異世界版ヒーロー【魔石で変身 イセカイザー】

鹿

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1 序幕

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『ヒーロー』それは誰もが憧れる存在。

『変身』それは誰もが憧れる言葉。

贅沢にも、その2つに憧れた男がいた。

『変身ヒーロー』になる事を、夢見る男が……


「貴様ら!その子を離せ!悪は許さん!とう!」

野外ステージの上では、コオロギの仮面を被ったヒーローが、蜘蛛の怪人と闘っている。

「Are you ready?Go logy!」

舞台も終盤、必殺技を繰り出すヒーロー。

「グワーッ!やられたー!」

蜘蛛の怪人は、ヒーローのキックを受けて倒れた。

「やったー」

「かっこい~」

「ゴーロギー!」

子供達の声がステージに響き渡る。


ヒーローショーが終わり、ステージ裏では着ぐるみから生えた、おじさん達が雑談をしている。

「やっぱ夏は勘弁して欲しいよなぁ」

コオロギの仮面を外し、頭にタオルを巻いたおじさんが、背中のチャックを開け、上半身を着ぐるみから出して倒れるように椅子に座った。そして団扇で仰ぎながらアイスコーヒーを口にした。

「そっすね~。暑さ手当て欲しっすね~」

蜘蛛の怪人の仮面を外した青年は、ぬるい麦茶を飲みながらそう答えた。

【俺の名前は『一色 飛翔』(いっしき あすか)
飛翔と書いて「あすか」
まさしくヒーロー向けの名前だと思わないか?

長所は、誰とでも直ぐ仲良くなれる。それとポジティブ。
短所は、良く噛む。それと、思い込みが激しく、勘違いをする。良く言えばポジティブ。

チャームポイントは、多少目付きが悪いことと、それを中和する左目の泣き黒子。まさしく飴と鞭の同時活用。
年は20歳。独身。身長183センチ。

趣味は変身ヒーロー全般。

いわゆる変身ヒーローおたくだ。
変身ヒーローに憧れて、ヒーローショーのバイトを始めたが、目付きが悪い上に身長が高すぎて、悪役しか回ってこない…

私生活でも同じだ。
良い事をしようとしても逆効果。

喧嘩の仲裁をしても、警察に捕まるのは何故か俺。
迷子を助けても、痴漢を撃退しても犯人は俺。
倒れた婆さんを心配して、手を差し伸べた事もあった。もちろん警察を呼ばれたよ。
やる事なす事全て裏目。
ただヒーローになりたいだけなのに。

Are You Ready?だって?俺はいつでも準備良し!
Go Logy!はコオロギと、かけてるだけだろ?意味は分からん!

俺の愚痴…いや、紹介はこんなもんだ。
悪役街道まっしぐらな毎日を送っている。

しかし世間では、今夜8時、一生に一度見れるかどうかの流星群が降るらしい。

そんな事よりも、俺はコンビニで発売されている、五百円クジの、A賞のヒーローフィギュアを狙っている。そしてあるコンビニに目をつけていた。
以前五千円分買って当たらなかったが、今朝、残りが二十個を切っていた。
今日行けば、一万円以内で確実にゲット出来る。今朝は買えなかったが、仕事帰りに何としても手に入れてみせる】


18時45分

「ハァハァ。出遅れた!」

アスカは、走ってコンビニへ向かっていた。
明日のショーの準備に手間取っていたのである。

流星群を見るためか、街を歩く人は殆どいなかった。

しかし、しばらく走っていると、目の前を小太りの男が、ゆっくり歩き細い道を塞いでいた。

「邪魔だぜオッサン!どいてくれ!」

そう叫んで横をすり抜けたが、肩が当たってしまった。

「悪りぃ急いでるんだ」

振り向いて謝った時、タクシーが近付いて来るのが見えた。

(早くしないと誰かに先を越されるかもしれない!アレに乗ろう)

タクシーに向かって手を上げた。

すると、アスカよりもタクシーの近くにいた、小太りの男が手を上げた。

「何っ!」

タクシーは男の前で停まり、男が乗り込むと、そのままアスカの横を通過して走りだした。
すれ違い様、男はアスカに向かって親指を立てた。

「グ~ッド。じゃないわ!あの野郎!当たったからって憂さ晴らししやがって!」

走り去るタクシーを睨んでいたが、今はそれどころではない事を思い出した。

「しまった!こんな事で誰かに先を越されたら、目も当てられない!」

アスカは再び、コンビニ目指して走り出した。


19時05分

アスカはコンビニで怒りに震えていた。

目の前で、先程肩が当たった小太りの男が、九千円出して全てのクジを買ったのだ。勿論A賞のヒーローフィギュアをゲットした。

(何でここにいるんだ?肩が当たった時にフラグも当たったのか?当たった俺が悪いんだが。いや、A賞が当たらなかった俺が悪いんだ。あれ?肩に当たった俺は悪くないのか?当たったんだからね)

軽くパニックになったアスカは、泣く泣くコーヒーだけ買って店を出ようとした。しかし男が、出口で振り返りアスカを見た。

そして、右手の人差し指と親指をくっつけて輪を作り、お金のサインをアスカに見せながら、『二シャリ』と左の口角を上げて笑った。

「くっそ~馬鹿にして!九千円くらい持っとるわ!」

すると男は無言で肩を窄め、への字口にして首を左右に振った。

「やれやれ~。じゃないわ!今謝れば許してやる」

頭に来たアスカは、ビニール袋から缶コーヒーを取り出し、投球フォームをとった。

すると自動ドアが開き、まるでモデルのような美女が入って来た。

「おっ君ありがと~」

そう言った美女は、フィギュアを受け取り、おっ君と呼ばれた男の腕にくっついた。

おっ君はさっき指で作った、お金のサインをゆっくりと握り拳に変えた。
そして更にゆっくり小指を上げて、またもやアスカに見せてきた。

アスカは怒りで視界がグニャリと歪んだ。

「もう謝っても許さん!」

おっ君は更に、先程と反対側の口角も上げて「グフッ」と笑った。前歯が一本抜けていた。
それはとんでもない破壊力だった……

「ガハッ!」

アスカは、まるで血を吐いたような胸の痛みを感じた。

(胸が締め付けられる!俺は負けたのか?)

