傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第16話

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『リーゼパイロットの諸君。私が指揮官の岩松である』
 聞き覚えのある声だった。年老いた男の声。ある者にとっては尊敬する者の声だったかもしれない。だが、その声の聞こえるものたちにとっては、最悪な存在の声とも言えた。
 中栄国に向かう巨大な船の中でパイロットスーツを着込んだ、三人のヘッドギアに通信が入った。
『君たちは私の指令を聞き、動くのだ。独断行動は断じて許されない』
 飯島は怒りを覚えそうになるが、松野に手を握られ、山本に肩を触られ、冷静になる。
『まず、上陸して直ぐに戦闘が開始される。その時にリーゼを出し惜しみせず、三機全て投入する。リーゼによる蹂躙を期待する』
 告げられたのは岩松の戦略とも言えないであろう、リーゼのスペックに頼り切った上陸作戦であった。
 ただ、慢心するには十分なほどのスペックをリーゼは誇っている。
 巨神。
 その名は偽りでは無いのだと、この戦いで示されることになる。
「そろそろ、中栄国の領土だ! リーゼパイロット、準備しろ!」
 乗組員の一人が、やってきて三人に叫ぶ。
 三人はもう戦わねばならないことを受け入れて、立ち上がる。死なないためにも覚悟を決めなければならない。
 こうして戦争の幕は切って落とされる。
 
 
 
 
 
『来たぞ!』
 中栄国の者たちはその言葉を聞き、銃を構える。そして見えたのは何人もの歩兵と、戦車。そして、三つの巨大な影である。
 緑に発光する目。不気味な黒い巨体。ズシリ、ズシリと地面を揺らしながらそれは陸に上がる。
『う、撃てぇぇえええ!!!』
 張り上げる声に全員が恐怖を抑え込み、銃を乱射する。歩兵に銃弾が当たり、何人かの殺害に成功するものの、巨神には一切のダメージが見られない。
 腰を抜かし背を向けたものに容赦のない銃弾の嵐が見舞われた。
「ははっ、ビビって逃げてやがる!」
「背中を向けるなんて馬鹿だなあ!」
 嘲笑い陽の国の兵士たちは虎の威を借る狐のように、リーゼに守られながらも中栄国の兵士を蹂躙する。
 時折、リーゼの握る中距離砲が放たれて、中栄国の兵士は吹き飛び、敵方の戦車をも爆発させる。
 あまりの呆気なさにパイロットもどこか気が抜けたような感覚だ。
「こんなものなの?」
 そのうちの一人である松野はあまりの呆気なさに思わず、言葉を漏らした。
 感じていた恐ろしさなど何処へやら。まるでアリを踏みつぶすかの如く、容易く人を殺す。そんな殺戮兵器だ。
 足元に現れた戦車を踏み潰し、中距離砲を放つ。それだけで相手は怯えて撤退を試みるが、歩兵は隙を見逃さずに背中を撃ち抜く。
「は、はは」
 無機質な人の死に、乾いた笑いがこみ上げる。こんなにも簡単に人は殺せてしまうのだと。松野は殺人を犯したと言うのに、これっぽっちも悲しさを覚えない自分に、吐き気を感じない自分に冷たさを感じる。
 チラリと横を見れば、冷たい巨神が鏖殺せんと、地獄を築きあげていく。
『は、はは』
 乾いた笑い声が、飯島のつけたヘッドギアから響く。
「まさか、ここまでなんて」
 上陸戦の結果は上々だった。死人も少なく済み、さらにはリーゼの戦闘力、装甲能力に関しても理解できた。
 浜辺の直ぐ近くにあった木々は中距離砲により薙ぎ倒されている。
 陽の国の髭を生やした軍服の男が、肩に銃身を傾けながら嬉々とした顔で言う。
「はは! リーゼ様々だな!」
 そして、歩兵たちは歩みを進める。それについていくようにリーゼも歩き出す。
 





