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しおりを挟む目を覚ますと、そこは全てが真っ白な世界だった。
「……ここは…天国?」
立ち上がり、ビニール袋を外そうと手をかけると、目の前に黒の天使が倒れている事に気付いた。
(これはもしや、二人っきりの世界?願いが叶った!)
「ありがと~~!神様ぁ~~!」
そう言って左を見ると、短髪男が倒れていた。
「どチクショ~~~!どうしてだ!?」
アスカは落胆し、崩れ落ちた。
(どうして、あいつもいるんだ。神様にありがとうを返して欲しい)
「白い部屋来た~~~!」
黒の天使が叫んでいるが、アスカは落胆したまま力が入らない。
「こ、これは絶対そうだよね?異世界転生だよね?転移かな?…どっちですか~?女神様ぁ~!」
(女神様?何を言ってるんだ?そうか、やっぱり君は天使なんだね)
「おーい」
短髪が黒の天使に声を掛けた。
「キャーーー!ビックリした!えっ?何?二人?私一人じゃないの?あれ?あそこにもう一人いる?どういうこと?女神様ぁ~!」
「女神様?何のことだ?何か知ってるのか?ここはどこなんだ?」
そんなやり取りを聞いていると、何処からともなく声が聞こえてきた
「貴方達は死にました」
(やっぱりそうか…)
今まで生きてきた思い出が、走馬灯の様に流れては来なかった……
(人助けはしたこともない。逆に警察のお世話になる事数知れず。悪役にはなれたが、結局ヒーローにはなれなかった。A賞も手に入らなかった。小太りのオッサン、いや、おっ君に馬鹿にされた。そうだ馬鹿にされたんだ!
あの、おっ君だけは許さん!絶対に許さん!)
「チクショ~!」
女神の言葉とは全く違う事に悔しがるアスカ。その目の前で、黒の天使が落ち込んだ表情で話し始めた。
「やっぱり私の呪いのせいですね。皆さんを巻き込んでしまいました。ごめんなさい」
そして女神が続けた。
「不運にも隕石の破片により貴方達は死にました」
(隕石が直撃したんじゃぁ仕方ないよな…)
「実は貴方達は死ぬ予定じゃなかったんです。ちょっとミスして隕石が落ちてしまいました。でも大丈夫です。直ぐに気付いて隕石と共に、地球の皆さんの記憶を消したので、貴方達以外の人は死んでませんし、何も覚えてませんから」
(なっ!?何が大丈夫なんだよ!)
アスカは衝撃の事実を耳にした。
「どういうことだ?俺たちは間違いで死んだのか?だったら生き返してくれ!」
力の抜けた足に喝を入れ、ワナワナと立ち上がり女神に抗議した。
「ごめんなさい。一度死んだら元の世界に戻る事は出来ません」
(ガハッ)
足に入れた喝は、あっという間に効果がなくなりその場に再び崩れ落ちた。
「女神様!『元の世界には』と言うことは『他の世界には』行けるんですよね?」
(他の世界?)
「それは可能です。今回はこちらのミスですので、私の管轄下にある、別の星に転移しようと思うのですがよろしいでしょうか?」
「そ、そこは剣と魔法のファンタジーな世界ですよね?」
「そうです。その星の名はナイナジーステラ。レベルやスキル、職業がある世界です。よろしいでしょうか?」
話がドンドン進んでいくが、アスカには全く意味が分からない。
(何を言ってるんだ?別の星で生き返れるのか?)
「ちょっと待ってくれ。意味が分からない。要するに俺たちは、アンタのミスで死んだから、お詫びに別の世界で生き返してやるって事か?」
アスカは、ミスを犯した女神に聞いた。
「概ねその考えで合っています。そして紹介が遅れました。私の名前はアンタではなく、アンジュです。貴方たちの世界では天使という意味ですが、女神アンジュです。以後お見知り置きを」
輝くドレスのスカートを両手で摘み上げ、気取っている。
(俺たちはアンタのミスで死んだんだぞ!何でふざけてるんだ!反省してないな!無視だ!無視!)
「職業ってのは何だ?」
アスカは、女神の挨拶を無視して話を逸らした。すると黒の天使が、興奮した表情でアスカに声をかけた。
「ちょっと!」
(黒の天使がこっちを見てる!可愛い…はず!ビニール袋が邪魔でちゃんと見えないけど)
「いいですか?予期せぬ事故で死んだ主人公が、真っ白い世界で女神様に会って、異世界に転生やら転移をする最近流行の小説を知らないんですか?」
「「知りません」」
アスカと短髪の声が揃った。
「嘘でしょ!?その世界では様々な種族が生活していて獣人や妖精それにドラゴンのようなモンスターもいますそして地球とは違う職業があってそれにより魔法やスキルを覚えてステータスオープンと言えば自分のステータスを確認できるのです更に女神様のお詫びの印にチートな職業やスキルを与えられて楽しいことしかない最高な憧れの世界ですよ!」
黒の天使は、捲し立てるように説明をした。
「つ、つまり、ゲームのような世界に行けるって事なのか?」
「あながち間違いではないです」
(何っ!?これはワンチャンあるかも)
「だったら、職業に変身ヒーローとかもあるのか?」
アスカの期待も増していく。
「あります」
黒の天使がそう答えたが、女神が否定した。
「いいえ。ありません。勝手に話を進めないでもらえますか。とは言え彼女が説明してくれた内容で職業以外は、ほぼ合っています。
理解されましたね。それでは、お詫びとして貴方たちにギフトを九つ与えます。お好きなものを何でも選んで下さい」
「きゅきゅきゅ、九個ですか!?ひ、一人、九個って事ですか!?」
(可愛い小動物がいる)
「いいえ。三人で九つです。三人平等に三つずつでも構いませんし、一人で九つ全て選んでも構いませんよ。三人で話し合って決めて下さい」
「ビックリした~。それでも九個は凄いですね……ここは平等に一人三個にしましょう」
「じ、自分はそれで構わない」
黒の天使が提案し短髪が賛同した。意味がわからないアスカに、もちろん異論はなかった。
「お、俺もだ」
「決まりですね。それではどなたからでも結構ですよ」
「正直まだ半信半疑なんだが、こういう場合はどんなスキルが良いんだ?」
短髪が、嬉しそうに黒の天使に聞いた。
(黒の天使と仲良くないか?)
