傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第1話

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 平和などと言うものは束の間の小休止。この世界は争いに満ち溢れている。憎悪に塗れ、世界は混乱し続ける。
 陽の国我らにはより強く、より大きな力が必要だ。彼ら連合は我々を切り捨てた。では、守るための力が必要だ。
 それはどの国も同じだった。自国は、強くなければならぬ。
 生温い平和に浸った我が国を、百年以上も前の、強く、負けない国にせねばならない。
 戦争を知らぬ民たちは大層、恐れただろう。
 そうだ、これは世界を、彼らの技術を超える兵器だ。我らの技術の結集だ。
 動かすには乗組員《パイロット》が必要となる。
 若く、強い力。
 そのための訓練場を作る。
「おい! 四島《しじま》ぁ!」
 ランニングマシーンの上で必死に足を動かす、金髪で目つきの鋭い男が隣で悠々と走る男に叫ぶ。
 彼の名は阿賀野《あがの》武幸たけゆき
「テメェには絶対負けねぇ!」
「……はぁ。お前はもっと落ち着いたらどうだ」
 四島雅臣まさおみ
 乗組員《パイロット》候補、第一位の秀才。常に、落ち着き払ったような態度で、教官からの評価も高い。眉毛にかかる程度に伸びた銀糸のような前髪と冷めた瞳がクールさを漂わせる。ただ、それが阿賀野には気に食わなかったのだろう。
 その四島の言葉が癇に障ったのか、叫びながら、速度を上げて一生懸命に走る。
「またやってる、阿賀野の奴……」
「いつものことじゃん」
 後ろで呆れたように、二人の少女が話している。四島は特に気にする様子もなく、マイペースに走り続ける。それに対して、阿賀野は全力疾走といった様子だ。
「どぉぉおおおおりゃああああ!!!!」
 騒々しさに、トレーニングルームにいる全員の視線が集まる。
 四島はそんな騒音のような声も聞こえないと言わんばかりに走り続ける。
「負けねぇ! 絶対ェ、負けねぇ!」
「うっさいわボケ……」
 そんな一言と共に、阿賀野の後頭部に水筒が当たった。そんな小さな衝撃に、阿賀野の動かす足が縺れて、ランニングマシーンから弾き出された。
 思った以上の距離を飛ばされたのを見て、水筒を当てた本人も、後ろで見ていた少女二人も驚愕の表情を浮かべていた。
「どんな速度で設定してんだよ……」
 彼は飯島いいじまごう。短く切りそろえられた黒髪と、大きな身長、がっしりとついた筋肉が特徴の男だ。成績は四島の次に高く、彼もまた阿賀野に目をつけられている。
「何すんだ、この雑魚!」
 吹っ飛んで行った阿賀野はすぐに起き上がり、飯島にズカズカと詰め寄る。
「俺に勝ってから言えよ」
 阿賀野の言葉に飯島は言い返す。
 そもそも、阿賀野は十人いるパイロット候補の中でも、適正は最下位ビリ。それは阿賀野という男はまず、自尊心が高すぎ、命令をまともに聞かないという欠点があったためだ。
 こんな質問があった。
『敵に囲まれた場合、お前たちならどうする?』
 他の者たちは、牽制を交えながら後退を選び、自陣に戻る。だが、阿賀野の答えは違った。
『そんなん、俺が突っ込んで、敵全員ぶっ殺しゃいい話でしょ』
 と、傲岸不遜にも言ってのけたのだ。そして、それに命令を下された時も同じ判断をすると考えた上層部は、阿賀野の適性を相当に低く見積もった。
「は、テメェが俺に何かひとつでも勝てるもんあんのかよ」
 阿賀野が挑発するように、飯島に顔を近づけながらそう質問すると、間に四島が入って止める。
「止めろ、阿賀野」
「あ?」
 先程まで話に入ってくる気配も見えなかった四島に若干の睨みをきかせながら、阿賀野は顔を向けた。
「実際のところ成績が一番低いのはお前だ」
「成績だぁ? ンなもんが戦場で何の役に立つってんだ。俺はこんな雑魚どもとは違うんだよ。コイツらが戦場に行ったってなあ、まともな戦果ひとつ挙げられずにーー」
 構わずに阿賀野は続けようとするが、四島の拳が見えて、それを右手で掴み取った。
「んだよ、四島」
 ギュッと阿賀野は四島の右手首を力強く握りしめる。
 それを振り解こうと、四島は外に腕を払った。阿賀野も容易く右手を手首から離した。
「お前もキレることあるんだな」
 阿賀野はそれだけ言って、トレーニングルームを後にする。トレーニングルームに残った他の候補生たちも、居心地の悪さを感じていた。
「……何が戦場に行っても、だ」
 そんな四島の呟きは誰にも届くことはなかった。
 トレーニングルームを出て、阿賀野は一人の教官に出会した。
坂平さかひらさん。何で、俺の成績は最下位ビリなんすか? 俺は飯島とか、松野まつの竹崎たけざきになんか負けてないと思うんすけど」
 先ほどの事も、今までのことも含めて、阿賀野は四島以外の事を完全に見下している。そして、四島に対しても自分の方が上だと認識している。
「お前の欠点は戦争では最悪レベルのものだ。そんな奴を戦場に出せるか」
 けれど、納得はいかない。阿賀野の自尊心の強さは折り紙付きだ。それさえなければ、彼らも文句なしの最高成績だと褒め称えた筈だ。
 命令を聞かない兵士は要らない。
 そんなのは当たり前の話だ。
「お前がもう少し謙虚になって、命令を聞くようになったのなら、まともな評価も得られるだろう」
 そう言って坂平は阿賀野の隣を通り過ぎて行った。だが、阿賀野がそう言われたからと言って簡単に認めるわけがない。
「馬鹿かよ。戦争ってのはどれだけ上の言う事を聞けるかじゃねぇだろ。どれだけ生きて、敵を殺せるかだろうが」
 教官すらも阿賀野にとっては見下す対象に過ぎなかった。
 自分も教官も、他の候補者も。誰もが戦争を知らない、阿呆どもだ。争いなど、街中の喧嘩で止まっている彼らでは、何もわからない。綺麗事だけでどうにかなる世界でもない。
 作戦通りに動くことなんて有り得ない。戦場ではイレギュラーが発生するのだから。
「四島。テメェを超えて、俺がパイロットになる。そんで……」
 誰に聞かせるでもなく、阿賀野は宣言した。
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