傲慢な戦士:偽

ヘイ

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第二部

第3話

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「凄い……」
 二人がエイデンに案内された場所は数多くのパワードスーツが保管されている。初めてここに来たアリエルにとっては驚愕に値するような場所であり、一般人であっても似た反応を示すだろう。
 ただ、オスカーは何度もここに来ているからか、大した感慨もなさそうだ。
「ははっ、私はその新鮮な反応を見れて嬉しいよ。まあ、君はサイズを測りに来たんだろう? なら、私の部下に任せるよ。女性のことは女性に、だ」
 エイデンが更に奥に進み、扉を開くと一人の女性が現れた。
 薄緑色の三つ編みの髪と目の色白の女性。
「社長! どうしたんですか?」
「お客様だ、カタリナ」
 カタリナと呼ばれた女性はエイデンの後ろにいた、アリエルとオスカーに視線を移す。
「はい?」
「『牙』のパワードスーツを作るからサイズを測って欲しいのだよ」
「『牙』のパワードスーツですか……。確かに担当ですので引き受けますね」
 先ほどからチラチラとカタリナがアリエルに視線を送ってくる。
 視線を感じて、アリエルの気持ちは少しばかり落ち着かない。
「では……」
 彼らにカタリナが近づく。
「その間、私はハワードくんと話すことにしよう、良いかい?」
「オレは構いませんよ」
 オスカーとエイデンの二人は来た道を戻って行った。この場に残されたのはアリエルとカタリナだけ。
「うふっ、ふふふっ、宜しくね、えーと……」
 どこか喜ばしそうな表情。カタリナの口がモニョモニョと動いている。
「アリエル・アガターです!」
 名前を名乗っていなかったことを思い出してアリエルが名前を教えると、パッと花が咲いたような笑顔を見せた。
「アリエルちゃん。うんうん、宜しくね。末永く、ご贔屓に」
 何故か初対面だと言うのに妙にアリエルに対するカタリナの距離が近い。アリエルの肩をやたらと撫でたり、鎖骨を撫でたり、腰に手を回したりとボディタッチが多い。
「ささっ、測りに行こうね!」
 アリエルの体を執拗に撫でまわし、頬を擦り寄せたりなど、その動きはもはやセクシャルハラスメントに近しいものだとも思えるが、女性同士であった為かアリエルも強く出ることはなかった。
「うへへっ、お胸のサイズと、お尻のサイズ、腰や腕周り太腿、脹脛も、測らなきゃね。ふへっ、ふへへ」
 頬を赤らめて、彼女は気味の悪い笑みを浮かべながら呟く。カタリナはアリエルの脇の間に手を入れて綺麗な形をした胸を撫でる。
「んっ……」
 妙な感覚に思わず吐息混じりの声がアリエルの口から漏れてしまう。
「あ、可愛い、可愛いよぉ……」
 カタリナ・ギブソン、彼女は立派なレズビアンであった。
「じっくり測ろうね、じっくり、ゆっくり」
 ただ、その事実をアリエルは知らない。






 まるで人形のよう。
 カタリナは目の前に立っているアリエルを見て、そう考えていた。
 サイズを測るために、着ていた長袖の白シャツを脱いでいく彼女を見つめながら、メジャーを伸ばしたり引っ込めたりを、手元で繰り返している。
 純真無垢で汚れのなさそうな少女。犯しがたい神聖さもあるような、それでいて快活さもある。
 異様な魅惑に心が惹かれる。カタリナの薄緑の瞳には皺一つない白色の肌が見える。
「うっ……」
 思わず彼女は鼻を押さえる。手にはポタリと血が垂れる。
「あの、大丈夫ですか?」
 アリエルが服を脱ぎ終えて振り返る。
 すでに下も脱いでいるらしく、完全に準備は万端。
 なのだが。
「ま、待って。愛が迸ってるの……」
「は、はあ?」
 勢いよく漏れ出る鼻血。顔が紅潮してしまう。
 恋だろうか。
 これは正しく恋だ。
 などと、カタリナは結論づける。一先ず、ポケットに入れていたティッシュペーパーを丸めて鼻に入れる。
「あの?」
「気にしないで。アリエルちゃんに罪はないの」
 強いて言えば、美しすぎると言うことが罪なの。
 などと、心の中でカタリナは語る。
 彼女史上、ここまで美しい少女に出会ったことはない。今から、身体のサイズを測ると言う理由で柔肌に触れることができる。
 
 ーーこれは実質、セックスなのでは?
 
