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猫神
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英語のテストの後、リュウトは睡蓮の待つ社会科準備室へ向かったが、そこにはデブ猫も睡蓮も居なかった。
開け放したドアの前で、呆然とする。
どうして二人が居ないのか。
自分が教室を間違えた筈はないし、かと言って、睡蓮が猫を連れてトイレに行っているという事もありえない。
いや、そもそも睡蓮はトイレには行かない。
それに、睡蓮が自分に何の断りも入れず、傍から離れる筈がない。
きっと近くにいるのだろう。
深く考えるのを止めて、リュウトは自分の教室へと戻ることにした。
何はともあれ!テストだ!!
とりあえずは、『猫の○○』を飲む危険は去ったみたいだし!
いきなり教室に死神が・・憂火が現れてビビったけど・・
何はともあれ!テストが終わってから考えよう!
と、張り切って受けたテストも、気持ちだけ。
結局、睡蓮の事や憂火の事が気になって、問題に集中出来ず、白抜きの答案を提出することになってしまった。
「睡蓮~~~!!どこ行っちゃったんだろう・・?」
放課後、学校の中を当ても無く睡蓮を探してみたが、見つからない。
空き教室を見つけては、こっそりと睡蓮の名を呼んでみるが、返事は帰って来なかった。
「おかしいな~・・」
「何がおかしいって?」
すぐ後ろから声を掛けられて、リュウトは飛び上がった。
「テッタかよ。びっくりした」
そんなリュウトを、テッタは、少しつぶらな目を限界まで見開いて見つめる。
テッタこと、木嶋哲太はリュウトと同じ小学校からの幼馴染だ。
「リュウト・・お前、もしかして彼女出来たの?」
今の自分には全く縁の無い話に、リュウトはテッタの目を見つめ、冷静に首を横に振った。
「あ、そ・・。メール全然返して来ないから、ついに女でも出来たんかと思ったワ」
「彼女が出来たらソッコーテッタに自慢する。メールは、忘れてた」
リュウトは顔の前で手を合わせて、テッタに頭を下げた。
「そうだよな。今日、一緒に帰る?」
「おう」
そういえば、最近はずっと睡蓮と一緒にいたから、こんな風に友達と一緒に帰るのも久しぶりだった。
こうやってテッタと二人並んで話していると、なんだか神様がどうとか嘘みたいに思えてくる。
この半月余りで、リュウトの回りの環境は恐ろしく変わってしまった。
リュウトの脳内では処理しきれない程のカルチャーショックと価値観の相違、アイデンティティの危機、そして一番衝撃だったのは、憂火と体を繋いでしまった事だった。
自分があんな風になるなんて思いもしなかった。
憂火の熱で、自分の体の中がドロドロに溶けてしまったように痺れた。
触れられた体のあちこちに残った憂火の手の感触に悩まされ、数日経っても、消えないそれに、度々自分の体を撫で摩って誤魔化した。
あれは『神送り』をしただけ。
なのに、断片的に残る記憶に記されているのは、泣きたくなるくらい長い愛撫の時間。
途中で逃出したくなったのは、行為に恐怖を感じたからじゃない。
自分が自分じゃなくなってしまうみたいで恐かったからだ。
憂火の指先で撫で摩られた場所が、記憶と共に疼く。
それを掻き消すように、リュウトは自分の体を抱き締めた。
目眩がする程の快感だった。
足下覚束ない感覚に、振り落とされそうになって、ギュッと憂火のシャツを握りしめたら、代わりに背中を抱き締められた。
その腕の強さに、泣きたくなった。
そう、憂火とした儀式は、感覚的に、ただの儀式とは思えないものだった。
その憂火と、あれから初めて、再会したのだ。
オッサンなんだけど・・ちょっとよれてる黒いスーツが体にぴったり合ってて・・なんか、カッコイイんだよな・・。
あの歳にして・・なんかグレてるっぽい感じも・・キライじゃない・・。
昇降口で、他の友達二人、トウヤとマキとも合流して、テストの出来やら、夏の予定を話しながら帰った。
「という訳で、九死に一生を得たリュウトのために~!今年の夏は、合コンして!彼女を作る!作らせる!」
「イエ~~~~!!」
多いに盛り上がる3人に、リュウトは両手を振ってストップを掛ける。
「オレはいいから!勝手にお前らが彼女作れよ!」
「何言ってんの~?リュウト、人生は短いってお前よ~くわかったんだろ~?」
「そうだよ!あっという間に10代なんて終わりだよ!?童貞のまま終わるんだよ!?」
小柄なマキが真剣な顔でリュウトに迫る。
その台詞の『童貞』という響きに、リュウトは言葉を詰まらせた。
オレって・・童貞・・なのかな?
