僕の体で神様を送ります。

ジャム

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触らないで

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何がどうなっていたのか。

リュウトが資料室を出て教室に戻ると、まだ休み時間の最中で、時計の針は7と9の間しか動いていなかった。

あの濃密な刻がたったの10分。

そんなバカな、と思いながら、教室の一番後ろに立っている睡蓮の姿にドキリとする。

「リュウト、おかえりなさい」

教室を出る前に見た時と同じ、やわらかな笑顔。

それに迎えられた事にホッとするのと同時に、睡蓮の顔を見た途端、とても気まずい気持ちになった。


その瞬間、自分は何をしてしまったのかと、後悔する。

あんなに、後悔したって構わないと思ってたのに、睡蓮の顔を見た瞬間、一気に後悔している。

重い枷が首や四肢に巻き付き、体を縛られた罪人のように体が硬くなり、最悪の気分に陥る。


とてつもなく簡単に、悪い事をしてしまった子どものように。



世間一般に言うなら、オレがしたことは、不道徳な部類に入るのかも知れない。

自分の身体を取引きに使い、死神に預けた。

預けたというよりかは、ちゅーちゅー骨までしゃぶり尽くされてしまった。と、言った方が正しい気もする。

唇こそ奪われなかったが、手の指も足の指も1本ずつ、爪の先まで口に含まれ、憂火の舌に全身を舐め尽くされた。


冷たくて、熱い目。
あの目に、体外も体内も全て見られ、自分でも知らなかった事を知られてしまった。


誰にも挿入した事のない屹立を、アイスバーを舐めるように大きな舌で下から上へ舐め回され、憂火の口の中でキュッと肉茎を絞り上げられた。

初めて体験する口淫に、逃出したい程の快感に襲われ、堪え切れず四肢を捩る。

普通の人間より高い体温を持つ憂火の熱い舌に、先端から溢れ出してしまった自分の体液を吸われ、あられもない声を発しそうになり、急いで唇を噛んだ。

それでも、噴き上げる瞬間は、どうにも耐え切れず、甘い声が腰の奥から弾け出た。


「ぅア・・ッ」


競り上がる射精感に、腰がガクガク揺れる。
生理的な衝動は、理性でどうにかなるものではない。
自分でも抑えられない足の痙攣を、憂火の手が押さえつけるように内腿を割った。
大きく開脚させられた股の間に、深く、浅く、むしゃぶりつかれる。
射精中にも、憂火の舌がいやらしく自分のものに絡み付き、そこが痛いくらいに熱くなって痺れた。



痛みとも、快感とも、区別し難い、シビレ。



離して欲しくても、力で敵わず、悶えれば悶える程、これでもかと、深く咥え込まれた。
まるで憂火に抵抗出来ない自分は、自分でとんでもなくいやらしくてエッチな玩具をそこに付けて、一人で喘いでいるみたいだった。