 などと良からぬ、危なげな思考がよぎる。昔から、一般的な女性としては感覚が違うものだと言う認識もあって、それは彼女自身、十代後半を超えてからよく理解できていた。
 男に対するトラウマがあるわけではない。ただ、純粋に可愛いものが好きで、性愛、恋愛の対象も可愛い女性であっただけだ。
「うぇへっへっへ……。じゃあ、測ってくね……」
 首回り、肩幅、脇下、トップバスト、アンダーバスト、ウエスト、腕周り、腕の長さ、太腿、脹脛、足の長さ。
「よろしくお願いします」
 無防備な彼女に触れる。
 メジャーを回して、首のサイズを測って、肩、胸と。
「ふーっ、ふーっ……!」
「あのカタリナさん」
「ふーっ! んっ、何かな!」
「鼻息が荒いです」
「あ、鼻栓してるから余計にそう聞こえるのかもね!」
「あ、はい」
 鼻息が荒いからと言って別に問題がある訳ではない。メジャーを伸ばして脇の下から手を伸ばす。
 この瞬間に、高速でカタリナの脳が回る。そして弾き出されたのは、邪な思考だ。
 
 ーーこれはカタリナちゃん。初恋の相手に合法的に抱きつくチャンス!?
 
 カタリナは女性は好きだ。だが、ここまでの興奮を覚えたことは未だかつてなかった。
 そして、カタリナは精神の昂りを抑えられずにアリエルに抱きつく。
 触れた瞬間にもっちりとした肌の感触が、カタリナの顔や手に伝わってくる。
「スベスベだぁ……!」
 背中にスリスリと頬を擦り付ける。
「ひゃっ……。ちょ、カタリナさん。くすぐったい、です」
「ごめんね」
 柔らかな肌に触れた彼女の頭はお花畑。もはや、ここは彼女にとっての天国と言っても過言ではない。
「じゃあ、トップバスト測るねー」
 白色の布で覆われた綺麗な双丘にメジャーを回す。
「はい、次、アンダーバストね」
 着実に合法的な接触行為をしながらもアリエルの体のサイズを測っていく。
「お疲れさま、アリエルちゃん」
 身長やら、バストサイズやら。アリエルの色々な事を知ることができた彼女は昇天しそうなほどの笑顔を浮かべる。
「服、はーー」
 衣服を手渡そうとした瞬間にカタリナはつまづいてしまう。
 倒れてしまう事を悟り、目を瞑り、
 
 ーーサイズ測定を言い訳におさわりをしたからバチが当たるのですね……。
 
 と、受け入れようとしたがいつまでも衝突の瞬間は訪れない。どう言う事だろうと目を開くと、カタリナによって抱きとめられている。
「大丈夫、ですか?」
 トクンと、一際強くカタリナの心臓が鳴り響いた。
「は、反則ぅ……」
 可愛くて、格好良いなんて反則だ。
 顔を手で覆い隠しているが、カタリナの顔は耳まで真っ赤だ。
「立てますか?」
「うん、大丈夫。アリエルちゃんは大丈夫なの? ほら、私を助けた時に……」
「ちゃんと鍛えてますから。それにカタリナさん、とっても軽いですよ?」
「アリエルちゃん、ごめんなさい……」
 反省はしている。
 無防備なアリエルに対してベタベタと身体を撫で回した事。
 ただ、後悔はしていない。
「え? どうしたんですか?」
「な、何でもない!」
 女性同士ならば、この程度はスキンシップの内に入るのではないかなどとアリエルも考え始めていた。同年代の女性との関わりが殆どなかったからか、スキンシップなどに関して疎いのかもしれないと。
「カタリナさん」
 だから、手を握ると言うのは当然のことなのかも知れない。
「は、はい!」
 先ほどは自分から触り、撫でまわしていたと言うのに、いざ相手から手を握られると、緊張したような顔を見せる。
「よろしくお願いしますね」
 アリエルの笑顔にカタリナは、更に心惹かれてしまうのだ。

