傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第49話

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 リーゼパイロットである彼らが街に入った瞬間に見えたのは二機のタイタン。
 だけではない。
 戦車、歩兵。
 見た瞬間に、分かるのは失われる命の数。今までの戦場を遥かに凌駕する命の損失がこの戦場で起きるだろう。
 勝てぬ戦い、と吐き捨てるには余りにも気迫が違う。死に場所を覚悟して、自らの骨を埋めるつもりで彼らは戦場にいた。
 何が目的なのか。
「鬱陶しいな、これは……」
 リーゼに乗る彼らにとって戦車は石、人は砂利。雨の中とは言え、この認識に変化はない。歩みを進めれば、アスタゴの兵士らに破壊は漏れなく訪れる。巨大な鉄に潰されて死ぬ。それが苦しみなのか、それとも一瞬の死なのか。
 この行為にどれほどの価値があるのか。
 大凡、百にも及ぶ兵士達の命を投げて、そこまでする価値があるのか。
 人海戦術、などと言ったものがリーゼには、タイタンには到底通用しない。
 はずである。
「ロッソ二機、それだけに意識を向けりゃいいな……」
 銃弾の嵐が殺到して仕舞えば、視覚情報はある程度、奪うことは可能である。如何にリーゼが万能といった所で、視覚情報が奪われてしまっては動くに困難である。
 更に言ってしまえば、敵にはタイタンがいる。これは、リーゼを打倒し得る戦力がこの戦場に存在しているということだ。
 聞こえない声。
 構えられた砲口、銃口。
 雨音、そして、銃弾が放たれる。発砲音が連鎖するように響いて、次の瞬間に、鉄と雨の粒が視界に大量に映った。
 大剣に展開されていたモノを、盾に変形させる。
 弾幕の嵐の中、二つ、三つ、四つ。
 タイタンの持つ銃から、リーゼを殺すことのできる弾丸が飛ぶ。
 吸血鬼に対する銀弾の如く。それはリーゼが破壊可能な武器。
『これは本気で鬱陶しい……!』
 美空は苛立たしげな様子で言う。
 盾を解除したところをタイタンは狙い撃つはずだ。かと言ってこちらが銃を撃とうにも狙いが定まらない。
『……どうしようか』
 盾を展開したまま、突っ込んでいく。
 それが良いか。
 戦車などは踏み潰せば、それで済む。
 ただ、近づいた所で大剣に変形させるのに時間がかかる。銃で撃ち抜くにしても、狙わなければならない。
 盾で弾きあげれば、それも構わないか。
 九郎が考えを導き出した。
 ただ、九郎が答えを出した瞬間には既に阿賀野は敵に向かって走って行ってしまっている。
『四島!』
「問題ねぇよ」
 戦車を踏み潰し、人を蟻のように遠慮もなく殺して、阿賀野は進む。
 盾を構えながらタイタンは後退する。
「おいおい、後退か?」
 逃げるタイタン。
 追いかけるリーゼ。
 時間が奪われる。届きそうで、届かない。タイタンは自らの距離とスペックを確かに理解している。
「そっちは任せる」
 ガラ空きの阿賀野の背後を狙い撃とうとするもう一機のタイタン。残念な事にタイタンは狙撃のためにか、阿賀野のリーゼと同じ、いや、それ以上にガラ空き、無防備であった。
 阿賀野が踏みつけ、殺し、開いた道。銃弾の雨は止んでいた。

