20 / 88
第18話
しおりを挟む
『食料の回収の為に、護衛としてリーゼ一機の起動を命じる』
そんな連絡が入った。
それは艦内に響く放送である。そして、その声は搭乗者たちの聞き慣れた声ではないもの。
三人は確認を取る為に、ヘッドギアを取り付けて岩松に繋いだ。
「どういう事ですか?」
質問を投げかけたのは山本だった。
『私が許可した。それ以外に理由は必要かね? それに君たちには拒否権はない。命じたのは私。リーゼの指揮権は私にある』
その言葉を出されて、三人は黙ってしまう。リーゼの指揮官である岩松に逆らってもいいことがない事くらいは分かっている。
『どうせ食料の確保程度。君たちで決めるといい。危険もないだろう』
岩松は一方的に通信を切ってしまった。
彼らは暫く無言であった。誰が行くのか。人に任せるのも、自分が行くのも嫌だったのだから仕方がない。
しかし、山本だけは二人の様子を見て、
「ーー俺が行く」
と言った。
二人は戦いでの消耗が激しいことを山本は理解していた。この中では精神的な疲労の少ない自身が適任だと山本は判断を下す。
「お前らは休んでろ」
「疲れてるのは山本も一緒でしょ?」
若干顔色の悪い松野が心配そうに尋ねるが山本は首を横に振り、否定を示す。
「いや、俺は大丈夫だ」
艦内を後にして、山本はリーゼを待機させている船の上に出た。
見えるのは沈みかけの太陽と海。
赤く染まる世界を背景に山本は片膝をついているリーゼに乗り込み、不思議の液体に満たされた四つの穴に手足を突っ込み、右手側にあるレバーを手前に引いて起動させる。
大きな二つの目が緑に輝く。そして、ゆっくりと立ち上がり動き始める。
「あそこか……」
山本は外をぐるりと見ると砂浜に二人の男がいるのを見つけた。
片方は深緑の髪にロングヘア。もう片方は黄緑色の髪。
そこから少し離れたところにリーゼは降り立ち、二人の元へ向かう。
「お、来たか」
迷彩服を着た彼らはリーゼが来たことに気がついた。
「やっぱデケェな」
男はペチペチとリーゼの体を叩く。
「ちょ、止めろって川谷。踏み潰されて死んだらどうすんだよ」
そう言って黄緑色の髪の男が笑う。
「芝浦、大丈夫だっての。んなこと起こるわけねぇだろ?」
「馬鹿か。戦争とかだと仲間の弾に当たって死ぬってことも珍しくねぇんだからな」
「おお、怖っ」
そう言ってもそれはどこかふざけあっているように見えて緊張感なんてかけらもない。
「後ろを歩かれると踏み潰されそうで怖いな。アリみたいに」
川谷は冗談を口にするように話し、下品に笑うと彼の笑い声に釣られるように芝浦もゲラゲラと笑う。
つまりはリーゼに先頭を歩けということだろう。山本は何も文句を垂れることなく前を歩き始める。
「おい、ゆっくり歩けよー?」
芝浦がケラケラと笑って言えば、川谷も続けて言う。
「四十メートルもあったら歩幅も広いからな」
分かっている。
だから、ゆっくり歩いているだろう。そんな文句が山本の脳内に浮かぶ。
少しばかりの煩さを感じながら、林を掻き分けて進む。
「おほっ、大量大量」
缶詰を見つけてはかき集め、その数は相当なものとなっていく。やっている事は火事場泥棒のようなものだ。
「おっ、これはサバの味噌煮か。良いねぇ」
民家に入っては缶詰を集める彼らの姿をリーゼに乗り込んだ山本は黙って見下ろしている。
敵兵の気配もなく、集まっていく缶詰を無気力に見ているだけだ。
「お、肉もあらぁ」
持ってこられたのはパックに入った大きめの牛肉である。
ここで生活をしていたものたちが残していった食料には缶詰などの保存食だけではなく、肉や野菜もあるようだった。
「傷んでないか?」
川谷が運んできた牛肉を見ながら、芝浦がそう言って肉を見る。
「傷んでねぇよ。新鮮だ」
「こりゃあ、早く食わなきゃな」
これをダメにしてしまうのは勿体ない。
二人はそう考えたのだ。缶詰は言ってしまえば保存期間が長いが、生のものはそれ以上に痛むのが早い。
