傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第54話

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 黒に向き合った、赤の巨神に乗るミカエルはスピーカーのスイッチを入れた。
 スピーカーをつけたのはリーゼに乗る阿賀野に対して提案をするためであった。
『聞こえているかい、陽の国、シャドウのパイロット』
 紡がれたのは陽の国の言語。ネイティブといっても過言では無いほどに流暢な男の声に、一瞬の驚きが生まれて、阿賀野は対応するために直ぐにスピーカーをオンにする。
 その時の阿賀野は既に岩松に聞かれてしまうかもしれないと言うことを、全く気にしていなかった。
「話せんのかよ、こっちの言葉」
 阿賀野が初めに返したのは、感心とも言えない言葉である。
『当たり前だよ。降伏を提案する時は相手の言語に合わせるのが一番だ』
 今までミカエルはこの様な提案をしたことなど無いというのに。
「降伏、か」
 国の総意として阿賀野はここに立っているわけでは無い。あくまでも一人の兵士としてここに立っている。ただ、一人の人間としては、ミカエルの提案を受け入れるつもりはサラサラなかった。
「すると思うか?」
『しないなら、君の目と頭はおかしいと思うよ。周りを見なよ。死にたくないなら降伏するべきだし、命乞いをすると思うんだけどね』
 周りと言うのは、倒れた二つのリーゼの事だろう。
 そのどちらも、目の前の赤色が引き起こした悲劇だ。ミカエルがアスタゴの英雄として語り継がれた時には、武勇伝にでもなりそうなものだが。
「お前の尺度で話すな、ロッソ……」
『ロッソ。……ロッソと言えばマルテアの言葉で赤という意味だったね。まあ、良い名前を考えたんじゃないかな。でも君達を裏切った奴らの国の言葉だろ?』
 マルテアが裏切ったというのは事実ではある。マルテアが彼らを裏切った事をミカエルはアダムから伝え聞かされていた。ただその事実はミカエルにとっても、阿賀野にとっても、正直どうでもいい話であった。
『……まあ、というかさ、降参した方がいいと思うけど。君の乗ってるそのシャドウ、ボロボロだろ? そんなボロボロの機体からだで俺に勝てると思ってるのか?』
 ミカエルを相手取るにはどうあっても役不足。度重なる無理がリーゼの力を減退させるている。
 だが、阿賀野には関係ない。
「勝つんだっつうの」
 そして、自らが最強であることを、この世界に示すのだ。
『なら、殺さなきゃならないね。勿体無いな。君なら俺を楽しませてくれると思ったんだけどな』
 だからこそ、降参することを提案したのだ。
「あ?」
『そんなゴミに乗って、俺に殺されるのは勿体無いって話だよ。今ならまだ間に合うけど』
「ハッ、あり得ねぇな。こういう時はお前らの文化に則って言ってやるよ」
 大剣を持つ右腕を前に突き出して、リーゼは親指だけを立てて、下に向けた。
 
 ーーF〇〇k off。
 
 この言葉が、アスタゴの言葉として侮辱に値する言葉であると知っていながら、不敵な笑みを浮かべながら阿賀野は吐き捨てたのだ。
『ーーそっか。なら仕方ないね』
 殺すよ。
 再度、地響きがして、火花が散る。
 ハルバードの刃と、大剣の刃がぶつかり金属音を鳴らしながら火の粉を飛ばす。
 スピーカーのスイッチは切られているのだろう、もう阿賀野にミカエルの声は聞こえない。
「確かに、パッチワーク・リーゼコイツはゴミみてぇな性能だわな、お前と戦うにはよォ……!」
 押され気味の接近戦、距離を取られればその瞬間、死が濃厚になる。
 盾を展開する数秒を目の前のミカエルは見逃さず、許さない。一対一になった瞬間から、最も濃密で凝縮された戦争がここにあった。
「まあ、死ぬ気はねぇんだよ!」
 阿賀野が大剣を振り上げると、ミカエルのハルバードが斜め上に浮き上がる。
 隙、ではない。
 向けられた銃口を中距離砲のグリップの底で叩き落とす。
 次の瞬間、リーゼの身体を巨大なハルバードが突き刺さんと上方より襲い来るが、大剣で弾き、対応する。全てにおいて最高峰。
 だからこそ、ミカエルもまた高揚していた。
 ゲーム、ドラマを遥かに超えるスリルが、リアルとしてそこにあったのだから。






