異世界版ヒーロー【魔石で変身 イセカイザー】

鹿

文字の大きさ
28 / 34

28 救助

しおりを挟む

教会にいた美しい亜人が、アスカの窮地に颯爽と現れ、ゲレイドとミハエルを吹き飛ばした。

「ゲレイド!ミハエル!おのれぇ!き、貴様ぁ!」

ダズカスは明らかに動揺し始めた。

「シスター……フラン?ど、どうして……ここへ」

しかしよく見ると、緑のマフラーをひるがえす、イセカイザーグリーンの姿であった。

(ぐ、ぐりーん?)

朦朧とした意識の中、左側にも誰かがいる気配がした。その時、椅子にアスカを縛り付けていた紐が解けた。同時に左の視界から、イセカイザーピンクが現れた。

(ぴん、く?)

ピンクはアスカの右手にはめられた、無力の腕輪を引きちぎった。

『ミミ~』

(まさか)

落ちそうになる意識を繋ぎ止め、アスカは両手を叩いた。それは力無く、ぺちんと鳴った。しかし条件は満たされた。
アスカの手に緑の魔石が現れた。

震える手で、それを胸元へ添えると、あの言葉を呟いた。

「変…身」

しかし、その条件は満たされてはいなかった。

(変身できない。何故だ?)

「何だ、その魔石は!どこから取り出した!何をするつもりだ!」

甲高い声を聞き、そこでアスカは理解した。

(あいつに見られていると変身できない……)

視線を上げるとゲレイドが立ち上がり、腰の剣を抜いてグリーンに斬りかかった。

「死ねぇ~!」

だがそれを難なくかわし、拳を腹にめり込ませると、ゲレイドはくの字に曲がりミハエルの側に崩れ落ちた。

「き、貴様何者だ!」

更にグリーンは振り返り、ダズカスを担ぎ上げると、その場から立ち去った。

「やめろ!は、放すのだ!ワシを誰だと思っておるのだ!金か?金が欲しいのか?それなら好きなだけ……」

ダズカスの声は遠ざかり聞こえなくなった。

(ありがとう。だがすまない……力が、残って、ない)

しかし最後の力を振り絞るが、魔石を持った手は重くて上がらなかった。

アスカは右手をダラリと降ろすと、緑の魔石を落としてしまった。
硬質な音を響かせ、無情にも緑の魔石は転がって行く。

そしてピンクの足に当たり止まった。

(だめだ……ここまで、か)