 ーー見えた。

 銃口とタイタンの点と点が線でつながった。
 撃ち放ったのは九郎が早かった。
 雨の中放たれた三発。
 三発は問答無用にタイタンを食い破る。
『阿賀野、こっちは終わった』
「九郎。……お前実力隠してただろ」
 阿賀野が言ったのは施設でのことだ。
『僕への依頼は君の監視だったからね。目立つつもりもなかったし。それよりそっちは?』
「ああ、もう少しだ」
 追い詰めた。
 背後に命を脅かす敵がいない。
 強く、阿賀野は踏み込む。
 入り込むのは懐。急激な加速にタイタンの挙動が追いつかない。
 巨大兵器を動かす上でのタイムラグの様なもの。脳が処理し、行動を起こす。
 これはタイタンもリーゼも同じ。
 パイロットが処理し体を動かし、その命令を受けて巨神が動く。必要なのは純然たる身体能力。
 身体能力は圧倒的に阿賀野に軍配が上がる。
 リーゼが盾で大きく、銃を弾き上げる。
 仰け反った腹に中距離砲を突き当てて、トリガーを引いた。
「思ったより時間食っちまったな」
 文句を呟きながら、阿賀野は二人が来るのを待つ。









「チッ」
 アスタゴの軍司令部、総本部にて舌打ちが一つ。
 それはプラチナブロンドの髪色のやや、痩せ型にも見える軍服を着た男の口元から放たれた。
「やはりか……」
 予想はできていた。
 街の中に大量の戦車と歩兵。十全な装備を整えた者たちだ。更にタイタンを二機。
 それ以前の戦いから、距離を詰められれば終わる。予想して、出来る限り距離を詰められないようにしていた。
 とは言え、予想通り。いや、予想以上の速度で落とされてしまった。
「…………」
 強すぎる。
 まさに、最強を思い浮かべるほどに。彼の脳裏に過るのはミカエルの姿。
「ーー大丈夫か?」
 年老いた男性の声が聞こえて、男、アダムは振り返った。
「誰ですか! ……えっ、あ、アイザック整備士?!」
 憧れた男がいた。
 悪魔と呼ばれ、恐れられた老人がいた。
「よう」
「な、何故、此処に?」
「整備を終えてな」
 確かに汚れた作業着姿の彼は今、整備を終えてきたというのが見てわかる。
「で、出すのか?」
「はい……」
「儂が口を出すのもおかしいが、お前さんはその命の重さを背負えるのか?」
 『悪魔』と恐れられた英雄の問いにアダムは閉口した。
 憧れの人からの質問に緊張を覚えた。それも確かにあった。だが、何かを答えることはできたはずだ。
「……背負うことは、できません」
 やがて、口を開いたかと思うとアダムは拳を握りしめ、震える声で答えていた。
 英雄の問いかけは凡人には重く感じてしまう。嘘はつきたくなかった。
 背負うことなど出来るわけがない。
「ですが、今はそれが、こうすることが私にできる最適解です。戦争の勝利こそが彼らへのせめてもの手向たむけです」
 アダムの答えにアイザックは溜息を吐いた。
「……そうか」
「はい」
 これ以上の問答はない。
 アダムも再び、戦場に意識を向ける。
 打たねばならない。これは盤上の話ではない。敵は待たない。塾考は付け入る隙を与える。ならば、同じ手でも打ち続ける。
 戦場は常に変化する。
「我々の目的はあくまでも時間稼ぎだ!」
 最強の戦力の為の時間稼ぎ。
 少しでも敵を足止め出来れば良い。消耗させることができたら良い。
 その為の作戦だ。
「シャドウの進行ルートを確認し、戦力を投入する! タイタン二機の起動を要請する」
 リーゼは真っ直ぐに彼らのいる場所へと向かってきている。迷いなく。
 ならば、進行ルートを複数考えるまでもない。その為のルートは既に理解している。
 アダムの指示が通る。
 アイザックは間を取って、アダムに一声かける。
「儂も儂にできる事をするつもりだ。既に整備は終えているがな」
「ありがとうございます」
「礼を言われるのもおかしな話だな。儂は儂の仕事をしただけだ。寧ろ、儂が謝るべきだろう。変な質問をして悪かったな」
 アイザックは後頭部を右手で掻いてから、アダムに向けて敬礼をして部屋を後にした。
 彼の去り行く背中に、アダムもまた敬礼を返した。
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