傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第4話

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 現在、陽の国は自国を含め、陽の国より西側に位置するマルテアとグランツ帝国と同盟を結んでいる。その更に西にあるアスタゴ合衆国は陽の国との同盟を切った。たった一つの国では自衛などできない。
 その時からこの二国は関係悪化の一途を辿っていた。同盟が切れた現在、宣戦布告に備えて、陽の国は着々と軍備拡張を行なっていた。
 現在アスタゴは別国との戦争をしており、何年かの猶予があった。その間に、陽の国には求められているものがあった。
 作り上げた人型の有人戦略兵器の実用性を示し、新たな戦略を提示する。
 ただ、この話はたかが一兵士にしかなり得ないパイロット候補者達にとってはどうでもいい話だ。
 つまりは余計な事を考えるな、という事だ。
「訓練期間はもうすぐ終わる。君たちには戦場に出てもらう」
「坂平教官、誰が行くので?」
 教壇に立った坂平に質問をしたのは、阿賀野だった。誰もが気になっていた。特に、間磯はソワソワとしているのがよくわかる。
「それは今日の実技訓練で決める」
「実技?」
 常であれば、VRトレーニングと呼ばれるはずのものが、今回は実技。
「既に"リーゼ"が用意されている。パイロットスーツを支給する。それを着て外に集まれ」
 リーゼ。
 その言葉は何度も聞いている。グランツ帝国とマルテア、陽の国での共同開発。改良に改良を重ね、完成に漕ぎ着けた、カタログスペックは今までの兵器を遥かに凌ぐ、最強の兵器。
 坂平はそれぞれにパイロットスーツを渡していく。パイロットスーツのサイズは候補者になった時に行われた身体検査によってきまっている。
「絶対にパイロットにならなきゃ……」
 パイロットスーツを受け取った間磯の小さな呟きが阿賀野には聞こえた。
「…………」
 阿賀野は何も言わずにパイロットスーツを受け取って自分の席につく。
 ただ、それ以上に、この教室には若干の緊張が走る。
「これから暫くは実機を用いた訓練を行う。戦場で突然に放り出されて何もできずに死んでは困るからな」
 それだけ言って、坂平は話は全てしたと言うように教室を出て行った。
「やっと乗れるのか」
 漸く、ここまで来た。パイロット候補なのだと言われながらも、これまで自分の搭乗するべきその機体を見ることはなかった。
「リーゼ、ね」
 阿賀野は大した意味もなく、自分が乗るであろう未来を想像しながら、不敵な笑みを浮かべ呟く。
「おい、阿賀野。着替えに行かねえのか? 坂平教官に怒られちまうぞ」
 飯島の声に反応して阿賀野も、教室を後にして、トレーニングルーム近くの更衣室に向かった。
「うし……!」
 阿賀野はパイロットスーツに着替え、はやる心を何とか抑える。
 漸く、リーゼに搭乗できる。これを楽しみにしていた。ここで、俺の能力を示す。
 そう意気込んで彼はグラウンドに向かった。
 
 
 
 
 まずどれだけトレーニングをして、VRルームで想定をしてきたとしても実機を扱うのはレベルが違う。
 特殊な液体に満たされた場所に手足を突っ込んで、その奥にあるレバーを握り手前に引くことで起動する。頭にはフルフェイスのヘルメットを被り、それで漸く準備が完了する。
『どうだ、阿賀野』
 フルフェイスヘルメットに埋め込まれた機器から、VRルームのヘッドギアの機械音声のように、坂平の声が響く。
「準備はできました」
『起動を許可する。起動方法は既に教えている通りーー』
 リーゼに関する説明を長々と阿賀野は聞くつもりもなく、さっさと起動を始める。
「起動しろ、リーゼ」
 阿賀野がそう宣言して、レバーを握りしめて手前に引くことでリーゼは起動する。その目は緑に光り輝く。体は黒色で頭は部分的に橙色。身体は想像よりもスリムで、小回りもききそうだ。
『これがリーゼか……』
 坂平も動くリーゼは初めて見るのだろう。感嘆の言葉を漏らす。
 リーゼは膝立ちの状態からゆっくりと立ち上がる。
「へぇ、すげぇなコレ」
 視界はクリアーで、銃を構えれば銃口の向きに補助を与えてくれる。
 グラウンドには的が点在する。阿賀野は特に何かを考えたわけでもなく、中距離砲を発射する。
 ドゴォン。
 そんな音がして、的が崩れる。
「面白え」
『勝手な事をするな阿賀野。今回は慣らしの運転だ。グラウンドを一周したら次のものに交代しろ』
「はいはい、すみませんね」
 阿賀野は適当に謝罪を済ませ、坂平に言われた通りにグラウンドを一周する。
 そして、レバーを倒して、
「停止」
 と、宣言すると、動く前と同じ片膝立ちの状態になる。阿賀野は完全に停止した事を確認して、腕と足を引き抜く。液体につけていたはずの腕と足はなぜか濡れておらず、こうなると知っていたはずも、やはり不思議だと阿賀野は自身の腕を見る。
「次は松野だ。早く乗れ」
 坂平が告げると、名前を呼ばれた松野は機体に近づく。
「どうだったの?」
 松野は不安そうな表情を浮かべながら、阿賀野に質問する。正直に、阿賀野は自分が乗った感覚を答える。
「ああ? 別に普通だ。VRとは毛色が違えけど、殆ど自分の体を動かすみてぇなもんだ」
 ただ、自分の体ではないために、思考から行動に移すにあたってのタイムラグが何時もより多く生じるが。
「へえ、そうなんだ。なら安心だね」
 不安が紛れたのか、松野がリーゼに乗り込んだ。
 ただ、普通だと言ったのは阿賀野だからだ。身体能力が異常に高い彼だからこそ普通だったのだ。
 松野が乗り込んだリーゼは起動はしたものの、あまりにも動きがぎこちないものだった。
 パイロット候補者はほとんどの者が、笑いながら見ていたが次に笑われるのは自分だと言う自覚がない。結局、今回の訓練が終わって、この場で他のものを笑うことができるのは阿賀野と四島だけだった。
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