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第5話 王位継承は不可避っぽい? その1
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陛下が呼んでるって、何かあったのかな。
16歳になり、今では王の補佐のような仕事もしているけれど、陛下が直接僕に話をすることはこれまでなかった。
王妃は、僕を出産したショックで亡くなったということだし、僕の見た目のこともあり、あまり僕を好いていないのだろうと思っていた。
転生してから今まで、父や兄に会ったのは片手で数えられるくらいだ。
王族ってみんなそんなものなのかもしれないけれど、転生してもまた、家族との関係が薄いとは、これが因果応報というものなのだろうか。
「陛下、お呼びでしょうか」
玉座に座る王の元に跪く。
息子である僕を見る目に、親としての愛情は感じられない。
「単刀直入に言う。今度のルシャードの成人の儀で、あやつの王位継承権を剥奪し、正式な王位継承者が、ウィルフォード、お前であることを国民の前で宣言する」
「えっ……」
あまりにも突然のことで、目を白黒させている僕に構わず、王は続ける。
「その容姿のせいで、お前が王位継承者としてふさわしくないという声があるのは知っているな」
「はい、存じております」
「では、ルシャードを王位継承者として推す勢力があることはどうだ」
「はい、それも存じております」
「だが、正式な王位継承者は、正妃の息子であるお前だ。ルシャード派の動きを封じるためにも、改めて、お前が王位継承者であることを宣言する必要がある」
「陛下のお考えも理解できますが、しかし、継承権剥奪とは、やりすぎのように思われる方もいるのではないでしょうか。それに、わざわざルシャード殿下の成人の儀で宣言するのは、かえって反発を招く可能性もございます」
内心、僕は焦っていた。僕がこの世界に転生した目的は、前世の父を見つけて、罪を償うことだ。僕が王になってしまったら、そんなことをしている時間はきっとない。
王位継承なんて、まだまだ先のことだと思って、何も手を回してはいなかったけれど、この様子だと、かなり早急に、兄を王位継承者として認めてもらうよう、動かなけらばない。
「成人の儀を執り行った後は、今よりももっと、ルシャード派の動きが活発になるだろう。しかし、お前の成人の儀は、1年先だ。その間に、ルシャード派が、お前の手が及ばないほどに、力をつける可能性は低くない。起こりうる事態を総合的に検討した結果、ルシャードの王位継承権を剥奪するのが最も安全だという結論に至ったのだ」
「ですが……」
何も、剥奪することはないだろうと思う。
王は、そんなにも、ルシャード殿下が王位を継ぐことが嫌なのだろうか。
ルシャード殿下は、身内の贔屓目を除いても、優秀な男だった。仕事が凄まじく早く、剣の腕も僕よりずっと上だ。さらに、その性格は、勤勉・真面目・謙虚で、おまけに美男子ときてる。非の打ちどころがないとはまさにこのことだ。きっといい王になると思う。
比べて僕は、前世のこともあり、確かに人より物覚えはいいけれど、それだけだ。剣の扱いも、いつまでたっても上達しないし、この世界では不吉とされる容姿をしている。
だったら、やはり、ルシャード殿下が王位を継承したほうが、全てにおいて、ハッピーなのではと思ってしまう。
だけど、陛下の意思は固そうだし、今は、どうやったらその考えを変えられるのか、思いつかなかった。
「話は以上だ。なお、このことは、他言無用だ。当日まで、誰にも漏らすことのないよう、十分に留意せよ」
「かしこまりました」
会話終了まで3分ほど。陛下は、必要最低限の会話を済ませると、謁見の間から退室していった。
それにしても困った……。うっかりしてると、本当に僕が次の王様になっちゃうんじゃ……?
***
陛下との会話でかなりのダメージを負った僕は、重い足取りで自分の執務室へと向かっていた。
今日はまだ仕事が残っている。なんとか、ルシャード殿下に王位を譲るため、自分が王位継承を辞退することを伝える最善の方法を検討したいが、ゆっくり考えている時間もない。あ~~困った~~~~!
「ウィルフォード殿下、いかがされましたかな?」
頭を抱えて立ちつくしたところを、誰かに呼び止められ、振り向いた。
確か、ルシャード殿下の側近の――
「申し遅れました。私、ルシャード殿下の元で、外交補佐をしております、ヴォルフと申します。以後、お見知りおきを」
「これはご丁寧に……あ、頭をあげてください」
「恐れながら、お顔の色が優れないようですが、医務室へお連れしましょうか?」
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
親切な人だな。
「左様でございますか」
ーーーーん? まだ何か用があるのかな?
話は終わったのだと思ったけれど、ニッコニコの顔で僕をずっと見ている。
えーどうしよう……。こういう時は、僕もにっこりすればいいのかな。
ほぼ初対面のヴォルフさんと2人、ニコニコしているだけの謎の時間を過ごしていると、廊下の向こうから、ルドルフが物凄い形相でやってくるのが見えた。
「ウィルフォード様! おふざけになるにも限度というものがあります!」
わー……めっちゃ怒ってる?