「スキルですか?そうですね。先ずは言語理解でしょうね。生まれ変わる転生ではなく、転移なので言葉が分からないと大変でしょう。そして必ず重宝するのがアイテムボックス。あとは、メニューのように物事を説明してサポートしてくれる、システム的なものがあれば便利ですよ。その他は職業のスキルで補えます」
黒の天使は、とても嬉しそうに短髪と話している。
「じゃぁ自分はその三つでお願いします。職業は無職で結構です」
「了解しました」
(職業は決めなくてもいいのか?)
「オホン。自衛隊さん。無職も立派な職業の一つですよ。これでは四つのギフトを使っていますが、宜しいですか?」
(おいおい!一人三つだろ?)
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「宜しいのですか?」
「はい。女神様の命のままに」
(格好つけやがって!)
「了解しました」
「うぉー!死んだのにテンション爆上げだ!どんなゲームの世界なんだ?くぅ~!楽しみだ!」
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「そのような職業はありません」
「ズリーぞ!自衛隊は良くてなんでオレはダメなんだよ!」
「アホゥ!自分は無職だ!更に自分の職業は自衛隊ではない、自衛官だ!」
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「はい」
「どっちでもいーわ!!おい!女神!変身ヒーローとはな、普段は普通の人間だが、何とかカイザーとか、何とかライダー、ジャー、ダー、マン等に変身したら、数10倍の強さになれるんだ!人間を超越した力で悪と戦うんだ!オレを変身ヒーローにしてくれ!」
(頼む!)
「…仕方ありませんね。承知しました」
(え?変身ヒーローになれるのか?よしっ!!職業さえ決まれば後は何でも良い)
「スキルは言語理解と、アイテムボックスとかいうのでオネ」
(変身ヒーローになれる?夢にまで見た変身ヒーローになれるんだな?くぅ~!どんなヒーローかな?
そこも詳しく言うべきだったか?ライダー系にするか?そもそもバイクはあるのか?ないだろうな。何とかマンとかは止めて、新しいヒーロー像を作ってみるか?いや待てよだったら……)
アスカは喜びと興奮で周りが見えていなかった。
そこに突然声をかけられた。
「良いですか!?」
「…ん?あ、ああそうだな」
(ビックリしたぁ!黒の天使が俺に話しかけてきた!何の事か分からないけど)
何やら女神と話している黒の天使は、不安気に女神を伺っている。
(その顔も可愛い…そうか!もしかしたら、黒の天使がヒロイン!?)
次の瞬間、黒の天使は満面の笑みを浮かべた。
(間違いない!彼女がヒロインだ!)
そして、黒の天使がアスカに向かって歩き始めた。
(な、何だ!告白か!?)
すると、反対側から自衛隊が歩いて来て、黒の天使と向かい合った。
アスカの目の前で、二人が見つめ合っている。
「狭いですね」
(どういう事だ!自衛隊と見つめ合ってるぞ。クソォォ)
「絶対押すなよ」
自衛隊が意味の分からない事を言っている。
「それでは皆さん、新たな世界を楽しんでください」
女神の言葉の後に、自衛官と黒の天使が輝き出した。
(何だこれは!二人に対して女神の祝福か!?ふざけんなよ!俺のヒロインじゃなかったのか!こんなの納得出来るか!)
「ちょっと待ってくれ!」
怒りに震えるアスカは、二人の間に入り自衛隊から黒の天使を引き剥がした。
「おい!フリじゃないんだぞ!」
その言葉を無視して女神へ近寄るが、自衛隊の叫び声を聞き歩みを止めた。
「うわああぁぁぁぁ」
そしてアスカが振り向くと、立ち登る光の中を、自衛隊は回転しながら上昇していた。
「出ちゃダメですよ!正常に転移されなくなりますよ!」
女神は何やら焦っているが、話を聞いていなかったアスカには全く理解できなかった。
(ん?出ちゃダメ?どこから?)
そして光に包まれた自衛隊は、天井にぶつかる寸前で跡形もなく消えた。
「消えた!」
呆気に取られていると、黒の天使に背中を強く押された。
「早く戻って下さい!」
前のめりで倒れるアスカの頭が、立ち昇る光に触れるとビニール袋が弾き飛ばされた。
そのままアスカも、後ろへ高速回転しながらアクロバティックに上昇を始めた。
「あらららららら」
そして再び視界が真っ白になった。
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