異世界版ヒーロー【魔石で変身 イセカイザー】

鹿

文字の大きさ
27 / 34

27 貴族

しおりを挟む

「おい!起きろ!」

アスカは顔に水を掛けられ目を覚ました。

「ここは……くっ!頭が!」

後頭部に痛みが走り顔を歪める。

「よく眠れたか?」

視力が戻ると目の前には、教会でりんごを当てて追い返した貴族ダズカスが、気色悪い笑みを浮かべ正面の椅子に座っている。その両サイドには護衛の騎士ゲレイドと、ローブを着た男が立っていた。

「ああ、良く寝たよ。ハァハァ。目覚めは最悪だけどな。そ、その顔のせいで吐き気がするよ。寝起きに見る顔じゃぁないな」

「ワシも今日は、グ~~~ッスリ、眠れそうだ。貴様の泣きわめく声を子守唄にしてなぁ。ヒッヒッヒ」

ホイッスルのように甲高い声が頭に響く。

アスカは痛む後頭部を右手で押さえると、手にはベッタリと血が付着した。しかしこれは、アスカにとって僥倖であった。

(ん?手が動かせる)

自分の現状を確認して安堵した。
腹部を椅子の背もたれに紐で縛られている。しかし拘束する物はそれだけだった。両手両足は自由に動かす事が出来る。人がいなくなれば変身出来る。

(よし!こいつら俺を侮ったな!)

「悪夢を見せてやるよ!ションベンちびるなよ」

「ヒーッヒッヒ。粋がれるのも今のうちだ。ワシに逆らった事を後悔させてやる」

「俺を甘く見ない方が良いぞ」

「ワシはなぁ。貴様のような底辺のゴミでも、全力で殺す主義なんだ。いいか?貴様こそ、ワシの全力を甘く見るなよ」

自由に両手を動かす事を知り、余裕が出てきたアスカは周囲を確認した。

(何だここは。牢屋なのか?)

レンガのような石で四方を囲まれた、10畳程度の薄暗い部屋だった。壁には鎖が二本垂れ下がっており、その先には手錠のような拘束具が付けられている。反対の壁際には鉄製の机があり、様々な工具が乱雑に放置されていた。

(趣味悪りぃ)

アスカの額から一筋の汗が流れ落ちた。

「ミミ聞こえるか?」

アスカは小声で懐に忍ばせたミミに話しかけた。
しかし返事は無かった。慌てて首元の服を伸ばし、中を確認したがミミの姿はなかった。

「ミミ!くそっ!ミミをどうした?」

「ミミ?ああ、レアなモンスターの事か?丁重に保護しているよ。オークションに出して売り飛ばす為にな。ヒッヒッヒ」

「何処にいるんだ!」

「言う必要は無い。ヒヒッ。どうせ貴様は死ぬんだからなぁ」

「この屋敷の中にいるんだろ?探し出す」

「ここから出られる訳がないだろう。頭を強く打ち過ぎたか?ゲレイド!」

「いえ。決してそのような事は。死なないように優しく殴りました」

「底辺だぞ、次からはもっと、も~っと優しく殴るんだ。危うく殺してしまうからな。ヒーッヒッヒ」

三人はアスカを嘲笑い始めた。

(今に見てろよ!その汚い笑い声を止めてやる)

「話は終わりか?だったら一人にしてくれないか?」

「予告をしようか。貴様は必ず命乞いをする。泣きながらなぁ。申し訳ありませんでしたダズカス様。二度と逆らいませんとな。優しいワシはどうすると思う?きっと命だけは助けてやるんだろうな。ヒーッヒッヒ」

アスカは手首に違和感を感じ視線を落とすと、右手首には見慣れない腕輪がはめてあった。

「それは無力の腕輪。一切スキルが使えなくなる。囚人用だ。高額だから、底辺には手に入れる事など出来んだろうなぁ」

貴族たちは笑い続けた。

(マジか!これじゃあ変身出来ない。くそっ!)

