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第4話 奥手な護衛をフォローしてあげたっぽい
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「ウィルフォード殿下、次は、剣術の稽古です」
「わかった。よろしく、ルドルフ」
そう言って、満面の笑顔を向ける。
16歳になった僕は、自分の命を守るべく、国最強ともいわれる護衛、ルドルフの好感度を上げるため、毎日10回は微笑みかけることが、日課になっていた。
「恐れ入ります……」
当初は1ミリも表情を変えなかったルドルフだが、今では少しだけ、微笑みを返してくれるようになっていた。
僕は、自分の名前を知るよりも先に、ルドルフの名前を覚えた。
転生したこの国、リヒトリーベでは、子供が生まれても、10歳になるまでは、名前をつけない。
前世のように、医療が発達しておらず、食糧事情もいいとは言えないため、生まれたばかりの赤ん坊は、10歳まで生きられないことも少なくない。
そのため、子供が亡くなったときの悲しみを少しでも軽減できるよう、無事10歳を迎えるまでは、名前をつけないのだ。
10歳の誕生日に、初めて、こちらの世界の父であるディアーク王に会い、そのとき『ウィルフォード』という名を与えられた。『ウィル』の部分の発音が、前世の名前『優』の発音に少し似ているので、この名前は気に入っている。
誕生日には、僕の兄にあたる、第1王子のルシャードとも会うことができた。
僕よりも1つ年上で、プラチナブロンドの髪に、ターコイズブルーの透き通った瞳をしており、とてもキラキラしている『ザ・王子様』というのが、第1印象だった。
父も兄も、全く僕とは似ていなかった。
なんといっても、僕の容姿は、前世とほぼ同じ、日本人の顔だ。それに比べ、父や兄は、欧米人のような容姿をしている。
ならば母親似なのかと思ったが、乳母のゲルダさんいわく、僕の容姿は、『父にも母にも似ていない不気味な姿』なのだそうだ。
母である王妃は、僕を出産するときに亡くなってしまったと聞いていたので、転生して初めて、身内である父と兄に会えただけでも、とても嬉しかった。
ちなみに、兄とは、母親が違う。
兄の母親は側室で、兄を出産後すぐに亡くなっている。
そして、その1年後に僕が生まれたわけだが、出産のショックで、僕の母も亡くなっている。
そのため、王と、第1王子、そして第2王子の僕が、今の王家のメンバーである。
たった3人の家族だというのに、あまり仲がよくないというか、お互いに接点がないというか、とにかく家族らしくない。
僕は王位継承には全く興味がなく、成人したら、転生した目的でもある、前世の父を探す旅に出ようと考えているけれど、周りはそういうわけにもいかないらしい。
この国では、継承順位は、生まれた順ではなく、正妃が産んだ子の方が高い。つまり、側室の子である兄よりも、僕の方が継承順位が高いのだ。
だから、父は当然、僕を後継者にと考えているだろう。
しかし、兄はとても優秀な男だった。そんな兄に、王位継承させたいという人たちがたくさんいて、第1王子派として、大きな勢力となっていた。
一応、第2王子派の勢力もあるけれど、僕の見た目のせいもあり、その数は少ない。
この世界では、黒髪、黒目というのは、非常に珍しい。というか、そんな人、僕の他に全くいない。
さらに、この世界に伝わる古い伝承に登場する悪魔が、黒髪、黒目で描かれているので、黒は不吉の象徴とされていた。
そんなところに、僕が生まれたのだ。しかも、王妃は、僕を産んだショックで亡くなっている。
そのため、僕のことを、悪魔の子として恐れている人が、少なくなかった。
そんなわけで、正統な後継者の僕よりも、兄を次の王として望んでいる人が多いのが現状だ。そして、僕さえ継承権を放棄すれば、その通りになる。だから、僕はいずれ、そうするつもりでいた。
ただ、僕は、1歳になる前には大人と普通に会話できるようになり、10歳になった頃には、ほぼ全ての科目を習得していた。
