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第2話
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教官の誰もが阿賀野には手を焼いていた。
力の強さは候補者一。それなりに頭も切れて、その癖、主張が激しい。自分は正しく、それでいて最強なのだと彼は主張を続ける。
訓練用のVRルームに入れれば、指示通りには動かないくせに、最大の値を叩き出す。そんな天才のような怪物に、教官たちは感心しながらも、評価は与えなかった。
「また、阿賀野か」
本日のVRルームでの擬似的実践訓練では、阿賀野は敵を大量に破壊し、その上、生還した。
教官たちは溜息をついて、この結果を飲みこんだ。確かに阿賀野は強い。彼が自負するほどの実力がある。
馬鹿みたいな力も、持久力も、集中力も。トップの四島ですら勝てないほどに隔絶した能力を持つ、究極の人間と言ってもいい。
「どうしますか? もう阿賀野を戦場に出しても良いでしょう」
教官の佐藤が軽く言うが、誰もが悩ましげな表情を見せる。確かに戦場に出しても構わないほどの実力を持っている。
「だが、阿賀野は自分勝手が過ぎる。それにあいつは引き際を見誤る」
坂平は佐藤の発言に反対意見を述べた。
彼の内心は穏やかではない。どれだけ万能であっても、その心があんなプライドの塊とあっては使えない。
坂平は思う。
あの考え方は戦士のものではない。阿賀野の持つアレは、兵士としては下らなく無価値なものだ。国に従えば良いのだ。
「岩松管理長……」
坂平が静かに教官室の最も奥に座していた男に視線を向けた。
白髪をオールバックにした、ガタイのいい百八十センチメートルほどの身長の壮年後期の男性。顎には白い髭を生やしており、その姿には貫禄がある。
オホンと咳き込んで、彼はゆっくりと口を開いた。
「ダメだ」
岩松の言葉はいつもどおり。そんなことは坂平も佐藤も予想できていた。
「陽の国上層部が求めるパイロットは命令を果たす兵士だ。阿賀野ではそれは果たせまい」
「だが、岩松さんよぅ」
砕けた口調で岩松に一言申し立てたのは、佐藤だった。佐藤の失礼な態度に坂平は若干の苛立ちを覚えたのか片眉を上げて、佐藤を睨んだ。
「ーー失敬、岩松管理長殿。阿賀野は大した奴です。VRルームでの擬似戦闘も常にトップ。命令は聞きやしませんが、戦果は最高レベル。こいつは誰よりも使える兵士ですよ」
「……分からんか?」
岩松が佐藤の話を全て聞いてから、そうたずねた。佐藤は岩松が何を言いたいのかは直ぐにはわからなかった。
「国は犬になれと言っている。お手と命じたら、右手を出せ。お座りと言ったら、黙って待っていろ。そして、国が死ねと言ったら、無欲恬淡と生を諦め、死ね」
岩松は会議室のモニターに映される、VRルームのトレーニング光景を一瞥してから、直ぐに佐藤に視線を向け直し、続く言葉をゆっくりと開かれた口から吐き出した。
「ーー佐藤教官。君はそんなことも理解らずに教官を務めているのかね?」
岩松はニタリと気味の悪い、食えないような笑いを見せた。
「否、わかっておりますよ。ただ、どうしても目についたものですから」
「ハハハ。だが、我々が求める者に近しいのは矢張り四島雅臣だ。では、佐藤教官、それに坂平教官」
これからもよろしく頼みますよ。
岩松は柔らかに微笑んで、四島が擬似敵兵を倒したのを観ながら優しく告げた。
「四島。流石に優秀だな……」
佐藤教官が席を立ち岩松の後に続く形で出て行ったのを見送ってから、モニターに映された四島の訓練の様子を観て、坂平以外誰もいなくなった教官室で、小さく呟いた。
四島は命令通りに動く、忠実に。それが陽の国の求める兵士なのだ。
力の強さは候補者一。それなりに頭も切れて、その癖、主張が激しい。自分は正しく、それでいて最強なのだと彼は主張を続ける。
訓練用のVRルームに入れれば、指示通りには動かないくせに、最大の値を叩き出す。そんな天才のような怪物に、教官たちは感心しながらも、評価は与えなかった。
「また、阿賀野か」
本日のVRルームでの擬似的実践訓練では、阿賀野は敵を大量に破壊し、その上、生還した。
教官たちは溜息をついて、この結果を飲みこんだ。確かに阿賀野は強い。彼が自負するほどの実力がある。
馬鹿みたいな力も、持久力も、集中力も。トップの四島ですら勝てないほどに隔絶した能力を持つ、究極の人間と言ってもいい。
「どうしますか? もう阿賀野を戦場に出しても良いでしょう」
教官の佐藤が軽く言うが、誰もが悩ましげな表情を見せる。確かに戦場に出しても構わないほどの実力を持っている。
「だが、阿賀野は自分勝手が過ぎる。それにあいつは引き際を見誤る」
坂平は佐藤の発言に反対意見を述べた。
彼の内心は穏やかではない。どれだけ万能であっても、その心があんなプライドの塊とあっては使えない。
坂平は思う。
あの考え方は戦士のものではない。阿賀野の持つアレは、兵士としては下らなく無価値なものだ。国に従えば良いのだ。
「岩松管理長……」
坂平が静かに教官室の最も奥に座していた男に視線を向けた。
白髪をオールバックにした、ガタイのいい百八十センチメートルほどの身長の壮年後期の男性。顎には白い髭を生やしており、その姿には貫禄がある。
オホンと咳き込んで、彼はゆっくりと口を開いた。
「ダメだ」
岩松の言葉はいつもどおり。そんなことは坂平も佐藤も予想できていた。
「陽の国上層部が求めるパイロットは命令を果たす兵士だ。阿賀野ではそれは果たせまい」
「だが、岩松さんよぅ」
砕けた口調で岩松に一言申し立てたのは、佐藤だった。佐藤の失礼な態度に坂平は若干の苛立ちを覚えたのか片眉を上げて、佐藤を睨んだ。
「ーー失敬、岩松管理長殿。阿賀野は大した奴です。VRルームでの擬似戦闘も常にトップ。命令は聞きやしませんが、戦果は最高レベル。こいつは誰よりも使える兵士ですよ」
「……分からんか?」
岩松が佐藤の話を全て聞いてから、そうたずねた。佐藤は岩松が何を言いたいのかは直ぐにはわからなかった。
「国は犬になれと言っている。お手と命じたら、右手を出せ。お座りと言ったら、黙って待っていろ。そして、国が死ねと言ったら、無欲恬淡と生を諦め、死ね」
岩松は会議室のモニターに映される、VRルームのトレーニング光景を一瞥してから、直ぐに佐藤に視線を向け直し、続く言葉をゆっくりと開かれた口から吐き出した。
「ーー佐藤教官。君はそんなことも理解らずに教官を務めているのかね?」
岩松はニタリと気味の悪い、食えないような笑いを見せた。
「否、わかっておりますよ。ただ、どうしても目についたものですから」
「ハハハ。だが、我々が求める者に近しいのは矢張り四島雅臣だ。では、佐藤教官、それに坂平教官」
これからもよろしく頼みますよ。
岩松は柔らかに微笑んで、四島が擬似敵兵を倒したのを観ながら優しく告げた。
「四島。流石に優秀だな……」
佐藤教官が席を立ち岩松の後に続く形で出て行ったのを見送ってから、モニターに映された四島の訓練の様子を観て、坂平以外誰もいなくなった教官室で、小さく呟いた。
四島は命令通りに動く、忠実に。それが陽の国の求める兵士なのだ。
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