アスカは頭が痛むフリをしてイヤーカフを触った。

「本当にスキルは使えないのか?」

「ワシが何のために嘘をつく必要があるんだ?」

ナレーションは返事をしなかった。

(おい!返事をしてくれ!ヤバイ!変身出来ない)

超亜空間から魔石を取り出そうと手を叩いた。

「虫でもいたか?それとも今のがスキルの確認か?ヒーッヒッヒ。顔色が悪くなってきたぞ」

(嘘だろ……)

「ヒーッヒッヒ。可哀想に、顔面蒼白だな。さっきまでの勢いはどうした?」

「……くそっ」

「理解したか?諦めたか?つまらんなぁ。ゲレイド!やれ!」

「はっ」

「待て!そうだ。ワシの顔にりんごを当ておったな。あれは痛かった。貴様にも同じ苦痛を与えよう。ゲレイド。左の頬だ」

「承知しました」

ゲレイドはアスカの前まで歩くと、右の拳でアスカの左頬を殴った。

「ぐはっ」

その衝撃でアスカは椅子ごと倒れ込んだ。

(痛ぇ!マズいぞ。どうする)

「おいおいゲレイド。優しくしないと、死んでしまうではないか」

「そうでした。申し訳ありません。うっかりしてました。おい!起きろ!」

ゲレイドはアスカの首元を掴み、椅子ごと持ち上げその場に再び座らせた。

「左頬だぞ」

再びアスカは、左の頬を殴られ椅子ごと倒れた。
ゲレイドはアスカを座らせると、左の頬を殴った。

それは、何度も何度も続けられた。

「ヒーッヒッヒ」

痛みで気を失うが、水を掛けられ強制的に起こされる。
そしてまた左の頬を殴られる。

「や、やめてくれ……」

アスカの左頬は、腫れ上がり、ざくろのようになっていた。左目は潰れ、殴られる度に血肉を撒き散らした。左耳は既に聞こえていない。

「も、もうやめてくれ……」

「は?その言葉はワシの予告と違うな?しかし予告通りに事が進めば、ミハエルに回復させてやろう。どうだ?」

「ふざ、けるな……」

「続けろ」

ゲレイドは容赦なく腫れ上がった頬を殴り続けた。

「あがっ……」

口からは血を吹き出し、口内も歯が折れグチャグチャになっていた。

「まだ聞こえているか?その口ではもう喋る事もできんな。ワシはまだ全力を出してないぞ。しかしワシは優しいからなぁ。予告は覚えているか?予告通りにすれば許してやろう。だが痛いだろう。苦しいだろう。優しいワシは、これ以上苦しまないように、ちゃんと殺してやろう」

(お、おれは、死ぬ、のか……シスター・フラン、すまない)

片目になり、霞む目を凝らしてダズカスを見ると、驚きの表情をしている。

「なにもの……きさまら……のか」

何かを話しているが耳鳴りがして聞こえない。
ゲレイドも驚いて何かを話しているが聞こえない。

「どこから……」

「ダズ……さがって……」

三人はアスカの後ろに向かって叫んでいる。

(なんだ?おれの、う、うしろに、だれか、いるのか?)

振り向く力さえ残っていないアスカの右側を、誰かが通り前に出てきた。

刹那、ゲレイドは吹き飛びミハエルに当たると、二人は奥の壁に叩きつけられた。

(なにが、起きた……)

アスカの残った右目に映し出されたのは、緑の肌をしたあの人だった。

「シスター……フラン?ど、どうして……ここへ」


『ダズカスの指示で、拷問を受けるアスカ。
それは、左頬のみを執拗に殴られるという、陰湿な仕返しだった。
しかし、死を感じたその時、フランらしき人影が救助に現れた。
耐えろアスカ!忍べイセカイザー!
次回予告
救助』

「耐え忍んだよ!ハッキリ見えないが、シスターフランが助けに来てくれた!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...