見た目は不気味だが、神に与えられた才能をもっていると考え、支持してくれる人もいたため、継承権の放棄を簡単に口に出せるような状況ではなかった。
「隙ありっ!」
「わわっ――」
ルドルフが突き出した剣先が、僕の目前で止まり、思わず尻餅をついてしまった。
「痛たたた……」
「剣術の稽古中は、余計な雑念はすべて払うよう、何度も申しているはずですが?」
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしてしまって」
「立場上、考えるべきことがたくさんあるのは存じていますが、御身のためにも、どうか、稽古中はこちらに集中されますよう――」
「うん、わかった。次は気を付けるよ。いつも迷惑をかけてしまって、ごめんなさい」
「いえ、私のことなどはどうでもいいのです」
そう言って、ルドルフは、手を差し伸べてくれる。
「ありがとう」
満面の笑顔でお礼を言い、ルドルフに立ち上がらせてもらう。
これまで、一通りのことは、かなり順調に習得してきたけれど、苦手なことが一つだけあった。剣術である。
16歳になった今、各領地を視察したり、王の補佐のようなことも任さたりするようになっていたが、そんな忙しい毎日の中でも、一向に上達しない剣術の稽古だけは、続けられていた。そして、先生は、国最強の男、ルドルフである。
「僕、剣術の才能がないみたい」
「そんなことはございません。鍛錬を積めば、殿下も必ず、習得できるはずです」
「本当? ルドルフも倒せるようになるかな」
「私を、ですか?」
「なんてね。ちょっと言ってみただけ。いくら頑張っても、ルドルフに勝てないのは分かっているんだ」
「何も、人に勝つことだけが剣術の全てではございません。剣術を通して、自分を律し、いつ何時も、冷静に対処する精神を育むことができれば――」
「ストーップ! その話はもう何度も聞いたよ~!」
「こ、これは申し訳ございません……」
ルドルフは、普段とても無口な男だ。しかし、剣術のことになると、人が変わったように口数が多くなる。そして、とても説教臭くなる。
ルドルフのことは好きだけれど、説教モードに入ったルドルフは、ちょっとだけうざかった。
「僕、ルドルフに守られてばかりだから、少しでもルドルフを楽にできるよう、剣術の稽古頑張るね」
話を遮ってしまったので、一応フォローも入れておく。
「とんでもないことでございます。殿下を守ることが、私の役目ですから」
「うん、いつもありがとう」
本日3回目の100%スマイルをお見舞いしておくことも忘れない。
「こちらにいらしたのですね、殿下」
声のした方を振り向くと、メイドさんの一人が、こちらにやってきた。
僕に用事があるようだけど、ルドルフのことをチラチラ見ている。このメイドさん、絶対にルドルフに気があるよね。ルドルフも隅に置けない。
「どうしたの?」
「ディアーク陛下がお呼びでございます」
「え? 陛下が? 何だろう」
「申し訳ございません。私はウィルフォード殿下をお呼びするようにとだけ――」
「わかった。すぐ行くよ」
そうだ、せっかくだから、メイドさんとルドルフを2人きりにしてあげよう。
ルドルフも妙齢の健康な男性だ。ずっと僕に付きっきりで、浮いた噂の一つもない。ここは僕が、ひと肌脱ぐべきだろう。
うん、良いことを思いついた。
「そういえば、次の視察ルートについて、一度、親衛隊長と相談したいって、ルドルフと話してたんだけど、親衛隊長って今時間あるかな?」
立ち去ろうとしたメイドさんを引き留めて、尋ねる。
「は、はい。親衛隊長殿でしたら、さきほど、執務室にいらっいましたが」
「そう、それはよかった! ねぇルドルフ、僕は陛下に呼ばれているから、ルドルフが親衛隊長と相談して、ルートを決めてきてくれる?」
「し、しかし――」
「忙しいところ悪いんだけど、ルドルフを親衛隊長のところへ案内してくれる?」
「はい! 喜んで承ります」
珍しく慌てているルドルフを無視して、メイドさんにルドルフの腕を掴ませる。
「それじゃあ僕は、陛下のところへ行ってくるね!」
「えっ……! で、殿下、お待ちください!」
「ささ……ルドルフ殿はこちらへ」
あのメイドさんが押しの強い人で良かった。ルドルフの腕をぐいぐい引っ張っている。
