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弓屋 晶都

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2話

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「人もどきっていうのは、どうなのかな」
「あ?」
 翌朝、教室で僕に声をかけられた学友が、一瞬怪訝そうな顔をする。
 こいつは僕のいわゆる親友という位置にある奴だった。どうも、データベースの検索に手間取る事があるらしく、時々、こんな風にすぐ返事が返ってこないことがあった。
「ああー、一時期流行ったよな。俺ん家でも姉貴が一匹飼ってたよ」
「へぇ」
 なんだ、案外一般的に飼育されていたのか。僕が縁遠かっただけなのだろうか。
「まあ、もう死んじまったけどな」
 親友の言葉に疑問を抱く。
「お姉さんは、君とそう歳が離れていなかったはずだよ。人もどきは七、八年は生きるものなんじゃないのかい?」
「上手く飼えばって話だろ」
「ふーん……」
 つまりは、彼の家では適正な飼育ができなかったと言う事か。

 学校の帰り。僕は、昨日のペットショップの前で足を止めていた。
 人もどきは、まだ昨日と同じ場所にディスプレイされている。ふわふわの金の髪に、ピンクのリボンが揺れている。
 小さい頭だ。
 そんな小さな脳で、僕の事を覚えていたというのだろうか。人もどきは僕の姿を認めると、ペタッとガラスに張り付き、嬉しそうに手を振ってきた。
 こういうのを可愛いと言うのだろう。そう判断した僕は、この映像を経験として可愛いという単語に関連付けておくことにした。
 ガラス越しにそっと手を伸ばしてみると、人もどきはそれを追って左右にふらふらとおぼつかない足取りで移動した。
 人懐こいんだな……。
 ちょうど、犬が使っていたベッドも空いている事だし、来月には僕の製造日もある。製造日には、僕の両親とされている人達が、プレゼントを用意しようとするはずだ。
 家に帰ったら、二人に提案してみよう。人もどきを飼育してみるというのは、きっと、僕にとって良い経験になるだろうから。



***



 次の休日、僕は両親と共にペットショップに来ていた。
 ディスプレイされていた人もどきには、他に予約を入れそうな客もいないらしく、あっさりと僕のものになった。
 店員に薦められるままに、人もどきを抱き上げてみる。見た目のふわふわしたイメージに反して、ずっしりとした重量が腕にかかる。
 柔らかくすべすべした皮膚の内側は、その七〇%が体液だというのだから、それも納得ではあったが。なんだかぐにゃっとした体は、ちょっと力の加減を間違うと壊れてしまいそうだった。
 大人しく抱かれる人もどきは、僕と目が合うとその度にっこり笑った。
 店員いわく、よく懐いている状態なのだそうだ。直に触れたのは今日が初めてだというのに、人もどきというのは本当に懐きやすい生き物なのだな。
 この時はそう思ったが、後に親友から散々あやしても泣いてばかりで一向に懐かなかった人もどきの話を聞いて、懐き易さには個体差があるという認識に書き換えることとなる。
 飼育法のデータと飼育用品を一式揃えて、僕達家族は家に戻った。

 人もどきは、人で言うところの一歳程の姿になるまで試験管の中で育成される。よって、市場に出回るのは一歳二ヶ月~四ヶ月くらいの物が多いのだそうだ。
 平均寿命は七年。記録によれば、十年三ヶ月が過去最長だと記されていた。

 僕の連れ帰った人もどきは、まだ言葉を話せなかった。そういった学習は、販売された後に各家庭にてしつけさせるものらしい。
 ペットショップ側で言葉を操れる状態に教育してから販売しているところもあることにはあるが、そういったものは血統書つきの人もどきばかりで、もちろん値段もとんでもない。
 僕としては、自分よりあからさまに知能の低いと思われる生き物に言葉を教えることも、自分にとっての良い勉強になると思っていたので、その点に問題は無かった。

 毎日学校から真っ直ぐ帰ってきて、人もどきに色々な単語を話しかけてみる。
 時には、絵本と呼ばれる非常に簡単な本を読んで聞かせたりもした。
 人もどきは次第に、僕達と同じように発声し、会話することができるようになった。


「ノニ」

 僕の名を呼んで、僕が家にいる間中、後ろを付いてくる。たまに構ってやれば、飛び上がらんばかりの喜びようだ。
 以前飼育していた犬も、僕達家族にはよく懐いていたが、既に老犬だったことや、穏やかな犬種だったためか、こういった激しい感情をぶつけてくるような生き物ではなかった。

「ノニ、見て、できたよ」
 振り返れば、人もどきは僕の指示通りに積み上げた積み木を誇らしげに指していた。
「そうか、よくできたね」
 頭を撫でつつ褒めてやる。犬のしつけとやり方は同じだった。
ただ、犬に比べると、撫でる力は少ない方が良いようだったが。
 会話もこなせるようになった今、いつまでも人もどきと呼んでいるのでは良くないだろう。名前をつけてやらねばならなかったが、正直僕はこういったことが得意でなかった。
 あいつに頼んでみるか。
 親友と呼ぶべき学友を思い浮かべる。あれは、どうも、クリエイティブな方面に強いようだ。
 僕達の中では、そういった個性が出る者は希少だった。彼はきっと、将来良い仕事に就くことが出来るだろう。

「白くて、ちょっと黄みがかってて、ふわふわしてる……?
お前、それ以外の言い方ないのかよ」
 僕の精一杯の説明に、彼は顔をしかめた。
「今度、映像データを見せるよ。今手元にあるのは、いまいちなのばっかりなんだ」
 本当はそうではなかった。
 僕のデータベースは、既に人もどきの画像で溢れていたが、それらは、確かに資料用として提出するには十分なものではあったが、かといって、それを「これが僕の人もどきだ」と提示するには不完全な気がした。
 笑っている顔も、泣きそうな顔も、怒った顔でさえ、全てが揃わなくてはあの子にはならない。
 人もどきというのは、一つ二つの映像では表現できないような気が、今の僕にはしていた。
「そうだなぁ……じゃあ……。マヨってのはどうだ?」
「マヨ?」
「ああ、マヨネーズのマヨ」
「マヨネーズ?」
 聞いたことの無い単語だ。
「大昔に市民権を得ていた調味料の一つ。らしい」
「へえ。相変わらず君のデータベースには面白い物が沢山詰まってるんだね」
 きっと、こういうものの積み重ねが彼に独創性を与えているんだろう。
「白くて、ちょっと黄みがかってて、ふわふわしてるんだろ? きっとピッタリだ」
 にっと口角を上げて彼が言う。
 こういう細かい仕草が上手いのも、彼の特徴だった。
「そうか、いい名前だね。ありがとう。帰ったら早速伝えてみるよ」
 僕は、顔の表面を動かすのがあまり得意ではなかったが、なるべく感謝が伝わるような笑顔を心がけて彼に返した。
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