童貞だけど・・エッチはしちゃったってことになんのかな?
つい無言になり思考停止していると、隣のクラスの友達、トウヤに乱暴に肩を組まれる。
「ノリ悪りいな~。リュウト!お前好きなヤツいんだろ?」
その一言に、一瞬頭の中に睡蓮の顔が浮かび、次いで憂火の顔が浮かんだ。
リュウトは咄嗟に反論が返せず、また3人のテンションが一気に盛り上がる。
「ダレ!?ダレ!?ダレ!?何組の子!?」
「へ~!リュウト告白しちゃえば~?」
「そうそう!人間いつ死ぬかホントわかんねえんだから!」
「いや、オレマジでそれどころじゃ無くって・・」
苦笑いするリュウトに、トウヤが正面から肩を掴み、力説し始める。
「お前は今や時の人だ。お前の事をちょっと気になってたって女子が結構いて、夏祭りん時狙ってるってヤツいるんだぞ。で、それにオレもアヤカリタイ!」
「オレもアヤカリタイ!!」
ギラリと目を光らせるトウヤにマキが抱きつくと、二人で肩を組んで「夏祭り!夏祭り!」と雄叫びを上げる。
「お前らネ・・」
自分が女子にモテた記憶に乏しいリュウトは、二人のこの盛り上がりに、ただ溜め息を吐いた。
すると、隣に並んでいたテッタが、肘で合図する。
「リュウト。なんかホント悩んでんなら言えよ?聞くくらいしか出来ねえけど・・」
と、小声で耳打ちした。
「テッタ・・」
テッタのその一言に、不覚にもオレは泣きそうになってしまった。
訳もわからず、神様とか精霊とか死神とかと、いかがわしい交際をしなきゃいけない体になっちゃって、なのにオレには悩んだり考えたりする時間も無くって、でも、オレにだって自分の生活があって、学校とか、友達とか、テストとか、面倒な事も色々あるけど、絶対捨てられない、オレがオレでいるために大事なものが沢山あってーーー。
いつか、テッタになら、話せるかな。
「よし!来週の夏祭りは、女連れで行く!」
「イエ~~~~~!!」
トウヤの宣言に、4人で狭い歩道の中、空に片手を突き上げジャンプした。
リュウトが家に着いても、睡蓮はリュウトの部屋に戻っていなかった。
さっきまでは、友達と一緒で気が紛れていたから心配する気持ちが薄れていたが、こんなに睡蓮が自分の傍から離れていたことがなかっただけに、急に不安に駆られる。
「どうしたんだろう・・」
ふと、リュウトは死神が来たあの夜の事を思い出した。
死神は他の『神様』を消すことが出来るらしい。
それは、精霊相手でも一緒かも知れない。
睡蓮に対して、死神の好戦的な態度を思い出して、リュウトは自分の肘を掴んで俯き、その腕に書かれている数字にハッとした。
「そうだ・・電話!」
腕に書殴られた番号を、自分のスマホに打ち込む。
耳に当てたスマホからは普通に電話の着信音が鳴り、数度目で憂火の声がリュウトの名前を呼んだ。
『どうした?もう誰かに襲われたか?』
憂火の揶揄うような口調に、リュウトは慌てて訂正する。
「違うけど!睡蓮が、睡蓮が何処にも居ないんだ。どこにいるか知ってる!?」
『睡蓮?・・ああ、お前の傍にいる偉そうな精霊か』
素直に「うん」と頷きにくい台詞にリュウトが無言になると、憂火は、
『心配するな。すぐ戻って来るだろ。次は、本当に襲われそうになったら連絡しろよ。じゃあな』
と、一方的に電話を切られてしまった。
どうやら忙しそうな様子。
しかし、これで睡蓮が死神に抹消された訳じゃない事は確認出来た。
だったら・・待つしかない。
こんな時にこそ、テスト勉強をするべきなのに、睡蓮が心配でソワソワして何も頭に入らない。
