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25、その答えは

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25、その答えは
「頼むから。ワタヌキタツトには言うな」
目元を腫らし、ガシャガシャの声でモリヤが言った。
「眼鏡、返してくれよ」
オレは浅く座ったままポケットから片手を出して、モリヤに向ける。
モリヤが一歩、二歩と進んで、オレの掌へ、銀淵の眼鏡を乗せた。
その手を掴んで、モリヤの体を自分の方へグっと引き寄せる。
モリヤは無抵抗でオレの目の前へ来ると、顔を背けて呟いた。
「空手部なんてダイキライだ」
オレはモリヤの手を放し、モリヤのシャツのボタンを一つ外した。
ビクリとモリヤの肩が上がり、モリヤの水っぽい目がオレを射るように睨む。
「言わねーよ。アイツにバレなきゃいいんだろ?」
ぶっきらぼうに答えていたが、オレのテンションは上がり、手はどんどんボタンを外していく。
最後のボタンを外し、全開になったシャツから見えるモリヤの首筋に、オレはゆっくりと唇を寄せた。
抵抗しないモリヤ。
チラと見上げたモリヤの顔は、無表情で、黙って何処かを見てる。
オレがする事なんて人事みたいな顔。
かわいくねえ奴。
面白いじゃん。
いつまで、そんな顔してられるか、試そうぜ?
オレは、モリヤのYシャツをモリヤの肩から滑り落とした。
その瞬間。
ビクリと体が震えたのは、たぶんオレの方だった。

時間を遡り、事の発端はここから始まる。
「カネダ先輩、どうしたんスか?ソレ・・」
放課後、珍しく道着姿のカネダ先輩が道場に現れた。
壁際に膝を立てて座り込んでいる側へ近づく。
「襲われた」
先輩は笑って口元の青黒いアザを触った。
「は?おそわれ・・!?ってか、先輩がやられるなんて・・」
「だろ?」
嬉しそうに笑って、口元の痣を指で撫でた。
「熊かっつーの。わかってて避けられなかったからな。見ろよ。ザックリ、イッてるだろ?」
痛いだろうに、カネダ先輩はその口に指を突っ込んで中を引っ張って見せた。
白く爛れた肉がフガフガと口を開いている。
思わず眉が寄る。
「誰に、やられたんスか?」
「ワタヌキだよ」
その答えに、オレの体は硬直した。
そのオレの顔を見たカネダ先輩は、目を細めて嬉しそうに笑う。
「オレがアイツのオンナに手出したと思ったらしい。いくらオレでも、猛犬付きに手出す程、アホじゃねーってのに」
それから、両手の指をポキポキと鳴らし、
「で、オマエがそのアホか?」
と、カネダ先輩の口元が歪む。
背中が、ヒヤリとした。
冷水を頭からぶっかけられたように、オレの心臓が止まりかけた。
やっとで息を吐き出し、オレは強張る口を動かす。
「・・先輩じゃないスか」
「オレ?」
「『抱きたいだろ』って言ったの、先輩じゃないっスか」
「あー、言ったな・・」
「確かに」と、呟いてカネダ先輩が立ち上がる。
今度はオレを見下ろして、肩のストレッチを始めた。
「おい、やろうぜ。オレと闘りたかったんだろ?」
その台詞に、渋々オレは立ち上がった。
「・・・もしか、オレでウサ晴らしスか?」
一瞬、虚をつかれたような顔をしたカネダ先輩が「まさか」と、フッと笑った。
「ド素人にぶん殴られるなんて、自分が弱くなった気がしてビビっただけだ。たまには、真面目に練習しねーとな」
実はこの人って意外と真面目なんだよな・・・。
生徒会とかやってるくらいだし。
セックスに関してはメッチャクチャなんだけど・・。
オレは、帯を締め直し、冷えた板間に足を踏み出した。

カネダ先輩が殴られた。
ワタヌキに知られたモリヤはどうなったんだろう?
そういえば、モリヤの姿を見ていない。
カネダ先輩をフイ打ちで殴るくらい嫉妬で荒れ狂ってたとすると、その矛先がモリヤに向けられた場合、モリヤは?
考えれば考える程、焦れる。

