傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第48話

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 竹倉つとむはごく普通の学生である。
 短い黒髪と眠たげな目、百六十センチメートルをわずかに上回る程度の男子学生。
 特段、身体能力が高かったわけでもなく、知力に自信があったわけでもない。
 彼のあり方はただの凡人であったとしか言いようがなかった。
 近づく戦争。
 戦争は学校内の知識でもそれとなく理解ができる範囲にあり、少しばかり自分には遠い場所にあると言う感覚でしか無かった。
 変わらない日常を謳歌し続けて、そして、気がつけば戦争は終わっているかもしれない。もしかしたら、こんなに騒いでいるのは上層部だけなのかもしれない。
 などと他人事のように感じていた。
 だから、彼は友人の四島の言葉を聞いた時、遠くにあると思っていた戦争を初めて近くに感じたのだ。
『竹倉。俺、戦争に行くよ』
 四島は姿を消してしまった。
『沙奈のこと、頼んだ』
 竹倉の前からいなくなる前に四島が残した願いだった。どうせ帰ってくるだろう。そう思いながら、竹倉は過ごしていた。
 どこにいるのかもわからない。だから、戦争が起きてから不安で不安で仕方がなかった。
 中栄国との戦争の際、四島の妹、沙奈の入院している病院に居た時も、自分に言い聞かせていた。
『沙奈……、大丈夫。雅臣は帰ってくるから』
 言い聞かせていなければ、壊れてしまいそうだったから。
 程なくして、アスタゴとの世界を巻き込んだ戦争が始まった。長い間、顔を見せなかった友人はまるで死人のような蒼白い顔で竹倉の声に振り返ったのだ。
 生きていた。
 それがどうしてか。
 逃げてきたから。
 答えを聞いた瞬間に竹倉は最低だと感じながらも、喜びを覚えてしまっていたのだ。
 彼にとって、四島雅臣という人間は完全無欠の超人であったから。
 だから、完璧だと思われた彼も恐れを抱き、願いを持ち、逃げようとするのだと。
 そう理解したことによって、同じ人間なのだと竹倉は受け入れられた気がした。
「大丈夫か……?」
 落ち込んだような顔にも、何故だか嬉しさを感じてしまう自分に、竹倉は最低だと心の中で言いながらも、湧き上がる感情を止められない。
 友が生きて帰ってきたことを喜ばないなど、有り得ない。開き直っても問題はないだろう。
 ただ、この喜びを声を大にして言うことが、どれだけの無責任なのかも察しがついている。
 きっと四島は仲間の死を経験しているから。
「あ、ああ……」
 安全とは言えないかもしれない公園の自動販売機で水を買ってきた竹倉は、木陰のベンチに座り項垂れている四島に渡す。
 しかし、目に入らなかったのか。
 竹倉は茶化すのも道徳的に問題もあると思ったのか、隣に腰掛けて、四島との間にペットボトルを置いた。
「沙奈に会えるか?」
「それは……」
 言葉に迷ってしまう。
 果たして、自分は会いに行っても良いのか。四島にはその権利があるのか。
 迷いが晴れない。
 戦いから逃げた自分に、戦い続ける妹に顔を合わせる権利は、きっとない。
 思い込んでしまう。
「生きてるんだろ、雅臣は」
「そうだけど……」
「なら、会わなきゃならないだろ」
「何で……」
「会いたかったんじゃないのか?」
 竹倉の言う通りだ。
 逃げた理由は会いたかったからだった。
「ほら、行くぞ」
 竹倉は立ち上がる。
 場所は決まっている。きっと無理やりにでも竹倉は連れて行くだろう。それが、すべき事であると信じているから。










『そろそろ行こうか』
 九郎の言葉に応じて、美空はリーゼを再起動させる。
 結局、彼らが休んでいる間の攻撃というものはなかった。休んでいたのは美空一人だけであったのだが。隠れる場所も何もないこの荒野で、襲いかかるほどの愚かさも持っていなかったのだろう。
 それこそ、この荒野で休憩を図るなどといえ行動もおかしな事ではあるのだ。
 美空が起動させたのを確認すると、彼らは再び移動を開始する。
 暫く移動を続けると、日は南の空に昇った。
 ただ、雲の数も多く、眩しすぎるというほどでもない。昼の空にしてはやや暗い印象を覚える。
 ここから一雨、降りそうな雰囲気のある。そんな空模様だ。
「雨、降りそうだな」
 阿賀野は空を見上げながら呟いた。どんよりとした空。少しばかり重たげな空は、世界を暗く覆っている。
『そうだね』
 阿賀野の言葉に九郎も上を見て、賛同するように答えた。
 雨が降るのはただの気象現象でしかない。先程の言葉は無感動に放たれた、ただ一つの呟きだ。
 悪天候を気にするほどに阿賀野も九郎も、美空でさえも弱くはない。それは勿論の事、アスタゴの兵士であってもだ。
 雨という環境は彼らにとってマイナスとなり得ない。
 だから、というのか。
『そんなのどうでもいい』
 先程まで休んでいた美空は吐き捨てるように言う。
「はっ。それもそうだな」
 それを否定するでもなく阿賀野が納得したような言葉で返す。ぬかるむ大地を踏み締めて進む。
『四島』
 阿賀野の様子を見て九郎は名前を呼ぶ。
「あぁ?」
 四島と呼ばれて、阿賀野は振り返る。もはや不自然さは見当たらない。
『いつも通りには行かないかもしれない』
 九郎が注意するも、阿賀野は全く気にした様子も見せない。
 何を言っても無駄だろう。
「高々、雨だろうが。馬鹿かよ」
 阿賀野は溜息を一つ吐いてから、真っ直ぐに歩いていく。
 いつも通りも何も、戦場では完全や完璧などといった予定というものはなく、常に警戒するのが当然だ。弁えない者から次々に死んでいく。
 雨が降ろうと、降った上でどのような影響が出るのかも、操縦する上で自然に考えている。それを考えないものはただの三流だ。
 そんな愚か者にリーゼに乗る資格は無い。
「雨なんかに気取られてりゃ、死ぬのは手前てめぇだぞ」
 実際、そうであるはずだ。
 彼の言葉を否定する者はこの場にも、この場以外にも誰もいない。中栄国との戦争で死んだ松野も、雨が直接的な要因となって死んだわけでは無い。
 雨のせいで死ぬというまでの無能ではなかった。ただ、それでも彼女は弱く、敵が恐ろしく強かったというだけだ。
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