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本編
28. 救済者
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【注意】
このシーンにはR18相当の描写(心理的・身体的な接触表現)が含まれます。
登場人物の心情描写の一環として必要な範囲で描いています。
苦手な方は無理をせずお戻りください。
※完全版はムーンライトノベルズに掲載しています。
「……参りました。手合わせ、ありがとうございました。ですから……退いてください」
できる限り平静を装ったつもりだったが、肺はまだ荒く上下し、言葉の端は震えていた。
見下ろす彼の口元が、わずかに弧を描く。
「……そっけないな」
剣の切っ先が、胸の上で揺れる。
「――だが、それも千景らしい」
剣が胸元をなぞり、布越しに硬質な感触を感じた。ぞわりと背筋に走る寒気に、思わず声が漏れる。
「っ……やめ……」
抗議の声は最後まで出せなかった。
剣がわずかに動き、衣服の合わせ目を押し分ける。
布がきしむ音とともに、冷たい空気が肌を撫でた。
「な、何を……!? 悪ふざけはやめてください……っ!」
はだけた隙間から夜気が滑り込み、熱を帯びた身体を容赦なく冷やしていく。
空気の重さが変わった。背筋に粟立つものを感じ、咄嗟に両腕でリュカ隊長を押し返す。
「っ……離れてください!」
力を込めても、身体にのしかかる重みは動かない。
覆いかぶさる熱と夜気の冷たさが、皮膚の上でせめぎ合った。
「千景……クロウリーに妬いているのだろう?」
耳もとに低い囁きが落ちる。
「……違う!」
声を振り絞っても、押し返す手がわずかに震えただけだった。
「強がるな。いい加減、素直になって……私に身を任せなさい」
頬をかすめた吐息が、冷えた夜気の中でひどく熱を帯びる。
逃げようとしても、腰にかかった重みがそれを許さなかった。
「……千景。抗えば抗うほど、美しい」
否定の言葉を吐こうとした瞬間、顎を強く掴まれ、唇が塞がれる。
「っ……!」
顎を固定され、口を閉ざすことも噛みつくこともできない。
呼吸を奪われ、抗議の声は濁っていく。
「はぁっ……はぁ……っ」
肺が焼けるようで、酸素を求めて荒く喉が鳴く。
肩で息をしている僕を見下ろし、彼は甘く囁いた。
「抗えば抗うほど、美しい……泣き顔でさえ」
必死の抵抗は空しく、重い身体はびくともしない。
――その刹那。烈風が訓練場を裂き、重くのしかかっていた重みがふっと緩む。
転がるように逃れて、荒い呼吸を繰り返した。
涙に濡れた視界の先に、黒い影が立っていた。
黒い髪、揺らめく輪郭。瞳の奥で赤紫が燃え、月光よりも鮮やかに煌めく。
見つめる間もなく、その姿は風とともに掻き消えた。
***
【作者コメント】
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話では、心も身体も限界に達した千景のもとへ、レオが静かに手を差し伸べます。
その温もりは、孤独を包み込む“子守歌”のようでした。
***
このシーンにはR18相当の描写(心理的・身体的な接触表現)が含まれます。
登場人物の心情描写の一環として必要な範囲で描いています。
苦手な方は無理をせずお戻りください。
※完全版はムーンライトノベルズに掲載しています。
「……参りました。手合わせ、ありがとうございました。ですから……退いてください」
できる限り平静を装ったつもりだったが、肺はまだ荒く上下し、言葉の端は震えていた。
見下ろす彼の口元が、わずかに弧を描く。
「……そっけないな」
剣の切っ先が、胸の上で揺れる。
「――だが、それも千景らしい」
剣が胸元をなぞり、布越しに硬質な感触を感じた。ぞわりと背筋に走る寒気に、思わず声が漏れる。
「っ……やめ……」
抗議の声は最後まで出せなかった。
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布がきしむ音とともに、冷たい空気が肌を撫でた。
「な、何を……!? 悪ふざけはやめてください……っ!」
はだけた隙間から夜気が滑り込み、熱を帯びた身体を容赦なく冷やしていく。
空気の重さが変わった。背筋に粟立つものを感じ、咄嗟に両腕でリュカ隊長を押し返す。
「っ……離れてください!」
力を込めても、身体にのしかかる重みは動かない。
覆いかぶさる熱と夜気の冷たさが、皮膚の上でせめぎ合った。
「千景……クロウリーに妬いているのだろう?」
耳もとに低い囁きが落ちる。
「……違う!」
声を振り絞っても、押し返す手がわずかに震えただけだった。
「強がるな。いい加減、素直になって……私に身を任せなさい」
頬をかすめた吐息が、冷えた夜気の中でひどく熱を帯びる。
逃げようとしても、腰にかかった重みがそれを許さなかった。
「……千景。抗えば抗うほど、美しい」
否定の言葉を吐こうとした瞬間、顎を強く掴まれ、唇が塞がれる。
「っ……!」
顎を固定され、口を閉ざすことも噛みつくこともできない。
呼吸を奪われ、抗議の声は濁っていく。
「はぁっ……はぁ……っ」
肺が焼けるようで、酸素を求めて荒く喉が鳴く。
肩で息をしている僕を見下ろし、彼は甘く囁いた。
「抗えば抗うほど、美しい……泣き顔でさえ」
必死の抵抗は空しく、重い身体はびくともしない。
――その刹那。烈風が訓練場を裂き、重くのしかかっていた重みがふっと緩む。
転がるように逃れて、荒い呼吸を繰り返した。
涙に濡れた視界の先に、黒い影が立っていた。
黒い髪、揺らめく輪郭。瞳の奥で赤紫が燃え、月光よりも鮮やかに煌めく。
見つめる間もなく、その姿は風とともに掻き消えた。
***
【作者コメント】
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話では、心も身体も限界に達した千景のもとへ、レオが静かに手を差し伸べます。
その温もりは、孤独を包み込む“子守歌”のようでした。
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