先輩との乱取りの後、オレの頭の中はそれだけに支配されていた。
モリヤの事が気になって、部活が終るまで道場にいる事が出来ず、途中で一人抜け出した。
駅へ向かうまでの道、逡巡の後、オレは携帯を取り出し、最近電話帳に追加したモリヤの家の番号へ電話を掛けた。
『はい。モリヤです』
出た声は妹。
「あ、ツヅキですが」
『ツヅキ先輩?こんにちはー!なっちゃんですか?』
”なっちゃん!”
もちろん、モリヤの事だろう。
思わず噴き出し掛けて、笑い声を漏らしてしまう。
『ちょっと待ってて下さい』
耳元でガサゴソ音がして、遠く、なっちゃーん、と妹の呼び声が聞こえた。
それから、またガサゴソ音がした後に
『もしもし?』と、聞こえた声は、
一瞬戸惑う程、モリヤらしくない掠れた声だった。
「なっちゃん?」
『テメぇ、ツヅキ!』
「いーじゃん。カワイクて」
『クソ眼鏡』
「その眼鏡、取りに行っていいか?」
『・・・オマエ、何なの?』
「何って?」
『意味わかんねーんだよ。何がシたいわけ?』
それがわかれば、オレだってこんなまごついたりしない。
そんな事を考えて、たっぷり時間を空けて言葉を選ぶ。
「えっち」
『ふざけんじゃねーよ』
ガラガラの声が耳元に響いた。
「オマエ、言っとくけどな。この間のは、オマエが、誘ったんだぞ」
『誘ってねー!人違いだ』
「とにかく、眼鏡」
『知るか』
冷めて呆れきった声。
そんな声にちょっと傷つく自分がいる。
「5時半位にそっち着く。じゃな」
それ以上拒絶の言葉も返事も欲しくなくて、オレは一方的に通話を切った。
携帯をケツのポケットに仕舞い、徐々に歩くスピードを上げる。
モリヤに会いに行く。
その事実に胸がジワジワと熱くなる。
この気持ちに、もうオレは気づいている。
答えを口にしないだけで、風見鶏のようにあるルールに乗っ取って、オレもモリヤを見つめている。
そのルールはアヤフヤで、変則的で、オレはそれに素直にはなかなか従えやしない。
それでも、一度乗ったこのレールからはそう簡単には降りれやしないらしい。
そんな事に少しだけ気づきながら、この時までは、素直に幸せを感じていた。
今、今だけ。
本当に一瞬だったとしても。
この気持ちを、幸せに感じる事は出来たんだ。

そして。
着いた部屋で。
オレはモリヤがワタヌキに何をされたのかを知る。
モリヤのワイシャツを落としたオレは愕然とした。
にっこりと笑って、モリヤがオレに背中を見せる。
「すげぇ?」
無数の赤紫の小さなアザ。
両手を腰に当て、オレを振り返った。
「オレも今朝、見て・・ビビった」
たぶん、その時のオレは、馬鹿みたいに口を開けてたに違いない。
「オマエのせいで、死ぬ程ヤられたよ。まだ体中ジンジンしてて、歩くのもヤベぇ。結局4日連続で部活休んじまった」
言いながら、モリヤが床に落としたシャツを拾って、ベッドへ丸めて投げると、
クローゼットから出した七部袖のシャツを被る。
「あ」
その声にオレが見上げると、「もういいんだよな?」と、
裾を下ろした。