でも、だからといって何処か探しに行く当ても無い。
何も進まない。
答えの出ない状況に、モヤモヤする。
勉強もイヤになったリュウトは教科書を放り出して、ベッドの上に横になった。
少しだけ、と目を瞑ったら、リュウトはあっという間に眠りに落ちてしまった。
その夢の中に、あのデブ猫が現れ、リュウトを手招きする。
「お前には世話になったな」
行儀良くお座りしている猫の前にリュウトが正座すると、猫神は視界に入る自分の尻尾が気になり出し、自分の尻尾に猫パンチを繰り出し始めた。
必死に自分の尻尾を追いかけ、自分の股の間へ顔を突っ込んで、フーフーと唸り出すデブ猫に、リュウトは噴き出しそうになる。
「オレまだなんもしてないけど・・」
「まだ当分。こっちの世界に居る事に・・なってな。お前には・・いきなりで、無理を言って・・悪かった」
仰向けになり、やっとで自分の尻尾に噛み付けたデブ猫。
それも気が立っているのか、一回噛み付いただけでは気が済まず、二回も三回も自分の尻尾に噛み付いている。
笑いたいのを堪えながら「そうなんだ」と返事を返した。
そしてデブ猫は、体をなんとか丸めながら、その尻尾を今度はペロペロと舐め出し、右に左に体を捩り、ついでに自分の手も舐めて顔を洗い出す。
でっけえ団子みてえ。
リュウトは無意識に手を伸ばして、デブ猫の頭を撫でていた。
「あ、」
「よいよい。睡蓮にもよろしくな。アレのおかげで大事な事を思い出した。次会う時は人の姿で訪ねるぞ」
「うん。わかった」
リュウトは笑顔になって、デブ猫の体をワシャワシャと両手で撫で回した。
デブ猫がクルリと反転して「んニャ~」と鳴く。
瞬間。
リュウトの目がパチっと覚めた。
部屋の中は、真っ暗になっていた。
そして、横を見ると、自分の隣に、肘をついた睡蓮が目を閉じて寝ている。
「睡蓮・・!!」
咄嗟に手を伸ばして、睡蓮に抱きつく。
と、睡蓮に、リュウトの今までの不安な気持ちが伝わったのか、睡蓮からも体を抱き返された。
「心配させてしまいましたか・・。大丈夫、そんなに簡単に消えたりしません。私は既に200年も生きているんですよ?そんな柔じゃありません。それに、どちらかと言えば、私の方があの死神を消してやりたいと思ってるんですから」
その最後の台詞にリュウトは、つい笑ってしまう。
「私が居ない間に来るなんて、全く油断ならない男だ・・」
「睡蓮・・オレね。憂火、嫌いじゃない」
リュウトの発言に、睡蓮は仕方無いと目を瞑る。
「そうですね」
「でも、オレ、睡蓮の事も好きだよ」
睡蓮から腕を解いて、リュウトは睡蓮の顔を見上げた。
透明で冴えるような水色の瞳に、均整の取れた美しい顔立ち。
その顔の半分を惜しむように隠してしまうアシンメトリーの黒髪、それをリュウトは掻き上げて、睡蓮の顔を見つめた。
リュウトの告白に、睡蓮がゆっくりとリュウトの唇にキスをした。
だが、睡蓮の胸には複雑な感情が入り乱れ、それ以上をリュウトに求める事が出来なかった。
開け放したドアの前で、呆然とする。
どうして二人が居ないのか。
自分が教室を間違えた筈はないし、かと言って、睡蓮が猫を連れてトイレに行っているという事もありえない。
いや、そもそも睡蓮はトイレには行かない。
それに、睡蓮が自分に何の断りも入れず、傍から離れる筈がない。
きっと近くにいるのだろう。
深く考えるのを止めて、リュウトは自分の教室へと戻ることにした。
何はともあれ!テストだ!!
