自衛官のスキル【正当防衛】はモンスターにも適用される 〜縛りがエグい異世界行軍〜

鹿

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4 上官の命令に服従する義務

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ゼンジは目を見開き、真っ先に大声を出していた。

「む、無職じゃないの!?異世界来てまで自衛官!?どういうこと!?」

「うるさいぞ。静かにせんか!」

(この状況で静かにしてられるか!)

「了解!」

(何だ?逆らえないぞ!王の威圧感のせいか?)

「この者、勇者ではないのだな。間違いないか?」

アーノルド王は焦ら立つように、ロイン宰相を睨んだ。

「は、はい。間違いありません。ジエイカンという聞いたこともない職業です。勇者にしては、ステータスも低過ぎます」

ロイン宰相の答えに、ゼンジは怒りを覚えた。

「そんなの嘘だ!魔法は?モフモフを仲間にする大冒険は?自衛官?も、元だろ?今は違うんだよ!そ、そうだ転職すれば職業変更できるんだよな?どこの神殿に行けば良いんだ!」

パニックになったゼンジに、アーノルド王は叱責する。

「職業の変更など一生出来ん!転職など聞いたこともないわ!この戯けがっ!!」

アーノルド王の怒声に、他の者たちは顔を伏せた。

「己で確認してみよ!ステータスオープンと言えば自身のステータスが確認できる」

「そんな恥ずかしいこと出来るか!」

「貴様、誰にそのような口を聞いているのか分かっておるのか!やるのだ!」

「了解!ステータスオープン」

(くそ!どうして言う事を聞いてしまうんだ!まさか操られてるのか?)

突然、目の前に透明なウィンドウが現れた。

ーーーーーーーーーーー
名前 : 鏡 善士
種族 : 人間
分類 : 異世界人
属性 : 異属性、火属性
年齢 : 22
性別 : 男
職業 : 自衛官
階級 : 2等陸士
Lv : 1
HP : 21/21
MP : 19/19
攻撃力:23
防御力:25(+7)
素早さ:17
知 能:15
器用さ:18
幸運値:10
装 備 : 地球の服(防御力+2)、地球のズボン(防御力+3)、地球の靴(防御力+2)
アクセサリー : 地球の腕時計
スキル : 言語理解、迷彩戦闘服、警棒、大楯
自衛官の誇り : 上官の命令に服従する義務
ーーーーーーーーーーーー

(本当だ……自衛官でした…しかも2等陸士って陸自だろ……ん?『上官の命令に服従する義務』ってのがある。これのせいで逆らえないんじゃ?)

【上官の命令に服従する義務とは、自衛隊法によるもので、隊員は、その職務の遂行に当っては、上官の職務上の命令に忠実に従わなければならない。というものである……】

ゼンジは目の前が真っ暗になった。

(どうしてこうなった?
この短期間で目の前が白くなったり、黒くなったり慌ただし過ぎる。一度整理しなければ)

アーノルド王を含め、目の前の人間たちが、ゼンジに向かって何かを言っているが、それどころではないゼンジの耳には、何も入っていなかった。

(あの時、女神様は言った。剣と魔法のファンタジーな世界に転移させると。そして、好きなギフトを与えると。
間違いない!確かにそう言ったんだ。ここまでは良い。問題はここからだ。

自分は職業は選ばなかった。無職で良いと言った。女神様も了解してくれた。…はずだったのに!

どうして自衛官?しかも、上官の命令に服従してるし!騙されたのか?…そう言えば、あの時女神様は……
『自衛隊さんは自衛官だったのですね』
って言ってたな。ま、まさかあれは、
『自衛隊さんは無職じゃなくて、自衛官が希望だったのですね?』ってことか?)

