僕の体で神様を送ります。

ジャム

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Men in Black

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その頃。

リュウトが住む町のど真ん中にある駅前のショッピングモールにあるカフェ『ガブリエル』で。



「調べがつきましたよ」



ダークスーツに身を包んだ長身の男が、オープンカフェのテーブルについた同じく真っ黒な出で立ちで黒い中折れ帽を被った男の前に立った。


「ミズハシ リュウト 17才、男。龍に人って字です」


「龍に人だあ?全く舐め腐りやがって・・ぶっ殺してやるか」


指で席に座れと合図して、帽子の男が胸からiPadのミニを取り出す。



男の名前は憂火(ユウカ)。

年は40前後、白髪まじりの髪にiPadを持つ手は大きくゴツゴツとしている。

精悍な顔立ちに、鷹のように鋭い目、口元はいつもどこか不満気に下がっていた。



もう一人は若い男で、名前は暮(グレ)、黒髪の短髪、草食系な素朴な顔に、その体は適度に鍛え抜かれていて、肩幅が広く、身長は190cmを超えていた。



「それオレ達の仕事が増えるだけです。メールで情報送りましたから見て下さい」

「チッ。で、どうしろって?」



舌打ちの後、手元で画面を操作しながら、リュウトの写真を表示させる。


「まだ開通してないらしいです。こっちもそこを通らざるを得ないんで、待つしかないですね」


「逃がすなってか」


「ガーディアンがついてるんで、交渉はしなきゃでしょう」


「神のご加護をってか!」


笑えるぜ、と男は煙草を咥えた。


「憂火さんが言うと何でも恐ろしく聞こえるから不思議です」


「おい、それ褒めてねえからな」


二人は席を立ち上がると、コーヒーの紙コップをくず入れに放り込み、通りに路駐してあった、これまたお決まりの黒塗りの車へと乗り込んだ。


「死神家業も楽じゃねえなぁ」


暮がハンドルを握り、車をスタートさせる。


「神や精霊などによる懲罰の取り消しも含め、古い魂からどんどん回収していきましょう」

「チッぶっ殺してやるか」

憂火がシートを後ろへ倒し、帽子を顔の上へずらすと目を閉じた。

「10分後に到着します」
「ゆっくり走れよ?」
「・・了解」





この世界には。

『神』と、『精霊』や『神の使い』、その他諸々と、『死神』がいる。

神とは神と呼べば治まりがつくだけのモンスターの一種だ。

その姿は人間に見えにくいが、良くも悪くも人間の生活へ影響を及ぼす。

それこそ、人を狂わし秩序さえ崩壊させ、一国を破滅に追い込める程の脅威をも、持っている。

きっと『神』からすれば、人間が蟻ンコを踏みつけるのと大差は無いだろう。
だが、いつしか、その傍若無人、残虐非道な行いを咎める者達が現れた。



それが、彼ら『死神』達だ。



神に弄ばれ放り出されてしまった儚い魂達の救済処置を行う非営利団体。

この世を彷徨い、執着と苦しみに荒れた魂を、この世界から解放するのが彼らの仕事だ。



ハンドルを握る暮が、憂火に声を掛ける。

「憂火さん、もう着きますよ」

「ああ?ったく、ちったあ寝かせろ」

「これでも5分オーバーです」



二人は車から降り、黒い手袋を嵌める。

目の前の景色が、どんよりと暗く陰り空間が歪んで見える。

「チッ・・ドタマかち割って、ぶっ殺してやるか」

「了解」

そうして、憐れな御霊を浄化するべく『モンスター』に向かって二人は歩き出した。









クラスの仲間から奇跡の生還の祝福を受けたリュウトは、午前中の授業が終わる頃には体力が消耗してしまい、軽い貧血感に陥っていた。

たった二日の入院で、体力が落ちた訳が無い。

あの事故の後遺症か、自分の中にあるエネルギー、例えば寿命のようなものが消耗してしまったような気になった。



リュウトは午後の授業を保健室で休む事にした。

「大丈夫か?今日はもういいから、帰れば?」

「いいの?先生」

長い髪をポニーテール風に後ろで括り、パッと見いかつい男らしい顔立ちに、体育教師並みの筋肉のついた逞しい四肢。

自衛隊員と紹介された方がしっくりくる保健医の御堂(ミドウ)(男)が立ったまま、椅子に座らせたリュウトの額に掌を当て体温を計り、次に手首で脈を取る。

「熱も無し。脈も特変無し」

呟いて、ベッドの方へ歩いて行く。

「一眠りして、大丈夫なら帰っちゃえ」

と、ベッドを囲むカーテンを開けると、振り返ってリュウトを手招きした。

「ありがと、先生」

ホッと息をついたリュウトを見て、御堂は笑ってその頭をくしゃくしゃと撫でた。

所々クリクリと癖のついたリュウトの髪の毛が派手に広がって、御堂は噴き出してしまう。

「ちょ、先生~~!遊ばないでよ~っ」

リュウトは爆発した頭を撫で付け、ネクタイを外し、それから制服のズボンを脱ぎ、簡単に畳んで籠の中へ入れた。

「オイ、誰が来るかわかんねえんだから、カーテンくらい締めろよ~」

御堂に指差されてリュウトは、はにかんだ。

「だって・・なんか、人の気配してないと・・寝れないし・・」


ここは噴き出して笑うところなのだが、保健医としては笑えない。
笑えるはずがなかった。


『男のくせに』

『子どもじゃねえだろ』

は、禁句だ。


彼らはまだ10代で、その未発達な体や思考で、毎日格闘している。

そんな彼らが普通と呼べる状態を維持することがどれだけ難しいか。

保健医の御堂にはよくわかっていた。

無意識の体の変化、無自覚の癖、痛みや不安は何かの兆候だ。

昔から犯罪を犯す年齢はこの年代がダントツに多い。



それはつまり、精神や肉体の不安定さを示している。




御堂は、やれやれと頭を掻いてリュウトの方へ近づいた。

リュウトが寝ているベッドの脇に立ち、半分虚ろな目で見上げてくるリュウトの頭をまた撫でてやる。

と、髪が目に入りそうになったせいもあるのか、リュウトは御堂の手を嫌がりもせず、目を閉じた。


「リュウト、一応、お前のために言っとくけどな?」

話しかけられて、リュウトは御堂を見上げた。

「はい・・?」


「『それ』殺し文句だからな?」


「ええ!?」


リュウトは御堂と視線を合わせて、クスリとも笑わない御堂に、思わず顔を赤くしてしまう。


「一緒に寝てくれって言われてんのかと思ったワ」


「ちがうし!」


噛み付くリュウトの頭を、口元を弛めた御堂が撫で回し「寝ろ」と、そこから離れて行く。

もちろん、カーテンは少し開けたまま。





何が「殺し文句」なんだよ・・?

オレはホントの事言っただけなのに・・と、リュウトは顔が熱くなってしまう。



早く大人になりたい。



何か起きても、すぐ顔が赤くなったりしないで、冷静に対処出来る大人になりたい。

まどろむ意識の中で、事故の事や水色の瞳の彼の事やクラスメイトの事、母親の顔が浮かんでは混ざり消えていく。

色んな感情が押し寄せて、ドキドキしたり、ゾッとしたり落ち着かなかった。

が、御堂が歩く音が聞こえて「そうだ今は保健室で寝てるんだった・・」と、思い出して気を緩め、瞼を閉じた。
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