艦内には冷蔵室、冷凍庫もあるが、そこまでの大きさはない。
冷蔵室の中にあるものだって多くもない。基本的にはレーションといった上手くもないものばかりだ。
「にしたって何にして食うんだ?」
目の前の牛肉を見て二人は妄想を膨らませる。そんなことを考える暇があるのなら、彼らは目的を果たすべきだと山本は考えていた。
「ステーキか、カレーかシチューか……」
「そりゃあ良い」
彼らはそんな妄想に満たされて、缶詰の回収を中止した。足りない訳ではないだろう。それなりの量は集められたのだから、これで満足しても良い。
「おい、リーゼ。コイツを運んでくれ」
川谷は地面に並べられた大量の缶詰と野菜を指差して告げる。
「俺たちが何回かに分けて運ぶより、そのでっかい手に乗っけた方が早いだろ?」
芝浦は笑う。
山本も面倒事は嫌いな為、それと彼らのことを好ましく思わない為、無駄に彼らの声を聞く必要もないと思ってゆっくりとしゃがみ込み、缶詰を乗せるように右手を開き彼らの前に差し出した。
「あん?」
それが何を意味するのか二人にはよく分からなかったようだ。
しかし、考えてみれば当然、缶詰はリーゼにしてみれば小さいもので自分で掴むのは至難のことである。
「俺たちが乗っけろってのかよ?」
川谷が面倒臭そうに確かめると、リーゼはコクリと頷いた。
「チッ。仕方ねぇな」
やれやれと言いたげな様子で二人は動き始めた。
仕方ないもクソもあるか。
そんな気持ちもあったが、山本はその気持ちを抑える。
コトリコトリと缶詰と野菜がリーゼの右手に置かれていく。
「うし、これで全部か」
地面には先ほどまであった缶詰も野菜も残っていない。全てはリーゼの手の上にある。
山本もこれで終わりかと思い、ゆっくりと立ち上がった。
「落とすなよ。大事な食料だからな」
川谷はその手に牛肉を持ちながら、注意する。
分かっている。
先程から、この男たちのことをどこか受け入れられないと山本は感じていた。
そんな連絡が入った。
それは艦内に響く放送である。そして、その声は搭乗者たちの聞き慣れた声ではないもの。
三人は確認を取る為に、ヘッドギアを取り付けて岩松に繋いだ。
「どういう事ですか?」
質問を投げかけたのは山本だった。
『私が許可した。それ以外に理由は必要かね? それに君たちには拒否権はない。命じたのは私。リーゼの指揮権は私にある』
その言葉を出されて、三人は黙ってしまう。リーゼの指揮官である岩松に逆らってもいいことがない事くらいは分かっている。
『どうせ食料の確保程度。君たちで決めるといい。危険もないだろう』
岩松は一方的に通信を切ってしまった。
彼らは暫く無言であった。誰が行くのか。人に任せるのも、自分が行くのも嫌だったのだから仕方がない。
しかし、山本だけは二人の様子を見て、
「ーー俺が行く」
と言った。
二人は戦いでの消耗が激しいことを山本は理解していた。この中では精神的な疲労の少ない自身が適任だと山本は判断を下す。
「お前らは休んでろ」
「疲れてるのは山本も一緒でしょ?」
若干顔色の悪い松野が心配そうに尋ねるが山本は首を横に振り、否定を示す。
「いや、俺は大丈夫だ」
艦内を後にして、山本はリーゼを待機させている船の上に出た。
見えるのは沈みかけの太陽と海。
赤く染まる世界を背景に山本は片膝をついているリーゼに乗り込み、不思議の液体に満たされた四つの穴に手足を突っ込み、右手側にあるレバーを手前に引いて起動させる。
大きな二つの目が緑に輝く。そして、ゆっくりと立ち上がり動き始める。
「あそこか……」
山本は外をぐるりと見ると砂浜に二人の男がいるのを見つけた。
片方は深緑の髪にロングヘア。もう片方は黄緑色の髪。
そこから少し離れたところにリーゼは降り立ち、二人の元へ向かう。
「お、来たか」
迷彩服を着た彼らはリーゼが来たことに気がついた。
「やっぱデケェな」
男はペチペチとリーゼの体を叩く。