無理やりに吸い出された精液。

テーブルの上につく程開かされた膝。

その太腿を大きな掌で掴まれ、まるで女の胸を揉むように撫で回された。


許容量以上の熱に犯されて、頭の中がクラクラする。

高熱に浮かされたように目は潤み、背中は汗びっしょりになっていた。



「気持ちいいか?」

耳元に顔を寄せられ、口元を歪めた男が、低く掠れた雄の声で囁く。



泣きたくなるくらい、恐い誘惑。

全て、初めてだった。

触られる事も、舐められる事も、喰われる事も。

誰にも、こんな自分を曝け出した事などない。

「リュウト」

鼓膜をくすぐる熱を持った雄の声に、リュウトの視界はモヤが掛かったように濁った。

何もわからない。
自分は何をされているのだろう。
これから自分はどうなるのだろう。
身体中がシビレて動かせない。
動けない。
逃げられない。

助けて。
ーーー助けて、・・憂火。


「キモチ、イイ・・」

激しく身体を揺さぶられた断片的な記憶の中に、ノイズのように憂火に縋り嬌声を上げる自分がいた。

それでも、絶対に意味のある言葉なんか口にしたくなんかなかった。


『モウヤメて・・』

『イヤだ、ヤメて・・』



『フカクイレナイデ・・オカシクナル』

『アタマガオカシクナル』



『オネガイ・・イカセテ』

『ユウカ、イカセテ』



全てが夢のように、曖昧な記憶。
これを、自分が実際、口に出していたのか、それとも頭の中で叫んでいただけなのか、ハッキリしない。

声は、出ていた。
それは、喉の熱さと乾きでわかる。

一度零れ出てしまった物は、元には戻せない。
泣きながら・・、憂火のスーツを掻きむしり・・、訳が分からないくらい・・・、求めた。

憂火の体を、オレはこの手で引き寄せた。





自分からした取引に、どうしようもなく泣いてしまった。

弱音なんか吐きたくなかった。

こんな事、平気だと思った。

睡蓮が傷つけられるくらいなら、なんでもないと思った。
そう思っていた。




なのに、今、睡蓮の顔を見た自分は、言いようのない後悔の念に苛まれている。

それは、きっと睡蓮が怒るとか、自分がバカやって怒られるとか、そういう事じゃない。
自分がした軽卒な行いが、睡蓮自身を傷つけると気づいたからだ。

自分が傷つくのなんか平気だ。
だから、死神と取引きしようと思った。
睡蓮がオレを守るために痛い思いなんかしたら、ヤだ。
だからーーー


なのにーーー


オレは、結局、睡蓮を傷つける。

オレが睡蓮を守るため、憂火に体を差し出したとわかったら、きっと睡蓮の心は傷つくだろう。

舐めて放っとけば、そのうち治るような体の傷と違い、心の傷は、一度ついたらずっと色褪せない。

そんな事、わかってるつもりだった。

わかってるつもりで、何もわかってなんかいなかった。



「リュウト?」

どうしたんですか?、と、首を傾げる睡蓮に、リュウトは「なんでも」と返して、睡蓮の体に触れてしまわないよう距離をとる。

一時凌ぎにしかならない。けれど、今はまだ、睡蓮には気づかれたくなかった。








『初めて』の後で、硬い椅子に座って授業を受けるのは思ったよりも辛かった。

それに、すぐ自分の後ろには睡蓮がいる。

授業中は空気のようにそこにいるだけだが、いつ、自分の体に触れられてしまうかというプレッシャーにリュウトは負けそうだった。

授業が終ると、リュウトは睡蓮に目配せして教室を後にした。


すぐ横に睡蓮が並ぶ。

肩が触れてしまいそうで、リュウトは思わず身動いだ。

「リュウト?どこへ行くんですか?」
「ちょっと寝不足みたいだから、保健室で寝てくる。睡蓮はどうする?」
「傍にいますよ」

当たり前の事のように睡蓮が答え、顔に掛かる前髪を耳に掛ける。

髪に隠れていた切れ長の水色の瞳が、自分を映し、その美しい色に見惚れた。


もし。
彼がこの姿でなかったら、もう少し、自分の気は楽だったのだろうか。

好きだと思うから・・つらいのだろうか。

好かれたい。
嫌われたくない。

ただそれだけなのに、それがうまく出来ない。




保健室には御堂がいた。

「お?サボりに来たな?」
白衣の似合わない筋肉質な体をした御堂がダンボール箱を開けて、何か備品を取り出していた。
「先生、寝てもいい?」
ベッドを指差して言うと、御堂はリュウトに向かって掌を突き出した。
「30分、5百円」
「金取んのかよ!」
「そうだ。世の中甘くないぞ。添い寝付きなら5千円だ」
「誰が添い寝すんだよ?」
「オレに決まってんだろ」
「絶対、ヤダ!」
「ったく、可愛気のねえ奴だな~。大人はみんな喜んでオレと一緒に寝たがるぞ」
「あーはいはい。先生ヨカッタネ~」
「このヤロ・・」
御堂の手にぐしゃぐしゃと頭を撫で回され、リュウトは急いでベッドへと逃げた。
カーテンを後ろ手に閉める瞬間、御堂の後ろに睡蓮の姿があった。
御堂ごと睡蓮をシャットアウトしてしまった自分に項垂れる。




・・意気地なし。




自分を詰ってから、リュウトはベッドの中へ潜り込んだ。

真っ白なシーツに包まれた布団の中で、よそよそしい匂いに包まれながら目を閉じる。


「リュウト」
御堂が呼ぶ。


「一人だって思うなよ。いつでも助けてやるから」


偽善者ぶった教師らしい台詞。

なのに、目の奥が痛くなる。
喉の奥がひくついて、閉じた瞼の隙間が熱くなる。


布団の中で鼻を啜ったら、下手くそな御堂の鼻歌が聞こえてきた。
「・・変な歌」
文句を言ったら、すぐにリュウトの意識は眠りの中へ落ちていった。







リュウト

リュウト


誰かが自分の名前を呼んでいる。


リュウト


聞き覚えのある声なのに、よく思い出せない。


起きて、リュウト


もっと聞いていたい。
もっと、この方に、名前を呼ばれたい。


リュウト


ああ、なんて名誉な・・


もっと、自分の名前を、この声にーーーー




「リュウト」
耳元で聞こえた声に、リュウトは目を見開いた。
すぐ傍に睡蓮が居て、その手が自分の髪を撫でていた。
「すいれ・・」
体に触れられている事に、ハッとして息を飲むと、睡蓮の腕に背中から抱き締められた。

「リュウト。逃げるな」

睡蓮の口調が変わってる。
それは、睡蓮が素になっている時の証拠だ。

「リュウト。オレの使命は、お前に『神送り』をさせる事だ。そのために、ここにいる。だから」

そう言った睡蓮の腕に力が篭る。

「リュウトの傍にずっといる。何があっても、離れない。絶対、離れない」

呼吸が苦しくなるくらい強く、睡蓮の腕に体を抱き締められた。





全て、わかってしまったのだ。


オレの気持ちの全てが、睡蓮にわかってしまった。


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