「やりやがったな!絶対わざとだろぉ~!」

「……カン!…ジエイカン!」

(アーノルド王が何か言ってる……)

「ジエイカン、聞いておるのか!!!このワシを馬鹿にしおって!許さんぞ!」

アーノルド王は、この世の者とは思えない形相でゼンジを睨みつけ、怒りを露わにしている。

すると王の後ろから、白銀に輝く、美しい鎧を身に纏った男が前に出てきた。

「我が王に対する不遜な態度!死を持って償え!」

そう言ったかと思うと一瞬にして消え、次の瞬間にはゼンジの目の前に現れた。
ゼンジは驚き体を反らす。
それと同時に左顔面に激痛が走った。

「がはっ!」

『ガチャッ』

金属音が頭の中で響いた気がした。

男の拳は空を切ったが、それでも風圧によるダメージで、ゼンジはその場に倒れてしまった。口の中を切ったのか、鉄の味がする。

「運の良いやつだ。しかし安心しろ。次で死ねる」

(また死ぬのか?どうして…)

ゼンジは死の覚悟も出来ないまま、立ち上がる事さえ出来なかった。

「助けてくれ!誰か助けてくれぇ!」

周りを見渡すが、ゼンジを睨み付け、誰一人として動こうとはしなかった。

「頼むやめてくれ!やめてください!女神様!助けてください!ビニール仮面!黒の魔女!どこにいるんだ!誰でも良い助けて!助けて…」

死の恐怖で、恥じやプライドを捨て、必死に叫び続けた。
しかし目の前の男は白銀の帯剣を抜き、その切先をゼンジの喉元に当てた。

「待て、ギルダーツ!楽に死なせてやるな」

「御意」

ギルダーツと呼ばれた男は剣を収め、再び一瞬で王の後ろに下がった。

「無様だな。勇者でもない貴様など必要ない!とっとと自害せよ!」

その言葉を聞き、自然と涙がこぼれ落ちた。

(勝手に勘違いしたくせに、とんでもない事を言ってやがる!その言葉はダメだ!上官の命令に服従する義務が発動してしまう!!)

「了解!喜んで」

(ほらヤバイ!)

ゼンジの体は、その意思とは関係なく、勝手に壁に向かって歩き出した。

(止まれ!止まってくれ!)

そして、壁に飾ってある剣を手に取り、無表情で自分の首筋に当てた。
一筋の血が首を伝った。

(し、死ぬ…)

「チッ。待て」

アーノルド王が舌打ちをしてゼンジを睨みつけた。

「死ぬのはやめろ。ワシの城を貴様の汚い血でこれ以上汚すのは許さん。クソッ!死にたい奴を死なせるのはつまらんな」

「了解」

(た、助かったぁ)

剣を首から離し、無表情のままその場に落とした。

アーノルド王は苛立ちを隠すかのように、右手で髭を触り始めた。そして何かを思いついたのか、ニタリと気味の悪い笑みを浮かべた。

「一瞬でも気を抜くな。寝る事も許さぬ。死に恐怖せよ」

歪んだ顔でゼンジに告げると、今度はロイン宰相に指示を出した。

「苦しんで死ねるように、いっそ無防備な状態でモンスター共に襲わせてやる!こいつの身包みを剥いで、ゴルヴァルナの森に捨てて来い。
勇者も聖女も当てにならん。予定通りロベルトを北に向かわせろ!」

「仰せのままに」

ロイン宰相が頭を下げると、アーノルド王は踵を返して神殿から出て行った。

(何なんだこの世界は……どうして簡単に人を殺す事が出来るんだ?)

命は助かったが、ショックで何も考えることができなかった。

その後ゼンジは、その場でパンツ一枚になるまで服を剥がされ、両手をロープで縛られた。

そしてロープの先を騎士が引き、パンツ姿のまま馬小屋まで連れて行かれた。
騎士は、角がニ本生えた黒い馬のような何かに跨り、ゼンジに繋がったロープを持って、ゆっくりと雨の中を進み始めた。

城門を潜り街に出た。

夕方の街は人気が多く喧騒であったが、騎士を見るなり静まり返り、左右に避けて一本の道が出来た。

しかし、ゼンジを見るなり何処からともなく笑い声や、罵声が飛び交い始めた。

(くそっ……くそっ!何なんだこの国は)

怒りや悲しみ、悔しさ等の負の感情が思考を覆い、その後の記憶は曖昧であった。
街の門を通過した事も分からない程に。

気が付いた時には、薄気味悪い森の中にいた。


(女神様、こちら自衛官。
いきなり窮地ですけど。とんでもない場所に転移したんですけど。これも全て、ビニール仮面のせいですね。どうぞ)
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