とりあえずは、『猫の○○』を飲む危険は去ったみたいだし!
いきなり教室に死神が・・憂火が現れてビビったけど・・
何はともあれ!テストが終わってから考えよう!
と、張り切って受けたテストも、気持ちだけ。
結局、睡蓮の事や憂火の事が気になって、問題に集中出来ず、白抜きの答案を提出することになってしまった。
「睡蓮~~~!!どこ行っちゃったんだろう・・?」
放課後、学校の中を当ても無く睡蓮を探してみたが、見つからない。
空き教室を見つけては、こっそりと睡蓮の名を呼んでみるが、返事は帰って来なかった。
「おかしいな~・・」
「何がおかしいって?」
すぐ後ろから声を掛けられて、リュウトは飛び上がった。
「テッタかよ。びっくりした」
そんなリュウトを、テッタは、少しつぶらな目を限界まで見開いて見つめる。
テッタこと、木嶋哲太はリュウトと同じ小学校からの幼馴染だ。
「リュウト・・お前、もしかして彼女出来たの?」
今の自分には全く縁の無い話に、リュウトはテッタの目を見つめ、冷静に首を横に振った。
「あ、そ・・。メール全然返して来ないから、ついに女でも出来たんかと思ったワ」
「彼女が出来たらソッコーテッタに自慢する。メールは、忘れてた」
リュウトは顔の前で手を合わせて、テッタに頭を下げた。
「そうだよな。今日、一緒に帰る?」
「おう」
そういえば、最近はずっと睡蓮と一緒にいたから、こんな風に友達と一緒に帰るのも久しぶりだった。
こうやってテッタと二人並んで話していると、なんだか神様がどうとか嘘みたいに思えてくる。
この半月余りで、リュウトの回りの環境は恐ろしく変わってしまった。
リュウトの脳内では処理しきれない程のカルチャーショックと価値観の相違、アイデンティティの危機、そして一番衝撃だったのは、憂火と体を繋いでしまった事だった。
自分があんな風になるなんて思いもしなかった。
憂火の熱で、自分の体の中がドロドロに溶けてしまったように痺れた。
触れられた体のあちこちに残った憂火の手の感触に悩まされ、数日経っても、消えないそれに、度々自分の体を撫で摩って誤魔化した。
あれは『神送り』をしただけ。
なのに、断片的に残る記憶に記されているのは、泣きたくなるくらい長い愛撫の時間。
途中で逃出したくなったのは、行為に恐怖を感じたからじゃない。
自分が自分じゃなくなってしまうみたいで恐かったからだ。
憂火の指先で撫で摩られた場所が、記憶と共に疼く。
それを掻き消すように、リュウトは自分の体を抱き締めた。
目眩がする程の快感だった。
足下覚束ない感覚に、振り落とされそうになって、ギュッと憂火のシャツを握りしめたら、代わりに背中を抱き締められた。
その腕の強さに、泣きたくなった。
そう、憂火とした儀式は、感覚的に、ただの儀式とは思えないものだった。
その憂火と、あれから初めて、再会したのだ。
オッサンなんだけど・・ちょっとよれてる黒いスーツが体にぴったり合ってて・・なんか、カッコイイんだよな・・。
あの歳にして・・なんかグレてるっぽい感じも・・キライじゃない・・。
昇降口で、他の友達二人、トウヤとマキとも合流して、テストの出来やら、夏の予定を話しながら帰った。
「という訳で、九死に一生を得たリュウトのために~!今年の夏は、合コンして!彼女を作る!作らせる!」
「イエ~~~~!!」
多いに盛り上がる3人に、リュウトは両手を振ってストップを掛ける。
「オレはいいから!勝手にお前らが彼女作れよ!」
「何言ってんの~?リュウト、人生は短いってお前よ~くわかったんだろ~?」
「そうだよ!あっという間に10代なんて終わりだよ!?童貞のまま終わるんだよ!?」
小柄なマキが真剣な顔でリュウトに迫る。
その台詞の『童貞』という響きに、リュウトは言葉を詰まらせた。
オレって・・童貞・・なのかな?
