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第22話 迷子っぽい
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フライハルトの市街地を出て6日目の夜。僕たちは今日も、森の中で野宿していた。
以前、ハインツさんにあとどのくらいかかるか聞いたとき、確か4~5日で着くといっていたはずだけど、今日もまだたどり着いていない。
「エタ、今日もお疲れ様。疲れてない?」
「うん! 大丈夫!」
エタに初めて子守唄を歌って以来、今まで、夜は僕が歌を歌ってあげることが日課になっていた。そうしてあげると、エタは安心して眠れるようだ。
でもその後、必ず僕も具合が悪くなるので、僕が歌う、エタが寝る、ルドに抱きしめてもらいながら僕も眠るというのがルーティンになっている。
僕とエタが寝ている間は、ルドとハインツさんが交代で見張りをしてくれていた。
流石に、こんな生活を長く続けることはできない。まだ小さいエタもいるし、ルドとハインツさんばかりに負担をかけてしまっているからだ。
「ハインツさん、エルフの里まではまだかかりそうですか?」
軽い夕食を取りながら、ハインツさんに尋ねる。ちなみに、今日の夕食は茸と薬草のスープだ。
「――実は」
僕の質問を受け、ハインツさんの表情が、今まで見たこともないくらい神妙になる。まさか、何か問題が……?
「ーー実は………………道に迷いました」
「――は?
「申し訳ありません! エルフの里に帰るのは久しぶりなのです!」
そうか、道に迷っていたのか。何か重大な問題ではなくてホッとしたが、それは困った。エルフの里を見つけられるのは、エルフ族のハインツさんだけだろう。そのハインツさんが道に迷ったとなると、まだしばらくは森を彷徨うことになる。このままでは、どんどん体力を消耗してしまう。
「面目ない……」
「ハインツさんが悪いわけじゃないですよ。ハインツさんは、好意でついてきてくれたんだし」
「ウィル~~~!!!」
「ちょっ――!」
ハインツさんが、両手を広げて僕に近寄ろうとした瞬間、ルドとエタに阻止されている。
最近会ったばかりとは思えないほど、ルドとエタの息はぴったりだ。特に、対ハインツさんとなると、見事な連携プレーを発揮し、一切彼を僕に近付けない。
主に、ルドがハインツさんの頭を抑え、エタが僕の膝に座って両手を付き出し、ハインツさんの身体を止める。
ハインツさんに触られることは、別に嫌ではないんだけど、ちょっとしつこいところがあるから、二人が阻止してくれるのであれば、ありがたくそのままにしておこうと思う。
「さっき麓を確認したとき、小さな村が見えた。明日は一度そこで宿をとって、今後の行程を確認しなおさないか?」
いつの間にそんな確認をしていたのだろう。相変わらず、ルドは優秀だ。剣の腕も一流、護衛の素養も素晴らしい、おまけに細かいことにも良く気づく。僕がルドと並んでも恥ずかしくないくらいの実力をつけられるのは一体いつになるんだろう。
「ええ、できればそうさせていただけますか? 近くまで来ているのは確かなんです」
ルドの提案で、明日は一度、近くの村に立ち寄って、今後の方針を確認することになった。
***
翌朝、僕たちは、ルドが見つけた、山の麓の小さな村に来ていた。ルドとハインツさんがいうには、フライハルト共和国と隣国ヒメルケンツ王国の国境線付近にある小さな村らしい。
この規模の村なら、村人同士も全員顔見知りだろうし、暗殺者が入り込んでいればすぐわかるだろうということで、立ち寄っても問題ないという結論になった。