 弾ける。
 それは軽快な音ではなく、どこまでも重たげな音をかち鳴らして。
「……クソがっ」
 阿賀野の舌打ちがリーゼのコックピット内に響く。
 どうにも攻めきれない。
 寧ろ、時間が経つほどに阿賀野は不利な状況へと追い込まれていく。弾かれて生まれた距離、即座に詰めようにも、銃弾が放たれ遠回りをせざるを得ない。
 阿賀野も中距離砲を撃ち放つが、それでは距離が生まれてしまう。何より、リーゼには大剣と盾を常時、同時展開できないと言う弱点が目立つ。
 更に言えば、阿賀野が乗るパッチワークと呼んでも間違いではないリーゼの装甲は元来の物より明らかに薄く、タイタンによるまともな一撃を貰うだけで、機能はほぼ停止状態に追い込まれることだろう。それだけの攻撃力をミカエルは有していた。更には速度もある事がミカエルの操るタイタンの脅威を増幅させる。
 阿賀野でなければ。いや、この戦場は、阿賀野であっても、ほぼ確実に攻略不可能なゲームと化していた。
 銃弾の速度が速い。
 盾にしては間に合わず、有効な攻撃手段がいざと言う時に奪われてしまう。
 ミカエルの戦闘技巧の高さ。
 だけではない。
 反応速度に於いても、阿賀野と同等レベル。機動力でリーゼに劣るタイタンが、リーゼに近しい速度で挙動を取るのは余りにも恐ろしい現実であった。
「本気でヤバいな……」
 攻撃を弾く度に火花と、不気味な音がでる。この音が阿賀野を焦らせる。このまま戦い続けると、まず阿賀野が勝つことはできないだろう。刻一刻と、形勢はミカエルに傾いていく。
 当のミカエルはどこか、何かを楽しむ様に戦っている様にも見受けられる。まるで、完全な勝利を得ようとするかの様に。
 詰められない距離、左腕が狙われる。鋭い弾の速度。避けきれずにリーゼの左腕の関節を削り取られる。
「な……!」
 リーゼは中距離砲を左手の中から取り落としてしまう。拾い上げる時間がない。
 阿賀野は瞬時に悟る。
「っらぁ!」
 取れる手段は近接戦一択。
 阿賀野は最大速度を持ってミカエルに切りかかる。ミシミシと不安にさせる音をかき消す様に、金属がぶつかり合う重低音が鳴り響く。
「喰らえ、よっ!!」
 阿賀野の攻撃は弾かれる。
 彼らが戦うすぐ左横には美空が乗っていたであろうリーゼが倒れている。今、それはただの巨大な棺桶と表現しても間違いではないだろうが。斃れたリーゼの右手には大剣が握られている。
 目の前にはタイタンが迫る。
 避けるだけの時間がない。
「ーーっ!」

 ーーギャリリィイイイイ!

 慌てて阿賀野は大剣を盾にする様に構えるが、ハルバードの刃がリーゼの大剣を中程から力強く切り裂き、そしてボロボロのリーゼの左腕をも引き裂いた。
 阿賀野は即座にタイタンを蹴り飛ばす。
 阿賀野の身体能力を持って放たれた、リーゼの蹴りはタイタンを二十メートルほど吹き飛ばす。
「岩松、どうせコイツはもう使わねぇだろ。貰うからな」
 聞こえもしなくなった通信機に向かって一方的に告げてから阿賀野は、持っていた壊れてしまった大剣を投げ捨て、美空のリーゼの大剣を持ち上げる。
 投げ捨てた大剣は、すぐ右のビルに突き刺さり、一つの破壊を巻き起こす。
「これも有効利用だ」
 仲間の思いを引き継いだ。
 などと感動的なものではない。
 阿賀野の最強はその場にあるもの、全てを利用してでも勝利すると言うもの。それが運であろうと、奇跡であろうと。仲間のしかばねであってもだ。
「ハッ。九郎よぉ、お前も俺の仲間だってんなら武器寄越すくらいの活躍はしろよ……」
 微かな呼吸音。
 阿賀野の口元から響いたものか。
 文句を垂れながらも、敵性機体を見る。赤色の機体はピンピンとしていて、どこにも傷は見えずに、まるで勝利が見えてこない。
「……俺の最強目的に、ちっとは役に立てっつぅの」
 阿賀野は駆け出す。ビルを壁にしながら、破壊しながら近づき近接戦に持ち込む。
 ぶつかる武器の重たさが伝わってくる。
「まだ、終わってねぇだろ!」
 気を奮い立たせる。
 燃えろ、燃えろ、燃えろ。
 冷めて、覚めて、醒めて、諦めてしまうにはまだ、まだまだ早い。
 夢を見ろ。
 勝てる未来を描け。
「ーー俺は、最強だァアアアア!!!!」
 咆哮を上げる。
 そして、衝突。
 脳の奥がチカチカと明滅するほどの熱気。音の爆発。重なるのはハルバードと大剣。
 武具、装備の数からして、明らかなまでの黒の劣勢。
 だと言うのに、彼は折れない。未だ、敗北を認めない。
 彼は正に、最強への究極の求道者と言えた。
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