傲慢な戦士:偽

ヘイ

文字の大きさ
9 / 88

第8話

しおりを挟む
 傲慢なる存在は一番が好きだ。だから、敗北の証である最下位は好ましくなどない。
 その理由に細かい事情は必要はないとは、阿賀野本人の弁である。誰だって、人は知らず知らずのうちに高みへと羨望を抱く。
 彼にとってはそれが一番だったと言うだけのこと。
 中栄国との戦争に出る者、それと何人かを除いた教室は重苦しい雰囲気で支配されていた。
 赤い空が窓の外に広がる。禍々しさすら感じるその空が妙な圧迫感を放つのか。
 そんな中、阿賀野は四島を見る。
「四島」
 何度も、挑んでは相手にされない。今となっては阿賀野の対抗心など露知らず、松野という阿賀野にして見れば面倒臭い生き物にそれ以上のリソースを割いている。
 挑んだ所で、楽しくない。それを阿賀野は四島のせいにした。
「ーーお前もつまんねえな」
 阿賀野が求めているのは一位の椅子だ。その椅子が欲しい。
 だが、それは四島を完膚なきまでに叩き潰して手に入れたい。
「…………」
 思い悩んで、黙りこくったままの四島に阿賀野は苛立ちを覚える。
「ーーお前が何考えたところで意味ねえんだよ。死ぬ奴は死ぬんだからな。お前が守れるわけでもねえ」
 ため息と共に阿賀野の口から吐き出された言葉に四島は感情をあらわにする。冷静に彩られていたはずの顔は、激憤を宿し、阿賀野を真っ直ぐに睨みつけてくる。
 そしてガタリと席から立ち上がって胸ぐらを掴み上げた。
 阿賀野は無抵抗のまま話し続ける。
「結局、お前がいくら心配しようが、弱かったら戦場で死ぬんだよ。誰かが死ぬなって言えば死なないって思ったのか? 安心させれば、笑っていられれば誰も死なねぇと?」
 そんなことは分かっていたはずだ。誰もがそうであって欲しいと願っていた。この教室にいた竹崎は目を伏せて、阿賀野の現実を突きつける様な一言から意識を逸らそうとしていた。
「阿賀野!」
 怒鳴りつけたのは四島だ。珍しく、四島は叫んだ。そして、彼は左手で阿賀野の胸ぐらを掴み上げたまま、右手にギュッと拳を握りしめて思い切り振り抜いた。
「殴られる筋合いはねえ」
 阿賀野はそう言って、四島の手を振り解きながら向かってくる拳を避ける。
 そして、阿賀野は呟いた。
「……どいつもこいつも面倒臭えんだよ」
 どこまで行っても傲慢な人間だ。強さを理解している。そして、判断もついている。彼は勘違いなどしていない。
 だから、彼の発言には殆ど嘘がない。
「松野も残念だな」
 竹崎の様なものが友達だったなど。
 竹崎は一般的には何も問題がないとも言えた。ただ阿賀野は松野の問題を見ている。
 だからこそ竹崎は、常々、自尊心に溢れる阿賀野の目にはより一層、蔑む存在に見えたのだろう。
「お前みたいな奴が友達だなんてな。ーーお前は自分できっかけを作れねえから、今回の対外的に起きた松野の精神的不安定につけ込んだ」
 詰る様な言葉に竹崎は顔を真っ赤に染めて立ち上がる。
「違う!」
「お前がそう思わなくても、他の奴らはそう思ったんだ。特に松野本人がな」
「…………っ」
「まあ、お前らがどうなろうと興味ねえけどな。俺はトレーニングルームに行かせてもらうからな」
 そう言って、阿賀野は教室を去ろうとすると竹崎が呼び止める。
「待って……!」
 阿賀野は苛立たしげに振り返る。それが竹崎に対して、用があるなら早く言えという様で、竹崎はそれに従うかの様に尋ねる。
「私はどうすれば良かったの……?」
 それに対して答えるつもりもないのだろう。呆れた様に無言で教室を出た。
「ーー結局お前は見てただけか」
 阿賀野は後ろを付いて出てきた候補者にそう言った。
「協力しろと言われたけど、僕はあれを止める理由も、君に加担する必要もなかったから」
「……お前、結構自由なんだな」
 阿賀野はハンと鼻で笑って、廊下を歩いていく。
「付いてくんのかよ……」
 トレーニングルームに向かう阿賀野の後をその男は追いかける。
「聞きたいことがあるんだ」
 彼は阿賀野にそう言って、阿賀野の返事も待たずに話を続ける。
「君は、どうして相手を怒らせるんだ?」
「ーー俺は正直に生きてるだけだっての」
 阿賀野はそれ以上に答えるつもりがないようだ。質問した彼も、これ以上尋ねた所で意味がないと判断した。
 それでも彼は阿賀野について行く。それが協力というべきかは置いておくとしよう。