童貞だけど・・エッチはしちゃったってことになんのかな?
つい無言になり思考停止していると、隣のクラスの友達、トウヤに乱暴に肩を組まれる。
「ノリ悪りいな~。リュウト!お前好きなヤツいんだろ?」
その一言に、一瞬頭の中に睡蓮の顔が浮かび、次いで憂火の顔が浮かんだ。
リュウトは咄嗟に反論が返せず、また3人のテンションが一気に盛り上がる。
「ダレ!?ダレ!?ダレ!?何組の子!?」
「へ~!リュウト告白しちゃえば~?」
「そうそう!人間いつ死ぬかホントわかんねえんだから!」
「いや、オレマジでそれどころじゃ無くって・・」
苦笑いするリュウトに、トウヤが正面から肩を掴み、力説し始める。
「お前は今や時の人だ。お前の事をちょっと気になってたって女子が結構いて、夏祭りん時狙ってるってヤツいるんだぞ。で、それにオレもアヤカリタイ!」
「オレもアヤカリタイ!!」
ギラリと目を光らせるトウヤにマキが抱きつくと、二人で肩を組んで「夏祭り!夏祭り!」と雄叫びを上げる。
「お前らネ・・」
自分が女子にモテた記憶に乏しいリュウトは、二人のこの盛り上がりに、ただ溜め息を吐いた。
すると、隣に並んでいたテッタが、肘で合図する。
「リュウト。なんかホント悩んでんなら言えよ?聞くくらいしか出来ねえけど・・」
と、小声で耳打ちした。
「テッタ・・」
テッタのその一言に、不覚にもオレは泣きそうになってしまった。
訳もわからず、神様とか精霊とか死神とかと、いかがわしい交際をしなきゃいけない体になっちゃって、なのにオレには悩んだり考えたりする時間も無くって、でも、オレにだって自分の生活があって、学校とか、友達とか、テストとか、面倒な事も色々あるけど、絶対捨てられない、オレがオレでいるために大事なものが沢山あってーーー。
いつか、テッタになら、話せるかな。
「よし!来週の夏祭りは、女連れで行く!」
「イエ~~~~~!!」
トウヤの宣言に、4人で狭い歩道の中、空に片手を突き上げジャンプした。
リュウトが家に着いても、睡蓮はリュウトの部屋に戻っていなかった。
さっきまでは、友達と一緒で気が紛れていたから心配する気持ちが薄れていたが、こんなに睡蓮が自分の傍から離れていたことがなかっただけに、急に不安に駆られる。
「どうしたんだろう・・」
ふと、リュウトは死神が来たあの夜の事を思い出した。
死神は他の『神様』を消すことが出来るらしい。
それは、精霊相手でも一緒かも知れない。
睡蓮に対して、死神の好戦的な態度を思い出して、リュウトは自分の肘を掴んで俯き、その腕に書かれている数字にハッとした。
「そうだ・・電話!」
腕に書殴られた番号を、自分のスマホに打ち込む。
耳に当てたスマホからは普通に電話の着信音が鳴り、数度目で憂火の声がリュウトの名前を呼んだ。
『どうした?もう誰かに襲われたか?』
憂火の揶揄うような口調に、リュウトは慌てて訂正する。
「違うけど!睡蓮が、睡蓮が何処にも居ないんだ。どこにいるか知ってる!?」
『睡蓮?・・ああ、お前の傍にいる偉そうな精霊か』
素直に「うん」と頷きにくい台詞にリュウトが無言になると、憂火は、
『心配するな。すぐ戻って来るだろ。次は、本当に襲われそうになったら連絡しろよ。じゃあな』
