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第47話
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東海岸からそれなりの距離ができていた。
「ああ、そうだアダムさん」
タイタンに乗ったミカエルが思い出したように言う。
『どうした?』
「流石に俺が着くまでに負けてたら、それはもう勝ち負けどうこうの問題じゃないから」
それもそうだ。
戦う前、戦場に辿り着くまでに終わっていては全てが水の泡になってしまう。
『君が辿り着くまで時間を稼げと?』
確かめるように尋ねると、ミカエルは迷うことなく答えた。
「そう言うこと」
『ほぼ大陸横断と同じ距離だぞ。最低でもーー』
アダムの言葉を途中で打ち切り、ミカエルが断言する。
「一日、二十四時間以内にそこまで着くようにする。出来るだけ足止めしといて」
到底、敵うはずもないと思うような事だ。妄言と捉えられてもおかしくは無い。だと言うのに、どうしてかミカエルの言葉には強い自信があった。
『そうは言うが、ミカエル。タイタンもそこまでの数はもう残されていないんだぞ』
ただ、アダムは彼の言葉をそのまま鵜呑みにする事はできない。
破壊された数で考えれば相当な被害だ。それでも未だにタイタンの貯蔵がある事は誇ってもいいだろう。
未だ、タイタンの残機があるのはアスタゴが経済大国であった事も一つの要因だろう。
現在、この世界で経済の主軸となっている国はアスタゴ合衆国、ノースタリア連合王国などの先進国家である。
『そこまでの時間を稼げるかも分からない』
アダムはそんな不安を口にする。
「いや、大丈夫だよ。向こうもアダムさん達がいる所までそんな早くは着かない」
少しでも時間を稼げたら、少しでも本部から遠い場所で戦うことができる。
被害の少ない場所で戦う為の足止めだ。
昇る朝日と共に血のような巨神が少しずつ進む。一歩の幅は巨大で、速度が速い。
四十五メートルの巨体、怪物が動かすことによる全能性により叩き出される、数値上最大の動き。
「俺も自分にできる精一杯の事はするつもりだよ。期待には応えなきゃね」
彼には軍部や、整備班の期待が込められている。最強である事を誰もが認めている。勝って欲しいと、アスタゴを救う英雄になって欲しいと、ミカエルは願われている。
それは戦場の悪魔として。
アスタゴを救う、天の使いとして。
『分かった。こちらも君の活躍の為に出来る限りの努力をしよう』
アダムの答えを聞いてミカエルは通信を切った。
通信機の向こう、どうしてかアダムは苦笑いをしているような気がした。
これは一人の英雄の物語だ。
歴史に名を残すことになるたった一人の戦士の話である。
自分は生きているのだろうか。
そんな疑問が四島の中に生まれた。アスタゴに向かい、命を賭して戦っているのは四島を騙る阿賀野だ。
この場に四島雅臣などいるはずがない。ならば、ここにいる四島雅臣は一体全体、何者だと言うのか。
彼の顔は亡霊のように表情が抜け落ちていた。
「…………」
どうしたいのか。
四島はすでに結論を出して、もう迷う必要もないはずだ。
生きて、妹の沙奈に会いに行けばいい。それだけの事だというのに憚られる。一歩が段々と重くなっていき、歩け無くなってしまいそうだ。
誰も自分の事を知っているわけがないのに。知る人などいる訳がないのに。
言い聞かせて、四島は歩みを止める事はなかった。
ただ、一瞬、呼び止められたような気がして足が止まった。
「雅臣か?」
振り返った。
「な、んで……」
目に映り込んだ顔を知っていた。
知り合い、などと表してもいいものだろうか。
「お前、何でここにいんだよ?」
驚いたような顔で、彼は四島に尋ねる。彼の目は責めるような物では無かった。
純粋な疑問を覚えたからだろう。
「なあ、雅臣。もう、アスタゴとの戦争が終わったのか? 俺たちが知らないだけなのか?」
そうでなければここに四島がいる理由が付かない。
「……違、う」
否定は口をついて出た。
「なら、何で……?」
彼は責めているわけではない。分かり切っている。だからこそ、四島の心に針で刺すような痛みが走る。
チクチクと刺激されて、呼吸は浅くなる。
「俺、はーー」
何と言うのか。
全てを投げ出して、逃げてきた。そんな事を目の前の男に言うのか。それは、それは、きっと彼は認めてくれるかもしれない。この男はそう言う男だ。
「お前、逃げてきたのか?」
そして、察しも悪く無かった。
「あ、……」
言葉に詰まった。
針などと言う物ではない。深々と心に突き刺さり、赤い液体が溢れ出すのを幻視する。
純粋な疑問は鋭利な刃物の様だ。
「そうか」
斜め下を向いていた彼の顔に、苦笑いが見えた。何故、彼はそんな顔をするのか。
「お前も」
ふと、彼は顔を上げた。
全てを許容するような顔で。
「俺たちと同じだったんだな」
彼は笑った。
柔らかに、少しばかりの負い目のある顔、どこか、悲しみを含むその顔には、弱さを受け入れるような優しさが垣間見えた。
どうしてか、四島は許されてしまったような気がした。それはいけない事のような、それでも、そうして欲しかった事のような気がした。
誰かに赦して欲しかったのかもしれない。
「あ、竹倉ぁ……」