はは、ルドルフの顔、真っ赤だ。女性に免疫なさそうだもんな。
困り果てた顔をしているルドルフに、今日4回目の笑顔を返し、僕は素早くその場を立ち去った。
「わかった。よろしく、ルドルフ」
そう言って、満面の笑顔を向ける。
16歳になった僕は、自分の命を守るべく、国最強ともいわれる護衛、ルドルフの好感度を上げるため、毎日10回は微笑みかけることが、日課になっていた。
「恐れ入ります……」
当初は1ミリも表情を変えなかったルドルフだが、今では少しだけ、微笑みを返してくれるようになっていた。
僕は、自分の名前を知るよりも先に、ルドルフの名前を覚えた。
転生したこの国、リヒトリーベでは、子供が生まれても、10歳になるまでは、名前をつけない。
前世のように、医療が発達しておらず、食糧事情もいいとは言えないため、生まれたばかりの赤ん坊は、10歳まで生きられないことも少なくない。
そのため、子供が亡くなったときの悲しみを少しでも軽減できるよう、無事10歳を迎えるまでは、名前をつけないのだ。
10歳の誕生日に、初めて、こちらの世界の父であるディアーク王に会い、そのとき『ウィルフォード』という名を与えられた。『ウィル』の部分の発音が、前世の名前『優』の発音に少し似ているので、この名前は気に入っている。
誕生日には、僕の兄にあたる、第1王子のルシャードとも会うことができた。
僕よりも1つ年上で、プラチナブロンドの髪に、ターコイズブルーの透き通った瞳をしており、とてもキラキラしている『ザ・王子様』というのが、第1印象だった。
父も兄も、全く僕とは似ていなかった。
なんといっても、僕の容姿は、前世とほぼ同じ、日本人の顔だ。それに比べ、父や兄は、欧米人のような容姿をしている。
ならば母親似なのかと思ったが、乳母のゲルダさんいわく、僕の容姿は、『父にも母にも似ていない不気味な姿』なのだそうだ。
母である王妃は、僕を出産するときに亡くなってしまったと聞いていたので、転生して初めて、身内である父と兄に会えただけでも、とても嬉しかった。
ちなみに、兄とは、母親が違う。
兄の母親は側室で、兄を出産後すぐに亡くなっている。
そして、その1年後に僕が生まれたわけだが、出産のショックで、僕の母も亡くなっている。
そのため、王と、第1王子、そして第2王子の僕が、今の王家のメンバーである。
たった3人の家族だというのに、あまり仲がよくないというか、お互いに接点がないというか、とにかく家族らしくない。
僕は王位継承には全く興味がなく、成人したら、転生した目的でもある、前世の父を探す旅に出ようと考えているけれど、周りはそういうわけにもいかないらしい。
この国では、継承順位は、生まれた順ではなく、正妃が産んだ子の方が高い。つまり、側室の子である兄よりも、僕の方が継承順位が高いのだ。
だから、父は当然、僕を後継者にと考えているだろう。
しかし、兄はとても優秀な男だった。そんな兄に、王位継承させたいという人たちがたくさんいて、第1王子派として、大きな勢力となっていた。
一応、第2王子派の勢力もあるけれど、僕の見た目のせいもあり、その数は少ない。
この世界では、黒髪、黒目というのは、非常に珍しい。というか、そんな人、僕の他に全くいない。
さらに、この世界に伝わる古い伝承に登場する悪魔が、黒髪、黒目で描かれているので、黒は不吉の象徴とされていた。
そんなところに、僕が生まれたのだ。しかも、王妃は、僕を産んだショックで亡くなっている。
そのため、僕のことを、悪魔の子として恐れている人が、少なくなかった。
そんなわけで、正統な後継者の僕よりも、兄を次の王として望んでいる人が多いのが現状だ。そして、僕さえ継承権を放棄すれば、その通りになる。だから、僕はいずれ、そうするつもりでいた。
ただ、僕は、1歳になる前には大人と普通に会話できるようになり、10歳になった頃には、ほぼ全ての科目を習得していた。
見た目は不気味だが、神に与えられた才能をもっていると考え、支持してくれる人もいたため、継承権の放棄を簡単に口に出せるような状況ではなかった。
「隙ありっ!」
「わわっ――」