と、一方的に電話を切られてしまった。
どうやら忙しそうな様子。
しかし、これで睡蓮が死神に抹消された訳じゃない事は確認出来た。
だったら・・待つしかない。
こんな時にこそ、テスト勉強をするべきなのに、睡蓮が心配でソワソワして何も頭に入らない。
でも、だからといって何処か探しに行く当ても無い。
何も進まない。
答えの出ない状況に、モヤモヤする。
勉強もイヤになったリュウトは教科書を放り出して、ベッドの上に横になった。
少しだけ、と目を瞑ったら、リュウトはあっという間に眠りに落ちてしまった。
その夢の中に、あのデブ猫が現れ、リュウトを手招きする。
「お前には世話になったな」
行儀良くお座りしている猫の前にリュウトが正座すると、猫神は視界に入る自分の尻尾が気になり出し、自分の尻尾に猫パンチを繰り出し始めた。
必死に自分の尻尾を追いかけ、自分の股の間へ顔を突っ込んで、フーフーと唸り出すデブ猫に、リュウトは噴き出しそうになる。
「オレまだなんもしてないけど・・」
「まだ当分。こっちの世界に居る事に・・なってな。お前には・・いきなりで、無理を言って・・悪かった」
仰向けになり、やっとで自分の尻尾に噛み付けたデブ猫。
それも気が立っているのか、一回噛み付いただけでは気が済まず、二回も三回も自分の尻尾に噛み付いている。
笑いたいのを堪えながら「そうなんだ」と返事を返した。
そしてデブ猫は、体をなんとか丸めながら、その尻尾を今度はペロペロと舐め出し、右に左に体を捩り、ついでに自分の手も舐めて顔を洗い出す。
でっけえ団子みてえ。
リュウトは無意識に手を伸ばして、デブ猫の頭を撫でていた。
「あ、」
「よいよい。睡蓮にもよろしくな。アレのおかげで大事な事を思い出した。次会う時は人の姿で訪ねるぞ」
「うん。わかった」
リュウトは笑顔になって、デブ猫の体をワシャワシャと両手で撫で回した。
デブ猫がクルリと反転して「んニャ~」と鳴く。
瞬間。
リュウトの目がパチっと覚めた。
部屋の中は、真っ暗になっていた。
そして、横を見ると、自分の隣に、肘をついた睡蓮が目を閉じて寝ている。
「睡蓮・・!!」
咄嗟に手を伸ばして、睡蓮に抱きつく。
と、睡蓮に、リュウトの今までの不安な気持ちが伝わったのか、睡蓮からも体を抱き返された。
「心配させてしまいましたか・・。大丈夫、そんなに簡単に消えたりしません。私は既に200年も生きているんですよ?そんな柔じゃありません。それに、どちらかと言えば、私の方があの死神を消してやりたいと思ってるんですから」
その最後の台詞にリュウトは、つい笑ってしまう。
「私が居ない間に来るなんて、全く油断ならない男だ・・」
「睡蓮・・オレね。憂火、嫌いじゃない」
リュウトの発言に、睡蓮は仕方無いと目を瞑る。
「そうですね」
「でも、オレ、睡蓮の事も好きだよ」
睡蓮から腕を解いて、リュウトは睡蓮の顔を見上げた。
透明で冴えるような水色の瞳に、均整の取れた美しい顔立ち。
その顔の半分を惜しむように隠してしまうアシンメトリーの黒髪、それをリュウトは掻き上げて、睡蓮の顔を見つめた。
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