四島は救われたような気がして、友の名前を呼んだ。
「ああ、そうだアダムさん」
タイタンに乗ったミカエルが思い出したように言う。
『どうした?』
「流石に俺が着くまでに負けてたら、それはもう勝ち負けどうこうの問題じゃないから」
それもそうだ。
戦う前、戦場に辿り着くまでに終わっていては全てが水の泡になってしまう。
『君が辿り着くまで時間を稼げと?』
確かめるように尋ねると、ミカエルは迷うことなく答えた。
「そう言うこと」
『ほぼ大陸横断と同じ距離だぞ。最低でもーー』
アダムの言葉を途中で打ち切り、ミカエルが断言する。
「一日、二十四時間以内にそこまで着くようにする。出来るだけ足止めしといて」
到底、敵うはずもないと思うような事だ。妄言と捉えられてもおかしくは無い。だと言うのに、どうしてかミカエルの言葉には強い自信があった。
『そうは言うが、ミカエル。タイタンもそこまでの数はもう残されていないんだぞ』
ただ、アダムは彼の言葉をそのまま鵜呑みにする事はできない。
破壊された数で考えれば相当な被害だ。それでも未だにタイタンの貯蔵がある事は誇ってもいいだろう。
未だ、タイタンの残機があるのはアスタゴが経済大国であった事も一つの要因だろう。
現在、この世界で経済の主軸となっている国はアスタゴ合衆国、ノースタリア連合王国などの先進国家である。
『そこまでの時間を稼げるかも分からない』
アダムはそんな不安を口にする。
「いや、大丈夫だよ。向こうもアダムさん達がいる所までそんな早くは着かない」
少しでも時間を稼げたら、少しでも本部から遠い場所で戦うことができる。
被害の少ない場所で戦う為の足止めだ。
昇る朝日と共に血のような巨神が少しずつ進む。一歩の幅は巨大で、速度が速い。
四十五メートルの巨体、怪物が動かすことによる全能性により叩き出される、数値上最大の動き。
「俺も自分にできる精一杯の事はするつもりだよ。期待には応えなきゃね」
彼には軍部や、整備班の期待が込められている。最強である事を誰もが認めている。勝って欲しいと、アスタゴを救う英雄になって欲しいと、ミカエルは願われている。
それは戦場の悪魔として。
アスタゴを救う、天の使いとして。
『分かった。こちらも君の活躍の為に出来る限りの努力をしよう』
アダムの答えを聞いてミカエルは通信を切った。
通信機の向こう、どうしてかアダムは苦笑いをしているような気がした。
これは一人の英雄の物語だ。
歴史に名を残すことになるたった一人の戦士の話である。
自分は生きているのだろうか。
そんな疑問が四島の中に生まれた。アスタゴに向かい、命を賭して戦っているのは四島を騙る阿賀野だ。
この場に四島雅臣などいるはずがない。ならば、ここにいる四島雅臣は一体全体、何者だと言うのか。
彼の顔は亡霊のように表情が抜け落ちていた。
「…………」
どうしたいのか。
四島はすでに結論を出して、もう迷う必要もないはずだ。
生きて、妹の沙奈に会いに行けばいい。それだけの事だというのに憚られる。一歩が段々と重くなっていき、歩け無くなってしまいそうだ。
誰も自分の事を知っているわけがないのに。知る人などいる訳がないのに。
言い聞かせて、四島は歩みを止める事はなかった。
ただ、一瞬、呼び止められたような気がして足が止まった。
「雅臣か?」
振り返った。
「な、んで……」
目に映り込んだ顔を知っていた。
知り合い、などと表してもいいものだろうか。
「お前、何でここにいんだよ?」
驚いたような顔で、彼は四島に尋ねる。彼の目は責めるような物では無かった。
純粋な疑問を覚えたからだろう。
「なあ、雅臣。もう、アスタゴとの戦争が終わったのか? 俺たちが知らないだけなのか?」
そうでなければここに四島がいる理由が付かない。
「……違、う」
否定は口をついて出た。
「なら、何で……?」
彼は責めているわけではない。分かり切っている。だからこそ、四島の心に針で刺すような痛みが走る。
チクチクと刺激されて、呼吸は浅くなる。
「俺、はーー」
何と言うのか。
全てを投げ出して、逃げてきた。そんな事を目の前の男に言うのか。それは、それは、きっと彼は認めてくれるかもしれない。この男はそう言う男だ。
「お前、逃げてきたのか?」
そして、察しも悪く無かった。
「あ、……」
言葉に詰まった。
針などと言う物ではない。深々と心に突き刺さり、赤い液体が溢れ出すのを幻視する。
純粋な疑問は鋭利な刃物の様だ。
「そうか」
斜め下を向いていた彼の顔に、苦笑いが見えた。何故、彼はそんな顔をするのか。
「お前も」
ふと、彼は顔を上げた。
全てを許容するような顔で。
「俺たちと同じだったんだな」
彼は笑った。
柔らかに、少しばかりの負い目のある顔、どこか、悲しみを含むその顔には、弱さを受け入れるような優しさが垣間見えた。
どうしてか、四島は許されてしまったような気がした。それはいけない事のような、それでも、そうして欲しかった事のような気がした。
誰かに赦して欲しかったのかもしれない。
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四島は救われたような気がして、友の名前を呼んだ。
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