そんな予想は的中し、この村ではよそ者はとにかく目立つようだ。それは、僕たちも例外ではなく、村に入った瞬間、すれ違う人全員にガン見されてしまい、居心地が悪いったらない。早く宿屋を見つけて落ち着きたい。
「あ、あそこに宿屋のような建物がありますね」
「あ! 本当だ!」
ナイス、ハインツさん! 人目を避けるように、僕たちは、宿屋の入り口をくぐった。
「いらっしゃい! おや、見かけない顔だね。冒険者かい?」
さすが、宿屋の店主。よそ者の訪問にも慣れているのだろう。道ですれ違った村人たちほどあからさまに僕たちを物珍しく見つめることはしない。
「はい、そうなんです。今日1泊したいのですが、部屋は空いていますか?」
ハインツさんが、店主と話している。その間に、僕は、店内の様子を伺った。
あまり広くはないけれど、手入れのいき届いた小綺麗な宿屋だった。フライハルトの宿屋と同じように、一階は、受付のカウンターと、食堂のようなスペースがあるようだ。
数人の客が食事をしていたが、暗殺者なら、こんなところで堂々と食事しているはずはないので、問題ないだろう。
あからさまに見てしまっていたからか、視線に気づいた男性客と目が合った。怪しい者ではないことを示そうと、笑って会釈をした。
僕とエタは、念のためということで、ハインツさんの闇魔法で、女性の姿になっている。ハインツさんの趣味なのか、女性の姿になった僕はすごく美人だし、エタはすごく可愛い容姿をしていた。
その容姿のおかげかはわからないが、目が合った男性客は、顔を赤らめて、照れている様子だ。
「二部屋空いているそうです」
店主と話をしていたハインツさんが、こちらにやって来た。
「二部屋ですか。部屋割りはどうするのがいいでしょう?」
僕とルドとハインツさんとエタ。普通に考えれば、二人ずつに分かれるのがいいだろう。
「ボクはウィルと一緒の部屋がいい!」
エタが一番に声を上げる。僕も、懐いてくれているエタが可愛くて仕方ない。でも、僕とエタが同室となると、必然的にルドとハインツさんが――
「私は断固拒否します!」
「珍しく気が合ったな。俺もこいつと同室など、願い下げだ」
――だよね。そうなるよね。
「大部屋も空いてるよ!」
僕たちのやり取りを見ていた店主が、声をかけてくれた。
「大部屋なら四人で一部屋に泊まれるね! それがいいんじゃないかな?」
無用な言い争いはなるべく避けたい。それに、今後の方針を決めるには、四人揃っていた方が都合がいいだろう。
他の三人も、僕の提案に納得してくれたので、僕たちは、さっそく部屋に移動し、今後の方針を話し合おうとしたが、僕とエタのお腹が盛大に鳴ったので、いったん一階の食堂で、朝食をとることにした。
以前、ハインツさんにあとどのくらいかかるか聞いたとき、確か4~5日で着くといっていたはずだけど、今日もまだたどり着いていない。
「エタ、今日もお疲れ様。疲れてない?」
「うん! 大丈夫!」
エタに初めて子守唄を歌って以来、今まで、夜は僕が歌を歌ってあげることが日課になっていた。そうしてあげると、エタは安心して眠れるようだ。
でもその後、必ず僕も具合が悪くなるので、僕が歌う、エタが寝る、ルドに抱きしめてもらいながら僕も眠るというのがルーティンになっている。
僕とエタが寝ている間は、ルドとハインツさんが交代で見張りをしてくれていた。
流石に、こんな生活を長く続けることはできない。まだ小さいエタもいるし、ルドとハインツさんばかりに負担をかけてしまっているからだ。
「ハインツさん、エルフの里まではまだかかりそうですか?」
軽い夕食を取りながら、ハインツさんに尋ねる。ちなみに、今日の夕食は茸と薬草のスープだ。
「――実は」
僕の質問を受け、ハインツさんの表情が、今まで見たこともないくらい神妙になる。まさか、何か問題が……?
「ーー実は………………道に迷いました」
「――は?
