傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第13話

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「……わかってる。わかってんだよ。でもなあ、特別じゃないからって簡単には割り切れないんだよ」
 リーゼに乗り込んだ飯島はブツブツと独り言つ。
 大人に良いように扱われて、戦争の道具として消費されて、そして死んでも構わないと切り捨てられるのは認めたくない。
 九郎が実力を隠していたことが分かった。それでもその言葉に納得するわけにはいかない。無力を痛感したとしても、この怒りだけは忘れたくはない。
「無駄だって、お前にはできないって」
 決めつけられたくない。
「起動しろ……」
 期待されていないのだとしても、できることは全てやりたい。醜い大人に支配され続けて死ぬことなど認めたくない。
「くそったれがアァァああ!!!!」
 咆哮。
 獰猛な獣のように、怒りを表す叫びを上げて、巨大な鋼鉄の体はそんな飯島に呼応するかのように荒ぶり機動する。
 中距離砲が構えられる。
 発射された弾丸は正面に立つ的を撃ち倒し、その横に左右に並ぶ二つの的をも撃ち抜いた。
 荒ぶる巨神。
 巨大な鉄の兵。リーゼは正しく巨神の如く左手に持った銃を乱射し、そして右手に持った大剣を振るう。
「あぁぁぁあああ!!!!」
 俺は誰かを守れる。弱くなどないのだと、自分を鼓舞するかのように叫び声を上げる。
 飯島の頭部につけられたヘッドギアに坂平の声が届く。
『もういい! 飯島、降りろ!』
 坂平の静止の声を無視して、飯島はリーゼを動かし続ける。
『今日の実機訓練は終わったんだ!』
 下らない。
 実にくだらない。
 こんなことで何が変わるというのか。それでも、少しだけ、坂平の悩ましげな顔が見えて嬉しさを感じた。
 何をしているんだ。
 冷静になりたくないだけだ。
 怒りを抱いていなければ、すぐにでも膝をついてしまう。立ち止まって、折れてしまう。そんな気がしたのだ。
「くそっ!」
 回る頭が、事実を理解させてくる。それを否定するために感情の渦に飲まれていよう。感情に流されていよう。
 それが原動力なのだ。
 無力な自分は感情の本流に流されるだけで良いのだ。
 怒りは必要だった。
「はあっ、はあっ……」
『降りろ、飯島!』
 坂平の声はずっと聞こえていた。
 子供が駄々をこねるように、大人の言うことを無視し続けているだけだ。それでも、少しでも反抗できたと言う感覚に僅かながらも喜びを感じている。
『おい、飯島ぁ』
 突然に聞こえた阿賀野の声。
 どうして。そう思い、飯島が坂平の方へ向くと坂平のインカムが阿賀野の手に握られていた。
『随分、好き勝手するな、おい』
「…………」
『お前のせいで仲間死んだら、どうすんだ?』
 その言葉に暴れ回るように動いていたリーゼは止まる。
 飯島にはそれ以上の言葉がなくても、阿賀野の言いたいことはわかった。
『降りてこい』
 それだけ言って阿賀野は坂平にインカムを手渡した。
『飯島、降りろ』
 今度は飯島は坂平の言葉を聞き入れて、無言でリーゼを停止させて、降機した。
 降りてきた時に飯島はチラリと阿賀野を見たが、何事も無かったかのように正面を見ていた。
「助かった、阿賀野」
 坂平がそう礼を言う。
「俺も乗りたかったんで、飯島に好き勝手にやられると時間なくなりますからね」
 阿賀野はどうでも良さげに理由を答えた。






「気負いすぎだ」
「…………」
 九郎が壁に背を預けてしゃがみ込む飯島に声をかけるが返答はない。
「言ったはずだよ。君には何かを変えられるほどの特別さはないって」
 感情の薄い、抑揚のない声で事実を告げるように彼は話す。
「…………」
「そして、それは僕も。人間には天才がいても実際のところ特別なんてそういない」
「…………」
「僕たちは少しばかり才能があっただけだ」
「その少しの才能で、何かを、誰かを……、救えるかもしれないだろ」
 先程までは無言で聞いていた飯島が顔を見せずにポツリと呟く。
「才能で何かを救える?思いあがるなよ。ここにいるお前は何かを奪うことはできても、何かを救うことなんてできない。僕たちの才能は何かを奪う才能だ」
 だからこうして、人を殺す兵士へと育成されている。
 施設裏の人気のない場所。日陰で九郎は飯島に聞かせる。辺りは殺風景で、木々も建造物もあまり存在などしていない。
 そんな静かな場所に二人の男がいた。
「松野は苦しいものに立ち向かう勇気を得た」
「…………」
「君はどうだ?怒りに飲まれて、流されているだけだ」
 そうやって巨大な感情の奔流に流されることは楽なのだ。
 波に身を預ける事がどこまでも怠惰であることを知っていても。
「怒ってどうなる。冷静さを欠いた決断は君の命を、仲間の命を危険に晒すことになる」
 時に怒りは強大な力を生む。だとしても、飯島が憤怒したところで、結果は分かっていた。
「今日の君の行動は、未来の誰かを殺す」
 覚えておけ。
 そう言い捨てて、九郎はその場を後にする。
「ーー随分、優しいんだな」
 施設裏を出たところで声がした。九郎は振り返ることもない。
 声をかけたのが誰か、わかっているからだ。
「……僕は下らない死に方をして欲しくないんだよ」
 九郎は冷めたような目をしながらそう答えた。
「そうなのか」
 ただ、その答えにどこか納得できないようで、彼は自分なりの見解を述べる。
「悪いけど、俺はもっと個人的な理由だと思ったんだけどな」
 阿賀野に指摘されても九郎は反応することはない。そのまま施設の入り口の扉を開けて入っていこうとする。
「言っておくけど、自分は特別だって思わないことだよ、阿賀野」
 それだけ一度、顔を向けて言うと施設の中に入っていった。
 注告のように聞こえるそれに、阿賀野は一つ息を吐く。
「特別コンプレックスかよ」
 阿賀野は愚痴を溢すかのように呟いた。そして、阿賀野は歩いて行く。
「にしても、面倒臭え奴ら増えてきたな」
 現状の候補者を思い浮かべて阿賀野は溜息混じりに溢した、
「ま、どうでもいいか」
 自分は無関係だと、下らない思考を断ち切った。
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