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おさとうじゅっさじ
6.
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私の表情をじっと観察する人が、頬に手を添えてくる。
「たくさん、したいです」
「まって」
「だめですか?」
いつもなら許可をとることなく触れさせるのに、今日はじっと見つめて、私の答えを待ち構えているようだった。
切ない瞳に見えるのはどうしてだろうか。私の願望だったら恐ろしいと思う。
何も言えないのに、遼雅さんの顔がすこし近づけられて、慌てて声をあげた。
「えっ、う……、でも口紅が、ついちゃいます」
ついさっき付け直してしまったばかりだ。
お昼前にも同じことをしてしまったから、同じ失態は起こさないようにと思って声をあげたつもりだった。
遼雅さんにキスをされたら、全然頭が働かなくなってしまう。
遼雅さんの両頬に手を付けて囁いたら、瞳がやっぱりすこし切なそうに揺れた気がした。
なぜか、とても見ていられない気分にさせられる。
落ち着きなく顔をそらして、ゆっくりと耳元に、遼雅さんの声が囁き落とされた。
「ついてもいいよ。いっそ首に付けてほしい」
「ええ?」
けろりと言いきった。声の熱さで背筋が粟立つ。
片手が腰を掴んでいて、逃げ出すことなんてすこしもできなさそうだ。ただ顔をそむけたまま、遼雅さんの唇が首筋に触れた感触であっけなく肩が揺れてしまう。
「っう、ん……、りょう、が」
「うん?」
「おひる、おわっちゃ、う」
「うん」
遊ぶように口づけて、額にも、頬にもこめかみにも触れさせてくれる。全部があつくて眩暈がするのに、唇だけにはくれないから、私が欲しいと言うまで待っているのだと気づいてしまった。
「したくない?」
「あ、う……」
「口が嫌なら、ここでもいいよ」
勝手に私の手を取って、遼雅さんの首筋にとんとん、と触れさせてくる。そのねつにも身体がぴくりと揺れてしまっている。
私の様子をじっと見つめている目の前の男の人が、喉元でくつくつと笑う音を立てていた。
「口紅、つけてください」
「それは、だめです、また依存させるワードで、すよ……?」
まるで自分のものだと誇示するみたいだ。
必死に抗おうとしているのに、遼雅さんはなおも私の首にちゅう、と音を立てながら吸い付いては舐めて、遊ぶように腰を撫でてくる。
遼雅さんにとっては遊びのようなふれあいでも、私はすぐにぐずぐずになってしまうからだめだ。
どうにか訴えようと顔を遼雅さんのほうに向けた。まっすぐに私を見つめる遼雅さんの瞳が、複雑な色を灯している。
「りょう、」
「……柚葉さんは依存してくれないでしょ」
拗ねているような声だと思った。表情もすこし苦しそうで、あぜんとしてしまう。
感情を隠すことなく、私をじっと見つめていた。
今度こそ後頭部を押されて、遼雅さんの唇が私のものに触れる。
触れるよりも食むとか、食べると言ったほうが正しいようなふれあいだった。遠慮なく口紅の付いた唇をあまく噛んで、なぞるように舐められる。
「ん、っりょ、」
「こんなにも依存してほしいと思ったのは初めてだ」
「な、に……っ」
「柚葉」
「っあ……、は、はい」
「俺は結構、嫉妬深いみたいです」
「し、っと……?」
「他の男の話は、もう終わり」
「そうくん、は、そういう」
「俺だけを見てほしい」
触れる寸前に声を捧げてくれる。
「俺の名前だけ呼んで」
切なげな声は掠れて耳に届くから、聞いているだけで身体に力を入れているのが難しくなってしまいそうだ。
こころに響いて、どうしようもなくなってしまう。
まっすぐな瞳に射抜かれる。
すぐ近くできらめくひまわりは、ダイヤモンドのような複雑なかがやきを放っていた。逸らせるはずもない。
「ゆず」
「りょうがさ、ん?」
「――俺だけのものにしたい」
まっすぐに言葉が投げかけられる。
息をつく間もなく呼吸を奪われて、ひとつになってしまいそうなくらいに近くに抱き込まれる。
指先は遼雅さんの手につながれていて、ほどくなんてとてもできそうにない。