おっ君を見るとA賞の当たりクジにキスをして、店の外に投げ捨てた。
そこでアスカの怒りが頂点に達し、意識と缶コーヒーを手放した…


19時30分

ショックでしばらく放心状態だったアスカは、外から言い争う声で我に帰った。

「何だお前?怪我してぇのか?亅

コンビニの外に、ナイフを持ったチンピラがいた。対する短髪男は、傘を持っていた。

(喧嘩か?俺の行き場の無い怒りをぶつけてやるぜ!)

憂さ晴らしのため、外に出ようとした所で涙と鼻水で、ボロボロにダメージを受けた自分の顔がガラスに映った。

「ちくしょう……覚えてろよ」

(しまったこのセリフ、何だか俺が小悪党みたいじゃあないか……)

アスカは自分のセリフで、更にダメージを負った痛む心を押さえつけ、手の甲で乱暴に涙を拭った。

赤く腫れた目を見せまいと、空になったビニール袋に穴を開け、覗き穴を二つ作ると、おもむろにそれを被った。

そしてそのままコンビニの外に出た。

「そこまでだ!」

ナイフを振りかぶった男にそう告げた。

とんでもない、ナイスタイミングだった。
ここしかないという、グッドタイミングだった。
二人とも驚いてアスカを見ている。

(決まった…)

アスカはゆっくりと見回した。
目の前で対峙する短髪と金髪から少し離れた場所に、夏にも関わらず黒のコートを着てフードを被った怪しい格好の女が一人、そして彼女を囲むように三人の男たちがいた。

「!?っ」

その内の一人が、おっ君に似た体格の小太りだった!
アスカは、怒りが沸々と蘇って来た。

「悪は許さん!」

さっきの恨みを右の拳に乗せて、小太りの顎へ放った。
クリーンヒット!
激しく脳を揺さぶられ、膝から崩れる小太りを横目に、次の男へ回し蹴りを決めた。
クリーンヒット!

そして素早く三人目に顔を向けた途端に、視界が真っ白に染まった。

(しまったビニール袋がズレた!)

しかし、ここで慌てるヒーローはいない。

アスカはゆっくりと腰を落としつつ、左腕はダラリと垂らし頭を下げて、右手でゆっくりとビニール袋を元に戻した。

三人目の男を視界に捉えると、流れるような動きで鳩尾に正拳突きをめり込ませた。

「危ない!」

短髪の声と同時に後ろから、金属音が転がる音が聞こえた。
振り向くと、金髪がナイフを落としていた。
金髪は倒れた仲間を起こしてこう吐き捨てた。

「お、覚えてろぉ~!」 

(その言葉さっき俺も言っちゃった…恥ずかしい!ビニール袋を被ってて良かった。ビニール仮面はダサいけど…)

「あ~、やっぱりあの台詞を言うんだ…」

短髪が肩を窄めて言った後、怪しい格好の女が、とんでもない言葉を言い放った。

「ダサい…」

アスカは恥ずかしくなり咄嗟に反論した。

「ビニールしか無かったんだから仕方ないだろ!」

「い、いや、あの、さっきの捨て台詞がダサいって言ったんですけど…何かすみません」

(ビニール仮面のことじゃなかった…)

「あ~ね…はは…怪我してない?」

アスカは、勘違いで怒鳴ったことを申し訳なく思い、ビニール袋を取って謝ろうとした。

(ダメだ!おっ君のせいで、涙と鼻水でボロボロだった。目が腫れてたな……あれ?何だか髪の毛がピリピリするぞ?何か来る予感がする)

それもアスカの勘違いで、実際は髪とビニール袋との摩擦で静電気が発生していた。

「助けに来なくて良かったのに。早く何処か行って」

(ズキューン!その悲しそうな瞳で見ないでくれ。恋の稲妻が落ちる予感はピリピリ察知してましたぁ~!)

「私は呪われてるんです…魔女なんです。私に関わると良くない事が起こるんです。だから早く離れて下さい。」

「「へ?」」

アスカと同様に、短髪の男も驚いている。

(ま、まあこれだけ可愛ければ、疎ましく思う補欠群が、呪いの手紙とか出したくもなるだろう。ビニールが邪魔で良く見えないけど)

「助けていただいて、ありがとうございました」

(ズギューン!良い子だ!魔女は俺に恋の魔法をかけたのか?いや魔女じゃない天使だ。黒の天使がここにいました。ああ、神様この出会いに感謝します)

そう思いアスカは空を仰いだ。
そこには空は無く、巨大な何かが真っ直ぐ向かって来ていた。

(アレは……アレか?隕石だろ?)

「こりゃ詰んだわ」

(20歳。良い事なんて何一つ無い短い人生だったなぁ。黒の天使と出逢って直ぐにこれかよ。生まれ変わったらまた逢おう。
さらば黒の天使。
さらばヒーロー…)

「隕石?」

短髪が、そう言った途端に視界が真っ白になった。
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