「あ、私はこれで、失礼させていただきます」
ルドルフの怒りは、ヴォルフさんにも伝わったらしい。あんなに微笑みあった仲なのに、そそくさと立ち去ってしまった。
これは……。ルドルフによるスーパー説教タイム突入の予感がする……。
16歳になり、今では王の補佐のような仕事もしているけれど、陛下が直接僕に話をすることはこれまでなかった。
王妃は、僕を出産したショックで亡くなったということだし、僕の見た目のこともあり、あまり僕を好いていないのだろうと思っていた。
転生してから今まで、父や兄に会ったのは片手で数えられるくらいだ。
王族ってみんなそんなものなのかもしれないけれど、転生してもまた、家族との関係が薄いとは、これが因果応報というものなのだろうか。
「陛下、お呼びでしょうか」
玉座に座る王の元に跪く。
息子である僕を見る目に、親としての愛情は感じられない。
「単刀直入に言う。今度のルシャードの成人の儀で、あやつの王位継承権を剥奪し、正式な王位継承者が、ウィルフォード、お前であることを国民の前で宣言する」
「えっ……」
あまりにも突然のことで、目を白黒させている僕に構わず、王は続ける。
「その容姿のせいで、お前が王位継承者としてふさわしくないという声があるのは知っているな」
「はい、存じております」
「では、ルシャードを王位継承者として推す勢力があることはどうだ」
「はい、それも存じております」
「だが、正式な王位継承者は、正妃の息子であるお前だ。ルシャード派の動きを封じるためにも、改めて、お前が王位継承者であることを宣言する必要がある」
「陛下のお考えも理解できますが、しかし、継承権剥奪とは、やりすぎのように思われる方もいるのではないでしょうか。それに、わざわざルシャード殿下の成人の儀で宣言するのは、かえって反発を招く可能性もございます」
内心、僕は焦っていた。僕がこの世界に転生した目的は、前世の父を見つけて、罪を償うことだ。僕が王になってしまったら、そんなことをしている時間はきっとない。
王位継承なんて、まだまだ先のことだと思って、何も手を回してはいなかったけれど、この様子だと、かなり早急に、兄を王位継承者として認めてもらうよう、動かなけらばない。
「成人の儀を執り行った後は、今よりももっと、ルシャード派の動きが活発になるだろう。しかし、お前の成人の儀は、1年先だ。その間に、ルシャード派が、お前の手が及ばないほどに、力をつける可能性は低くない。起こりうる事態を総合的に検討した結果、ルシャードの王位継承権を剥奪するのが最も安全だという結論に至ったのだ」
「ですが……」
何も、剥奪することはないだろうと思う。
王は、そんなにも、ルシャード殿下が王位を継ぐことが嫌なのだろうか。
ルシャード殿下は、身内の贔屓目を除いても、優秀な男だった。仕事が凄まじく早く、剣の腕も僕よりずっと上だ。さらに、その性格は、勤勉・真面目・謙虚で、おまけに美男子ときてる。非の打ちどころがないとはまさにこのことだ。きっといい王になると思う。
比べて僕は、前世のこともあり、確かに人より物覚えはいいけれど、それだけだ。剣の扱いも、いつまでたっても上達しないし、この世界では不吉とされる容姿をしている。
だったら、やはり、ルシャード殿下が王位を継承したほうが、全てにおいて、ハッピーなのではと思ってしまう。
だけど、陛下の意思は固そうだし、今は、どうやったらその考えを変えられるのか、思いつかなかった。
「話は以上だ。なお、このことは、他言無用だ。当日まで、誰にも漏らすことのないよう、十分に留意せよ」
「かしこまりました」
会話終了まで3分ほど。陛下は、必要最低限の会話を済ませると、謁見の間から退室していった。
それにしても困った……。うっかりしてると、本当に僕が次の王様になっちゃうんじゃ……?
***
陛下との会話でかなりのダメージを負った僕は、重い足取りで自分の執務室へと向かっていた。
今日はまだ仕事が残っている。なんとか、ルシャード殿下に王位を譲るため、自分が王位継承を辞退することを伝える最善の方法を検討したいが、ゆっくり考えている時間もない。あ~~困った~~~~!
「ウィルフォード殿下、いかがされましたかな?」
頭を抱えて立ちつくしたところを、誰かに呼び止められ、振り向いた。
確か、ルシャード殿下の側近の――
「申し遅れました。私、ルシャード殿下の元で、外交補佐をしております、ヴォルフと申します。以後、お見知りおきを」
「これはご丁寧に……あ、頭をあげてください」
「恐れながら、お顔の色が優れないようですが、医務室へお連れしましょうか?」
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
親切な人だな。
「左様でございますか」
ーーーーん? まだ何か用があるのかな?
話は終わったのだと思ったけれど、ニッコニコの顔で僕をずっと見ている。
えーどうしよう……。こういう時は、僕もにっこりすればいいのかな。
ほぼ初対面のヴォルフさんと2人、ニコニコしているだけの謎の時間を過ごしていると、廊下の向こうから、ルドルフが物凄い形相でやってくるのが見えた。
「ウィルフォード様! おふざけになるにも限度というものがあります!」
わー……めっちゃ怒ってる?
「あ、私はこれで、失礼させていただきます」
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