「松野……」
 偶然にも竹崎は松野に出会でくわした。
 松野がパイロットスーツを着ていたことから、つい先ほど訓練が終わったのだろうことが想像がついた。顔色が良くないことから、今回も上手くできなかったことも。
「…………」
 名前を呼ばれた所で、松野は竹崎に目を合わせようとしない。そもそもにして、今の松野には誰かの目を見るという行為が正常に出来るのか。
「ごめん……」
 竹崎は謝罪を述べる。
 ただ、何に対して。それに意味があるのか。竹崎だって口をついて出たようなものだった。
「…………」
 今更、謝ったところできっと醜い言い訳にしかなり得ない。彼女のした行動は阿賀野の言葉通りに捉えられてもおかしくはない。
 目を合わせないまま、松野はポツリと呟いた。
「私はいつも通りで居たい……」
 結局のところ、阿賀野がいつも通りだったとして、松野の相談に乗るわけがない。興味もないのだから。
 話すだけでも気が楽になる。どれだけ素っ気なくとも。いつも通りだから。
 そう思っていたはずだった。だが、違った。阿賀野という男と話すたびに現実が浮き彫りとなり、余計に傷が増えていく。
「優しくしないでよ……。心配そうな顔しないでよ……」
 竹崎の態度が酷く辛いのだ。
「まるで私が死ぬみたいじゃん……!」
「…………」
「……今まで通りじゃダメなの……?」
 それだけ一方的に告げて、松野は竹崎の横を走って通り過ぎていく。呆気にとられた竹崎は声もかけられず、そこに立つだけだ。
「竹崎」
 立ち尽くす竹崎に話しかけるものがいた。
「飯島……。あんたならあの子の気持ち分かるの?」
 松野と同じく、次の戦争に出る飯島ならば、松野の不安というものを知っているのではないか。
「何となくは、な……」
「どうすれば良いのかな……?」
「分かんねえ……」
 ただ、やはり松野の言葉通りなのだろう。彼女はいつも通りを求めている。
「ーー死んで欲しくないって思うのは私の勝手なのかな……?」
 仲良くなった少女に死んで欲しいと竹崎が思えるわけがなかった。だから、松野に帰ってきて欲しいと思ってミサンガを渡すつもりだった。
 泣きそうな顔をしながら、竹崎は飯島にそう尋ねる。
「それは……」
 飯島は言い淀む。
 勝手な願いだ。それでも、竹崎は心の奥底からそう願っている。ただ、それが松野と行き違うのだ。
「ーー勝手でも良いだろ」
 飯島の後ろから山本が歩いてきて、そう言った。
「山本か」
 飯島は名前を呼びながら振り返る。
「勝手で良いんだよ。人は他人にそう思うんだ」
 まるで昔の痛みを思い出すかのように、顔を苦々しげに歪めて吐いた。
「松野に帰ってくる場所、帰る理由があった方がいい、そう思うんだ」
 理由を作る為に何でも良いから、形のある物を渡して、約束を作る。それがあれば生きてやると強く思えるから。
「俺だって、松野と飯島に仲間だっていう証明になる物が欲しい」
 そうやって帰る場所が、生きることを望むものがあることを松野に示したい。松野だけでなく、飯島にも。
 三人の繋がりが欲しい。これこそが山本の偽らざる本心だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...