「ちょ、止めろって川谷。踏み潰されて死んだらどうすんだよ」
そう言って黄緑色の髪の男が笑う。
「芝浦、大丈夫だっての。んなこと起こるわけねぇだろ?」
「馬鹿か。戦争とかだと仲間の弾に当たって死ぬってことも珍しくねぇんだからな」
「おお、怖っ」
そう言ってもそれはどこかふざけあっているように見えて緊張感なんてかけらもない。
「後ろを歩かれると踏み潰されそうで怖いな。アリみたいに」
川谷は冗談を口にするように話し、下品に笑うと彼の笑い声に釣られるように芝浦もゲラゲラと笑う。
つまりはリーゼに先頭を歩けということだろう。山本は何も文句を垂れることなく前を歩き始める。
「おい、ゆっくり歩けよー?」
芝浦がケラケラと笑って言えば、川谷も続けて言う。
「四十メートルもあったら歩幅も広いからな」
分かっている。
だから、ゆっくり歩いているだろう。そんな文句が山本の脳内に浮かぶ。
少しばかりの煩さを感じながら、林を掻き分けて進む。
「おほっ、大量大量」
缶詰を見つけてはかき集め、その数は相当なものとなっていく。やっている事は火事場泥棒のようなものだ。
「おっ、これはサバの味噌煮か。良いねぇ」
民家に入っては缶詰を集める彼らの姿をリーゼに乗り込んだ山本は黙って見下ろしている。
敵兵の気配もなく、集まっていく缶詰を無気力に見ているだけだ。
「お、肉もあらぁ」
持ってこられたのはパックに入った大きめの牛肉である。
ここで生活をしていたものたちが残していった食料には缶詰などの保存食だけではなく、肉や野菜もあるようだった。
「傷んでないか?」
川谷が運んできた牛肉を見ながら、芝浦がそう言って肉を見る。
「傷んでねぇよ。新鮮だ」
「こりゃあ、早く食わなきゃな」
これをダメにしてしまうのは勿体ない。
二人はそう考えたのだ。缶詰は言ってしまえば保存期間が長いが、生のものはそれ以上に痛むのが早い。
艦内には冷蔵室、冷凍庫もあるが、そこまでの大きさはない。
冷蔵室の中にあるものだって多くもない。基本的にはレーションといった上手くもないものばかりだ。
「にしたって何にして食うんだ?」
目の前の牛肉を見て二人は妄想を膨らませる。そんなことを考える暇があるのなら、彼らは目的を果たすべきだと山本は考えていた。
「ステーキか、カレーかシチューか……」
「そりゃあ良い」
彼らはそんな妄想に満たされて、缶詰の回収を中止した。足りない訳ではないだろう。それなりの量は集められたのだから、これで満足しても良い。
「おい、リーゼ。コイツを運んでくれ」
川谷は地面に並べられた大量の缶詰と野菜を指差して告げる。
「俺たちが何回かに分けて運ぶより、そのでっかい手に乗っけた方が早いだろ?」
芝浦は笑う。
山本も面倒事は嫌いな為、それと彼らのことを好ましく思わない為、無駄に彼らの声を聞く必要もないと思ってゆっくりとしゃがみ込み、缶詰を乗せるように右手を開き彼らの前に差し出した。
「あん?」
それが何を意味するのか二人にはよく分からなかったようだ。
しかし、考えてみれば当然、缶詰はリーゼにしてみれば小さいもので自分で掴むのは至難のことである。
「俺たちが乗っけろってのかよ?」
川谷が面倒臭そうに確かめると、リーゼはコクリと頷いた。
「チッ。仕方ねぇな」
やれやれと言いたげな様子で二人は動き始めた。
仕方ないもクソもあるか。
そんな気持ちもあったが、山本はその気持ちを抑える。
コトリコトリと缶詰と野菜がリーゼの右手に置かれていく。
「うし、これで全部か」
地面には先ほどまであった缶詰も野菜も残っていない。全てはリーゼの手の上にある。
山本もこれで終わりかと思い、ゆっくりと立ち上がった。
「落とすなよ。大事な食料だからな」
川谷はその手に牛肉を持ちながら、注意する。
分かっている。
先程から、この男たちのことをどこか受け入れられないと山本は感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる