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14 20式5.56mm
しおりを挟む『ギュルルルルルッ!』
ゼンジたちを見ていたサハギンたちは、鳴き声を上げて一斉に歩き始めた。
「最悪だ!」
警棒をサハギンから引き抜き下段に構えた。
「もうダメなのじゃ……あの数は無理じゃ」
「諦めるな!何か手があるはずだ!」
ゼンジは周囲を見回すが、隠れる場所も逃げる手段も無かった。
サハギンの槍を拾い上げてみたものの、それでは到底勝ち目はなかった。
「ステータスオープン」
ステータスを見つめるゼンジは、乾いた笑い声を上げた。
「……はは」
そして無言で槍を地面に刺し、警棒の先を捻りながら押し込んで元の短さに戻した。ホルダーに手を伸ばし、それに収納して右足に巻き付けた。
ポーラは立ち上がる気力もなく、手を地面に突いて首を垂れている。
ゼンジは胸を押さえ、ゆらりと立ち上がりボソリと呟いた。
「小銃」
「ショウジュウ?」
顔を上げたポーラがゼンジを見上げると、見たこともない真っ黒く細長い塊を両手で抱えていた。
「その黒い塊は何なのじゃ?」
「出た!イケるぞ!ポーラ!」
ゼンジの顔は引きつっていたが、その目は諦めてはいなかった。
【小銃とは、陸上自衛隊の装備で20式5.56mm小銃の事である。簡単に言えばライフルだ。名前に『小』という字が入ってはいるが、拳銃ではない。
弾倉 (マガジン)には弾が30発装填できる。安全装置にはカタカナで『ア、タ、レ』の文字があり、
『ア』は安全装置が働き、引き金が引けない状態。
『タ』は単発。引き金を引くと一発弾が出る。
『レ』は連射。引き金を引き続けると、その間、弾が発射され続ける。
ちなみに陸上自衛隊では数字の2を『に』と読み、海上自衛隊では数字の2を『ふた』と読む。】
(これはサハギンに効くのか?警棒のように、鱗に弾かれるかもしれない……そもそも弾は出るのか?しかし、やるしかない!)
「動くなっ!それ以上動くと発砲するぞ!」
(この小銃は新型だな。海自には、まだ導入されてないから使い方が分からないが、64と大体同じだろう)
【64とは、64式7.62mm小銃のことを言い、主に海上自衛隊が使用する旧型の小銃である。陸上自衛隊は89式5.56mm小銃を使用しているが、これらよりも新たに支給されたのが20式である】
大声で虚勢を張るゼンジを見て、半ば諦めていたポーラは成り行きを見守った。
「…ゼンジ」
「最終警告だ!動くと撃つぞ!」
『ギュルル!』
サハギンは警告に反応を示さず、槍を構えて歩き続けた。
「警告はしたからな!」
ゼンジは小銃のスライドを引いた。ガチャリと音が鳴り、弾が弾倉から薬室に装填された。
次に安全装置を『ア』の位置から『タ』の位置へ切り替えて解除すると、小銃を胸元まで持ち上げ銃尾を右肩に当てた。
そして先頭を歩くサハギンへと銃口を向けた。
「何をしておるのじゃ!ハッポウとは何じゃ!?撃つとはどういうことじゃ!?その奇妙な塊から魔法でも出るのか」
「ポーラ!よ~く見てろよ!」
(警告射撃は必要ない!直接当ててやる!)
「耳を塞げ!」
ポーラは慌てて両手の平で耳を塞いだ。
「塞いだのじゃ!」
「了解!」
(距離フタマルマルってとこか)
左足を前に出しスコープを覗き込み、照準をサハギンの胸に合わせる。しかし緊張と肋骨の痛みとで、心音と共に照準がブレる。
『ドックン!ドックン!ドックン!』
「ふぅ~」
高鳴る鼓動を落ち着かせる為に軽く息を吐き、両腕に力を込めて、小銃を体に引き寄せ固定した。狙いを定めると引き金に右手の人差し指を添えた。
そして、息を止めた。
『ドックン』
(落ち着け)
『ドックン』
(生き物に対して撃つのは初めてだ)
『ドックン』
(標的ヨシ、集中するんだ)
『ドックン』
照準がサハギンを捉えたタイミングで、ゆっくりと引き金を引いた。
直後、鼓膜を震わす激しい音が響いた。
「くっ!」
「ひっ!!」
発砲の衝撃が肋骨に響き、顔が歪むゼンジとは裏腹に、耳を塞いでいるにも関わらず、予想外の爆音にポーラはその場で仰け反った。
ゼンジは構えたままの状態で、小銃から頭を離し、両目でサハギンを確認する。
「どうだ!?」
サハギンたちは爆音に驚き動きを止めたが、再び歩き始めた。
「ダメか!効かない!いや、外れたのか?」
ゼンジは再度照準のためスコープを覗き込んだ。
そして先頭に狙いを定めるが、そのサハギンがスコープから消えた。
「!?何っ!」
慌てて頭を上げて肉眼で確認すると、先頭のサハギンはその場に倒れていた。更にその後方にいる二匹も、それぞれ腕と胸を押さえてしゃがみ込んだ。
「はは……スゲェ威力だな!一発で三匹とは、地球の威力より割増しだな」
『ギュルギュルルルル!!』
『ギュルル!』
倒れたサハギンはピクリともしなかった。そして後ろの二匹は、その場でもがき始めた。
「動くなよ!動いた奴から撃つぞ!」
『ギュルギュルギュル!』
その他のサハギンは怒りを露わにして、横一列に広がり、こちらへ向かって走り出した。
「くそっ!広がった!意外と賢いな!だが」
ゼンジは立て続けに三発、発砲した。
「ぐっ!ハァハァ」
一匹は腹に当たり、もう一匹は頭に当たった。三発目は外したようだ。
ゼンジも撃つたびに胸に激痛が走っていた。
「反動で上に逸れてしまう」
『ギュル!』
『ギュルルル!』
それでも残りのサハギンたちは、槍を掲げて近づいてくる。
「止まれ!それ以上近づくな!」
ゼンジの静止も聞かず、尚も走り続けるサハギン。
(距離およそゴウマル。連射に切り替えるか?)
「撃つぞ!」
(いや、連射の衝撃に自分が耐えられない。足下を狙う)
「ふぅ~」
深い息を吐いた後、ゼンジは息を止め、三発発砲した。
弾は三匹のそれぞれ、足、腹、胸に命中した。
小銃の威力と爆音で、ポーラは固まっていた。
「っ~~!ブハァ、ハァ、ハァ」
(…残り六匹。自分の体がもつか?)
「止まれ!うっ」
声を出しただけで胸が痛むようになり、汗が噴き出してきた。
サハギンの一匹が槍を投げる体勢をとった。
それを見たゼンジは、躊躇なく三発発砲する。
「ぐぁ!ブハァ~、ブハァ~、ハァハァ」
二匹のサハギンの胸に命中した。槍投げ体勢のサハギンにも当たり、槍はあらぬ方向へと飛んで行った。一発は外れてしまった。
ーパッパッパッパカパ~ンー
小銃を撃つたびに、飛び出す薬きょうが、ポーラの頭にコツンと落ちた。それによって、ポーラの時が動き出した。
「な、な、何じゃその錬金術は!!アーティファクトじゃ!!」
しかし、ゼンジの耳には入らなかった。
(し、小銃が重い…残り四匹)
『ギュルル!!』
更に三発発砲した。
「があぁ!ブハァ、ブハァ、ブハァ~、ブハァ~」
二匹の腹と腕に命中した。
(残り…二匹)
激痛で意識が飛びそうになる。
意識をなんとか引き止めて、二発続けて発砲する。
二匹のサハギンは声を出す事もなく、その場に倒れた。
「がはっ!ゴホゴホッ!ハァハァ」
「凄いのじゃ!見たこともないのじゃ!」
大はしゃぎのポーラであったが、ゼンジは意識を保つのがやっとであり、足の力が抜け、その場に片膝をついた。
「ゼンジ!」
慌てたポーラがゼンジを支えたが、その衝撃で銃を落としてしまった。
「いっ!」
「すまんのじゃ!……平気か?」
しかし、ゼンジはサハギンを睨んだまま小銃を拾いあげた。
「ハァハァ、まだ…三匹…残ってる」
腕に弾が当たったサハギン二匹は、立ち上がりゼンジたちへと走り出した。足を撃たれたサハギンは、その場を動かず、口を開け頭を上げた。
『ギュルル』
「しつこすぎる!」
震える足に喝を入れ、片膝を立てた状態で小銃を構えた。
「ふぅ~」
呼吸を整え息を止め、三発発砲した。
三匹のサハギンの胸と頭に命中した。
頭を上げていたサハギンの胸にも当たったが、そのまま口からウォーターボールを吐き出した。
その玉は、ゼンジに向かって飛んでいく。
「ゼンジ!」
しかし、ポーラがゼンジの目の前に立ち塞がった。
「何やってんだよ!!大楯!大楯!大楯!」
ゼンジとポーラの前に、三枚の大楯がドミノのように並んで現れた。
ゼンジは小銃をその場で手放し、ポーラを引き寄せ、大楯に背を向けしゃがみこんだ。
「ぐぅっ!」
胸の痛みで気が遠くなる。
直後、大楯に水の玉がぶつかり、大楯同士がぶつかり合う音が聞こえた。そしてゼンジは背中に衝撃を受けた。
「ぐはっ!」
「ゼンジ~!」
重なり合う大楯により、ウォーターボールの衝撃は抑えられたが、それでもダメージは大きく、ゼンジは立ち上がることができなかった。
(女神様、こちら自衛官、
レベルが上がったら、全回復する仕様に変えてくれませんか?どうぞ)
応援ありがとうございます!
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