんて見えるものでもないし、想像するしかないもんね。
そっか、これも『想像力』なんだ。

「これは予想だけど。みさみささんが今日ログアウトする時に、初めてのDtDを『楽しかった』と感じてくれるなら、俺はきっと最高に『よかった』と思えるよ」

カタナさんが私に向かって笑った。
やっと落ち着いてきた頬の熱が、またぶり返す。
この人って、ちゃんと笑える人だったんだ。
あんまり表情が動かない人なのかと思ってた。

私の放ち続けていた矢が、動揺からか三本ほどふかふかの地面に落ちる。
私は慌ててターゲットを狙い直す。
いつの間にか、敵のHPは残り少なくなっていた。

「もう少しだな。これを倒せば一気にレベルが上がるはずだ」
カタナさんの言葉に私が気合を入れ直した時、突然大羊が最初に寝ていたあたりの地面がもこもこと盛り上がり始める。
「ぇ、何……?」
「何だ!?」
慌てて振り返るカタナさんの様子に、それが異常な事だと分かる。

ボコっと何かが飛び出してきて雲の地面に大穴が開く。
その下はどこまでも続く空だった。
「下がれ!」
カタナさんが私の肩を抱えるようにして跳ぶ。
逃げ遅れた大羊だけが、そこへと転がり落ちていった。

雲の下から現れたのはロボットみたいな無機質な感じのモンスターで、手足の先だけが太くなっていたけれど、全体的に細いフォルムをしている。
ちょっと蟻に似てるかも。顔には鋭い目が、明るい水色に輝いていた。

「何だ……? こんなやつ、見た事ない……」
言いながら、カタナさんは私を背に庇うようにしつつ、そのモンスターからジリジリと距離を取る。
けれどモンスターは私たちをターゲットにしてしまったらしく、こちらへ凄い速度で飛んで来た。

「ひゃ……」
身を竦める私の前へ、カタナさんが飛び出す。
ギィンッと、硬い物同士がぶつかる音が耳に刺さる。

「……っ!」
カタナさんから出てきた赤い数字は4桁だった。
即座にポーションを飲んだらしい回復エフェクトが出る。

よ、良かった……。
カタナさんってHP4桁以上あるんだ……。

黒い敵の足元の名前を読もうとして、それが読めないことに気付く。
カタナさんが動揺する声のまま叫ぶ。
「名前が文字化け? っ、当たらない……!」
敵はものすごく素早くて、カタナさんはその攻撃を時々避けるものの、こちらの攻撃は一度も当たらない。
カタナさんは、敵から一撃を受けるたびに連打に近い勢いでポーションを飲んでいる。
「みさみささんは、一回ログアウトして!」
言われてそうしようと思うものの、まだ私はログアウトしたことがなかったので、どこからログアウトすればいいのかわからない。
焦る私の耳に「くっ、ポーションがもう……」という小さな声が聞こえた。
「カ、カタナさんだけでも逃げてくださいっ!!」
叫んだ途端、私の頭上にレベルアップの表示が出た。
あ、さっき落ちていった大羊が死んだって事なのかな。

天使のような姿のレベルアップエフェクト。
それを見た敵が、一瞬怯んだ。

その隙に、カタナさんが叫ぶ「アプリごと落とせ!」
あ、そっか!
……って、夢の中でどうやって!?

黒い不気味な敵は私の天使のエフェクトを見上げていたが、それが消えた途端、私へまっすぐ向かってきた。
「っなんで、タゲが外れ――っ!?」
カタナさんの焦る声。

真っ黒な敵は、ほんの一瞬で私のすぐ前にいた。
大きな黒い腕が振り上げられ、私へと下ろされる。

やられるっっ!!

思わずぎゅっと目を瞑ってしまった私の前を、熱い炎の気配が舞った。

ゴオッと風を切るような音と熱気に私がおそるおそる目を開くと、そこには見知らぬ少年が立っていた。

「間に合ってよかった。もう大丈夫だよっ」
明るく元気な、弾むような声。
炎のような真っ赤な髪を揺らして、少年は炎に包まれる黒い敵を見つめている。
炎の中で暴れもがく黒い敵に少年はさらに三回炎を注いだ。

きなこもちは黒いのが怖かったのか、私の後ろにすっかり隠れてしまっていた。

この炎は、魔法ってやつなのかな?
こちらに背を向けている少年の背中には大きな赤い尻尾が、まるで生きているようにゆらゆらと揺れている。
こういう装備があるんだろうか。
公式サイトには動く猫しっぽとかウサミミも紹介されていたようだったから、多分そうなんだろうな。

「みさみささん、大丈夫か!?」
カタナさんに駆け寄りながら言われて、ようやく私はハッとした。
「あ、はい……」
答えて、自分の声が震えていることに気付いた。
……こ……怖かった……。
……本当に、死ぬかと思った……。
思わず、じわりと涙が滲んでしまう。
カタナさんは私の涙にあわあわと慌てた様子で、早口の説明を始める。
あんな敵は見た事も聞いた事もないし、名前も文字化けしていたから何かのバグかも知れない。と。
そんなカタナさんの声が、何故か少し遠く聞こえる。
カタナさんの姿も、涙のせいか滲んで見えなくなる。
滲んだ視界の中で赤い髪の少年が振り返る。
頭の上に大きなゴーグルを乗せたその少年は、私達に近付いて言った。
「君達にちょっと話が聞きたいんだけど……」

途端、彼らの姿はぐんぐん遠ざかってゆく。
私の視界は真っ暗になって、どこからか聴き慣れたメロディーが聞こえてきた。

あ。これはスマホの起床アラームだ……。

そっか……やっぱり……夢だったんだ……。

私はゆっくり目を開く。
見慣れた室内の風景は、寝起きだからか夢のせいか、涙に滲んでいた。
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