facsimile

弓屋 晶都

文字の大きさ
7 / 7

7話(終)

しおりを挟む
あれから、もう十二年が過ぎたのか……。











----------

 目の前に座る、製造四年の少年……と言っても、見た目は僕と同じ青年サイズだけれど、ともかく、彼の話しを聞く。
 彼の人もどきは、とにかく指示を全然受け付けなくなってしまったらしくて。今日も、ここへ連れてくるつもりが、酷く抵抗されてしまい断念したらしい。

「その子の誕生日は分かるかい?」
「UH一〇六年、八月二十日です」
 なるほど、やっと二歳になったところか。

「それは、おそらく反抗期と言うものだよ」
「反抗期……?」

 少年が知らないのも当然だ。普通に生活をしていて耳にする単語ではない。
「僕達には存在しないものだからね。理解しづらいとは思うけれど、その原因と、メカニズムを説明しようね」
 ボクの言葉に、少年がシャキンと背筋を伸ばす。
「はいっお願いしますっ」
 その熱意溢れる姿勢に、彼がどれだけ真剣に人もどきの事を考えているのかが窺える。
 思わず弛みそうになった口元を引き締めたのは、突然の騒音だった。

 バタンと残響が響くほどに勢い良く扉を開いて入って来たのは、僕の良き理解者であると同時にトラブルメーカーでもある十年来の親友だった。

「よーぅ。遊びに来てやったぜ!」

 底抜けに明るい声が、そう広くないこの診療所兼自宅にする。
「ごめん、今ちょっと……」
 仕事中で手が離せないんだ。と続くはずだった僕の声は、台所から駆け込んできたトモの声にかき消された。

「ノニは今お仕事中ですっ!」

お茶を入れに行っていたはずの彼女は、長い髪を後ろで一つにまとめて、右手にはキッチンミトンをつけたままの姿で、あいつの侵入を防がんとその前に立ち塞がった。


「ごめんね、騒がしくて」
 玄関口でのやり取りが気になるのだろう。向こうをチラチラと覗き込んでいる、まだ心幼い、あの頃の僕と同じくらいの少年に優しく声をかける。
 声を掛けられて、視線を僕に移した少年は、なんだか緊張した面持ちでぎこちなく口を開いた。
「あ、あの……彼は、もしかして俳優の……」
「ああ、そうだよ、良く分かったね」
 親友は、社会に出て三年ほどした頃には俳優として活動を始めていた。
 今ではあちこちでその姿を見ることが出来るが、彼は僕と同じく汎用型の姿をしている為、見た目で判別をするのは難しいと思うのだが、分かる人には分かるものなんだなぁ。
「俺っいや、僕、その、彼の映画を見て、人もどきを飼いはじめたんですっっ!」
 少年が、ぐっと両手を握り締めて力説する。そういえば、この少年も歳のわりに動作の芸が細かいな……。
「そうだったのか……」
 と、返事をした僕を後ろに引き倒すように、首に腕を回してきたのは親友だった。
 いつのまにトモの必死のバリケードを抜けてきたのだろうか。
「いい映画だったろー? あの脚本、こいつが書いたんだぜ?」
 そう言われて、僕は思い返す。
 あの脚本の元になったのは、確かに僕の書いた反省文だった。
 保健所での騒動の末、僕らに提出を求められた反省文には字数制限がなかった。
 僕はそこで、人もどきの魅力や、それに感情移入して行く過程をなるべく客観的に、冷静に、人もどきに偏見のある大人達をも納得させられるよう心がけて書き綴った。

「もう、入ってきちゃダメですってば! ノニのお仕事の邪魔しないで下さいっ!!」
 トモが不法に侵入した親友を僕から引き剥がそうと強引に間に割り込んでくる。
「固い事言うなよトモちゃん。ほら、今、俺の話題が出てたからさ」
「それは貴方が無理矢理乱入してくるからですっっ」
 二人に挟まれて、さてどうしたものかと大事なお客である患者の少年へ視線移すと、少年は真っ直ぐに僕を見上げていた。
 その視線には、熱が篭っている。
 ……まいったな。
 僕は内心苦笑しつつも、人もどきを愛してくれている彼へ、精一杯柔らかい表情を作ると、感謝の気持ちを込めてそっと微笑を返した。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

2021.08.18 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2021.08.18 弓屋 晶都

ありがとうございます!!
お気に入り登録も嬉しいです♪♪

次回更新で完結となりますが、どうぞよろしくお願いしますーっ!!

解除
スパークノークス

お気に入りに登録しました~

2021.08.18 弓屋 晶都

ありがとうございますーーっっっ。
とっても嬉しいですーっっ♪♪
次のお話で完結になりますが、どうぞよろしくお願いしますーーっっ!!!!

解除

あなたにおすすめの小説

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

ぼくのだいじなヒーラー

もちっぱち
絵本
台所でお母さんと喧嘩した。 遊んでほしくて駄々をこねただけなのに 怖い顔で怒っていたお母さん。 そんな時、不思議な空間に包まれてふわりと気持ちが軽くなった。 癒される謎の生き物に会えたゆうくんは楽しくなった。 お子様向けの作品です ひらがな表記です。 ぜひ読んでみてください。 イラスト:ChatGPT(OpenAI)生成

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。