「申し訳ありません! エルフの里に帰るのは久しぶりなのです!」
そうか、道に迷っていたのか。何か重大な問題ではなくてホッとしたが、それは困った。エルフの里を見つけられるのは、エルフ族のハインツさんだけだろう。そのハインツさんが道に迷ったとなると、まだしばらくは森を彷徨うことになる。このままでは、どんどん体力を消耗してしまう。
「面目ない……」
「ハインツさんが悪いわけじゃないですよ。ハインツさんは、好意でついてきてくれたんだし」
「ウィル~~~!!!」
「ちょっ――!」
ハインツさんが、両手を広げて僕に近寄ろうとした瞬間、ルドとエタに阻止されている。
最近会ったばかりとは思えないほど、ルドとエタの息はぴったりだ。特に、対ハインツさんとなると、見事な連携プレーを発揮し、一切彼を僕に近付けない。
主に、ルドがハインツさんの頭を抑え、エタが僕の膝に座って両手を付き出し、ハインツさんの身体を止める。
ハインツさんに触られることは、別に嫌ではないんだけど、ちょっとしつこいところがあるから、二人が阻止してくれるのであれば、ありがたくそのままにしておこうと思う。
「さっき麓を確認したとき、小さな村が見えた。明日は一度そこで宿をとって、今後の行程を確認しなおさないか?」
いつの間にそんな確認をしていたのだろう。相変わらず、ルドは優秀だ。剣の腕も一流、護衛の素養も素晴らしい、おまけに細かいことにも良く気づく。僕がルドと並んでも恥ずかしくないくらいの実力をつけられるのは一体いつになるんだろう。
「ええ、できればそうさせていただけますか? 近くまで来ているのは確かなんです」
ルドの提案で、明日は一度、近くの村に立ち寄って、今後の方針を確認することになった。
***
翌朝、僕たちは、ルドが見つけた、山の麓の小さな村に来ていた。ルドとハインツさんがいうには、フライハルト共和国と隣国ヒメルケンツ王国の国境線付近にある小さな村らしい。
この規模の村なら、村人同士も全員顔見知りだろうし、暗殺者が入り込んでいればすぐわかるだろうということで、立ち寄っても問題ないという結論になった。
そんな予想は的中し、この村ではよそ者はとにかく目立つようだ。それは、僕たちも例外ではなく、村に入った瞬間、すれ違う人全員にガン見されてしまい、居心地が悪いったらない。早く宿屋を見つけて落ち着きたい。
「あ、あそこに宿屋のような建物がありますね」
「あ! 本当だ!」
ナイス、ハインツさん! 人目を避けるように、僕たちは、宿屋の入り口をくぐった。
「いらっしゃい! おや、見かけない顔だね。冒険者かい?」
さすが、宿屋の店主。よそ者の訪問にも慣れているのだろう。道ですれ違った村人たちほどあからさまに僕たちを物珍しく見つめることはしない。
「はい、そうなんです。今日1泊したいのですが、部屋は空いていますか?」
ハインツさんが、店主と話している。その間に、僕は、店内の様子を伺った。
あまり広くはないけれど、手入れのいき届いた小綺麗な宿屋だった。フライハルトの宿屋と同じように、一階は、受付のカウンターと、食堂のようなスペースがあるようだ。
数人の客が食事をしていたが、暗殺者なら、こんなところで堂々と食事しているはずはないので、問題ないだろう。
あからさまに見てしまっていたからか、視線に気づいた男性客と目が合った。怪しい者ではないことを示そうと、笑って会釈をした。
僕とエタは、念のためということで、ハインツさんの闇魔法で、女性の姿になっている。ハインツさんの趣味なのか、女性の姿になった僕はすごく美人だし、エタはすごく可愛い容姿をしていた。
その容姿のおかげかはわからないが、目が合った男性客は、顔を赤らめて、照れている様子だ。
「二部屋空いているそうです」
店主と話をしていたハインツさんが、こちらにやって来た。
「二部屋ですか。部屋割りはどうするのがいいでしょう?」
僕とルドとハインツさんとエタ。普通に考えれば、二人ずつに分かれるのがいいだろう。
「ボクはウィルと一緒の部屋がいい!」
エタが一番に声を上げる。僕も、懐いてくれているエタが可愛くて仕方ない。でも、僕とエタが同室となると、必然的にルドとハインツさんが――
「私は断固拒否します!」
「珍しく気が合ったな。俺もこいつと同室など、願い下げだ」
――だよね。そうなるよね。
「大部屋も空いてるよ!」
僕たちのやり取りを見ていた店主が、声をかけてくれた。
「大部屋なら四人で一部屋に泊まれるね! それがいいんじゃないかな?」
無用な言い争いはなるべく避けたい。それに、今後の方針を決めるには、四人揃っていた方が都合がいいだろう。
他の三人も、僕の提案に納得してくれたので、僕たちは、さっそく部屋に移動し、今後の方針を話し合おうとしたが、僕とエタのお腹が盛大に鳴ったので、いったん一階の食堂で、朝食をとることにした。
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