ピンクは緑の魔石を拾い上げ、アスカの右手に握らせると、そのまま、その手をアスカの胸に導いた。

「は、はは……ありが、とう」

ゲレイドとミハエルは、白目を剥いて気を失っている。

「へ、ん、し、ん」

右手の魔石が激しく輝き始める。
それと同時に意識がハッキリとして、頬の痛みがなくなり、左目も見える様になった。そして身体中に力がみなぎってきた。

緑の魔石がアスカの胸に吸い込まれ、眩い光に包まれた。

「ふぅ~。ギリギリだった。サンキュ!ミミ!今回は危なかった!マジで助かったよ」

『ミミ~』

「そうか、お前がキュウを助けてくれたんだな」

『ミミ』

その時、気を失っていたゲレイドが立ち上がった。

「き、貴様ら何者だ!ダズカス様は無事か!?あの男を何処へやった!」

ピンク(ミミ)は地面を蹴ると、猛スピードでゲレイドへと肉薄した。

「ミミ!殺すな!」

ピンクは地面に足を立て、急ブレーキをかけたが間に合わず、ゲレイドにぶつかり吹き飛ばしてしまった。ゲレイドはまた壁にぶつかった。

その音を聞き、意識を取り戻したミハエルであったが、再びゲレイドが倒れ込み、頭と頭をぶつけて二人は気絶した。

「悪りぃなミミ。だが人は殺すなよ。こいつらと同じにはなりたくないからな」

『ミミ~』

「それにしても今回はマジでダメかと思ったよ。貴族怖えな。そうだ!あの貴族。キュウは何処まで行ったんだ?」

『ミミミミ~』

「ミミ分かるのか?そもそも、どうしてここが分かったんだ?いや、今はそれどころじゃないな!キュウの元に連れて行ってくれ」

『ミミ~』

走るミミの後をアスカは追いかけた。
部屋を出ると、同じ石造りの通路が伸びていた。
そして、似たような部屋がいくつもあり、全ての扉が開かれていた。

「なる程ね。全部開けて確認してたのね」

階段を登ると、豪華な装飾品や骨董品が並ぶ部屋に出た。

「宝物庫か?」

様々な武器や防具が、所狭しと飾られている中、壁に飾られた刀に目を止めた。

「日本刀か?」

アスカはそれを持ち上げた。
すると、たった今、出てきた扉が一人でに閉まり、他の壁と見分けがつかなくなった。

「隠し部屋だったのか」

(貴族が開けっ放しだったんだろうな。閉まってたらキュウたちには見つけられなかったかも)

アスカは身震いをした。

(この刀は頂いとくか)

「圧縮」

宝物庫を出ると、執事やメイドが逃げ惑っていた。
気にする事なく二人のイセカイザーは、二階へ駆け登り、通路を奥に進んだ。ここもやはり全ての扉が開かれていた。

ピンク(ミミ)は通路の中間まで来ると立ち止まった。そして開かれた扉の部屋に正対した。

「この部屋か?」

そこにはグリーン(キュウ)と、貴族ダズカスがいた。

「厨房かよ!」

そこは広い厨房だった。
料理人は逃げ出して一人もいなかったが、幾つもの豪勢な料理が皿に乗せられていた。
ダズカスは厨房の真ん中で頭を抱え、座り込み震えている。

グリーン(キュウ)は料理の乗った皿を両手に持ち、グリーン(アスカ)に駆け寄った。

『キュ』

そして、皿を差し出し首を傾げた。

「全く。お前らは、可愛いな。腹が減ってたのか?持って帰って、後で食べよう。圧縮」

グリーン(アスカ)は料理を受け取り、超亜空間へ送った。

「待たせたな畜生!圧縮。お前は貴族という皮を被った畜生だ!圧縮。もう逃げ場は無い観念しろ!圧縮」

グリーン(アスカ)は、ダズカスの元へ歩くのと同時に、並ぶ料理を片っ端から超亜空間に送っていった。

「か、金なら好きなだけやる!だから頼む。命だけは助けてくれ!」

「何だそのダサい決まり文句は!お前が殺した人たちも同じ事を言っただろ?助けてやったのか?
あ、いや、その人たちはダサくない。ダサいのはお前だけで……だ~!締まらない!地球では悪役ばかりやってきたからな。決まり文句は絶賛練習中だ。圧縮」

「あ、あの男も殺してないだろ?今から回復してやるところだったんだ!な?頼む助けてくれ!」

「あのイケメンの美青年は、既に解放した」

「ひっ!く、来るな!」

「次回予告だ。お前は金輪際、人を、いや、生き物を傷つけない。そして教会には指一本触れない。それどころか教会に寄付をする。更には教会のシスターや子供たちを、末代まで守り続ける」

それを聞いたダズカスは、入り口を見てニヤリと笑った。

「ヒーッヒッヒッ!このワシが、そんな事する訳ないだろう!観念するのは貴様らだ!お前らかかれ!」

ダズカスが叫ぶと、イセカイザーたちが入ってきた入り口から、鎧で武装した兵士が次々と入って来て立ち塞がった。

「そいつらを殺せぇ!」

「はぁ。無駄だよ」

グリーン(アスカ)は、素早くダズカスとの距離を詰めると肩に担ぎ上げた。

「は、離せ!」

「I’m ready!」

そして窓際に走り出した。

「や、やめろ!ここは三階だぞ!ギャ~!」

そのまま窓を突き破り外へ飛び出した。

グリーン(キュウ)とピンク(ミミ)もそれに続いた。

「落ちる~~~!!」


『貴族の恐ろしさを目の当たりにしたアスカ。
仲間の力に救われて窮地を脱する事に成功した。
そして、キュウがダズカスを連れて来た場所は調理室。ミミがアスカを案内した場所も調理室。
ただ単に、腹が減っていただけであった。
食え!イセカイザーグリーン(キュウ)
食せ!イセカイザーピンク(ミミ)
次回予告
追走』

「何を見たんだ?見てはいけない物なのか?
しかし貴族は思っていた以上にヤバいな。これからは関わらないようにしよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...