ルドルフが突き出した剣先が、僕の目前で止まり、思わず尻餅をついてしまった。
「痛たたた……」
「剣術の稽古中は、余計な雑念はすべて払うよう、何度も申しているはずですが?」
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしてしまって」
「立場上、考えるべきことがたくさんあるのは存じていますが、御身のためにも、どうか、稽古中はこちらに集中されますよう――」
「うん、わかった。次は気を付けるよ。いつも迷惑をかけてしまって、ごめんなさい」
「いえ、私のことなどはどうでもいいのです」
そう言って、ルドルフは、手を差し伸べてくれる。
「ありがとう」
満面の笑顔でお礼を言い、ルドルフに立ち上がらせてもらう。
これまで、一通りのことは、かなり順調に習得してきたけれど、苦手なことが一つだけあった。剣術である。
16歳になった今、各領地を視察したり、王の補佐のようなことも任さたりするようになっていたが、そんな忙しい毎日の中でも、一向に上達しない剣術の稽古だけは、続けられていた。そして、先生は、国最強の男、ルドルフである。
「僕、剣術の才能がないみたい」
「そんなことはございません。鍛錬を積めば、殿下も必ず、習得できるはずです」
「本当? ルドルフも倒せるようになるかな」
「私を、ですか?」
「なんてね。ちょっと言ってみただけ。いくら頑張っても、ルドルフに勝てないのは分かっているんだ」
「何も、人に勝つことだけが剣術の全てではございません。剣術を通して、自分を律し、いつ何時も、冷静に対処する精神を育むことができれば――」
「ストーップ! その話はもう何度も聞いたよ~!」
「こ、これは申し訳ございません……」
ルドルフは、普段とても無口な男だ。しかし、剣術のことになると、人が変わったように口数が多くなる。そして、とても説教臭くなる。
ルドルフのことは好きだけれど、説教モードに入ったルドルフは、ちょっとだけうざかった。
「僕、ルドルフに守られてばかりだから、少しでもルドルフを楽にできるよう、剣術の稽古頑張るね」
話を遮ってしまったので、一応フォローも入れておく。
「とんでもないことでございます。殿下を守ることが、私の役目ですから」
「うん、いつもありがとう」
本日3回目の100%スマイルをお見舞いしておくことも忘れない。
「こちらにいらしたのですね、殿下」
声のした方を振り向くと、メイドさんの一人が、こちらにやってきた。
僕に用事があるようだけど、ルドルフのことをチラチラ見ている。このメイドさん、絶対にルドルフに気があるよね。ルドルフも隅に置けない。
「どうしたの?」
「ディアーク陛下がお呼びでございます」
「え? 陛下が? 何だろう」
「申し訳ございません。私はウィルフォード殿下をお呼びするようにとだけ――」
「わかった。すぐ行くよ」
そうだ、せっかくだから、メイドさんとルドルフを2人きりにしてあげよう。
ルドルフも妙齢の健康な男性だ。ずっと僕に付きっきりで、浮いた噂の一つもない。ここは僕が、ひと肌脱ぐべきだろう。
うん、良いことを思いついた。
「そういえば、次の視察ルートについて、一度、親衛隊長と相談したいって、ルドルフと話してたんだけど、親衛隊長って今時間あるかな?」
立ち去ろうとしたメイドさんを引き留めて、尋ねる。
「は、はい。親衛隊長殿でしたら、さきほど、執務室にいらっいましたが」
「そう、それはよかった! ねぇルドルフ、僕は陛下に呼ばれているから、ルドルフが親衛隊長と相談して、ルートを決めてきてくれる?」
「し、しかし――」
「忙しいところ悪いんだけど、ルドルフを親衛隊長のところへ案内してくれる?」
「はい! 喜んで承ります」
珍しく慌てているルドルフを無視して、メイドさんにルドルフの腕を掴ませる。
「それじゃあ僕は、陛下のところへ行ってくるね!」
「えっ……! で、殿下、お待ちください!」
「ささ……ルドルフ殿はこちらへ」
あのメイドさんが押しの強い人で良かった。ルドルフの腕をぐいぐい引っ張っている。
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