全部を食べられてしまいそうで、お腹の奥がじわりとあつく、痺れてくる。
「たくさん、したいです」
「まって」
「だめですか?」
いつもなら許可をとることなく触れさせるのに、今日はじっと見つめて、私の答えを待ち構えているようだった。
切ない瞳に見えるのはどうしてだろうか。私の願望だったら恐ろしいと思う。
何も言えないのに、遼雅さんの顔がすこし近づけられて、慌てて声をあげた。
「えっ、う……、でも口紅が、ついちゃいます」
ついさっき付け直してしまったばかりだ。
お昼前にも同じことをしてしまったから、同じ失態は起こさないようにと思って声をあげたつもりだった。
遼雅さんにキスをされたら、全然頭が働かなくなってしまう。
遼雅さんの両頬に手を付けて囁いたら、瞳がやっぱりすこし切なそうに揺れた気がした。
なぜか、とても見ていられない気分にさせられる。
落ち着きなく顔をそらして、ゆっくりと耳元に、遼雅さんの声が囁き落とされた。
「ついてもいいよ。いっそ首に付けてほしい」
「ええ?」
けろりと言いきった。声の熱さで背筋が粟立つ。
片手が腰を掴んでいて、逃げ出すことなんてすこしもできなさそうだ。ただ顔をそむけたまま、遼雅さんの唇が首筋に触れた感触であっけなく肩が揺れてしまう。
「っう、ん……、りょう、が」
「うん?」
「おひる、おわっちゃ、う」
「うん」
遊ぶように口づけて、額にも、頬にもこめかみにも触れさせてくれる。全部があつくて眩暈がするのに、唇だけにはくれないから、私が欲しいと言うまで待っているのだと気づいてしまった。
「したくない?」
「あ、う……」
「口が嫌なら、ここでもいいよ」
勝手に私の手を取って、遼雅さんの首筋にとんとん、と触れさせてくる。そのねつにも身体がぴくりと揺れてしまっている。
私の様子をじっと見つめている目の前の男の人が、喉元でくつくつと笑う音を立てていた。
「口紅、つけてください」
「それは、だめです、また依存させるワードで、すよ……?」
まるで自分のものだと誇示するみたいだ。
必死に抗おうとしているのに、遼雅さんはなおも私の首にちゅう、と音を立てながら吸い付いては舐めて、遊ぶように腰を撫でてくる。
遼雅さんにとっては遊びのようなふれあいでも、私はすぐにぐずぐずになってしまうからだめだ。
どうにか訴えようと顔を遼雅さんのほうに向けた。まっすぐに私を見つめる遼雅さんの瞳が、複雑な色を灯している。
「りょう、」
「……柚葉さんは依存してくれないでしょ」
拗ねているような声だと思った。表情もすこし苦しそうで、あぜんとしてしまう。
感情を隠すことなく、私をじっと見つめていた。
今度こそ後頭部を押されて、遼雅さんの唇が私のものに触れる。
触れるよりも食むとか、食べると言ったほうが正しいようなふれあいだった。遠慮なく口紅の付いた唇をあまく噛んで、なぞるように舐められる。
「ん、っりょ、」
「こんなにも依存してほしいと思ったのは初めてだ」
「な、に……っ」
「柚葉」
「っあ……、は、はい」
「俺は結構、嫉妬深いみたいです」
「し、っと……?」
「他の男の話は、もう終わり」
「そうくん、は、そういう」
「俺だけを見てほしい」
触れる寸前に声を捧げてくれる。
「俺の名前だけ呼んで」
切なげな声は掠れて耳に届くから、聞いているだけで身体に力を入れているのが難しくなってしまいそうだ。
こころに響いて、どうしようもなくなってしまう。
まっすぐな瞳に射抜かれる。
すぐ近くできらめくひまわりは、ダイヤモンドのような複雑なかがやきを放っていた。逸らせるはずもない。
「ゆず」
「りょうがさ、ん?」
「――俺だけのものにしたい」
まっすぐに言葉が投げかけられる。
息をつく間もなく呼吸を奪われて、ひとつになってしまいそうなくらいに近くに抱き込まれる。
指先は遼雅さんの手につながれていて、ほどくなんてとてもできそうにない。
全部を食べられてしまいそうで、お腹の奥がじわりとあつく、痺れてくる。
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