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弓屋 晶都

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3話

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「マヨ?」
「うん、いいだろう?」
「可愛い……」
 名を告げると、人もどきは嬉しそうに微笑んだ。
「ノニが考えてくれたの?」
「いや、僕じゃないよ」
 質問に、明確に答えたつもりだったが、人もどき……いや、マヨはあからさまに落胆した表情になった。
 何が問題だったのだろう。
 取り込んでいた飼育マニュアルを検索するも、やはり引っかからない。マニュアルの注意書きにもあったが、人もどきというのは行動をパターン化するのが大変難しいらしい。今回のように、調べたところで載っていないような出来事は今までにも散々あった。
 ただ、そういった出来事に対応することこそが、僕にとっては有意義なことでもあった。
 とにかくこういった場合には、原因を人もどき自身に聞くのが一番手っ取り早い。それが、この一年で僕の学んだ結果だった。
「どうして悲しそうにするんだい?」
 しばらくの沈黙。
 正確には、僕の言葉が終わってから二分三七秒後、マヨは口を開いた。
「私……ノニが考えてくれた名前がいいな……」
 やはり、その答えは僕の想定を超えたものだった。

 ……困ったな。
 前述の通り、僕にはそういった才が無い。
 僕の正式名称はNo.23518-63012-74770。もちろん、これは今も変わらない。一般的に名前と呼ばれている呼び名は、各家庭で養育担当となった人物によって思い思いに付けられる。僕の名前は、正式名称を元にしたものだった。実際、そういう例は多い。
 普通ここはナンバーの後ろを取ってナオだとかナナオだとか付けるところだろう。しかし、僕の両親……という役割を担当している二人は、No.2の部分だけをとって「ノニ」と名づけた。
 それを手本に名づけるとなると、この人もどきの名前は「ヒト」になってしまう。
 それでは人という固有名詞に百%一致してしまうではないか。
 あれこれと考える僕を、人もどきが神妙な面持ちで上目遣いに覗き込んでいる。ああ。これが不安な表情というやつなのかもしれない。思考の片手間に、その映像を関連付けしてデータベースへ格納する。
「トモ、という名前ではどうかな」
 結局、ヒトから一文字ずらしただけではあったが、これが今の僕の精一杯だった。
 もっと経験を積めば、もっと沢山の選択肢の中から選ぶこともできたのだろうが……。

「素敵!」
 意外にも、僕の言葉に人もどきは破顔した。


----------

 ――その日は、朝から雨が降り続いていた。

 僕達にとって、雨の日の外出というのは避けるべき行為だった。
もちろん、生活上問題のない程度の防水加工はされている。それでも、完全防水仕様である一部の者達を除いて、雨の日にわざわざリスクを冒してまで外に出ようという者は居なかった。
 天気予報が外れるという事はほぼ無く、降水量が一定を超えると予測される日には学校も休みになる。
 客が来ないのだから、当然、商店も軒並み休みだ、雨が激しく降る日、僕達の町はとても静かだった。

 トモが僕の胸元にぴったりと耳をくっつけて言う。
「水の音がするよ」
「冷却液の音だよ」
 人が、人を模して作った原型の名残か、体内に冷却液を循環させる為のポンプ室は人間と同じく胸部に付けられていた。
 トモはそのまま、僕の体に顔を擦り付けると、とろんとした目をしている。
「あったかい……」
 動力炉や、腹部に収められたモーターの熱が伝わっているのだろうか。一応システムをチェックしてみるが、特に負荷のかかっている箇所もなければ、当然、熱暴走の起こっているような部位もない。
 いや、トモの寄りかかっている箇所が若干熱くなっている。
 おかしいな。密着されたとしても、ここまで温度が上がるだろうか?
 トモの体温は、三十六~三十七度のはずだ。
 右手表面のセンサーをサーモグラフィーに切り替えてトモにかざしてみる。トモの体温は、四十度に達しようかとしていた。
「発熱!?」
 思わず口に出した僕の言葉にも、トモは反応を示さないままに
ゆっくりと、小さく瞬く。
 いつから熱を出していたんだ。
「トモ、具合が悪いのかい?」
 僕の問いにも、トモは反応を示さない。
 ぼんやりと開かれたままの瞳を覗き込むと、焦点が合っていなかった。
 これは、相当良くない状態ではないだろうか。
 プロセッサが一瞬チリッと音を立てる。いつもなら気にならないその音が、酷く不快に聞こえる。
 僕は、トモを毛布で覆うと、雨の中へと飛び出した。
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