降参だよ。

マジ、フザケてる。
んなもん見せられたら・・一気に萎えるっつーの。
アイツの残した跡だらけの体を、抱く気になんてなるわけがねぇ。
なんなんだよ。
少しでも、心配したオレって馬鹿じゃねーの?
大バカ。
何が、バレなきゃいい、だよ。
ヤラレタ。
んなツモリさらさらねーんじゃん。
クソ生意気な・・・!
「帰る」
「おい!さっきの、忘れんなよ」
ドアを開いて、オレはモリヤを睨みつけた。
「言わねぇよ。向こうが突っかかって来たら知らねぇけどな」
「そしたら、サッカーでケリつけようぜ。大負けに負けてPK戦にしてやるよ」
モリヤは部屋の中に転がってたボールを器用に足の甲に乗せて笑った。
「アホか」
ダメージは甚大。
オレは階段をフラフラと降りて、玄関で再びモリヤの妹と対面する。
「あ、ツヅキ先輩」
笑う、モリヤの妹。
少し目元がモリヤに似た可愛く笑う妹の後ろに。
猛犬がオレを不敵に笑って、オレを睨みつけていた。
ワタヌキタツト・・!
階段を降りる足が固まる。
掌から嫌な汗が染み出してくる。
「本当に、上がらないの?ワタヌキさん」
「ああ、今日はいい。ナギにもオレが来た事、秘密な」
「・・わかった。秘密。」
モリヤの妹は悪巧みに乗ったように、目を輝かせる。
「出ろよ」
ワタヌキタツトは噛み付きそうな目で、静かにオレを誘った。
あーあ、あんたの誘いなんて、モリヤに言われなくったって遠慮したかったのに。
オレは答えずに、ローファーの踵を踏んだまま、ワタヌキタツトの後からドアを出た。
無言でオレ達は歩き、暫く行って、ワタヌキタツトが足を止めた。
そこは小さな子供が遊ぶような少しの遊具があるだけの狭い公園だった。
その入り口の低い塀へ、ワタヌキが軽くケツを乗せて座ると、こっちを見た。
「まさか、こんな早く見つかるとは、思わなかったぜ」
思わず、息を呑んだ。
「たまたま、様子見に来ただけだったけど」
鼓動が早くなる。
逃げようか、と考えて、相手がサッカー選手だと思い出す。
走り屋を振り切れる程、オレに速さも持久力も無い。
「さて、どうするか・・」
言って、ワタヌキはサブバッグから携帯を取り出した。
「昨日、一晩中ヤってたから、オレも、んな元気じゃねーんだ。本当なら、オマエの相手してやりてーとこだがな。
そこで、カネダのやり方でいく事にした。オラ、携帯出せよ」
一晩中・・!?
さっき見たモリヤの背中に、ワタヌキタツトがプラスされて、オレの脳内に広がる。
アイツが跪いてワタヌキタツトをしゃぶってる絵が頭の中に浮かんだ。
一気に頭に血が上る。
「早くしろよ。登録してやるから」
オレは顔を背けて、ポケットから携帯をゆっくりと取り出した。
「・・なんのため、だよ?」
携帯同士を合わせて、通信する。
「貸しだ」
貸し?
意味がわからない。
が、ワタヌキのその顔は、薄く笑って勝ち誇っていた。
「今日は見逃してやるって事だ」
そのセリフに一気に緊張が解ける。
「何しにテメーがここへ来たかも、別にどうでもいい。ただ、オレは今からナギとセックスする。それだけだ」
オレは目を見開いて、堂々と言ってのけるオトコを呆然と見つめた。
こんなニンゲンは、あと一人しか知らない。
「あ、なんなら、これから毎回ワン切り入れてやろうか。ヤル前に」

楽しそうに笑いを堪えながら、もう一言「これって、逆ストーカー?」と、付け加えた。

笑いを堪え、背中を震わせながらワタヌキタツトは、今来た道を戻って行く。
たぶん本気で、これからモリヤとヤル気なんだろう。
暫くその背中を信じられない思いで、見送った後オレは急いでその場から離れた。
が、数分後。
携帯が今登録したばかりのオトコの名前を表示する。
嫌な予感に負けながら、当てた耳元に声が響いた。
『ナギの喘ぎ声、聞かせてやろうか』
オレは急いで耳から携帯を離し、携帯の電源を慌てて落とした。
それから、堪らなくなったオレは走り出す。
頭の中で、ワタヌキタツトの笑い声がする。
頭がイカレそうだった。
今すぐ、モリヤを犯したかった。
犯してやる。
絶対、犯してやる!
川沿いの土手。
オレは真っ赤になって走って、走って、走って、息が切れて、脛が痛くなって、もう足が動かなくなって、足を止めた。
途端に、涙が溢れ出る。
とっさに、しゃがみ込んで膝の間に顔を落とし、道の真ん中でオレは泣いた。
答えはわかっている。
オレが口にしないだけで。

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