傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第17話

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 上陸戦が終わり、リーゼのパイロットは全員が船の中に戻っていた。
「大丈夫か、お前ら」
 暗い表情をする松野と飯島は、椅子の上に座っている。
 中栄国が撤退し、一先ずの戦いは終わった。上陸戦の戦績としては上々と言えた。
 中栄国は臆病になったのか、いや、慎重になったと言うのが正しいのか。兵士を投入しても無駄だと悟ったのだ。
 しかし、それとは裏腹に搭乗者は、暗い表情を浮かべていた。
「ーー俺、初めて人殺したんだよ……」
 飯島はわなわなと震える両手を見ながら話し始めた。
「分からないんだよ。何、感じてるかもさ……」
「…………」
 その言葉には松野は何も言うことができなかった。これは、人間がどこまで殺人のストレスに耐えられるかと言う話で、松野にも殺人の体験はない。
「こんなにあっさり人は死ぬんだって……」
 飯島の声には怒りは宿らずに、どこか感情の欠落した様な表情を覚える。
「ああ、ダメだ。自分が何感じてるか、うまく言えねぇ……」
 思考は混乱を極める。
 動転している。ここまでのことを振り返っても何を思ったかなど言葉で言い表せない。
 だからと言って危険と隣り合わせの戦いをしたいかなどと問われれば、それに関しては飯島はノーと答える。
「……そうか」
 山本は大して質問をするつもりもない。苦しいのなら、感情を吐き出して楽になった方が良いと考えていた。ただ、掘り下げて痛みを感じさせるつもりはない。
 松野が、そんな立ちっぱなしの山本を見た。
「ーーねえ、何で山本は平気なの? 人を殺してるんだよ?」
 至極、単純な疑問だった。
 松野と飯島ほど思い詰めてはいない様に見えたのだ。彼の考えが自分たちの苦しさを変えてくれるかもしれないなどと、ほんの少し希望を抱いただけ。
「個人の問題だ。俺がお前らより人の死に鈍感なだけだ……」
 そんなものが山本が二人に示した答えだ。
 それは正解でないことを山本自身が知っている。山本の人間性は僅かに狂っていたのだ。
 山本は既に人殺しだった。
『何で殺したの?』
 ふとした時に蘇るのは、好きだった少女の声。恋をしていた。そんな少女を守るために彼はその手を赤に染めたのだ。
『お、お前を守るために……』
 好きだったから。
 そんな彼女を傷つける存在が許せなかった。だから、殺した。
『殺す必要なんてあったの?』
『それは……。お前が傷つけられるのを見るのが耐えられなかった……』
 不良だったとしても越えてはならない一線があった。それを山本は越えてしまった。
 元々、そんな素養があったのだろう。
『頼んでない……』
『それでも、俺はお前と笑ってた……』
 理想を答えた瞬間に少女の平手が山本の左の頬を打った。
『あんたは犯罪者なんだよ……? 一緒に?』
 怒りなんて消えて、虚無感だけが支配した。
『ーーふざけないでよ。やめてよ。もう私に関わらないで……!』
 少女は逃げる様に走り去って行く。その背中を追うこともできずに、床に転がった男の死体を眺めていた。
 そうして、後悔する。
 怒りに飲まれ人を殺し、罪を後悔して、もう遅い。
 その気になれば、山本は人を殺すことを躊躇わない異常者だった。
 罪を犯した彼はそれでも誰かの役に立てると言われて、この檻から外に出られたら今度こそ。そう思って岩松の誘いに乗った。
 そして、また血の海に浸って行く。
 
 ーー絵描きになりたかった……。
 
 人殺しのその手に、洗っても落ちることのない咎の赤は見えずとも残っていた。
 誰かに聞かせるつもりもない、幼い頃からの夢だった。
 もし、この罪が償うことができたなら、絵描きの夢を彼は再び追いかける。







川谷かわたに。おい、そっちは?」
 上陸戦により、海岸近くには中英国の人間は誰一人見当たらない。
「ははっ、芝浦しばうら、見ろよ。食糧にゃ困らねぇぜ」
 そう言って一人の男が林の奥から両腕に缶詰をいっぱいに抱えて戻ってきた。抱えられている缶詰はそれなりに種類もあり、カラフルだ。魚の缶詰であったり、肉の缶詰であったり、それ以外にもフルーツ缶などもある。
 缶詰であるから、保存期間は長く、食料として重宝される。
 チラリと川谷が来た木々が生茂る方へと芝浦は視線を向けた。上陸戦の余波で木々は所々倒れてしまっていた。
「林の奥か……」
 芝浦はライフルを両腕でいつでも撃てるように持って、今、林から来た川谷に質問する。
「どうする?」
 持ってきた缶詰を砂浜に並べながら川谷は芝浦に尋ねた。
 どうするというのは、先の食糧難を見越して、置き去りにされた缶詰やその他の食品を片っ端から回収してくるか、ということだろう。
「隊長に聞いてみるか……」
 芝浦は無線を取り出した。
「いいのか? 傍受される可能性だって無いわけじゃ無いだろ?」
 無線を取り出したのを見て川谷は疑わしげな視線を芝浦にぶつける。
「こんなの聞いたところで作戦とも言えないから、意味はないだろ」
 単純に食糧確保をどうするかという問題でしか無い。
 これを傍受したところで意味はない。さらに言ってしまえば、リーゼがある限りどれだけ無理やりであってもこの戦争に負けることはない。たった一機ですら、今までの戦争を破壊する代物なのだから。
本間ほんま桐仁きりひと上官、こちら芝浦一成いっせいです。どうぞ」
『……こちら本間桐仁だ、どうぞ』
 一昔前の無線とは違い、音は割れていない。技術の革新はこんなところにも現れていた。
 流石の技術だと、彼らは初めて使用した時に感心したものだ。
「川谷が食料を発見しました。どうしますか? どうぞ」
『回収しろ、どうぞ』
「もしもの為にリーゼを一機、お願いします」
『分かった。少し待て』
 上官の言葉に従い暫く待つと再び、無線から声が聞こえた。
『ーーその場で待機してろ、リーゼを向かわせる。以上』
 そうして無線が切れる。
「隊長はなんだって?」
「リーゼが来るから、待っていろとよ」
「おお、了承もらえたのか?」
「まあな」
 取り敢えずはリーゼも来ることで、万が一も無くなった。二人は完全に安心しきっている。そもそも、彼らには戦争に来たという感覚すらないのかもしれない。
「いやあ、戦争なんざ初めてだが。これっぽっちも怖くねぇな。こんなもんなんだな」
 ケラケラと川谷が笑いながら言うと、芝浦もふと笑った。
「同感だな」
「つうかさ、リーゼさえ居りゃ俺たちいらねんじゃね?」
「かもな」
 二人の男が戦場となった海岸で笑っていた。
 空に浮かんでいた太陽は少しずつ沈んでいく。
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