 




「まあ、座りたまえよハワードくん」
 社長室に戻ってきたエイデンはオスカーをソファに座るように促す。
「失礼する」
 オスカーは断ってから、黒色のソファにオスカーが座り込む。材質の良いソファなのだろう。腰を預けるとよく沈む。
 ガラステーブルを挟んで二人が向かい合う。
「コーヒーで良かったかな?」
「構わないさ」
 コトリと置かれたティーカップを持ち上げて一口、口をつけてからカップを皿の上に置く。
「……金持ちだろ、アンタは」
 だと言うのに、客に出されたのは安物のインスタントコーヒー。少しばかりの不満を見せながらオスカーが溜息をついた。
「ははっ、そうだな。折角、私が入れたんだが、別のものを持って来させようか?」
「いや、これで良い。これはこれで落ち着く」
「ーーそれと、君のことはと呼んだ方がいいかね」
「そっちの方が馴染みがある。アンタの外面は知ってるけど、ハワードくんなんて呼ばれたら鳥肌が立っちまう……」
「悪かったね。私にも体面と言うものがある。初対面の相手だ。少しでもよく見せたいだろう?」
 スーツの襟を正しながら、彼はお茶目さを演出するような口ぶりで告げた。
「それで、オスカー。上手くやってるかね?」
「上手くも何も知っての通りだよ」
「『家族』だったか……」
「団長の台詞だな」
 フ、とオスカーはコーヒーの入ったカップを持ち上げ、その途中で動きを止めて笑った。
「『牙』のことだろ? あの人は本当に家族だと思ってるよ……。オレの事も。今日来たアリエルのことも」
 ズズと、コーヒーを口にする。
「君はどうかね?」
「オレも家族だと思ってるさ」
「成る程……」
 ニヤリとエイデンが笑う。どこか企むような顔にも見えるが、オスカーは気にした素振りを見せない。
「紛れもなく家族さ」
「君は『牙』の一員だが、私の家族でもある。その事は憶えているかな?」
「忘れるわけないだろ……」
 とある雨の日に、オスカーは家族を失った。当時会社を起業して何年かが経とうとしていたエイデンと、十代の若者であったオスカーは出会い、そして引き取られた。
「まあ、アンタには世話になってる。団長らと引き合わせてくれたことも感謝してる」
「ははっ、それは嬉しいことだ」
「なあ、オレとしてもアンタの夢は素晴らしいと思ってんだよ」
「賛同を得られて何よりだよ」
「アンタの夢が叶う瞬間に立ち会いたいとも思ってる」
「ああ、立ち会えるさ。同じ時代に生きる同じアスタゴの国民。ましてや私と君は家族と言っても差し支えはないだろう?」
「そうだな……」
 二人はカップを持ち上げた。
「神の祝福を、そして我らの未来に幸あらん事を」
 エイデンから、祈りの言葉がかけられた。神の祝福などと祈る事には大した意味合いはない。古くからの慣習から来ているようなものだ。
 どれほど取り繕った所で、結局のところ、幸あれGood luck程度の意味しか持たないだろう。
 ただ、彼は大袈裟に語りたいだけの好々爺と思っていいのかもしれない。
「神、ね……」
「おや、オスカー。君は神を信じていないのかね?」
「アンタはどうなんだ?」
「無論、信じているとも」
 信じて疑ってもいない。有神論者は神の存在を当然と受け入れる。
「オレも信じてる」
 彼らの会話が途切れた。
 途切れて数秒、エイデンの携帯電話から着信を知らせる音が響いた。
「ーーむ? ああ、カタリナだ」
 十秒ほど話すと、通話を切る。
「どうやら終わったようだ」
「助かりましたよ」
「『牙』の製造は至極当然のことだ。気にしなくとも良い」
 コーヒーを飲み干して二人はゆっくりとソファから立ち上がる。
「完成までは一週間ほどかかる」
「知ってます」
「既に、カタリナにアリエルくんは玄関まで送らせた。『牙』の一員である君達は私も見送らねばな」
 既に家族のような親しみのある会話はない。交わされるのはエイデン・ヘイズとオスカー・ハワードと言う、互いに仕事相手に対する距離感のある会話だ。
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