 未開の地を切り拓いて行くかのように四十メートルを超える巨体が先頭を歩く。
 緑に輝く目と、細くしなやかな黒色の体。それでもその体に誇る力強さは戦車を踏み潰すほど。左肩には十字のような逆さの剣の様なものが描かれた青い同盟旗、右肩には赤い太陽を模した陽の国の国旗が着いている。
 左手に握られた中距離砲が発射される。
 放たれた弾は敵を蹂躙する。
『三部隊に分かれて攻撃を開始せよ』
 木々の奥へ、その三つの巨大な影が進んでいく。仲間からしてみればそれは頼りになる巨大な戦士。敵からしてみれば最悪の巨神。
 パイロットが身につけたヘッドギアから耳に響く機械音声のような司令の声。
「ははっ、逃げろぉ!」
 陽の国の言語で愉快げな声が戦場からは聞こえる。
 リーゼの姿を見て、恐れをなしてか中栄国の兵士たちは撤退を始める。しかし、どれもが無意味で、無価値で、無慈悲に蹂躙される。
 象がアリを踏み潰すよりも容易く。
「ーーんで、死ねぇ!!」
 そして、その背後に隠れた陽の国の戦士は逃げて行く戦士とも言えない意気地なしの背中に迷いなく鉄を撃ち込んで、命を奪って行く。
「ヒューっ!」
 もはや、そこには戦争とは言えない遊戯が残るのみで、陽の国は戦場で行われるタダの略奪を楽しんでいた。
 命の尊さなどカケラも存在しない戦場であることは分かっていたはずだ。だとしても、目を覆いたくなる邪悪と、惨劇。
「ははっ、人、殺しちゃったんだ……」
 感情にはそこまでの変化がない。
 今はそうなのか、それともずっとそうなのか。いや、わかっている。
 ここまで容易く何もかもを奪えるのなら、それはきっと奪うと言う行為に感情が揺さぶられることもない。
「オラオラァ! 巨神様のお通りだぁ!」
 銃を乱射し、下卑た笑いを浮かべ言葉も通じぬ異邦人を殺す。その心に苦しさも痛みもなく。火薬が燃えて、焦げ臭い匂いとともに弾丸は発射される。
 弾が尽きれば、リーゼの背に隠れて装填する。
 危険なんて何処にもない。
 安全な戦争。
「余裕だなぁ、おい!」
 笑う。
 そこらで人は人を殺す。それよりも早く人型の金属が、人を潰す。
『躊躇うな』
 時折、ヘッドギアからは声が聞こえる。その声に抱く感情は種々様々。
 殺せ。殺さねばならない。そうしなければ生きていられない。
 これは生存競争。同族を殺すなど当然。何故なら、生物は群れを成すから。他の群れに負けてはならない。
 己らの正義を訴える為にも。
 中距離砲が、大剣が戦車を人を、壊して行く。
「オラァっ!」
 飯島の声がリーゼのパイロット席の中に響いた。振り上げられた大剣には小さく血がつく。四十メートルの巨体が振るう大剣に人体は引き裂かれる。
 切れ味が良かった。
 撒き散らされた血と内臓。ただし内臓は損傷が大きい。それは巨大な刃物で切り裂かれたから。まるで英雄譚に語られるかのように、一振りで十もの戦士を殺す。
 一騎当千。
『ダメだ! 逃げろ!』
 中栄国の兵士は必死に叫ぶ。通信機器にもその声が通る。言葉はわからない。それでも行動から何を伝えたかはわかった。
『牽制を交えて、撤退だ!』
 銃弾を勿体ぶることなく使う。この戦いで中栄国の兵士のうち何人の人間が生き残るだろう。
 そんな加速された鉄の弾を、おもちゃの鉄砲の弾だと言う様に三機の巨神の身体はそれを弾き、中距離砲を構えた。
「…………」
 そして、引き金が静かに引かれた。
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