ドラゴンテールドリーマーは現在メンテナンス中です

弓屋 晶都

文字の大きさ
11 / 45

第2話 赤いリボン (4/9)

しおりを挟む
「……良かった。みさみささんが、想像してくれる人で」

そう言われて、私はまた聞き慣れない言い方に内心首を傾げる。
普通ならこういう時って何が入るかな。
「優しい人で」かなぁ?
優しい人って、人のこと思いやれる人って事だよね。
思いやるのって、相手の事を考えて想像する人って事だよね?
じゃあ別におかしくはないのかも。私が聞き慣れないだけで。

……ん?
「私のことも、みさみさって……。ううん、えっと、みさって呼んでくれたらいいよ」
私だけ呼び捨てで、カタナだけ『さん』付けが残ってるのおかしいよね?
「ああ、みさだけじゃ名前が取れなくて、ふたつになってるんだ?」
カタナに名前の理由を尋ねられて、私はずっしりと胸が重くなるのを感じる。
「……そういうわけじゃ……ないんだけど……」
「?」
カタナは頭の上に大きなハテナのマークを出した。
「その……ほら……みさみさってダサいでしょ? 名前変えようかなと思ってるんだけど……中々、思い浮かばなくて……」
私がしどろもどろ返事をすると、カタナは首を傾げてもう一度ハテナマークを出す。
「自分でつけたんじゃないのか?」
「そうなんだけど……。ずっと使ってる名前だから何も考えないでつけちゃっただけ」
「みさみさは、この名前気に入ってないのか?」
「えーと……。別に、気に入らないって事はないんだけど……」
じっとこちらの顔を覗き込むカタナの赤い瞳に耐えかねて、私は視線を足元に落とす。
「友達に……ダサいって言われちゃって……」
言葉は、終わりに近付くほど小さくなっていった。
カタナは、ほんの少し首を傾げた。
「人の感性なんて人それぞれだ。誰かがダサいと思ったものが、他の誰かにとって最高にクールなことだってある」
そ、そうかなぁ……。
「みさみさがその名を気に入ってないなら変えればいいし、気に入ってるならそのままでいいと俺は思う」
カタナは赤い瞳で真っ直ぐに私を見て、そう言った。

うーん、……そっか。
それだけのことだったんだね。

なんか、難しく考えすぎちゃってたのかも。
私は「みさみさ」って名前……、やっぱり、結構気に入ってるかな。
カタナにこんな風に呼ばれるのも、嬉しく感じるし。

「……あ。またやってしまったな」
カタナが、気まずそうに後頭部に手を回す。
「相談というのは聞くだけでいい場合がほとんどなんだと先生が言っていた。解決策を考えたり、それを伝える必要はないんだそうだ」

……そんな事を教えてくれる先生がいるんだ?
後から聞いた話では、カタナは療育機関というところで、そんな『ソーシャルスキル』という人との関わり方のコツを教えてもらったりしているらしい。

「俺が何か嫌な事をしたら、遠慮なく教えて欲しい」
カタナがしょんぼりと俯く。
「ううん。考えてもらえて嬉しかったよ。ありがとう!」
元気を出してほしくて、思わず語尾に力が入ってまう。
「そうか……よかった」
わずかにホッとした表情を見せたカタナが、ふと頭の上にハテナマークを出す。
「そういえば、今日はきなこもちは出さないのか?」

「えっと……それが、ログインした時には居なくて……」
「ああ、ケースに戻ってるんだろう。アイテム欄に入ってないか?」
言われて、慌ててアイテム欄を探す。あった!!
『きなこもちの飼育ケース』
私はそれをタップした。
ドーム状のケースがパカっと開くと、中からぴょんときなこもちが飛び出した。
「ぷいゆっ♪」
「良かったーっっ! きなこもちっっ、元気だった?」
思わずギュッと抱きしめれば、ぐぅぅとお腹をすかせたようなマークが出てくる。
あ、餌とかあるんだっけ。どうしよう。まだあげたことない……。
餌も無いのに出したら良くなかったかな。
「もしかして、これとか食べるんじゃないか?」
カタナはそう言うと、コロンとした小さな黄色い石を落とす。
きなこもちはそれを見て瞳を輝かせるが、食べには行かない。
「みさみさが拾って、それからペットのメニューから食べさせてやってくれ」
あ。そっか、そういうことね。
言われた通りにすれば、きなこもちは大喜びでそれを食べ始めた。
「ぷいゆっ、ぷいゆっ♪♪」
「食べてるね。良かったぁ……」
「ああ、可愛いな……」
私の手の上で小石をパクパク食べるきなこもちを、二人で覗き込む。
……ちょっと距離が……、近くない、かな……?
チラとカタナを盗み見れば、あまり変わらない表情だけど、それでも優しげに赤い瞳を少し細めてきなこもちを見つめていた。
「撫でてもいいか?」
「いいよ。断らなくても、いつでも撫でて」
私が答えれば「ありがとう」とカタナは優しい声で言った。
私は「きなこもちが嫌がらなければ」と続けようとしていたけれど、やめた。
カタナは、そんなことをしそうになかったから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

処理中です...