傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第42話

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「ただいま戻りました、と」
 佐藤は扉を叩き、返事を聞くと部屋の中に入る。
「あー、坂平もいるんですか」
 ちらりと周りを見れば、そこには坂平の薄水色の髪が見えた。
「彼も見たいと言ってね。同席を許可したわけだ。どうだね、君も」
 佐藤の呟きを岩松が拾い、成り行きを答える。
「成る程。じゃあ、俺も同席させて貰いますね」
 理解を示してから、岩松の答えを聞かずに彼は坂平の隣の椅子に座る。
「ーー大丈夫か?」
 佐藤が坂平の顔を覗き込みながら尋ねると、坂平も少しだけ間を置いてから言葉を吐き出した。
「……大丈夫だ。もう、覚悟はできてる」
「そうか」
 坂平の言葉に佐藤は視線を岩松に向けた。その視線の中には少しばかりの警戒の色が窺える。
「お前も見届けにきたのか?」
「俺は、そうだな……。見届けるってのもあるが……」
「それ以上に何がある?」
「……いや、別に何もねぇよ」
 岩松に向けていた視線を一度だけ逸らして、下に向けた。
 佐藤の思惑は誰にも悟られるわけにはいかなかった。現在、彼にとっての味方はこの部屋の中には居ない。
「アスタゴは見えるかね?」
 ふ、と視線を上げると通信を取る岩松の姿が確認できる。
『大陸、目視範囲に入りました』
 通信機から答えが返ってきた。
「そうか」
 船の乗組員と連絡を取った坂平は、もう一つの通信機を繋ぎ、その船に乗るリーゼパイロット達のみへ指令を送る。
「リーゼパイロット諸君に告ぐ! リーゼへの搭乗を命じる!」
 指令が送られた向こうで、パイロットたちはどんな顔をするのか。こんなのは、もはや、坂平らの想像でしかない。
 声も何も岩松以外の誰にも聞こえはしない。
 だからこそ、余分な想像をしてしまう。
「……っ」
 苦しげな顔をしている坂平を一瞥して、佐藤は一言だけ。
 彼を思ってのことだったのか、それとも、本当にただの一言だったのか。
「気にすんな」
 前を向いていた。
 目を逸らさずに前を向いて言えたのは、佐藤がこれから戦場へ向かう面々の事を坂平以上に知っていたからなのか。
「それは無理に決まってるだろ」
 出来るわけがない。
 だからありあらゆる事情を、感情を飲み下した上で、すべてを受け入れる。誰も彼もの恨みをすべて。大人の都合で兵器に乗せられ、理不尽に死んで逝った全ての子供の心を。坂平は覚悟を決めたのだ。
「ーーお前はそう言う奴だよ。律儀な奴だ」
 最後に佐藤が見た、阿賀野たちの表情は坂平の想像する様な顔ではなかったことだけは理解できる。
「そう言うところも、お前の良いとこだと思うぜ」
 ただ佐藤には坂平の性質を否定するつもりはない。彼の真摯な態度は佐藤から見たら、好ましいものであったから。







「ははっ、こいつは相当にオンボロだな」
 つぎはぎの巨神に乗り込み、阿賀野はリーゼを起動させる。そして、理解したのは彼の乗るリーゼの脆弱さ。
 訓練のために乗っていたリーゼにも劣る、機能。
 無理な稼働をさせ続ければ自壊する。
「まあ、無理させてもらうがな」
 本来、リーゼですら耐用不可能の制動をしようとしている。
 そうしなければリーゼの中でも劣る、このパッチワークリーゼでは、タイタンを相手取る事はできない。
 偶然だったのだろうか。
 性能において、タイタンは基本的に速度以外はリーゼを凌駕している。
 そんなタイタンと戦い勝利するにはパイロットの腕次第だ。
「アイツらじゃ動かせねぇだろ、コイツぁ」
 奇跡の様に、ピースが揃っていた。
 パッチワークリーゼを動かし、さらにはタイタンを打倒し得る可能性が。
 元来であれば、それは人型の巨大な鉄屑。自爆兵器として運用するつもりであったはずだ。
 いや、現状も変わらない。
 ただ、上手く最強が扱っているだけに過ぎない。少しでも苦戦が、敗北の未来が見られれば即座に自爆させられるだろう。
 リーゼに乗り込んだ三人の視線の先にアスタゴの大陸が見える。
 時刻は深夜。
 月光が大陸を仄かに照らす。雲が僅かに星を隠す。上陸作戦が始まろうとしていた。
「よし、行くか……」
 通信機のスイッチを入れて、立ち上がる。
『四島』
 九郎の声が響く。
 返答はない。
『行くよ』
 美空が告げると、三機はアスタゴの大地に降り立った。
『リーゼパイロット、アスタゴを蹂躙せよ!』
 そんな指令、知った事かと、美空と阿賀野は駆け出した。全速力だ。
 誰かの命令など関係ない。
 好きなように暴れて、成したいことを成すだけだ。目的などそれぞれ。
 二人の乗るリーゼが駆け抜けようとすると、目の前には三機のタイタンが現れる。
 銃を構えたそれらは、冷静沈着に負けるはずがないと言う自負を持って銃口を合わせ、弾丸を撃ち放つために撃鉄を弾く。

 ーー前に、阿賀野の投げた大剣によって一機が両断される。

 戦闘開始から、約十秒にも満たない時間の中で一機の戦線離脱を確認。
 そして、呆気にとられた残りの二機を冷徹無比な銃撃が撃ち抜く。
『ふっ!』
 阿賀野と九郎の手によって。
 異様なまでの戦闘行為の慣れ。
 慈悲なき簒奪。
 紛れもなく、彼らは最強の戦士だ。今まで戦ってきた数々の陽の国の兵士が、玩具の兵隊に見えてしまうほどに。
 命を奪い、戦い、勝利し、その歩みを進める。
 ここから、進撃の開始だ。
「よっ、と」
 地面に突き刺さった大剣を抜き取る。僅かに阿賀野の乗るリーゼの右腕から軋むような音が響いた。
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